全国書店新聞
             

令和6年6月15日号

日書連5月定例理事会 書店の声、政治に反映を 各県組合、発信体制を強化 書店振興PTに取り組んでほしい課題「地元書店からの図書購入」上位に

 日書連は5月23日、東京・千代田区の書店会館で定例理事会を開催した。書店支援を巡る政治の動きについて意見交換を行い、経済産業省の書店振興プロジェクトチーム(書店振興PT)設置で流れが変わったことから、各都道府県組合で地元議員に対して書店の窮状を積極的に発信してほしいと呼びかけた。また、書店振興PTに取り組んでほしい課題を理事に質問したアンケートで、「公共機関・公共図書館の地元書店からの図書購入」などが上位になったと報告した。
 [政策委員会]
 ▽第22回活字文化推進会議が5月20日、東京・千代田区の読売新聞東京本社で開催された。出席した春井宏之副会長は「約1時間の意見交換だったが、書店の窮状の話が大半を占めた。経産省の書店振興PT設置から流れが変わったと感じている。公明党や立憲民主党も興味を持ってくれるようになった。書店の声を政治に反映する、今は千載一遇のチャンス。各都道府県組合で地元議員に書店の窮状を発信する体制を強化してほしい」と呼びかけた。
 ▽書店振興PTに取り組んでほしい課題について理事を対象にアンケートをとり、20名が回答。「公共機関・公共図書館の地元書店からの図書購入」「官公庁、公共図書館、学校図書館への書籍の定価納入」「キャッシュレス決済手数料の負担軽減」に取り組んでほしいとする回答が上位になった。
 ▽日書連と公明党は5月15日、衆議院第2議員会館で書店振興をテーマに意見交換を行った。日書連は矢幡会長、柴﨑、春井、平井各副会長、公明党は浮島智子文部科学部会長らが出席した。
 [書店再生委員会]
 平井久朗委員長は、キャッシュレス決済利用状況のアンケート調査をまず東京組合で実施する方向で調整すると述べた。組合加盟書店のキャッシュレス決済の導入状況を把握し、手数料負担軽減を訴える際の資料として役立てたい考え。
 [図書館委員会]
 髙島瑞雄委員長は、日書連MARCへの洋書(英語教材)情報の取り込みについて、㈱三善の書誌情報をもとに準備を進めてきたが、このほど対応を完了し、4月から提供を開始したと報告した。
 [組織委員会]
 ▽安永寛委員長は、4月1日現在の全国の書店組合加盟店舗は前年比129店減の2536店になったと報告した。
 ▽法人向け空きスペースシェアリングサービス「軒先」の書店空きスペース貸出実績が低迷していることから、同種のサービスとしてカウンターワークス社「ショップカウンター」を紹介した。スペース貸出に関わる運営管理業務は同社がすべて代行し、書店に負担なく収益化が可能。
 [流通改善委員会]
 今夏も雑誌発売日励行本部委員会に要望書「雑誌発売日諸問題解決に向けた対応のお願い」を提出する。藤原直委員長は「困っていることなどがあれば意見を寄せてほしい」と求めた。
 [取引改善委員会]
 柴﨑繁委員長は、トーハン、出版共同流通両社の2024年4月~2025年3月の返品入帳締切日を記載したカレンダーを作成したと報告した。
 [読書推進委員会]
 春井宏之委員長は、「心にのこる子どもの本セール」に替わる事業を検討しており、日本児童図書出版協会に日書連案を提示していると報告した。
 [広報委員会]
 深田健治委員長は、新聞用紙代や印刷費が高騰していることから、全国書店新聞の購読料を今年10月から改定すると報告した。
 [能登半島地震]
 石川県書店商業組合は、能登半島地震で被災した書店を支援するため義援金を募っていたが、義援金総額が1500万円余りになったと宮本秀夫理事長が報告した。宮本理事長は「皆様の温かい気持ちを糧に復旧への努力を積み重ねていきたい」と謝意を述べた。

出版物小売業公正取引協議会が通常総会 景表法改正に伴う規約変更審議

 出版物小売業公正取引協議会(小売公取協、矢幡秀治会長)は5月23日、東京・千代田区の書店会館で通常総会を開催した。景品表示法の改正に伴う規約変更などの活動方針を決めた。
 総会は理事49名(委任状含む)が出席。また、来賓として消費者庁表示対策課の藤平章・規約担当課長補佐、鈴木智子・規約第一係長が出席した。
 はじめに矢幡会長があいさつに立ち、公取協の活用を促した。
 藤平課長補佐は、景品表示法(景表法)を巡る最近の動きとして、景表法の改正について「景表法の改正法案が昨年5月に可決成立した。事業者の自主的な取り組みを促す確約手続の導入や、繰り返し違反行為を行う事業者に対する課徴金の割り増し算定率の導入を主な内容としている。手続き面で景表法の対応力を高めるものになっている。10月1日の施行を目指している」、ステルスマーケティング告示について「広告でありながら広告であることを明示しない表示を禁止するもので、昨年10月1日から施行されている」と説明。「景表法を取り巻く状況に大きな変化が生じる時期。ますます公正取引協議会の皆さんと連携を密にしていくことが重要と認識している」と理解・協力を求めた。
 続いて矢幡会長を議長に議案審議を行い、令和5年度事業報告、収支決算報告、令和6年度事業計画案、収支予算案を原案通り承認した。
 事業報告では、規約の運用について小売公取協に寄せられた相談のうち代表事例を紹介し、回答内容を解説した。
 事業計画では、①出版物小売業公正競争規約の普及と違反防止②景品表示法の改正に伴う規約変更③景品表示法をはじめとする関係法令ならびに「送料無料」に関する動向の研究④一般消費者、消費者団体並びに出版業界団体との連携④関係官庁との連絡⑤広報活動――の方針を決めた。
 藤原直副会長のあいさつで閉会した。

日本ど真ん中書店会議 8月28日、名古屋で開催へ

 東海3県の書店商談会「日本ど真ん中書店会議2024」が8月28日(水)午後0時半~5時(予定)、名古屋市千種区の吹上ホール内・第1ファッション展示場で開催される。
 出版業界の活性化に貢献し、取次の垣根を越えた「書店と出版社をつなぐ商談会・情報交換の場」として行う。150ブースの出展を予定。
 同実行委員会(春井宏之実行委員長=愛知県書店商業組合理事長)が主催。愛知県書店商業組合、岐阜県書店商業組合、三重県書店商業組合が共催。日書連、中部トーハン会、東海日販会、東海中央会、楽結会が後援。

日書連、公明党に要望書 書店支援策、各省庁での推進求める

 日書連は5月15日、東京・千代田区の衆議院第2議員会館で、書店振興に向けて公明党と政策要望懇談会を開催し、日書連の矢幡秀治会長らが公明党の浮島智子文部科学部会長(衆議院議員)らに要望書を手渡した。
 懇談会には、日書連から矢幡会長と柴﨑繁、春井宏之、平井久朗の各副会長が出席。公明党から浮島文部科学部会長と中野洋昌経済産業部会長(衆議院議員)、里見隆治経済産業部会長代理(参議院議員)、竹内真二文化芸術振興会議事務局長代理(参議院議員)、下野六太文部科学部会長代理(参議院議員)、山﨑正恭文化芸術局次長(衆議院議員)、慶野信一青年局次長(東京都議会議員)、平林晃文部科学副部会長(衆議院議員)が出席した。
 要望書では①不公正な競争環境の是正②書店と図書館の連携促進③新たな価値創造への事業展開の支援④文化向上・文化保護、読書活動推進、地方創生、DX化、観光振興等の観点からの支援――を関係各省庁で推進するよう求めている。
 冒頭、矢幡会長は「われわれ書店の窮状、そして今求めていることについて話を聞いていただきたい。関係省庁の文部科学省、文化庁、経済産業省、公正取引委員会に書店支援の取り組みを求めているところだ。何が実現できるかできないか、そして実現できることは実際にやってもらいたいというところにきている。経済産業大臣直轄の書店振興プロジェクトも立ち上がり、実現という目標を掲げている」と話した。
 柴﨑副会長は「街の本屋が一番困っているのは、お客さんが店に本を買いに来てくれないこと。国や都道府県、市区町村で予算化し、小学校入学時など何らかのきっかけで図書カードを配布してほしい」と要望した。
 春井副会長は「活字文化議連や学校図書館議連の活動で良い事例が生まれ、大きなお金も動いているが、書店も図書館も現場にその恩恵を受けることができているという実感がない。ガイドラインや法律など何らかのルールを示し、しっかり実行される形を作りたい」と提案した。
 平井副会長は「書店と図書館が共存できる仕組みを作ってほしい。自分たちを守ってほしいと言っているのではなく、大切な紙の本を皆さんに手に取ってもらえる環境を増やしてほしい」と求めた。
 日書連の要望について、浮島文部科学部会長は「私も思っていることばかり。文科省内に課題について意見交換する場を設ける」と述べた。
 中野経済産業部会長は「街の書店を応援していく。関係議員と連携して前に進める」と述べた。

石川組合総会 義援金1500万円集まる 能登半島地震被災書店の復興、全力支援

 石川県書店商業組合は6月5日、金沢市の金沢勤労者プラザで第36期通常総会を開催し、組合員29名(委任状含む)が出席した。
 冒頭、宮本秀夫理事長(ブック宮丸)は「1月1日に発生した能登半島地震で、日書連、全国の書店組合、書店、出版社の皆様から多くの義援金をいただいたことに感謝を申し上げる。おかげさまで総額1500万円余となった。発生から5ヵ月たった今でも復興は進んでいないのが現状。そんな中、4月にお見舞金の第1弾として組合書店に一律5万円、加えて能登を中心に被災した書店(非組合員も含む)に対し、その被害状況に応じて10万~100万円、総額895万円を配布した。今後も被災書店の復興を全力で支援していきたい」とあいさつした。
 引き続き、第1号議案「第36期活動報告、決算報告」、第2号議案「第37期活動計画、予算案」、第3号議案「退会会員の件」を原案通り可決した。
 第4号議案「義援金の活用方法」については、今期にこだわるのではなく、長期にわたり被災書店の復興状況を見た上で、営業再開を目指す書店に出来る限りの援助を続けていくことで一致した。
 書店活性化事業については、地方の書店が消えていく中、地元書店と地元住民との絆や思い出などの原稿を募集し、PRすることや、防災に関するフェアの展開やハンドブックの配布を行うなどの意見があった。今後理事会で検討していく。 (上村洋事務局長)

日販調査店頭売上 4月期は前年比3・3%減 コミックの新刊売上伸ばす

 日本出版販売(日販)調べの4月期店頭売上は前年比3・3%減だった。ジャンル別では、雑誌は同6・1%減、書籍は同3・5%減、コミックは同1・0%減、開発品は同4・8%増。
 コミックは2023年7月以来9ヵ月ぶりとなる5%以下の減少幅まで回復。「呪術廻戦 26」「僕のヒーローアカデミア 40」「【推しの子】14」「怪獣8号 12」「葬送のフリーレン 13」など新刊が充実し、売上を牽引した。
 開発品は前年比プラスと好調。「ストレッチーズ パワーミュータント」が前月に引き続き売上を牽引した。

連載「春夏秋冬 本屋です」 失ってはじめてわかる 小野正道(岡山・小野書店 代表取締役社長)

 私はいまダイヤモンド社『すばらしい医学』という本を読んでいます。なぜこの本を読んでいるかというと…。
 一昨年秋の会社の健康診断で、全く予想だにしていなかった循環器系ではじめての「要精検」の判定をもらいました。自覚症状は全くなかったのですが、精密検査の結果、常時不整脈が検出されました。このまま経過観察という選択もあったのですが、将来へのリスク軽減を企図し、年が明けてカテーテルアブレーション手術を受けました。
 これで万全となるはずだったにもかかわらず、春には動悸・息切れが激しく日常生活にも支障を来すようになってしまいました。これは明らかにおかしいと受診したところ極度の貧血を起こしていることが判明し、その原因は大腸にある悪性腫瘍からの出血だとわかりました。ちょうど1年前の6月、大腸ガンの摘出手術を受けました。
 それらしい自覚症状がない内に、貧血というサインで異変を知らせてくれた自分の身体が本当に愛おしく思えました。それで、いかに私は自分の身体のこと、そのメカニズムを知らなかったのかと痛感した次第です。
 本当に大事なものって失ってはじめてわかるものなんでしょう。

日書連・公明党「政策要望懇談会」 要望書(全文)

 書架に並ぶ「未知の本との出会い」が。来訪者の視野を広げ、潜在的な関心を呼び起こしている。来訪者が一定数の現物を直接確認できる「街の本屋」は、我が国の地域の知の拠点として、「未知の本との出会い」の可能性をより大きく秘めている。
 しかしながら、書店の数は15年で約40%減少している。2022年9月時点では全国市町村のうち約26・2%は無書店市町村となるなど、今後5年内には書店の基盤維持が困難になるとの声もあり、多くの関係者から、我が国において、書籍等を通じた個人の教養の幅に影響を及ぼすばかりでなく、ひいては日本文化の劣化に繋がることへの懸念が指摘されている。
 このような背景の中、全ての国民があらゆる機会と場所において書籍に触れ読書を行うことができるよう我が国の文化拠点としての「書店」を振興するため、子供の読書活動、リスキリング、文化活動の推進や、観光振興、地域創生につながる取組を支援するとともに、図書館との共存・共栄、収益構造の確立、不公正な競争環境の改善、書店のDX化などによる新たな価値創造を推進することが必要である。
 また、諸外国の動向や、関係省庁、関係団体等からのヒアリングを踏まえ、現状、課題を踏まえたこれまでの議論を、第一次段階として、特に、以下について政府の関係各省庁に取組を求めるものとしてとりまとめています。
 〈不公正な競争環境等の是正〉公正取引委員会
 ○著作物再販制度の厳守のため、一定の制限やルールを設けることを検討する必要があるとの指摘を踏まえ、①書籍・出版関係者と公正取引委員会との対話の場を設置し、②官公庁等の書籍の入札に係る値引きへの適切な対応(実態調査や業界の「雛形」に記載された適用除外を削除など)を図る必要がある。また、③フランスの反アマゾン法(本の無料輸送の禁止・価格制限)を参考にした不公正な競争の是正への取組としては、具体的には、官公庁等への納入に係る入札及び、実質的な値引販売(ネット書店の送料無料配送等)については、実態調査を行い、必要な対応を検討する。
 〈書店と図書館の連携促進〉文部科学省
 ○公共図書館と書店と両者合意のもとで、共存できるようなルールづくりを検討する。特に、公共図書館における同一タイトルの過剰な蔵書、あるいは新刊本の貸与開始時期については、一定のルール等の導入を検討する必要がある。具体的には図書館法第7条第2項に規定されている「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」等を含めたルールづくりを進めるため、①書店と図書館が連携する優良事例としての収集・普及、②優良事例の展開と合わせた図書館と書店が共存できるモデルづくりや望ましい基準などを含めたルールづくりを検討する。例えば、「資料及び情報の収集、提供等」に関して、過度な複本を原則禁止するためのルールや地元書店からの優先仕入れの推奨、「他の図書館及びその他関係機関との連携・協力」に書店との連携などを盛り込むなどを検討、③図書館関係者、書店関係者、文部科学省が参画する対話の場を設置し、具体的な検討を行い、より実態に見合った実効性のあるルールづくりや優良事例の収集・普及を推進する。
 〈新たな価値創造への事業展開を支援〉経済産業省、財務省
 ○多品種少量供給を特徴とする出版物のサプライチェーンにおいて、ICタグの活用は、流通効率の向上・万引き抑制効果・販売ビッグデータの精度向上など、多くのメリットが期待出来る。また、新たな書店の事業展開の方向性として経営環境改善に寄与する包括的な書店業支援を推進する。このため、①ICタグ導入、キャッシュレス決済導入などのデジタル技術を活用した取組みが書店で進むよう支援策を検討、②「事業再構築補助金」、「小規模持続化補助金」などにおいて「書店枠」を設け、書店を支援対象とし、その普及を図るよう検討するとともに、③書店等の活用事例の収集・普及を推進する。
 ○多くの先進諸国と同様に、国民の生活になくてはならないものとして、我が国においても出版物への消費税・軽減税率を出版物へ適用することなど消費税の動向を踏まえつつ継続して検討する。
 〈文化向上・文化保護、読書活動推進、地方創生、DX化、観光振興等の観点からの支援〉文部科学省・文化庁、内閣府、総務省、観光庁
 ○フランスや韓国など諸外国の政策を参考に、我が国においても子供の読書推進、書籍・出版関係者による大型ブックフェアなどによる書籍振興など、文化振興、読書活動、リスキリング、地方創生、DX化、観光振興などの施策を通じて、書店への来店誘導政策としても寄与し、書店の経営改善にも繋がる関係省庁による取組を一体的に推進する。このため、以下のような取組へ書籍・出版関係者が参加しやすくなるよう公募の際、その取組に係る例示の提示、その他関係者への分かりやすい情報提供などを行う。
 ○「書店」が文化の拠点となる文化活動支援を検討する。たとえば、地域の文学・文芸の活動、子供の文化体験活動において、書店が拠点となる活動が、事業の支援対象となるよう検討する。
 ○地方公共団体が書店や出版社も巻き込んだ地方創生につながる事例の展開を推進するため、少子化や地域活性化の推進に資するBOOKクーポン等、地方創生交付金等が活用しやすくなるような工夫を検討する。
 ○DX化の方向性として、地域デジタル基盤活用推進事業など、図書館と書店との連携による地域のDX化を通して地域活性化や観光振興に資する事業が活用しやすくなるような工夫を検討する。
 ○観光振興の一環として、観光振興に係る事業などが活用しやすくなるような工夫の検討、作家等、書店に関係するものも含めた観光振興の取組が可能であることを明確化する。

2024年5月1日
 日本書店商業組合連合会
     会長 矢幡秀治

大手取次2社「上半期ベストセラー」 「変な家」シリーズが席巻 感情移入、共感性がキーに

 トーハン、日本出版販売(日販)は5月31日、2024年上半期ベストセラーを発表し、トーハンが『変な家』『変な家2~11の間取り図~』(飛鳥新社)、日販が『変な家2~11の間取り図~』と「変な家」シリーズの作品が両社で総合1位に輝いた。2位もトーハンが『大ピンチずかん』『大ピンチずかん2』(小学館)、日販が『大ピンチずかん2』と同一シリーズ作がランクインした。3位はトーハンが『成瀬は天下を取りにいく』『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)、日販は『大ピンチずかん』の一作目だった。集計期間は2023年11月22日~2024年5月20日。
 「変な家」シリーズは、ホラー作家でYouTuberの雨穴によるオカルトミステリーで、間取り図から謎やトリックを読み解くというもの。シリーズ既刊の『変な絵』(双葉社)は総合でトーハン5位・日販7位、『変な家 文庫版』(飛鳥新社)は文庫部門で両社ともに1位と、市場を大いに賑わした。
 「大ピンチずかん」シリーズは、世の中の様々なピンチを分類し、対処法を描いている人気シリーズで、老若男女から支持された。また、『成瀬は天下を取りにいく』は、舞台となった滋賀県大津市から人気が全国へと拡大、今年1月刊行の続編『成瀬は信じた道をいく』も含めて、瑞々しい物語が人気を集めた。
 ランキング全体の傾向について日販では、①10代~20代の若者や普段あまり本を読まないライトな読者にもヒットする、読みやすい内容・構成の作品が多い。また、タイムパフォーマンスやコストパフォーマンスの意識から、映像化・タイトル受賞による話題、評判が拡散された作品が大きく伸びている。②作品の内容や主人公に読者が感情移入できるものが好まれ、そこから生まれた共感が更に話題や評判を呼ぶ傾向がみられる。読者のSNS投稿で話題になった作品が上位にランクインしており、自分の関心が強いトピックスが表示されるSNSの特性によって共感が生まれやすく、話題作を生み出すきっかけになっている――と分析している。
 [トーハン調べ]
 ①『変な家』『変な家2 ~11の間取り図~』雨穴、飛鳥新社②『大ピンチずかん』『大ピンチずかん2』鈴木のりたけ、小学館③『成瀬は天下を取りにいく』『成瀬は信じた道をいく』宮島未奈、新潮社④『WORLD SEIKYOVOL・4』聖教新聞社⑤『変な絵』雨穴、双葉社⑥『パンどろぼう』『パンどろぼうvsにせパンどろぼう』『パンどろぼうとなぞのフランスパン』『パンどろぼう おにぎりぼうやのたびだち』『パンどろぼうとほっかほっカー』柴田ケイコ、KADOKAWA⑦『頭のいい人が話す前に考えていること』安達裕哉、ダイヤモンド社⑧『TOEIC L&R TEST 出る単特急 金のフレーズ』TEX加藤、朝日新聞出版⑨『続 窓ぎわのトットちゃん』黒柳徹子、講談社⑩『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』中野信子、サンマーク出版
 [日販調べ]
 ①『変な家2 ~11の間取り図~』雨穴、飛鳥新社②『大ピンチずかん2』鈴木のりたけ、小学館③『大ピンチずかん』鈴木のりたけ、小学館④『変な家』雨穴、飛鳥新社⑤『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈、新潮社⑥『WORLDSEIKYO VOL・4』聖教新聞社⑦『変な絵』雨穴、双葉社⑧『頭のいい人が話す前に考えていること』安達裕哉、ダイヤモンド社⑨『パンどろぼうとほっかほっカー』柴田ケイコ、KADOKAWA⑩『TOEIC L&R TEST 出る単特急 金のフレーズ』TEX加藤、朝日新聞出版

取協総会 物流コスト抑制は業界全体の課題 持続的な出版配送の対応を検討

 日本出版取次協会は5月15日、東京・千代田区の出版クラブで第72回定時総会を開催し、令和5年度事業報告、収支決算を承認。任期満了に伴う役員改選を行った。また、2024年度の推進・重点テーマは「物流コスト抑制」として、業界全体の課題と捉え検討していく方針を決めた。
 近藤敏貴会長(トーハン)は「出版流通インフラの抜本的構造改革は正念場を迎え、複数の重要なテーマに同時並行で取り組んでいる状況。取協と業界関係諸団体との折衝や業界外との連携も加速する中、これらの持続性とスピード感を重視すべき局面にあり、協議のうえ今回は役員体制に大きな変更を加えないことにした。業界内外の皆さんと力を合わせ、出版界の課題解決に向け前進する」とあいさつした。
 24年度推進・重点テーマは「持続的な出版配送の取り組みへの対応」「出版関連団体との連携強化」「自然災害緊急対応の見直し」――の3つを掲げた。
 「持続的な出版配送の取り組みへの対応」では、これまでドライバーの労働環境改善、土曜休配の増加、業量の平準化、配送のリードタイム緩和などの施策を行ってきたが、雑誌の売上(業量)減少に歯止めがかからず物流コストは上昇し続けていることから、業界全体で取り組む課題と捉え、継続的な対策を講じる必要があるとした。
 具体的には①「物流コスト抑制の検討」(輸送コストを業界全体でどのように負担していくかの検討、既存の出版流通ルールの見直し、出版輸送網のDX化の研究等)、②「雑協合同PTの取組強化」(2025年度年間発売日カレンダーの策定~週5日以内稼働・完全土休配の定着、雑誌の業量平準化)に取り組む。
 「出版関連団体との連携強化」では、日本出版インフラセンター(JPO)とJPRO雑誌データ連携、定期刊行物コード(雑誌)運用見直し。出版文化産業振興財団(JPIC)とBOOK MEETS NEXTとの連携、「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」の提言内容のフォローアップと経産省との連携を行う。
 [取協役員体制]
 ▽会長=近藤敏貴(トーハン)
 ▽副会長=奥村景二(日本出版販売)
 ▽常務理事=川村興市(楽天ブックスネットワーク)、森岡憲司(中央社)、渡部正嗣(日教販)、川島桂(協和出版販売)
 ▽理事=田仲幹弘(トーハン)、中西淳一(日本出版販売)
 ▽監事=竹林克巳(共栄図書)、山本和夫(公認会計士)

『2028年 街から書店が消える日』著者・小島俊一さんに聞く 書店ビジネス再生の道探る

 経営不振に陥っていた愛媛県松山市の明屋書店を立て直し、現在は経営コンサルタントとして活躍する小島俊一さんがこのほど、プレジデント社から『2028年 街から書店が消える日~本屋再生!識者30人からのメッセージ~』を上梓した。
 小島さんはトーハンで営業部長、情報システム部長、執行役員九州支社長などを経て、2013年に明屋書店に出向し代表取締役に就任。それまで5期連続で赤字だった同社を独自の手法で従業員のモチベーションを向上させ、正社員を一人もリストラせずに2年半後に業績をV字回復させた。2017年の定年退職を機に経営コンサルタントとして独立。「元気ファクトリー」を設立し、中小企業向けコンサルティングと講演会・研修会の講師活動を行っている。
 取次と書店での経験から出版業界全体を熟知し、経営コンサルタントとして中小企業全般の経営課題にも詳しい小島さんは、書店の厳しい現状を実証的に分析し、課題を指摘する。
 小島さんは「日本から街の書店が消える日が想像できますか」と問いかける。このままではその日は必ずやって来ると危機感を募らせて書いたのが本書だ。
 今年から本格導入が始まったデジタル教科書だが、今後段階的に拡大し、2028年に完全普及するとされる。その時もし教科書供給取次の継続が困難になれば書店経営はとどめを刺される――と最悪のシナリオを想定する。
 なぜ今、街から書店が消えていっているのか。「出版社のせいだ」「取次が悪い」「書店に責任がある」と犯人捜しをするわけではない。理由はそれほど単純ではないからだ。出版界の識者30人に話を聞き、問いの答に読者とともに近づいて行くことを目指す。
 書店を巡る厳しい現状を説明するとき、「本が読まれなくなったから」とよく言われる。店頭で本の並べ方や見せ方を工夫するのは大切なことだ。しかしそれは現在の危機を克服するための本質的な問題ではないと指摘する。
 小島さんは一般小売業と書店の粗利益率、商品回転率、交差比率などの数字を比較しながら、書店は普通の小売業として成り立っていないと主張する。
 街の書店は売上に占める雑誌、コミックの比率が高い。その雑誌がインターネットに押されて売上を大きく落とし、コミックも電子マーケットの拡大が続く。「雑誌とコミックは1ヵ月以内に売れるか返品してキャッシュになる。そのキャッシュを生む雑誌とコミックに勢いがなくなり、書店店頭も厳しくなった。書店の閉店トレンドは雑誌の衰退と軌を一にしている」。
 アメリカ、ドイツ、韓国で書店が元気だと言われるのは、書籍中心のビジネスモデルだからだ。「雑誌に書籍を載せる日本の出版流通システムはあまりにも優れたビジネスモデル。そのため業界がこれだけ追い詰められても変わることがない。しかし雑誌とコミックを柱とする日本の出版界のビジネスモデルは終焉を迎えつつある。書籍を柱とした新たなビジネスモデルを構築できなければ、日本の書店ビジネスは崩壊するしかない」。
 さらに、出版業界の構造的な問題の一つとして「正味」を挙げ、「22、23%の粗利では小売のビジネスとして成り立たない。人件費・家賃が上がって、生きるか死ぬかの状態。書店側は今こそもっと強く訴えるべき」と提言する。
 出版業界で教育が軽視されてきたことにも警鐘を鳴らす。「研修が行われない。こんな業界はない。ITも製造業も銀行も他の業界では常に最新のビジネスモデルを研修を通じて学んでいるが、出版業界では従業員を学校を出たままの素材として使い続けている。これではイノベーションを起こすことはできない」。
 本書では書籍の販売を軸にイノベーションを起こしている書店がいくつか紹介される。また、書店、出版社、図書館、作家などさまざまな立場の人たちが書店の生き残る道について熱く語る。日書連の矢幡秀治会長も登場し、出版業界の構造的な問題を変革する時だと訴える。業界関係者だけでなく一般読者が出版業界の現状を俯瞰し、問題点を整理する上で最適の1冊となっている。
 「この本はやせ我慢して1年間は電子書籍化しません」という。書店を取り巻く状況は極めて厳しい。しかし本書からは書店の明るい未来への希望も感じ取ることができる。四六並製、200ページ、定価本体1700円。  (白石隆史)

福井組合「親子で楽しむ絵本の世界」 「ノンタンかくれんぼ」など500人参加

 福井県書店商業組合(安部悟理事長)は5月4日、福井市のショッピングモール「ラブリーパートナーエルパ」で、絵本展「親子で楽しむ絵本の世界2024~偕成社の絵本が大集合!~」を開催した。
 子どもたちに本の楽しさを伝えるとともに、コラージュ体験やワークショップなどを通して絵本の世界観を楽しみ、感じる力や創造する力を育む場として位置付けた。
 「コラージュ(貼り絵)で『はらぺこあおむし』をつくろう!」「みんなで作ろう!『ぬまの100かいだてのいえ』」のワークショップや周遊型イベント「ノンタンかくれんぼ!みんなみつけられるかな?」などに約500人の家族連れが参加。福井県出身の絵本作家かこさとしさんの絵本や絵本キャラクターグッズを中心に販売した。
 また、第3次福井県子どもの読書活動推進事業に基づいた福井県教育委員会作成の推薦図書リストブック「絵本のある子育て」「本のあるまいにち」「コレ、ヨモ!」を配布し、この中から選んだ50冊を参加した子どもに抽選でプレゼントした。
 事前配布のイベント告知チラシには県組合員全店舗の名前も掲載した。
 毎年恒例となったこの事業は来年度も開催を予定している。
   (清水祥三広報委員)

連載「本屋のあとがき」 怖い物語に注目 宇田川拓也(ときわ書房本店 文芸書・文庫担当)

 ホラーが盛り上がりを見せている。
 映画化も話題となった『変な家』の雨穴、『近畿地方のある場所について』の背筋、考察展覧会「その怪文書を読みましたか」の梨といった疑似ドキュメンタリー・ホラーを得意とする才能たちの活躍。さらに5月13日に『このホラーがすごい! 2024年版』(宝島社)が、そして15日には『MONKEY vol.33特集 ニュー・アメリカン・ホラー』が発売。怖い物語に注目が集まることは、ホラーや怪談を好む者にはとても喜ばしい限りである。
 怖い物語で思い出したことがある。
 1980年代に『いきなり! フライデーナイト』という深夜番組が放送されていた。その怖い話のコーナーが書籍化され、ある話のオチに大笑いした私は、林間学校の夜、同級生たちの前で、ごく軽い気持ちでそれを披露した。するとこちらの予想に反して震え上がってしまい、なんて話を聞かせるんだと怒り出す者まで現れてしまった。
 どんな内容だったのか大まかにいうと、この話を聞いた者は「ぜ」から始まり「そ」で終わる5文字の言葉がわからないと呪われて死ぬことになる、というものだ。
 答えがわかった方は、クスっと笑ってくださったと思うが、まさかあんなにも怯えるとは。いい思い出である。
 いま、あの時の同級生たちと同じくらい大のおとなを慄かせてくれるホラー小説がもしもあったなら、喜んで飛び付き、猛烈に売り伸ばすのだが。