全国書店新聞
             

平成20年10月1日号

コミック増売、ケータイから試読/店頭のQRコード読み

書店店頭に掲示したQRコードを携帯電話で読みとると、試し読みサイトからコミック作品の一部が読めて販売に結びつける――こんな実証実験が米子の「本の学校」でスタートすることになり、日書連9月理事会で紹介された。日書連では情報化推進委員会が担当する。
9月理事会で田江康彦理事が行った説明によると、このシステムでは書店店頭にQRコードを掲示。携帯電話でQRコードを読み取ると、試し読みサイトに飛び、コミックの一部が読める仕組み。あわせて、どの書店からどの作品にどのくらいのアクセスがあったかを把握することでマーケティングの基礎資料も提供できる。
コミックそのものにQRコードをつけた場合には、書店を素通りして出版社のサイトに入り、書店はデータが活用できなくなることが懸念され、書店のインフラとして活用できるというのが、もう一つの狙い。
書店店頭ではこれまでコミックはビニール袋に入れられ、読者は内容を確かめることができなかった。出版社は試し読み本と称する薄いダイジェスト版を一部書店に配布していたものの、すべての書店には行きわたっていなかった。携帯電話とデジタル化の流れを積極的に利用することで、書店店頭の活性化につなげることが期待される。
今後、日書連と「本の学校」はコミック出版社、書店の協力を得ながら、店頭での実証実験と効果を検証していく。

10月移動理事会は23日、秋田・田沢湖で

日書連10月理事会は恒例の移動理事会として、東北ブロック会と秋田県書店商業組合の設営により、10月23日午後1時から仙北市田沢湖の「プラザホテル山麓荘」で開催することになった。
翌24日は田沢湖、わらび座、角館の佐藤義亮記念館、武家屋敷などを見学して角館で解散する予定。

残る取次4社も訪問/返品・請求同時精算求め/日書連

日書連9月定例理事会が9月18日、東京・駿河台の書店会館で開かれた。書店の資金繰りを改善するための取引改善については、柴﨑委員長が大橋会長、面屋副会長とともに日販、トーハン、栗田、大阪屋を訪問して返品・請求同時精算を求めたことを報告。残る取次4社も訪問することを説明した。
〔取引改善〕
8月7日に日販、トーハン、栗田の3社、9月5日に大阪屋を訪問して返品入帳、請求同時精算を求めたことを柴﨑委員長が報告。残る日教販、中央社、太洋社、協和出版の4社についても大橋会長、柴﨑副会長らで訪問して理解を求めたいとした。
有事出版社の対応については、委託扱い、フリー入帳、逆送品など、出版社、取次、書店の立場によって解釈が異なるため、業界用語、定義を統一すべきだとして、出版社を交えた研究会で言葉の統一を図ることにした。
各理事からは「国際地学はその後どうなったか」「営業代行が来て注文すると、取次が買切りに変えるために、問題が起きる」などの声があがった。
〔書店経営健全化〕
各都道府県組合の8月期加入・脱退は、新規加入が9店に対し脱退は96店で、全国の組合員数は前月より87店少ない5667店となった。4月1日対比では202店の減。
中山委員長は今夏作成したパンフレット「書店商業組合加入のすすめ」を取次各支店に配布して、加入促進に役立ててもらいたいと述べた。
また、大分の明林堂書店が負債額147億円で経営に行き詰まり、民事再生手続きを申請したことについて、中山委員長は「明林堂は10月1日に長崎に支店を出店する予定だったが急きょ中止になり、代わりに入居するテナントを探している。財産を保全できなかった銀行が融資先書店の担保を調査するなど、九州全体に影響が及んでいる」と報告した。
〔流通改善〕
小学館の責任販売制商品『家庭の医学館ホームメディカ』について、藤原委員長は「販売を促進することで責任販売制のはずみをつけたい。これが成功すれば次のステップに進む。10月3日の申込締め切りまで、予約の取り組みをお願いする」と呼びかけた。
雑誌発売日問題では、九州全域で10月2日から土曜発売だった『週刊文春』『週刊新潮』が金曜発売に繰り上がったことが報告され、九州の結果を見て北海道地区も金曜発売にする意向だとした。
〔情報化推進〕
図書館納入をめぐっては8月末に山形、熊本、富山と研修会が開かれたほか、山形、愛知、長野、滋賀では装備センターをつくり、書店の図書館納入をサポートしていることが報告された。
また、井門委員長は千代田区立WEB図書館の仕組みを説明。すでに朝倉書店、朝日出版社、小学館など26社が同図書館にデジタル図書を提供しており、今後、書店でも新しい商材としてデジタル書籍を販売することを研究していきたいと述べた。
〔読書推進〕
NHK―BSが秋の読書週間に合わせて10月26日夜に2時間の特番「私の1冊、日本の100冊」を放送し、さらに10月27日から来年3月まで平日の朝8時から10分間、著名人の「私の1冊」を放送することが紹介された。このあと、来年3月下旬には視聴者・読者編の「私の1冊」を2時間枠の特番で放送する。
谷口委員長は同番組の放送に合わせて各書店でフェアを展開してほしいと呼びかけ、第1段として10月20日前後に11月放送分のPOP20種とポスター2種、B5判両面チラシ50枚のツール2万セットを取次経由で配布、以後、毎月1回同様のセットを配布することを説明した。
読者・視聴者からの「私の1冊」はNHKの専用HPまたは書店に備え付けた応募用紙を用いて投票する。
「読売新聞本屋さんへ行こう!キャンペーン」は書店で本・雑誌を購入してレシートをハガキに貼り応募すると、1万円の図書カードが5名に、千円が250名に当たるキャンペーン。今年で第6回目になり、9月20日から10月20日までキャンペーンポスター掲示、応募はがき設置の協力を了承した。
読売新聞では日曜日朝刊の読書欄「本よみうり堂」について8月17日付紙面から、来週の『本よみうり堂』として次週取り上げる本を紹介していることも報告された。

SJイベントは見直し/経営研修会、DVDで頒布/9月理事会

〔政策審議会〕
日書連の加入メリットについて大橋会長は「組織として何ができて、何をしてはいけないか。日書連、各県組合の権利、書協、雑協、取協との話し合いなど基本に戻って研究していきたい」と基本的な考え方を述べた。
これに対し、各理事からは「中小企業の組合に関する法律に組合協約を結ぶことができるとある。恐れずにできるのではないか」「商工組合は事業協同組合よりステージが高い。各県組合は(資格事業者の)過半数という足もとが揺らいでおり、各県が破綻すれば、全国組織も崩壊する」「東京、愛知組合など、組織改革の事例を紹介してほしい」「組合をやめてもアウトサイダーが書店くじを扱えるのはおかしい。日書連の賦課金と同額8千円の会費の組合員が7割を占めていて、残りの金額では何も活動できない」などの意見が出された。
〔再販研究〕
三省堂書店が静山社の「ハリー・ポッター」シリーズを木製ボックスに入れ、4・5巻を謝恩価格本としてセット割引価格で販売した件で、「買切り商品の場合いつまで定価拘束できるのか」「不良在庫になった場合の処分、ルールを検討すべきではないか」などの声が上がった。
〔増売〕
サン・ジョルディの日の運動については、リクルートからの協賛金1千万円が打ち切りになることから、実行委員会は来春3月末で解散することが決まった(前号既報)。
来年度は剰余金235万円の資金をもとに、キャンペーンの全面的見直しが迫られているところ。地区イベントも見直しという説明に、「愛知のイベントは定着しており、せっかく培ってきたイベントを縮小することになる」「文化講演会は残してほしい」などの声があがった。
「読書週間書店くじ」の申し込みは9月12日現在301万枚。春の書店くじ特賞の「バンコク・アユタヤ遺跡めぐりの旅」は杉山理事(栃木)を団長に11月8日に出発する。
〔指導教育〕
8月20日、21日に開催した「書店経営研修会」の講師5名の講義を録画したDVDを頒布することになり鈴木委員長が報告した。頒価は1講義1枚当たり千円(郵送料込)で、10月31日までに日書連DVD係へFAXで申し込む。
青少年有害図書の取扱いをめぐり、星印で書店を認定する秋田の「スギッチ花まる本屋さん」については、秋田組合和泉理事長が「もともと成人向け雑誌を扱っていないスーパーのマックスバリュ東北が36店、ほか1店の37店で申請されたほか、書店はゼロだった」と現状報告があった。
〔財務〕
今年度から10月1日付けで各県組合の組合員数を調査し、それをもとに各県組合の賦課金を決定することになっていると井門委員長が説明。各県に組合員数の報告を求めた。
〔年末懇親会〕
正月の出版販売新年懇親会に代わって今年から開催することになった出版販売年末懇親会は、10月末にも出版社7百社、取次・関係団体百社などに案内状を送付する。
〔共同購買〕
ハンディ・タイプの日書連オリジナル手帳「ポケッター2009年版」は10万部作製し、理事会現在で8万4500部の注文があり、残りは1万5300部。早目に注文いただきたいと報告があった。
〔消費税〕
消費税率が引き上げられた場合、新聞販売店に及ぼす影響を新聞協会が試算した。この結果、税率8%では販売店は400万円の減益になることを面屋委員長が説明。出版業界の対応は遅れており、業界団体に対策会議の開催を呼びかけていくとした。
山口理事は「正月明けにも通常国会の予算案審議で議論になるのではないか。各党のマニフェストを注意深く見守る必要がある」と指摘した。
〔広報〕
10月16日午後1時から書店会館で全国広報委員会議が開かれる。申し込みが済んでいない組合は早急に申し込んでほしいと面屋委員長が説明した。
〔日書連共済会〕
8月末の日書連共済会の資産残高は5億3413万円と木野村委員長から報告があった。
◇日書連常任委員
兵庫組合選出の常任委員は山根金造氏(明石市・巌松堂書店)が退任し、新たに井上喜之氏(姫路市・井上書林)が承認された。

書店経営研修会のDVD斡旋

日書連指導教育委員会は、今年8月に開催した書店経営研修会のDVDを斡旋します。2日間にわたる講師5名の講義を、1講義1枚に完全収録したもので、講義ごとに注文することが可能です。頒価は税・送料込み1枚千円。10月31日までに「日書連DVD係」までFAXでお申し込み下さい。DVDは11月中旬頃発送する予定です。代金支払は日書連郵便振替口座へ。
DVDの種類
①「書店の利益構造について」(ノセ事務所・能勢仁氏)
②「キャッシュフローを中心とした中小書店の事業力強化」(平井財務人事研究所・平井謙一氏)
③「外商力を高めるポイント」(豊川堂社長・高須博久氏)
④「雑誌売上アップを実現する」(文藝春秋取締役・名女川勝彦氏)
⑤「ディスプレイ、POPで売場は変わる」(日本リティルサポート研究所・永島幸夫氏)

8月期売上は97.4%/文庫は4カ月連続でプラス/日販調べ

日販調べの書店分類別売上調査によると、8月期はガソリン価格高騰の影響を受け、夏休みを自宅で過ごす人が増えたことなどから中旬から下旬にかけて売上を伸ばした。また、前年より土日が2日多く、郊外店やSCではマイナス幅が少なかった。全体では97・4%で、前年同月比2・6%のマイナス。
ジャンル別では文庫が100・5%、文芸書が115・7%と前年を上回った。文芸書は前月発売された『ハリー・ポッターと死の秘宝』が好調だったことに加え『O型自分の説明書』(文芸社)『上地雄輔物語』(ワニブックス)の売れ行きが好調で、2カ月連続で前年を上回った。文庫は4カ月連続でプラス。『容疑者Xの献身』(文藝春秋)が好調に推移した。
新書は92・1%で3カ月連続で前年割れ。
客単価は各クラスともプラスで、101・9%の1127・9円。

本の学校「秋講座」

本の学校郁文塾は10月9日、10日の両日、書店人教育講座「秋講座」を米子の同塾で開講する。
講座は書店の計数管理(経営戦略研究所・柏木勲)、書店戦争に勝つために(青田恵一)、学校教育の方向と教材の将来(郁文塾・今井直樹)、IT社会における活字出版文化(小峰紀雄)、出版の現状と課題(元中公新社・河野通和)、大垣書店のこれまでの経緯と今後の戦略(大垣守弘)、地域読者と書店(今井書店・田江泰彦)、④県民に役立つ図書館と認識されるために(鳥取県立図書館・小林隆志)。
受講料は全日程1万円、1科目2千円。申し込みは本の学校郁文塾。℡0859―31―5001まで。

成人図書小口止めで要望書/新役員の任務分担を決定/神奈川

神奈川県書店商業組合(山本裕一理事長)の定例理事会が9月8日午後2時よりトーハン神奈川支店で行なわれた。
会議は新しい役員の任務分担が中心となり、副理事長に岩下寛治(岩下書店)、井上俊夫(井上書房)、堀護(宮崎台書店)、平井弘一(平井書店)の4氏が選ばれ、常務理事は萬納昭一郎(山陽堂)、村上弘一(村上書店)、小田切壽三(松林堂)、今井政信(稲元屋)、筒井正博(伊勢治書店)、草薙立哉(ブックスアミ)の各氏にそれぞれ決定した。
また各委員会の委員長は、総務(岩下)、広報(平井)、増売(筒井)、発売日(山田)、倫理(村上)、共同購買(堀)、情報化推進(清水屋)、流通改善(小田切)の各氏に決定した。
萬納理事より、「最近成人雑誌の小口止めがなされていないケースがあり、各方面から苦情が来ている。ビニール止めされていない成人図書は書店に配本しないことを記した要望書を日書連に送ってほしい」と提案があり、全員拍手をもって可決した。
(平井弘一広報委員)
〔成人図書小口止めについてのお願い〕
日頃、神奈川県書店商業組合の活動にご理解を賜り有難うございます。当組合もお蔭様で第31回通常総会を8月22日に、とどこおりなく開催いたしました。組合員・版元・取次の関係各位のご協力に深く感謝の意を、神奈川県書店商業組合を代表して申し上げるものです。
さて当組合も、神奈川県県民部青少年課の指導の下、「青少年健全育成店審査委員会」の構成員として、今まで青少年健全育成のキャンペーン等の諸活動を推進して参りました。今回の通常総会で、組合員の意見として、「成人図書の小口止め」についての質問がありました。書店に送品される成人図書の中には、いわゆる「小口止めがされていない書籍が(主に成人向け雑誌)最近多く見受けられる」との報告が組合員の皆さんから、当組合に寄せられています。
当組合としては、「成人図書の小口止め」が書店に送品される、全ての「成人図書」で実施される事を、強くお願いしたいと思います。「青少年健全育成」の趣旨を、全ての取次・出版社が社会的責任ある企業として自覚し、その使命を達成することに、ご理解を賜ることを切に要望致します。
神奈川県書店商業組合の理事会議決としての要望書を送達致します。
〔要望書〕
「成人図書小口止め」について、下記の事項を強くお願い致します。
1書店に送品・配本される全ての「成人図書」に小口止めをして、取次に搬入する様に出版社に強く要望する事。
1小口止めされていない「成人図書」は書店に配本しない事。

読みきかせらいぶらりい・JPIC読書アドバイザー・土山きみ子

◇2歳から/『はらぺこヘビくん』/みやにしたつや=作・絵/ポプラ社819円/2006・4
はらぺこヘビくん、お散歩しながら食べ物みつけたよ。どうしたと思う?「ごっくん、あーおいしかった」でも次の日も、次の日もごっくん。ヘビくんのおなかは一体どうなったのかなあ…。ページをめくるたびに、子ども達が笑いとかん声をあげること間違いなしの、楽しい絵本です。
◇4歳から/『ねずみくんおおきくなったらなにになる?』/なかえよしを=作/上野紀子=絵/ポプラ社1050円/2007・10
大きくなったら何になるの?と聞かれ考えこんでしまったねずみくん。お友達のみんなに夢を聞くと、あひるくんはパイロットに、ぶたさんはケーキ屋さん、ライオン、ぞうとつぎつぎに答えます。ねずみくんは何になろうと決めたのかしら…。夢はいつまでも持ち続けてほしいものです。
◇小学校低学年向き/『ひとりぼっちのライオン』/長野ひろかず=作・絵/ひさかたチャイルド1260円/2008・7
ひとりぼっちのライオンは、淋しくて友達を探しにでかけました。やまあらしや羊や鹿などに出会い、その度に外見をまねて近づき失敗、ライオンに友達ができるのでしょうか。最後にライオンは大切なことに気づきました。そして、私たちにもそれが何であるのかを教えているようです。

服部敏幸氏送る会

8月20日に95歳で亡くなった元講談社代表取締役会長、服部敏幸氏の「お別れの会」が9月26日正午から帝国ホテル孔雀の間で営まれた。
講談社野間佐和子社長は「父、夫、私と三代にわたって世話になった。講談社は来年百周年を迎える。天国から見守ってほしい」と追悼。喪主の服部清臣氏は「昭和9年に講談社に入社以来、出版文化発展に尽くした。いささか貢献できたとすれば幸せな人生だったのではないか。昨年足が弱って、ゴルフはやめたが、家族旅行や剣道大会を楽しみにしていた」と参会者に御礼のあいさつ。野間社長、野間副社長、浜田取締役相談役、遺族に続き一般参会者が遺影に白いカーネーションを献花した。

第5回中学生フェアの活動報告/北海道理事会

北海道書店商業組合(久住邦晴理事長)は9月9日午後1時より組合事務所で定例理事会を開催した。
最初に、8月20日、21日に開催された日書連主催の書店経営研修会の報告が岩田徹理事(いわた書店)より行なわれた。岩田理事は研修の中で、平井謙一氏による「キャッシュ・フローを中心とした中小書店の事業力強化」が興味深かったと話し、当日の資料をもとに各理事に説明して意見交換を行なった。今後生き残りをかけた書店にとっては非常に有意義な研修会であり、同様の研修会開催を道組合でも検討していくことにした。
この後、久住理事長より「第5回中学生フェア」の報告が行なわれた。8月16日に北大クラーク会館にて、坂本勤氏(「タマゴマンは中学生」の著者)の講演会と、坂本氏と村上里和氏(NHKアナウンサー)との対談が実施された。お盆休みの最終日でもあり、入場者数は予想を少し下回ったが、家族連れが最後まで熱心に聴いていた。
講演会と並行して行なわれた「中学生の北大体験」は20名募集に対し、100名を超える申込みがあった。当日は午前11時から午後2時まで、現役北大法学部の学生の案内で北大構内見学、クラーク会館(学食体験)での昼食、法学部教室を使ったゼミ体験などが行なわれた。中学生にとっては、将来に向け刺激ある企画であったようで、多くの参加者から来年度も実施して欲しいとの要望が出された。
その他に、JPICによる「第4土曜日は、こどもの本の日」キャンペーンについて理事長より説明があり、最終的に参加書店数をまとめた。
(事務局・阿知良由紀美)

日書連・書店経営研修会から/「外商力を高めるポイント」/豊橋市・豊川堂代表取締役・高須博久氏

〔学校への外商を最重点に〕
豊川堂は、江戸時代に味噌・醤油を扱う高須屋からスタートした。次に呉服屋をやり、さらに兼業で古着を始めた。幕末には質屋もやっていたが、お侍相手の証文が廃藩置県でパアになった。明治5年に学制令ができたことから教科書に目をつけ、尋常小学校に教科書を納める仕事を始めたのが明治7年。だから豊川堂は教科書の販売からスタートしている。明治20数年頃にはいろいろな書籍、文房具などを扱っていた。
店のある場所は百年前までは大繁華街だったが、町外れに鉄道が引かれると、そこに人や金融、商店が集まり、徐々にボディーブローのように効いてきた。鉄道から自動車の時代になって現在に至るが、今はお客様がなかなか来てくれない。しかもだんだん高齢化している。豊川堂はそういう立地の本店を抱えており、外商に頼らざるを得ない。そこで目をつけたのが、学校との取引だ。
豊川堂は最盛期は9店あったが、現在は4店しかない。2000年に従業員を集めて、「ウチはこれから赤字の店を毎年1店ずつ閉める。誰一人やめさせないで全部外商なり他の店に吸収する。その代わり、外商は1人毎月5百万、年間1人6千万円の売上を確保する商売に切り替える。ウチは日本一の外商部を目指すぞ」と言って取り組んだ。
絶対に手放したくなかったのが、学校の図書館だ。豊橋市に学校図書館研究部会というのがあって、先生方から常に話を聞いている。加工品にして納めるのは本屋の仕事じゃないなんて始めは思っていたのだが、学校が言う仕様書に対して、できるかできないかではない。コンピュータのソフトも独自で開発して、データベースも自分のところで打ち込み、各学校へ納品したデータのCDは全部ウチが持っている。
学校には何か用事がないとなかなか行きにくい。先生の雑誌も、生徒さんが扱う教材も何でも届けますよと言っている。ウチでは、高校1年の入学前に読書感想文を書かせるようにしてもらっている。宗田理さんの『雲の涯』(角川文庫)は、豊川にあった豊川海軍工廠が爆撃を受けて2500人もの方が亡くなったことを書いた物語だ。時習館高校という学校があって、ここの生徒さんが学徒動員で亡くなられたので、これを新入生に読ませてみてはどうですかと薦めた。すると、国語の先生が新入生の課題図書にしてくれた。角川さんが千部で刷ってくれて、本を全部ウチで買い取り、新入生に読んでもらうようにした。他にも5~6点集めてもらって、新入生の宿題にお願いしている学校もある。
外商をやれば銀行からの借り入れが増える。学校は生徒さんからお金を12カ月分割で集めるので、ウチは7月決算だから夏休み前にねじを巻いて頑張っても、半分集まるか集まらないかという状態だ。銀行が見放さないので何とかやっているようなもの。それだけの覚悟で外商は取り組まないといけない。
外商力を上げるポイントは、まず人だ。先生に対して説得する力と販売する力を持った人間を育成することで、ウチは外商員のマニュアルを作っている。次はモノ。出版社の企画力に負うところが多いと思うが、新企画をどうやって取り上げるかは最終的に社長が決めないといけない。例えば利益率が稼げるもので、どうしたら78掛けの商品が7掛けにまで落ちるか。これを必死になって考える。
1点1点の企画というのは金額的には知れているが、気持ちの上で一つの指標を示しておかないと張り合いがない。豊川堂は昔は社員旅行をしたが、年中無休になってできなくなった。でも社員が集まれる場を作りたいということで、商品を1点決めて目標を定め、達成したら打ち上げ会をみんなでやろう、夜6時から10時までやるから、都合のつく時間に出て来いよということをやった。
〔年間の読進計画を立てる〕
人、モノのなかには、「出版社の協力」もある。版元に、「こう取り組みたいので説明を聞きたい」と言うこと。集英社に「漫画中国の歴史」セットを売りたいとしつこくお願いしたら、豊川堂のために説明会を開いてくれることになり、外商員と店長を呼んで話を聞いた。目標を百セットと決め、約束の期限より少し遅れたが売り切った。担当者に手紙を書いてスリップと一緒に送ったら、本社までその手紙が行って、特別賞をいただいた。
小学館の企画のときは、小学館PSの加藤社長と、日本一になったらみんなで打ち上げをやろうと約束して報奨金の交渉もした。最終的に日本一になったと手紙をいただき、小学館の担当者も参加していただいて打ち上げ会をやった。外商というのは、売ると決めた本を、自分にプレッシャーをかけて売り切る、これにかかっている。
本屋の本当の楽しみは、お客様から「いい本を紹介してくれたね、次もまた頼むよ」と言われることだと思う。ウチの外商員にはご苦労さんの意味を込めて、報奨金の半分を渡している。また、私は打ち上げ会の費用を毎月1万円ためている。どうしたら外商員のテンションが上がるのか、最後は人にかかっている。
外商は元気が全て。そうでないと、先生は「この本採用して大丈夫かな」と心配する。絶対いい本だと伝えるためにまず元気。そして商品の内容を把握して説得できる話術。そういったものが積み重なってくれば、年間6千万売れるぞとハッパをかけている。
一般外商では、配達、集金を中心とした業務でヘルパー制度というものをつくり、主婦を募集して現在20名のヘルパーがいる。1カ月の売上は1人60万円くらい。手数料は1割払っている。「宅配サービス」のチラシを1人毎月20部ほど、自分が配達している隣近所にポスティングしてもらっている。外商と店売の人間の意思の疎通を図るために作っているのが「本屋の新聞」だ。10人ぐらいが本の感想文を書き、不定期で作っている。8千部作っていて、新聞が楽しみだというお客さんがたくさんいる。
苦労したのが、豊橋市が刊行した書籍を豊川堂でお求めいただけますというもの。市がいろいろ本を作っているので、売らせてほしいと市に何度も足を運んでいたのだが、断られ続けていた。それが去年の末に、この在庫を金に換えたいという話になってきた。図書館納入組合として受け入れますということで5点を選び、併せて行政の広報誌でPRしてもらった。そうしたら本当に売れて、あっという間に追加追加となった。市長がびっくりして「本はどうしたら売れるのかを部課長会議で話してくれ」と言った。そこで、「本を作って自己満足してはダメ。読者の手に届いてようやく本なんだ。この1冊が、読者の人生をいかに豊かにするかを訴えないと本は買ってもらえない」ということを話した。
豊川堂の隠れたベストセラーは「コロコロ十二支おてだま」。ヘルパーさんは自分の車で配達してくれているのだが、これを1個売ってきたら1割の手数料とは別に3㍑分のガソリン券を発行している。1個税込み1780円だが、仕入れ値が安く、だいたい4割を還元していることになる。こういったものも、これからは必要だろう。ウチの外商は1万1千人ほどのお客様を抱えているが、このお客様は絶対に手放したくない。そのためには1冊でもお届けしますということをなんとしても維持したいと思う。
読書推進の年間計画について話すと、日本一の外商部を作る柱になるのはやはり販売計画。増売をするためには読書推進を一本の柱として売っていくことが大事だと思った。2月は高校の採用品を取りに行き、3月は教科書で必死になる。そのとき新入生のための読書を徹底してほしいと働きかけをする。4月に入ると小中学校の教材関係に取り掛かる。5月は東三河優良児童図書展示会を開き、併せて課題図書の販売をスタートする。7月は「中学生はこれを読め」。夏休みに入ると、敬老の日におじいちゃんおばあちゃんの似顔絵を描きましょうと幼稚園に持ち込む。店に展示すると祖父母が見に来てくれるので、今度は10月の孫の日のチラシをお渡しする。チラシをまくことで、「あの本屋で何かくれたな」というのがインプットされる。
ここまでが種まきで、実りはクリスマスだ。私どもはサンタクロースキャンペーンというのを4、5年ほど前からやっている。店頭で先に本を買っていただき、12月23~25日の希望時間にサンタがお届けしますというキャンペーンだ。一番最初は20人くらいだったが、昨年は130人になり、4人のサンタで必死になってまわった。
面白かったのは、病院の奥さんが、待合室の本を10冊替えたいということで、「孫の日のときチラシをもらったけど、いい本を見繕ってもってきてほしい」とおっしゃった。前年孫の日で選んだ本もあわせて持っていったら、全部買ってくれた。「やっぱりお客様には声を掛けておくものだ」と思った。このように、年間で押さえるところを押さえて、最後の実りはクリスマスということで読書推進を考えており、どれをきっかけにお客さんに声をかけられるかということだ。
〔出版社との貸し借り大事に〕
私は思いつくことはすぐやろうとするので「仕事が増える」と怒られるのだが、一個の店では実行が難しいものを、共同でやろうよというのが日書連やいろいろな会だと思う。いいと思ったことは一回やってみたらどうですか、というのが私の提案だ。「何か可能性がありそうだな、だめかな」と思っても、3分の1の人が賛成してくれたことはやってみるべきだと私は思っている。その人たちが賛同してくれればかなりの力になると思う。
いま、文字・活字文化推進機構という大きな組織ができ、業界外も取り込んで読書推進をやっている。2010年を国民読書年とすることも決まった。「本を読め」というのはよいことだから全員が賛成してくれる。この力を絶対に借りるべきだと思う。そうはいっても、何か事を起こすと費用がかかる。これをどう捻出するか、各県の理事長さんがすごく悩まれると思う。ここで頼りにしなければいけないのがやはり出版社だ。単にお金を出してと言ったら難しいだろうが、「似顔絵のチラシを作ってほしいんだけど、その下4分の1の部分におたくのコマーシャルを入れていいよ」と言えばたぶんやってくれる。その代わりみんなで売ろうよということだ。
私も「孫の日」に取り組むとき、そのようにして岩崎書店さんにメッセージカードを作ってもらった。また、小学館さんには似顔絵チラシをキッズジャポニカの広告を入れて作ってもらったり、ポプラ社さんには「読み聞かせ絵本ガイド100」というのを5千部増刷してもらった。取次さんには、出版社さんからサービス品をかき集めてほしいとお願いして、孫の日に参加した書店にそれをパックにして届けた。頼むばかりだといけないということで、キッズジャポニカやポプラディアの販売に取り組んだり、岩崎書店さんの本では子どもの危険防止の本を売ったりした。何かでお返しをしないと次につながらないと思うので、貸し借りを外商は大事にしないといけない。何かあったらお願いできる人間関係をあちこちで作るのが外商の思想として必要だと思う。
町の本屋は、確実に売りますということを訴えていくこと。「これを狙っていきます。その代わり応援してください」ということを出版社にお願いしてもいいと思う。そういう声を出版社の担当者にぶつけているうちに向こうから声がかかってくるようになる。「今度これ出したいんだけど力を貸してくれない?」と言ってくる。その貸し借りを楽しみながら、大きく打って出るときには、「今度これやりたいけど、どういう条件で出してくれる?」というところまで伸ばしていきたい。

日書連・書店経営研修会から/「雑誌売上アップを実現する」/文藝春秋取締役・名女川勝彦氏

〔現場の事例もとに小冊子〕
日本雑誌協会は『これで雑誌が売れる!―雑誌売り名人が明かす秘訣と工夫』という65ページから成る冊子を頒布した。雑協の腕こき10人が集まって、半年で作ったものだ。私たちが頭でこねくり回した企画案ではなく、全国の様々な規模、立地の書店の現場から寄せていただいた、実際に効果のあがった店頭における工夫の実例を約130本掲載した。私たち雑協は全国の書店さんの成功実例を皆様にお伝えするレポーターみたいなもので、教えるとかそういうことではない。とにかくこの冊子を読んでいただきたいという思いを強く抱いている。
雑誌不振が中小書店を直撃している。ナショナルチェーンや大型書店の総売上げに占める雑誌売上げの比率は20%。私が町の本屋さんという言葉からイメージする規模は60~150坪だが、この規模の書店の雑誌売上比率は60%から65%。このうち60坪から80坪規模では75%、20坪から30坪規模では80%ぐらいが雑誌売上げではないかと思う。だから、雑誌売上げ規模の縮小は、ナショナルチェーンや大型書店を直撃するのではなく、雑誌売上げが75%前後を占める「町の本屋さん」を直撃する。「雑誌は米のメシ、書籍はオカズ」という言葉を冊子で使ったが、雑誌が75%、書籍が25%の商材ということを念頭に置いたものだ。
〔雑誌陳列と付録の見せ方〕
では、冊子『これで雑誌が売れる!』に即して話をしたい。冊子はパート1からパート5までの5部構成となっている。パート1のテーマは「店頭作り・雑誌陳列・付録の見せ方――は基本の基本」。この中に次のような意見がある。
「雑誌はキレイに並べる。丁寧に真っ直ぐに並べかえる。繁忙時間帯は1時間毎に乱れを直す。乱れるほど雑誌は痛み、売れなくなる。そして、店が汚く見える」(繁華街・50坪)
雑誌をキレイに並べるのは当たり前だと思うだろうが、これがなかなかできない。繁忙時間帯はレジで手一杯だから、1時間ごとに乱れを直すのは容易なことではない。繁忙時間帯を過ぎた午後2時頃にすぐ手入れする。あるいは5時、6時の夕方の繁忙時間帯の前にきちっとやって、7時になったらもう一度点検するなど、それぞれのお店の事情に応じた工夫をすることだ。
書店店頭ではこういう工夫をしているんだな、お客様の心理をじっと見ているんだな、と興味深く思った意見を紹介したい。
「面陳棚だけでなく、棚ざしにした雑誌も同一銘柄を2冊以上揃えるよう徹底してから売上げが伸びました。おそらく1冊陳列は目立たないし売れ残り感がでるのだと思います」(駅前・1000坪)
雑誌陳列では平積みにする場合もあれば棚差しにする場合もある。この方は、棚差しにしたとき1冊だとなかなか売れないという実務的な経験を持っているから、2冊以上にしたらどうだろうかと提案している。「1冊陳列は目立たないし売れ残り感が出る」という観察も面白い。
売れ残り感に関しては、このような意見もある。
「『売れ残り感』が漂うと売れません。それを『今のうちに買っておこう感』に誘導するにはどうしたらいいのか。当店では『近日、返品予定』の札を貼った段ボール箱を作りました。1冊になったら雑誌をビニール袋に入れ、箱に放り込んでおくだけ。1日に10冊以上は売れるので、必ず昼休み前、夕方前に補充をします。箱は、手前が浅く奥が深くなるようカッターで切りました。コツは、ぎゅうぎゅう詰めにしないこと。ツウ好みの雑誌がよく売れます」(繁華街・35坪)
お客様の行動をよく見て工夫をしていることがわかる。「売れ残り感」が出ると売れないから、それを「今のうちに買っておこう感」へと誘導する演出をしている。「近日返品予定」の札を貼るということだが、これはよく考え抜かれた素晴らしいキャッチフレーズだ。私もこれを見たら、つい箱の中を探して、慌てて買ってしまうと思う。現場の工夫は、お金も何もかからない工夫である。この冊子にはお金のかからない工夫がたくさん載っている。
生活雑貨を併売しようというお店の意見もある。
「近隣書店との競合があるので、『一味違う店頭展開』を心掛けています。利幅の大きい生活雑貨を取り入れ、雑誌売場と合体させたのです。雑貨を入れ替えることで、店頭に季節感が出て入店者が増えました。隣接して産経学園があるので、女性読者向けのカタログを作り、雑誌の特集に合わせた雑貨の陳列で両方の売上げが伸びました」(繁華街・100坪)
生活雑貨を取り入れて一味違う店頭風景を作った。この書店は成功事例だが、こうしたケースで私の知っている範囲では成功半分、失敗半分である。失敗例は手間がかかるばかりで大して売れない、利益が出ないということのようだ。成功例では、京都の書店でおしゃれなコーヒーカップ、ソーサー、箸置きなどを売って利益を出しているところがある。ここが成功したのはメーカーと直で取引しているから。利幅がどれだけ取れるかに真剣になる。本と違う商材を扱うのならば、そのぐらいの覚悟がなくては駄目だと思う。本と違う商材を商うとき、本のように委託品で売れなければ返せばいいというような甘い考えでやると、ほとんど失敗する。メーカー直で厳しい仕入れができる、鞘を交渉で決定する覚悟を持っているお店は成功している。生活雑貨を取り入れたほうがいいかどうかということがポイントではなく、覚悟が大切ということだ。
付録を武器として使おうというアイデアもある。
「付録は必ずとり出して見本展示しています。実施した雑誌23誌は売上数が前年対比で116%伸びました」(郊外店・180坪)
付録を見本として積極展開している。付録を見せて売ろうという工夫はたくさんあるが、私が最も感心したのは次の意見。
「私は『付録鑑定人』と自称しています。付録組み作業を『手間仕事』だと思ってはダメ。良い付録かどうかを見分ける『鑑定仕事』だからです。多種多様な付録を力を込めて睨み、今週(今月)『付録で売ってみせる』雑誌を選び出します。そして直ちに追加をかけます。発注をモタモタすると、儲け損ないます」(駅前・240坪)
腰を引かないで、むしろ腰を前に突き出して、自分は付録鑑定人だ、この付録で雑誌が売れるかどうかを自分の眼力で見極めてやるという意気込みにあふれている。非常に強い姿勢でのぞみ、成績をあげている例だ。
〔仕掛け販売を成功させる〕
冊子のパート2のテーマは「POP作り・仕掛け販売・変わった陳列――の楽しさ」。雑誌売り名人はPOP作りなどの工夫に季節感の演出がある。雑誌は元々季節感を持った商材だ。雑誌の表紙には季節感があふれている。特にファッション誌は季節を先取りしたニュアンスを必ず演出している。そのような表紙を丁寧に並べれば、自ずと店頭から季節感が出てくる。「雑誌だけではわかりにくい場合もあるから、もみじの枝の一本でも添えてはどうか」といった工夫が、冊子には載っている。何を添えたら、そのお店の季節感を演出できるかということだ。季節感を演出することの意味は、雑誌という季節性を持った商品を利用しながらお店の躍動感を演出し、そのことで雑誌の売上げを伸ばすことである。
実戦的で感心したのは次の意見。
「仕掛け販売の失敗の多くは、事前の返品了解が取れぬまま売場の意欲だけで突っ走るとき起こる。販売会社・出版社側との人間関係が充分できていない間は無理しないことだ。出版社の返品了解が取れても即請求が立つので、仕入れ責任者との相談も大切だ。成功させるための工夫も大事だが、失敗しないための段取りも必要だ」(駅前・60坪)
つまり、成功させるための段取りも大事だけど、失敗しないための段取りも必要ということ。キャリアと実力を持つパート・アルバイトのスタッフはフェアなどで様々な工夫を考えている。それは大切なことだけれども、商売だから上手くいくこともあれば、取り寄せた商材がなかなかさばけなかった、その結果返品がたくさん出てしまったというケースも当然起こりうる。社長や店長は売れているときは何も言わないが、返品がたくさん出てしまったときは「なんだ、今月の返品は!」となって、スタッフとの間でトラブルが起こりがちとなる。
現場の方々の創意工夫の結果、トラブルが起こるのは不幸だ。創意工夫に満ちて、いつも新しいことを考えている、実力のあるスタッフに限って、社長や店長とうまくいかなくなって退職してしまう。そうしないためには「これは注文扱いになるよ。請求が立つよ。それを頭に入れて企画を組んでごらん」「返品了解はとったほうがいいよ」「人間関係さえ上手くいっていれば大丈夫。返品のことは気にしないでやってみよう」など、基礎的な知識や情報をパート・アルバイトにも与えなければならない。創意工夫するスタッフは店にとって貴重な存在。人材流出は防ぎたい。
〔客層分析で安定的売上を〕
いちばん感心した意見を紹介したい。パート3「追加注文とバックヤード作業――スタッフ同士の情報共有」に載っている。
「チェーン店の店長としては3店目。これまで雑誌売上げ向上に全力投球してきた。店舗売上げが安定するからだ。新店舗に移るたびに、徹底的に客層分析をした。最初の店は18~30代女性が主力とみて、入口脇をファッション誌で固めた。次の店は比較的男性客が多かったので、車・バイク、ホビー誌を目立たせるよう工夫した。主力客層がつかめてくると、文庫の品揃えは雑誌客層と連動させればいい、とわかってくる」(郊外・100坪)
このチェーン店の社長は異業種から入ってきた人。店長も書店で修行した人ではない。書店のことは何もわからないままパート・アルバイトに応募して、あっという間に店長になってしまった。この素人店長が店を預けられて真っ先に気づいたのは、まず売上げの安定に取り組まねばならないということ。では、売上げ安定は何によってしたらいいのか。それは雑誌だ。だから雑誌売上げアップに全力投球した。
同時に雑誌を安定的に売るために何が必要かも考えて、それは客層分析の中にヒントがあることに気付いた。そしてここがすごいのだが、主力の客層がつかめたら、文庫の品揃えに成果を盛り込んでいく。雑誌の顧客分析が文庫の品揃えに流用できるという発見を、この店長はした。これは大変なことだ。「素人ながら」ではなく、逆に「プロは何をやっているんだ」という感慨を持った。
パート4、パート5には外商の話を載せている。美容院に雑誌を売り込んで実績をあげたケースを紹介したい。
「美容院への配達で部数を伸ばしています。美容院の客層に合いそうな雑誌を数種類持参し、どれを置いてゆくかは美容院さんに決めてもらいます。各女性誌単号の売上げが伸びただけでなく、美容院さんからは『毎週(毎月)面白そうな雑誌を選べるのがいい』と好評です。好評に力を得て配達エリアを拡大中です。反面、定期購読を伸ばすのが課題となりました」(住宅地・150坪)
実は店売の売上げが落ちたので、美容院への配達で何とかしようと頑張ったのだという。ただ、定期であれを取ってくれ、これを取ってくれと言うのは止めにして、何種類か持って行って、美容院の人に興味のある特集の雑誌を選んでもらうことができるようにした。いつも数種類持って行かねばならないので、荷箱の中にたくさんの雑誌を入れて配達に出る。きついけれど、実際に配達エリアが拡大し、売上げも伸びた。
最後に、頑固なおやじさんの声を紹介する。
「ポイントカード?『顧客囲い込み』『顧客管理』なんてチャンチャラ可笑しい。囲い込みだの管理だのって、お客さまに失礼な話だ。私は、見覚えのある顔だな、と思ったら、必ず『次号、お取り置きしましょうか』と声をかけます。『お近くなら配達しますよ。店に来ていただけるなら取り分けておきます』。顔を覚え、名前(連絡先)を教えていただく、これが地元書店の顧客サービスの第一歩じゃないですか」(住宅地・30坪)
よく出版コンサルタントは顧客囲い込みとか顧客管理という言葉を使うが、いつも違和感を感じていた。「お客様を囲い込む?管理する?失礼じゃないか」と私も思っていたので胸にしみた。この頑固おやじの心意気はうれしい。

「かわいい」キーワードに/ファッション専門書と雑貨が同居/東日本橋・アスカブックセラーズ

東京・日本橋横山町は衣料問屋が軒を並べる国内有数の問屋街だが、通りを一本挟んだ東日本橋・アスカブックセラーズ(32坪)は、ファッション&デザインの雑誌・専門書を中心にセレクトCD・DVD、雑貨も扱うおしゃれな本屋。昭和25年に柳橋通りで創業、3代目という河邊健太郎社長に話を聞いた。
〔問屋街のおしゃれな本屋〕
「ご近所に、ちょっと素敵なお店があります。この殺風景な界隈には珍しく、お洒落な雰囲気の本屋さん」というブログに目がとまって、訪ねてみたのが東日本橋のアスカブックセラーズ。
地下鉄都営浅草線「東日本橋」で降りて、地上に出ると、目の前に取材先があった。店内に一歩入ると、正面イベント台に、動物の柄がついたポケットサイズの折畳み傘、マグカップ、ステーショナリー、婦人用ブーツ。小林信彦『日本橋バビロン』がさりげなく置かれ、「OZマガジン」「一個人」などの雑誌とともに雑貨が並ぶ不思議な空間を作っている。
書棚の分類は右手手前からコレクション、カラー&デザイン、ファッションビジネス、着物&キッズ、レディーズファッション、メンズファッション、左手にリコメンド(おすすめ本)、ニューリリース。レジカウンターをはさんで奥の棚はビジネス、PC、トラベル&マップ、ホビー。黒い書棚の上部に英文白抜き文字のジャンル案内が洋書店を思わせる。
レディーズファッションの横には面出ししたセレクトCDが40枚ほど。店内中央の島には文庫、雑誌、ステーショナリーが渾然一体で並ぶ。
文庫は時代小説の棚が目立つほかは、入口を入って左手に恩田陸、角田光代、伊坂幸太郎、本多孝好など人気作家数人をピックアップして展示しているのが特徴。コミック棚は一本のみで、『NANA』など人気の新刊を扱う程度。週刊誌も「週刊朝日」「週刊文春」「週刊新潮」など20誌程に絞り込んでいる。
〔セレクトショップの発想〕
アスカブックセラーズは昭和25年、健太郎社長の祖母、きよさんが5坪で創業した。2代目が現会長の悠一さん(69歳)。現在の店は平成16年5月に移転拡張してオープンした。
河邊社長は昭和44年生まれ、日大法学部時代に1年間休学してオーストラリアに留学した経験もある。大学卒業後は、外為トレーダーとして4年間サラリーマンを勤め、稼業を継ぐつもりで銀座・教文館に1年、目黒・恭文堂書店でも研修したあと、29歳でアスカ書店に入った。旧店舗は5坪で、配達がメインだった。もう少し広い物件を探していたところ、近くに出物があって移転を決めた。
周辺はビジネス街。衣料問屋や銀行が始業する朝8時には雑誌を届ける。出入りする法人は150社ほどあり、個人口座まで含めると500口座を数える。
本屋の村が開発した「ラクプロⅡ」で外商管理・顧客管理をし、雑貨も含めた店頭在庫は「ラクPOS」と組み合わせ単品管理している。「ラクプロ」の導入で作業効率が上がり、単品管理で取次との部数決定交渉もスムーズだと言う。
開店時、河邊さんが想定していた客層はアパレル業界に勤める20代、30代の女性だった。デザイン専門書の品揃えは、親しくしていた神田村の取次、誠光堂書籍が棚入れしてくれた。
セレクトショップを目指していたので、最初から扱い商品は絞り込んだ。しかし、開店してみると中高年の客も付いて、時代小説や旅行ガイドなどの棚を増やしていった。気が付くと、周辺には徐々にマンションが増えて、若い夫婦や家族連れも多くなってきた。
デザインやコレクションの品揃えはむずかしくないのか聞くと、主要版元は「流行通信」「スタジオ・ボイス」のインファス・パブリケーションズ、毎日コミュニケーションズ、MdNなどのインプレスグループ、BNN新社、誠文堂新光社、ピエブックスなどに絞られ、新刊をホームページでチェックするという。ただ、専門誌の場合、バックナンバーを求める客もいるので、3号分は常備することを心がけている。
最近のファッション雑誌で伸びているのは宝島系の「スイート」「スプリング」「インレッド」「スマート」など。女性誌はブランドものの付録などをつけるケースが増えているが、付録は実物を雑誌の横に展示することで、読者にアピールしている。
客注は栗田のオンラインシステムで在庫を確認してから発注している。神田村には毎日仕入れに行き、弘正堂出版、明文図書、日本地図共販、鍬谷書店で新刊をチェックしている。
〔ディスプレイで売り切る〕
雑貨の仕入れは、かわいいこと、値頃感がポイントになる。ネコやウサギの柄のついたミニ傘は東京ビッグサイトで開かれた「ギフトショー」で見つけて36本仕入れた。メーカー直接仕入れで6掛け。2、3日前に店に並べると1日4、5本のペースで売れていく。1050円という値付けで、プレゼント用などに買っていくのではないかと河邊さんは推測する。
レジカウンターにあった親指大の豚のおもちゃはライターで、ボタンを押すと鼻の両穴から2本の火が勢いよく出た。それより小ぶりな豚はライトで、警戒してこわごわスイッチを入れると、今度は「ブーブー」という鳴き声とともにライトがついた。レジ周辺に雑貨を置いておくと、精算時、10人に一人は何だろうと手に取ってみる。20人に一人は面白がって買っていく。
「台風が近づいているから長靴も並んでいますね」と聞くと、「あれはファッションブーツですよ」と笑われてしまった。9300円の値札が付いていたが、3足売れた。これまでに一番売れた雑貨は7インチのポータブルDVDレコーダー(9800円)で、3桁売ったが、機械ものは故障の問題があるのでむずかしい面がある。
カウンターには、棒つきキャンデーのチュッパチャップスやチロルチョコも売っていた。このあたりは駄菓子屋感覚だ。チロルチョコはバラ売りも袋詰めのセットも扱うが、製造をやめた10円のチロルチョコを一度に1万円分買っていった男性客がいたという。
こうした雑貨と本の組み合わせといえば、ヴィレッジヴァンガードと同路線。そのあたりを聞くと、商品を組み合わせるコンセプトというか、考え方は同店に学んだ面があるとのこと。しかし、店の演出・雰囲気はアスカブックセラーズの方が高級感を醸し出している。店内の照明にしても、間接照明、スポット照明を増やして、もっと光の強弱をつけてみたいと手直しの希望を語る。
店内のBGMは気にならない程度の音量でハウス、クラブ系、ジャズ、リラクゼーションの曲を静かに流している。河邊さんのセレクトしたCDを気にいった客が求めていく。
本・雑誌の「委託扱い」に対し雑貨は「買切り」。買切りに抵抗はないか聞いたところ、「買切りにしないと、売ることが緩くなるのではないか」と、商売には緊張感が必要であることを強調する。ディスプレイによって売り切ることを心がけている。問屋街には輸入雑貨の店もあり、配達の折にこれはと思う商品を見つけると、現金で仕入れてくる。一般的な書店には仕入れ、値付けの作業がない。雑貨の売上げは全体の1割ほどだが、このあたりに商売の面白みを感じているようだ。
アスカブックセラーズの今後の展望を聞くと、「平成16年のリニューアル・オープン後、毎年売上げは伸びてきたし、今年も6月決算で2、3%伸びたが、そろそろ伸びは限界。本以外の品揃えはまだ手探り状態だが、お客さんの反応から手応えは感じている。今後は2号店としてもっと充実した品揃えを目指したいが、百坪は必要。カフェもある空間を作ってみたい。まだまだリアル書店には夢も希望もある」と力強く語ってくれた。
冒頭のブログの話をすると、「小心者なので、怖くてブログの評判などとても読めない」と意外な反応だった。日曜日の休みも「普段できない経理などをしている」と仕事一筋。
外商は健太郎社長と会長の悠一さんで手分けし、店は教文館時代に世話になった石田さんが店長。母親の美佐子さんもレジに立つ。店の裏手には、七味唐辛子で有名な薬研掘不動院がある。(田中徹編集長)