全国書店新聞
             

平成20年5月1日号

新理事に井上、多屋氏

日書連4月理事会には神奈川県組合から理事、常任委員の変更、和歌山県組合から理事変更の報告があり、井上俊夫(神奈川)、多屋昌治(和歌山)両理事の就任を承認した。新理事と所属委員会、新常任委員、退任理事、委員追加は次の通り。
▽新理事=井上俊夫(藤沢市・井上書店、担当・経営健全化委員、発売本部委員、JPIC評議員)
▽新理事=多屋昌治(田辺市・多屋孫書店、担当・取引委員会、読書推進委員会)
▽新常任委員=筒井正博(小田原市・伊勢治書店、担当・増売委員会、流通改善委員会、サン・ジョルディ実行委員会)
▽退任理事=長谷川義剛(茅ヶ崎市・長谷川書店)、宮井治夫(和歌山市・宮井書店)
▽委員追加=西村俊男(増売委員会)、山本裕一(出版業界環境改善政策委員会)

新年懇親会は中止へ/年末に都内で懇親会/日書連

例年1月理事会終了後、箱根に出版社、取次、業界関係者を招いて行われてきた日書連主催「出版販売新年懇親会」は来年度は実施を見送り、代わりに今年12月に出版業界関係者を招き、都内で「年末懇親会」を開催する方針が4月23日の日書連定例理事会で承認になった。
〔環境改善政策審議会〕
出版販売新年懇親会は今年で54回と歴史を重ねてきたが、近年は懇親会が終わると泊まらずに帰る参加者が多くなっていた。このため、今年は参加者からアンケートをとったところ、温泉地で1泊というスタイルの見直しの意見が数多くあがった。
大橋会長は23日の理事会で政策審議会の意見として「新年度の懇親会はお休みにして、年末に懇親会を実施してはどうか」と提案。新年懇親会の代わりに新年度は12月17日の各種委員会終了後、都内ホテルなどにお客様を招き懇親会を実施する方針を提案。理事会はこの方針を了承した。
〔情報化〕
日書連MARCの普及状況について、山形県では昨年12月に高校司書部会で説明会が実施され、高校10校に教育システムの図書管理ソフトが導入されている。教販と組合の両輪で成果があがっていることが報告された。
大分県では県立図書館の入札にあたって、図書納入と装備、データ化のいずれも県組合が受注したことが大隈理事長から報告された。
井門委員長は現在、図書館サポート委員会で図書館納入マニュアルを作成しており、総会前後には配布できると説明した。
日本出版インフラセンターが行った書店の万引被害調査については、大手書店14社643店の調査で平均ロス率は1・91%にのぼり、このうち万引きロスは1・41%にあたること、電子タグを導入する運用コストを考えても万引き防止の効果が十分あること、早ければ年末にもコミックからICタグが入っていく可能性があるなどの説明があった。
〔流通改善〕
買切り正味安、満数配本をめざす新販売システムについて、藤原委員長はICタグを利用することで買切り・委託を使い分けできるのではないかと言及した。
昨年の第2回新販売システムの企画は完全買い切りで注文が1回だけだったことに難点があったが、ICタグを使えば同じ書目で買切り分70冊、委託分30冊という注文が可能になる。取次で対応できるかどうかも含めて検討していく方針を説明した。
また、昨年版元の提示した部数に届かず販売を取りやめた『読めそうで読めない漢字』は講談社が7千部製作したところ、完売になったことを紹介して、やりかたによっては売れるものもあったのではないかと指摘した。
〔取引改善〕
公取委が出版業界の流通問題をヒアリング中で、日書連も4月7日、柴﨑委員長、大川専務理事、公取協影山専務理事の3名で書店からみた問題点を報告してきたと説明した。
〔財務〕
井門委員長から日書連の今期決算見通しについて報告があり、455万円の経常利益が出る見込みと説明があった。
〔小売公取協〕
群馬県・煥乎堂がポイント・サービスを実施している問題で、出版物小売業公正取引協議会は「煥乎堂のポイントサービスについて」という文書を発表。改めて小売公取協理事会でポイントサービスに対する考え方を説明した。
煥乎堂の始めたポイントサービスは書籍・雑誌・文具等の店頭商品を現金で購入の際、100円につき1ポイントを加算するもの。1000ポイントたまると1000円分の図書カードまたは旅行券と交換する。
また、スタート記念キャンペーンとして2月1日から29日まで通常1ポイントを7ポイントに還元する。
影山専務理事はこのサービスについて「図書カードか旅行券を選択させる方法は景品類の提供として小売公正競争規約の対象になる」とした上で、①景品としてのトレーディング・スタンプは2%の範囲内で規約の制限内、②キャンペーン期間中7%の還元は実施期間の制限(年2回・90日以内)を守って行ってほしいとした。

5月8日に日書連臨時理事会

日書連は5月8日(木)午後4時から書店会館で臨時理事会を開催し、5月29日に開く日書連定時総会に提出する決算関係書類の承認を求める。
昨年4月1日から組合法が改正され、決算・監査手続きの明確化が求められるようになったため、とられる措置。
改正組合法の規定では決算書類、事業報告書は監事による監査を受けたあと、理事会の承認を経て組合事務所で2週間閲覧され、定時総会が開かれる段取りになる。
また、新年度の人事では副会長に1名の欠員があるが、今年は改選期でないため、新たな副会長の補充はせず、現状の7名体制を維持する。このほか、改正組合法によって今年から員外監事を1名置くことが義務付けられるため、小売公取協専務理事の影山稔氏を監事に推薦する。
8日は臨時総会終了後、午後5時半より神楽坂の出版クラブ会館で「春の書店くじ」と「出版社共同懸賞」の合同抽選会が実施される。

8月に書店経営研修会/利益、営業力強化テーマに/4月理事会

〔指導教育〕
8月20日、21日の両日、東京ガーデンパレスで開催する中小書店経営健全化研修会について鈴木委員長が報告した。研修会は20日が「書店の利益構造について」(能勢仁)、「キャッシュフローを中心とした中小書店の事業力強化」(平井謙一)、「ディスプレイ、POPで売り場は変わる」(永島幸夫)の3講、21日は「雑誌売上アップを実現する」(名女川勝彦)、「外商力を高めるポイント」(高須博久)の2講、2日間で合計5講座を用意している。中央会から180万円の補助金が出る。
また、自民党青少年特別委員会(高市早苗委員長)が準備している「青少年健全育成を図る図書販売規制法案」は違反すれば懲役6カ月または50万円以下の罰金が盛り込まれており、出倫協の一員として中央立法化に反対していく方針を確認した。
福岡組合が取り組んでいる「万防シール」については、福岡県、県警の協力も得て青少年の規範意識向上のため進められており、近くNHKの「ご近所の底力」でも取りあげられると山口理事長が報告した。
〔健全化〕
4月1日現在の日書連傘下組合員数は前年より461店減って5869店となった。
前年の239店から162店へ77店減少した北海道組合久住理事長は、組合員数が大幅に減少した原因について「道組合内で支店を加入させているところ、させていないところがバラバラだったのを統一した。加盟店が減ったわけではない」と説明した。
中山委員長は日書連でパンフレット「加入のすすめ」を作成しており、各県組合で加入促進に利用してほしいと呼びかけた。パンフレットは5千部作成して、6月か7月に各県組合に配布する。
〔増売〕
舩坂委員長から春の書店くじ特賞「タイ旅行ペアご招待」は11月に3泊4日で実施すること、抽選会は5月8日、雑誌共同懸賞との合同抽選会として出版クラブで行うと報告があった。また、秋の書店くじ特賞については、賞品を海外旅行から図書カードに変更する方針を説明した。
〔読書推進〕
委員会で検討を進めてきた「日本読者大賞」だが、NHK―BSが同様の企画を進めており、NHKとのタイアップを探っていくことになった。
中学生向け読書カタログ『中学生はこれを読め』全国版作成については、谷口委員長が全国版で単価100円(五百冊単位)、県版で単価225円(千冊単位)の見積り金額を示し、注文部数が2万部に達すれば製作するとして希望部数のアンケートを取ることになった。
神奈川組合からは筒井常任委員から幼稚園・保育園の園児を対象にした「大好きな本子どもコンテスト」に700通の応募があったことが報告された。
〔定款変更〕
中小企業団体の組織に関する法律の変更に伴い、日書連定款の一部を改正するが、変更案は既に経済産業省の内諾を得ており、5月29日に開く日書連定時総会において改定案の承認を求めることを鈴木委員長が報告した。
〔消費税〕
4月23日付の日本経済新聞に国民年金、消費税に対する各政党、新聞社の考え方が一覧表で出されていたことを面屋委員長が紹介。今後、年金、医療のからみで消費税率アップの議論が出てくるのではないかとして、引き続き情報収集していく方針を説明した。
〔広報〕
全国書店新聞では昨年から地方で活躍する元気な書店をシリーズで紹介しているが、新しく「各県組合の女性役員に聞く」シリーズを始めると面屋委員長が紹介した。
〔共同購買〕
中山委員長から損保系の保障を行う中小企業災害補償共済福祉財団(通称「あんしん財団」)について説明があり、各書店で加入を検討してほしいとした。
〔日書連共済会〕
日書連共済会は昨年12月31日で清算1期を終了した。現在の資産合計は5億3371万円。木野村委員長は引き続き安全確実な運用を図っていきたいと報告した。

5月23日に総代会/大阪組合

大阪府書店商業組合は4月12日午後2時から組合会議室で定例理事会を開催した。今年の組合総代会は5月23日午後1時半から北区のホテルモントレ・グラスミアハウスで行い、総代会後に優良従業員表彰式・懇親会を行うことなどを承認した。
〔総務・財務〕
理事・総代の欠員補充は、理事会推薦理事に萩原浩司氏(第13支部)、ブロック推薦理事に泉真一氏(第6支部)を提案する。総代欠員は、各支部で対応を協議する。
〔定款等改定〕
理事会で検討した組合定款改定案について、中小企業団体中央会から、第34条の役員選挙についての表記は中央会指導の模範例に倣うようにとの指摘があったため、選挙の具体的な方法は役員選挙・選任規約で規定した。
〔読書推進〕
①「帯コン」課題図書増売のため、各書店に最低1セットの注文を依頼する。注文締切りは4月30日。配送は5月20日前後。学校向け資料(ポスター、注文書、推薦書等)は、支部ごとに担当書店を決め直接学校に持参することを最優先とする。
②「読書ノート」応募申し込みを「帯コン」に合わせて、5月連休明けの朝日新聞に「読書ノート」配布を告知する。平成19年度「読書ノート」読了目標達成者1732名が4月1日から8日にかけて朝日新聞に発表された。
③大阪国際児童文学館存続のため、要望書と署名用紙を各店に送付した。
〔出店問題・組織強化〕
4月3日、15日、22日、24日に、ツタヤ八尾老原店、コーナン鳥飼西店、ツタヤ香里園店、コーナン・フレスポ東大阪稲田店、文教堂書店の出店説明会を開催する。
〔学校図書館・IT化〕
四条畷の小学校が、日書連マークを導入した。近畿ブロック・情報化委員会の一員として、尼崎市の小学校図書館電算化のサポートに出張した。大阪市立高校が、日書連マークを導入することになった。
〔出版販売倫理〕
府青少年健全育成条例に違反した雑誌が、有害図書類に個別指定された。陳列には、充分注意されたい。

辞典のみ前年を上回る/3月期は前年同月比95.0%/日販調べ

日販経営相談センター調べの3月期書店分類別売上調査によると、3月期売上げは前年同月比95・0%で前月の97・9%を2・9ポイント下回った。
ジャンル別で前年を上回ったのは辞典のみ。『広辞苑第6版』の影響で128・2%と前年を大きく上回った。
雑誌は前年3月に『AneCan』『marisol』『GRACE』と大型創刊誌があった関係で96・2%と前年の数字に届かなかった。しかし、規模別でみると、201坪以上は101・7%と前年をクリアしているのに対して、50坪以下店では92・7%と大きな開きがある。コミックも201坪以上店の100・1%に対して50坪以下は90・7%と同じ傾向が見られる。新書は98・9%で昨年12月以来3カ月ぶりのマイナスとなった。
平均客単価は1143・8円。前年同月比100・9%と横ばい。

本と花の祭典に2万人/1万冊をチャリティ販売/サン・ジョルディ名古屋2008

「サン・ジョルディフェスティバル名古屋2008」が4月19日、20日の両日、名古屋市東区のOASIS21・銀河の広場で開かれ、本と花の展示販売を中心に様々な催しが行われた。2日間の来場者数は約2万人にのぼった。
愛知県書店商業組合はイベントの目玉であるリサイクル本のチャリティ販売を実施した。読者から読み終えた本を寄贈してもらい、定価の1割以上で販売するもので、売上金全額を中日新聞社会事業団を通じて各種福祉事業・施設などに寄付する。文芸書、文庫、新書、実用書、児童書、コミックなど約1万冊を陳列し、102万2059円を売り上げた。
このほか会場では、子どもたちを対象にJPIC読書アドバイザーによる絵本の読み聞かせ、愛知組合が本作りから陳列・販売まで手伝う自費出版相談、バラのチャリティ販売、フラワーアレンジメント教室などが行われた。また、なごやっ子読書週間(4月23日~5月6日)記念イベント「なごやっ子読書フェスティバル2008」が名古屋市・名古屋市教育委員会の協力で行われ、お絵かきコーナーや絵本コーナーに多数の親子が訪れた。
19日午後12時45分から行われた開会式では、サン・ジョルディ名古屋実行委員会の谷口正明委員長(愛知県書店商業組合理事長)があいさつ。「男性と女性が本と花を贈り合うスペインの習慣を日本に持ち込んで、今年で23回目。日本には元々、お中元、お歳暮、年賀状など気持ちを贈り合うしきたりがあり、こうした日本の伝統を基礎にサン・ジョルディのイベントが各地で行われている。書店組合のリサイクル本チャリティ販売も阪神大震災の年に始めて14回目。これまで約86万円を寄付した。読者と書店の心を福祉施設に届けたい」と話した。

各県組合総会スケジュール

◆福島県書店商業組合第25回通常総会
5月18日(日)午後1時半から郡山市・磐梯熱海温泉のホテル華の湯で開催。
◆青森県書店商業組合第21回通常総会
5月19日(月)午後3時から青森市のアラスカ会館で開催。
◆東京都書店商業組合第32回通常総代会
5月20日(火)午後2時から新宿区の日本出版クラブ会館で開催。
◆沖縄県書店商業組合第20回通常総会
5月21日(水)午後2時から那覇市の那覇地域職業訓練センターで開催。
◆愛知県書店商業組合第25回通常総会
5月22日(木)午後2時から名古屋市千種区の愛知厚生年金会館で開催。
◆大阪府書店商業組合第26回通常総代会
5月23日(金)午後2時から大阪市北区のホテルモントレ・グラスミアハウスで開催。
◆福井県書店商業組合通常総会
5月26日(月)午後4時からあわら市の灰屋で開催。
◆埼玉県書店商業組合第24回通常総会
5月27日(火)午後2時からさいたま市浦和区の埼玉書籍で開催。
◆京都府書店商業組合第24回通常総代会
5月27日(火)午後2時から京都市中央区の京都ホテルオークラで開催。
◆山口県書店商業組合第20回通常総会
5月30日(金)午後1時半から周南市勤労福祉会館で開催。
◆北海道書店商業組合第32回通常総会
6月24日(火)午後3時半から札幌市中央区の札幌ガーデンパレスで開催。

読みきかせらいぶらりい/JPIC読書アドバイザー・枅川薫

◇2歳から/『だるまさんが』/かがくいひろし=作/ブロンズ新社850円/2008・1
両目を閉じただるまさんは、期待どおり、ころびます。次から次へ、片目をつむり、両目を開き、八の字眉毛にふんばりまなこ、最後は両足そろえて満面の笑顔。だるまさんの一字一字に動きあり、緩急つけて読むもよし。子ども心をぐっと引き寄せて、ぱっと離して、大よろこびです。
◇4歳から/『きぜつライオン』/ねじめ正一=詩/村上康成=絵/教育画劇1000円/2007・3
ふわふわ、どんどん、うれしくなってうれしくなって、どきどき、ぐるぐる。ことばのリフレインで、お話が動きます。百獣の王が一羽の蝶に心かよわせ、小さきものへの心くばり。ライオンのいとしくも変わらぬ目つき。人を好きになることの始まりの始まりは、いつもこうです。
◇小学校低学年向き/『木の実のけんか』/岩城範枝=文/片山健=絵/福音館書店1300円/2008・3
このお話、狂言の菓争(このみあらそい)が題材。もともと菓子は果物のこと。柑橘類一門と果実一門の山桜の園での大喧嘩。鳥瞰目線で描かれる光景にわくわくです。武門対公家になぞらえたいくさも、最後の静寂と巨木の桜の姿は、さすが伝統の系譜の醍醐味。

タイからお礼のメール/広辞苑旧版寄贈に対して/北海道組合

北海道書店商業組合は4月15日午後1時から札幌市の組合事務所で定例理事会を開催した。
理事会前に、永年にわたり理事および広報委員長として功績のあった故・松山雄洋氏(3月9日逝去)に黙祷を捧げた。このあと久住理事長が日書連2月理事会について報告し、引き続き議案審議を行った。
広辞苑第6版の発売で不要になった旧版の処分に困っているという読者の声を受けて、北海道組合は広辞苑の旧版を集め、日本語を勉強している外国人に寄贈する活動を行っている。岩田理事は広辞苑旧版の回収状況を報告し、寄贈先のタイの大学から届いたお礼のメールと写真を紹介。内容は以下の通り。「先週、広辞苑と立派なカレンダーが届きました。こういうことは今までなかったから、箱を開けた時、教師も学生も涙が出るほど喜びました。学生のみんなに使われるように、大学の図書館にも日本語学科の図書室にも置いておきました。正式なお礼の手紙はのち大学から発行させていただきます。さて、みんなの笑顔の写真も添付しました。今後も宜しくお願いいたします」
第32回通常総会については、6月24日(火)に札幌ガーデンパレスで開催されると報告があった。今回の総会は役員改選の年度にあたる。組合加盟店が減少している中、健全な組合活動のためにも組合加盟のメリットを強く打ち出す方策を緊急に講じる必要があり、来年度最大の目標とすることになった。
(事務局・阿知良由紀美)

『出版界に生きる―書協・新入社員研修会より』/日書連副会長・谷口正明

出版社の新入社員を対象にした、書協の「2008年度新入社員研修会」が4月9日・10日の両日開催され、9日に日本出版会館で行なわれた講義で、日書連・谷口正明副会長(名古屋市・正文館書店会長)が「出版界に生きる」をテーマに講演した。この内容を抄録する。ここにいる皆さんの中に、「私が入りたかったのはこの企業じゃない」「もっと大きい会社に入りたかった」と思っている人がいるかもしれない。もしいたら、大企業=一流企業という発想がないかを考えてほしい。「大」はこの場合は量を表し、「流」は質を表す。量と質がイコールで結ばれるわけがない。でもこういうことに意外ととらわれている。皆さんが今ここにいるということは、他の選択肢を全て捨てたということ。そして今日ここで過ごす時間は二度と戻ってこない。その結果は全て自分に返ってくる。どうか今の一瞬を大事にしてほしい。
浦和にある須原屋は大変な老舗で、全国で唯一寮制度を持っている書店だ。私は大学を出てまず、そこで修行させていただいた。これは、当時社長だった高野嗣男会長が、ドイツでマイスター制度を見て、日本の書店でも徒弟制度が必要だと痛感して導入されたものだ。2年間の研修生活を送り、仲間と朝から晩まで一緒だったので今でも結束が固い。最初に配属されたのが専門書売場だった。主任と私の2人で担当していたのだが、お客様のほうが詳しい分野なので、主任が不在のとき質問を受けると大変だった。不在の時間を長く感じたもので、当時の初心は今でも忘れられない。
今日の講義は「出版界に生きる」という大それたタイトルをつけた。しかしその前に「人として生きる」ということがある。それを一緒に考えてほしい。今日はここに何冊か本を持ってきたので、紹介しながら話を進めたい。
マナーについて、皆さんに覚えておいてほしいのは、「ながらは下品」という言葉だ。何かをしながらというのは、相手がいるとき真剣みに欠ける。例えば書店の店頭で、スリップを整理していてお客様に声をかけられたとき、スリップを見ながら応対するのでは失礼だ。
先日正文館書店でこういうことがあった。お客様がレジに本をもっていらして、そこで「お会計よろしいですか」と言ったら注意されたという。これは当たり前のことだ。お客様は会計をしに来ているのに、「お会計よろしいですか」の言葉で一旦せき止めてしまっている。素直に「ありがとうございます」と言えばいい。マニュアルに毒されないで、相手の求める方向を良く考えてほしい。
〔出版は文化に貢献する仕事〕
まず岸田秀の『ものぐさ精神分析』(中公文庫)を紹介する。この中で「人間は唯一本能が崩れてしまった動物」と言っている。本能とは、行動の規範であるという。仲間と殺しあう生き物は人間だけだ。我々は自身を万物の霊長というが、なぜ世界中で戦争を起こしているのだろうか。そう考えると本当に人間は優れた動物なのか。他の動物は本能のまま過ごしても、足りるということを知っている。我々は「進歩」というものに毒されているのではないか。そういうことを一度考えてもらいたい。
『事典哲学の木』(永井均ほか著、講談社)で「進歩」という項目を引いてみると、たかだか4百年ほど前、近代ヨーロッパで出てきた新参者の思想だということが分かる。今の世の中は物質的に豊かになっているが、心の面でどれだけ優れているか。昔の人に比べ、どちらが幸せかわからない。そういうことを見直す時期にきているのではないだろうか。
この日本で生きていくとき、どういうことが大切なのか。すぐには変えられないし、逆戻りはできないかもしれないが、こういったことを考えておくのと、そうでないのとでは、変わってくる。私が言っていることが正しいというのではなくて、自分で考えてみてほしい。これから皆さんが出版界でどう生きていくかの参考になればと思う。
「目的」と「目標」は、似たような言葉だが違う。目的とは「何のために」、目標は「どこまで」ということ。学生時代、自分が何のために生きているのかを考えたこともあったが、未だに答えは出ない。でも目標はある。一応私の目標は「皆が幸せになること」だと思っている。
孔子に「十有五にして学に志し、三十にして立ち、四十にして惑わず、五十にして天命を知り、六十にして耳順い、七十にして心の欲する所に従えども矩を踰えず」という有名な言葉がある。孔子は70年かけて自分をあるべき姿に引きあげた人だ。また、どこで読んだかは忘れたが、こういう言葉にも出会った。「35までの人生は自分の人生の問題と出会うとき。それ以降の人生は、その問題を解決するとき」。私は35歳あたりで社長になった。正文館に入り、こうしてはいかんという問題に出会って、それ以降の人生は解答を出しているときだなと思っている。皆さんも置かれている時期を大切にしてほしい。
山内昶の『経済人類学への招待』(ちくま新書)という本がある。この中で、GDPなどで豊かさを計るのは問題があり、自分が持っている時間で豊かさを測ったらどうかと提唱している。すると我々が先進と呼んでいる国は貧乏であって、未開・後進と呼んでいる国が実に豊かな時間を使っていることが分かる。我々は利益のために物を作っているが、それらの国の人は、自分たちが使う分だけ取って生活している。「吾唯足るを知る」という言葉があるが、足ることを知らない無限の欲望が今どういうことを引き起こしているか考えておいた方がいい。
ワンガリ・マータイさんの『もったいない』(マガジンハウス)は、21世紀の世界を救うキーワードだと思う。南米の民話を絵本にした『ハチドリのひとしずく』(光文社)は、いま自分ができることをやろうということを訴えている。私は、できるだけ2千回転を超えないアクセルの踏み方をして運転したり、携帯箸を持ち歩いたりしている。一つひとつは小さいことだが、それらが集まれば非常に大きなものになる。
いま全国の書店は図書館の貸出し冊数がぐんぐん増えて悩んでいる。資料的な本ならいいが、ベストセラーの回転率を上げ、次の年に読まれなくなれば廃棄処分にして税金の無駄遣いをしている。我々の中に、税金で自分の娯楽を楽しんじゃえ、タダならいいやという心がある。自分のこととして捉えることが大事だ。
『免疫の新常識』(安保徹著、永岡書店)では、万病の元はストレスだと指摘している。ガン治療では、手術、放射線、抗癌剤投与という3つの治療法がとられているが、これは全部免疫力を下げてしまう。一番問題なのは、原因に対してではなく、症状に対して手を打つ対症療法であるということだ。免疫というのは自己治癒力であり、ストレスを減らして免疫力を強めることでガンを治すことができる。私たちが会社でやることも対症療法がけっこう多い。なぜそうなったのか、原因に対して対策を立てなければいけない。
『逝きし世の面影』(渡辺京二著、平凡社ライブラリー)は、江戸末期から明治の初めに、日本に来た西洋人に日本人がどう映ったかを克明に記している。貧しくても明るく満足げに暮らしている日本人の姿が浮き彫りになってくる。何でも西欧がいいという観点から一度離れてみる必要があると思う。先ほどの「もったいない」というのは、無駄とか節約とは違い、恵みに対する感謝の念がある。そういうことを大事にしていきたい。
私は出版のことをプラスの職業と呼んでいる。職業の貴賎の問題ではなくて、マイナスの職業とは、警察、消防、医者、弁護士など、その人たちが忙しいと世の中が良くないという仕事だ。本がなくても誰も死なないが、あると素晴らしい。例えば、孔子、釈迦、ソクラテス、キリストという世界の四聖が遠い昔に残した言葉を、いま我々が日本語で読むことができるのは、すごいことだと思う。私たちはそういう仕事をしている。最初に一流企業と大企業の話をしたが、我々は量で計れない仕事をしているのだ。私は祖父が書店を始めてくれたことに本当に感謝している。文化に大いに貢献する仕事であり、大変だがやりがいがある。
〔目標を掲げ自らを高める〕
実務的なことについてお話しする。これから皆さんはいろいろ問題に出会うと思うが、問題とは一体何か。目標と現状があって、この間のギャップのことを問題という。目標を掲げない人は問題が見えていないということ。私たちの課題は、現状を目標まで引き上げることだ。これを問題解決という。ここにあるものは、向上心だ。よりよきもの、あるべき姿に戻ろうということが大事だ。
いま資本主義社会で効率、便利さの向上が叫ばれている。便利さはそんなに大切なものなのか、一度考えてみる必要がある。私にとって便利さの定義とは、途中を省くこと。途中を省いてはいけないジャンルもある。一番は教育で、教育は手を抜いてはいけない。便利さにかまけて大事なものを失っていいのか。最近、さわりで読む世界の名作などという類いの本が出ているが、さわりとは一番の核心だ。皆さんも、途中を省いてもいいような本は作らないでほしい。
次に仕事における「改善」についての話をする。改善の定義は、①やり方を変える、②小さな変化の積み重ね、③現実的制約との対応――の3つだ。人に「○○してくれ」と訴える「提案制度」とは違う。改善とは、言葉を変えて言えば、不平不満を自分に向けるということ。これは反省であり、自分自身を高めていくことにもなる。小さな変化を積み重ね、自分のことを変えていく。人のことだと考えている以上、人生のお客様だ。そこには幸せはやってこない。
改善は必ず否定を伴う。他人の仕事を引き継いで改善したら、前任者の仕事を一度否定することになる。悪い会社は、仕事を改善すると、ほかの誰かが文句を言う。「改善してくれてありがとう」という風土を皆で作っていかなければならない。それを支えるのはあいさつと掃除だ。あいさつは、ただ言葉を交わすだけではない。心を開くということだ。掃除は、恵みに対する感謝だ。改善というのは会社だけでなく自分の生活の中でもできるので、やってみてほしい。
最後は、現実的制約との対応だ。入社して、いきなり「コンピュータシステムの総入れ替えをしてくれ」などということを言い出したら先輩たちは面白くない。それは改善ではなく革新だ。まず自分のことから始め、小さな変化を積み重ねて、現実的制約へ対応するということを忘れないようにしてほしい。
技巧的なことを一つ紹介すると、野口悠紀雄さんの『「超」整理法』(中公新書)の中で、一番役に立っているのが押し出しファイリングシステムだ。角二封筒の右上にタイトルを書いて新聞や書類を放り込む。そして棚に並べ、使ったものは左に入れていく。すると使わないものはどんどん右へ行き、左のもののいくつかを使っている状態なのがわかる。個人がやる情報整理では非常に役に立つので取り入れてみてほしい。
最後に、出版界にいるということはどういうことかをお話しする。新潮社の写真週刊誌『FOCUS』が神戸児童殺傷事件の少年Aの写真を掲載した。その号が発売になったとき、私は通常通り売ることを決めた。この件について夕方までに新聞の取材を2件、テレビの取材を1件受けたが、名古屋で名前を名乗って新聞、テレビに出たのは私だけだった。
それを見た人たちから店にどんどん電話が来た。私は、メモで連絡先を残した方たちに全部電話した。お叱りから話し始める方がかなりあったが、最後には「考えは違うが、本屋がそういう意思を持っていることは評価する」と納得していただいた。皆さんがそれぞれ考えてほしいけれども、出版界にいるということは、そういったことに直面することでもある。これだけ文化的、思想的なことに関連した業界というのはあまりない。そういう覚悟もしてもらいたい。

出版統計、実態調査にみる日本の書店動向/日本出版学会で杏林大学客員教授・木下修氏が講演

日本の出版産業は1990年代半ばをピークに、売上高・売上部数とも長期的なマイナス成長に入り、高返品率が恒常的に続いている。書店業では店舗大型化・超大型化が進行し、中小零細書店が毎年約1000店閉鎖している。一方、オンライン書店の売上高は年々増加している。日本の書店が今後どう再編されていくのか、その新しい姿はまだ見えない。4月14日に行われた日本出版学会出版経営研究部会で「出版統計、実態調査にみる日本の書店動向――SWOT分析から書店の特質・問題点を指摘する」をテーマに講演した杏林大学客員教授・木下修氏は、日本の書店の特質、強みと弱み、問題点と課題について話した。
〔止まらない書店減少と大型化〕
書店の減少は止まることを知らない。商業統計によると、最新データである2007年の書籍・雑誌小売業は1万7349店ある。ただし商業統計の数字を見るときは注意が必要で、「書籍・雑誌小売業」は書店、洋書取次店、古本屋、楽譜小売業の4業態から成る。また、アルメディア調べによる数字では、07年の書店総数は1万7098店となっている。この中には売場を持たない本店および事務所が入っている。いずれも書店だけの独立した数字を示すものではなく、引き算をする必要がある。
新規参入者が多いマーケットは活性化している。書店業界の新規参入者はかなり少なく、退出者数は非常に多い。新規参入は200坪から1000坪クラス、すごいところだと2000坪というところもある。日本の主要都市には、いつの間にか500坪超、1000坪超の店舗がどんどん出来てしまった。90年代半ばまでは見られなかった現象が全国各地で起きている。本を買う人口がそんなにいるのだろうか。
東京商工リサーチ調査による、書店倒産の推移を見てみたい。90年18件、91年32件、92年33件、93年29件、94年29件、95年26件、96年24件、97年30件、98年30件、99年24件、00年48件、01年37件、02年40件、03年47件、04年32件、05年33件、06年46件、07年42件となっている。これはあくまでも負債総額1000万円以上の倒産で、それ以下の倒産は含まれていない。
〔再販と新刊委託は書店の強み〕
日本の書店業をSWOT分析(別掲※を参照)しよう。その会社の強み、弱み、状況、問題点を分析するのがSWOT分析。社長は弱みや問題点に対して無視しがちだが、きちんと受け止める必要がある。通常は個店を分析するものだが、今日は丸めて書店業界全体をSWOT分析し、その特質を強み、弱みという形で見てみたい。そうすることで、現在、日本の書店が置かれている立場、課題が見えてくるだろう。サバイバル戦略をたてるとき、SWOT分析は欠かすことができないものだ。
日書連が行った「全国小売書店経営実態調査」でマージンの問題、支払いサイトの問題が出てきた。また、ベストセラーの調達についても出てきたが、中小零細書店にくらべて大型店、優良店があまりにも優遇されている。商品調達力という言葉では説明できない歪み、偏り、差別がある。支払い率がいいかどうかだけではない問題がある。書店が請求に対して満額支払うのはビジネスとして当然すべきことだが、その場合、支払いサイトは現状のままでいいのか。ここをなんとかしなければ書店の弱みは克服できない。
日本の書店の強みとは何か。まず、新刊委託という形で新刊の配本を受け、1点1点注文しなくても自動的に商品を調達することができる。ただし配本ランクに入っていない書店には1冊も入って来ない。新刊委託された本は、大手書店でも中小零細書店でも、委託期間内であれぱ自由に返品できる。
書店業界は返品が多い。07年の部数返品率は42・6%。06年は41・1%。04年のみ39・2%で、97年以降、常に40%を超えているのが実態である。これは平均返品率で、新刊委託の返品率となると60%以上と推測できる。マーケットは活性化するが、返品率はとても高い。それが新刊委託というものである。しかしこれは不当返品ではなく、織り込み済みの返品だ。
一方、買い切り品、注文品の返品は無駄ではないか。過剰な流通の末に出てくる返品だ。決済とワンセットになっているから、返品しなければ翌月にその分を支払わなければならない。必然的にどんどん増えていくという妙にバブリーな状況が日本の出版流通の一端で起きている。
だが、このようなシステムがベストセラーを生む素地になっている面もある。マーケットのダイナミズムを取るか、それとも完全買い切りに近い形の注文買い切り制にするか、どちらがいいかは難しい問題だ。
書店の強みとしては、業界で言うところの再販制度もある。価格競争、値引き競争にさらされないということだ。中小零細店も大型店も再販の利益を受けている。アマゾンは再販制度がなくなることを前提に日本に上陸したが、彼らは本国で行っている激烈な値引き競争をしなくても済むという理由で、再販制度に対する考え方を見直した。ポイントなどさまざまなサービスをしてはいるが、基本的に一般書店と同じ形でやっている。
〔低マージン、短い支払サイト〕
次に書店の弱みについて話したい。まず、日本の書店には流通チャンネル戦略がないということだ。取次経由の商品調達率が極端に高い。書店は取次の帳合制度に組み込まれてしまっている。日頃つきあいがある出版社と直取引したくても、どんなペナルティがあるかわからないのでしない。流通チャンネル戦略からいうと、2つから4つのチャンネルを使い分けることが小売店として当然のこと。それをまったくしていないのが日本の書店だ。
次に、マーチャンダイジング戦略がないこと。見計らい配本あるいは出版社の指定配本という形で頻々と送られてくる。調達と言っているが、本来の意味での仕入れにはなっていない。見計らい配本は見本配本に近いから、適品・適量・適時とは言えないものが入っている。小売店、専門店にとって大切な仕入れ、マーチャンダイジングが疎かになっている。
マージン率が低いことも書店の弱みだ。このことは特段に主張しなければならない。また、日書連の「小売書店経営実態調査」でも問題となっていることだが、支払いサイトが短かすぎる。スーパーや百貨店が大型店を出店できるのは、回転差資金に対して銀行が貸し付けをしてくれることによる。が、出版産業の小売業においては回転差資金はまったく発生しない。日書連の調査結果から悲鳴が聞こえてくるようだ。
支払いの悪い書店に対して売れ筋が配本されず機会損失が発生している。これも書店の弱みだ。出版業界には調整という言葉がある。マーケットを調整するならいいのだが、送本を調整している。ベストセラーや売れ筋の送品、仕入れに関してもう少しうまくやる必要がある。
価格政策がないことも書店のウィークポイントだ。書店が扱っている書籍・雑誌は再販商品なので、所有権が移転しているにもかかわらず、値付けができない。小売店にとって大事な価格設定権を奪われてしまっていることは指摘しておかねばならない。
取次は帳合書店、系列書店に対してリテールサポートをしてきたが、90年代から矛盾が出てきている。同じ帳合の書店の近くに、同じ帳合の大型書店を平気で出すようになった。たとえば日販帳合書店に対してトーハン帳合書店が攻撃をかけても、同じ系列ではやらないというルールを持っているならば、書店も悲憤慷慨することはないだろう。だが、同じ帳合の大型書店に潰された書店はどういう気持ちだろうか。リテールサポートの内実はどうなっているのか。
業界では三位一体説が唱えられているが私的幻想に過ぎない。書店には商品調達、支払いなどいろいろな面でウィークポイントが多すぎる。だから、書店は魅力ある業種とみなされなくなってきている。50、60年代あたりは定年退職したあと書店をやりたいという人たちがいたが、現在そういう脱サラ組は取次も歓迎しない。また、書店経営者の老齢化、後継者不在も深刻な問題だ。
〔牧歌的経営は通用しない次代〕
Opportunities(機会)については、情報化などの機会に対して積極的にチャレンジできる書店とまったくできない書店など、日本全国で二重構造化が進んでいる。
最後にThreats(脅威)について。取次による書店に対する請求が厳しさを増している。そして、書店を選別している。支払い不良店に対しては新刊配本の停止、注文品に関しても出荷停止、最後は取引停止の順にやっている。銀行は貸し渋りに貸し剥がし。マーケットは縮小し、そこへ大手ナショナルチェーン、資産を持っているチェーンが、大型店・超大型店あるいはリニューアル大型店という形で出店して、パイを奪い合っている。マーケティング用語で言うカニバライゼーションの状態だ。カニバリズムは、人間が人間を襲って食べてしまうこと。書店同士が大手取次をバックにカニバリズムの状況を作り出している。
大型書店が参入したからといって、マーケット規模が大きくなり、売上高が増え、購買者数が増え、購買単価が増えることはない。共食い状況の下では、品揃えのいい書店、小さくシンプルにまとまった品揃えの書店、非常にサービスのいい書店などしか生き残ることはできない。
日本の書店の経営課題は①低粗利益率、②回転差資金なし(短い支払いサイト)、③低商品回転率、④適品・適量・適時ではない商品供給、⑤経営近代化の遅れ、⑥無駄な大型出店競争――である。書店経営者はもっと経営感覚を持たねばならない。牧歌的な書店経営の時代は70年代で終わっている。
※SWOT分析
企業の戦略分析やマーケティング計画で使われる主要な分析手法。組織の外的環境に潜む機会(O=Opportunities)、脅威(T=Threats)を検討、考慮した上で、組織が内的要因として持つ強み(S=Strengths)と弱み(W=Weakness)を確認、評価すること。
「強み」「弱み」には資源、顧客サービス、効率性、競争上の優位、インフラ、品質、経営管理、価格、コスト、「機会」「脅威」には政治、法令、市場トレンド、経済状況、株主、大衆、競合他社などの項目がある。

新しい本が楽しみな児童書のリスト作成/トーハン

トーハンは、4月23日から5月12日までの「こどもの読書週間」にあわせて「新しい本が楽しみ!児童書シリーズリスト」を作成。今年の公式標語「こんにちは、新しい本。」にちなみ、新しい本が待ち遠しい児童書44シリーズを集めた。
このリストは、書店おはなし会のサポートなどを行なっているトーハンの社会貢献委員会が選書し、こどもの読書週間期間中のおはなし会やイベントのためのサービスツール、読者向けのブックガイドとして作成したもの。「ぐりとぐら」「ペネロペおはなしえほん」など絵本27シリーズ、「かいけつゾロリ」「ハリー・ポッター」など読み物17シリーズを掲載、刊行から30年以上続いている息の長い作品から、比較的新しいシリーズまで幅広く網羅した。
リストには各シリーズの第1巻と最新刊の2点を掲載。書名・著者名・出版社などの書誌情報のほか、対象年齢やコメント、発行年月も記載する。なお、トーハンが運営するオンライン書店「e―hon」(http://www.e-hon.ne.jp)でも4月23日から掲載している。

読書活動優秀実践校を表彰/子ども読書推進フォーラム

「子ども読書の日」を記念する平成20年度「子どもの読書活動推進フォーラム」(文部科学省、国立青少年教育振興機構、文字・活字文化推進機構主催)が4月23日午後1時から、渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターで開催された。
初めに、主催者を代表して保坂武・文部科学大臣政務官が「本日表彰を受ける学校・図書館・団体の方が子どもの読書推進のために尽力いただいていることに心から敬意を表する。子どもの頃の読書は言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、想像力を豊かにする。人生をより深く生きるための力を身につける上で欠くことのできないものだ。今後も皆様のご協力をいただき、子どもたちが素晴らしい本と出会い、感動し、これからの人生が意義深くなることを期待する」とあいさつ。
文字・活字文化推進機構の肥田美代子理事長は「読書活動は言葉を獲得する最大の手段。言葉が豊かになれば考え方も豊かになり、人生を深く味わえるようになる。子どもの読書活動推進法と文字・活字文化振興法による政策の展開を民間からお手伝いするため、昨年推進機構を立ち上げた。皆さんとともに読書活動の振興を盛り上げていきたい。今日を新たなスタート台として、言葉の輝く国を作るために一緒に頑張りましょう」とあいさつした。
来賓あいさつで子どもの未来を考える議員連盟・河村建夫会長は「昨年から新学校図書館図書整備五カ年計画が策定され、毎年2百億円が図書整備費として地方交付税措置されている。子どものために各自治体でしっかり図書整備をしてもらいたい。吉田松陰の言葉に、〝万巻の書を読むにあらざるよりは、いずくんぞ千秋の人たるをえん〟とある。たくさんの本を読んで勉強しなければ、どうして立派な人になれようか、という意味で、まさにその通りだと思う。子ども読書の日を、日本人の国語力を高めるため全国民が思いを新たにする契機としたい。日本が世界から尊敬される国づくりを目指し、日本の文化を大事にしていきたい」と述べた。
このあと文部科学大臣表彰として、読書活動優秀実践校、子どもの読書活動優秀実践図書館、子どもの読書活動優秀実践団体を表彰した。
続いて、齋藤孝・明治大学文学部教授が「子どもの読書力をきたえる」をテーマに講演した。齋藤教授は「感情と言葉は密接な関連があり、人間らしい感情は言葉によって形成される。言葉なしには微妙な感情を持つことも、他者の気持ちを理解することも難しい。言語が百しかないのと、1万語あるのとでは、同じものを見ても全く違うように見える。感情の豊かさは、本を読み、言葉を知ることで支えられている」と指摘。
また、言葉は世界の認識とともに、自分自身への認識力にも係わっているとして、「自分の感情がどのようになっているかを認識し、感情をコントロールすることが重要だが、現在の子どもは言葉の種類が少なく、自己抑制力が低くなっている。書き言葉は話し言葉より圧倒的に多いので、書き言葉の語彙を多く持つことで、自己を客観視してとらえる能力が高まる。今は主観的に自分が好きか嫌いかで価値観を作っており、話し言葉だけではそこにとどまってしまう。本を読まないということは、日本語の膨大な感情の蓄積、認識力の蓄積をほとんど使わないことになる。まず子どもに本を読ませることからはじめないといけない」と述べ、読書の習慣を身に付けさせることの重要性を訴えた。
最後に、文部科学大臣表彰を受けた茨城県東海村立照沼小学校、京都府綾部市立綾部小学校、島根県東出雲町立東出雲中学校、静岡県立磐田西高校、埼玉県・川口市立中央図書館、鳥取県・大山町立図書館、千葉県・おはなしがらがらどん、岐阜県・実践童話の会が実践事例を報告。子どもの読書意欲を高めるさまざまな取り組みや、図書館と地域が連携した読書推進活動、おはなし会の精力的な活動展開などの実践事例が報告された。

書店経営幹部の育成セミナーを開催

日販は、6月に「出版流通学院第19期書店経営管理者セミナー」を開講する。
このセミナーは、次代を担う経営幹部育成の一助として1990年に開設。今年2月に第18期生56名を送り出し、修了者は総勢664名に達している。
部門計画、リーダーシップ、経営計数など体系化したカリキュラムを、9カ月間にわたり全7回、延べ21日間で学習する。
〔開催要領〕
▽受講対象=経営幹部、後継者、店長
▽受講期間=2008年6月から2009年2月までの9カ月間、全7回(8月と12月は休講)1回3日間
▽受講料=1人当たり全7回32万円(日本出版共済会より加入口数50口につき1名5万円補助)
▽定員=60名(A・B日程各30名)
▽受講申込=所定の受講申込書記入の上、日販各支店または経営相談室まで
▽申込締切=5月9日(定員になり次第締切)

本屋のうちそと

当店から車で少し行った所の田圃を潰して「オーナー募集」の看板を掲げ、セブンイレブンの新規店の工事が昨年末から始まった。2月頃には完成したのだが、「オーナー募集」の看板はそのままで、オープンはしていない。
セブン&アイの鈴木会長は年明けの経済紙のインタビューで「コンビニはまだ今の倍は出店できる」と発言していた。このオープンしない新規店もその数の内に入っているのだろうか。2月期連結決算減益のセブンイレブンは今期、不採算店600店を閉店するという。
同じく減益のイオンは規模拡大路線を修正し、今後3年間で総合スーパー100店を閉店又は業態転換するという。潰されるのは交通の不便な全国各地の田圃の真ん中に出来た新しいショッピングモールではなくて、旧型のジャスコやマイカル、ダイエーだろう。新しいショッピングモールに客を取られ、旧態のジャスコ等に止む無くも縋り付きながらもなんとかやってきた全国各地の商店街もこれで又幾つも滅びるだろう。
しかし私は「イオンが壊した日本の『地方』、郊外巨大ショッピングセンター展開の罪」などとは書けない。丁度一年前、イオンにより「日本の地方の崩壊が加速するのは間違いない」との記事を載せた会員制の月刊誌『選択』はイオンから名誉棄損で訴えられ5500万円の損害賠償を求められた。この国には大手流通小売業に対しての批判の言論の自由は無い。だからここで止めよう。「燕来ぬ寂しき軒のいえすたでぃ」
(海人)