全国書店新聞
             

平成28年3月15日号

日書連近畿ブロック会講演会/「雑誌作りの原点に戻る」マガジンハウス・石﨑孟社長

日書連近畿ブロック会(面屋龍延会長)は2月2日、大阪市北区の大阪駅前第3ビルで講演会を開き、滋賀、大阪、京都、奈良、和歌山、兵庫各組合の書店や取次など合計68名が出席。マガジンハウスの石﨑孟社長(いしざき・つとむ、日本雑誌協会理事長)、ミネルヴァ書房の杉田啓三社長(日本書籍出版協会常任理事)が講演した。このうち、今回はマガジンハウスの石﨑社長の講演の概要を紹介する。石﨑社長は同社の雑誌刊行の歴史を振り返りながら、「雑誌作りの原点に戻らねばならない」と強調。出版不況打破への意気込みを語った。
〔雑誌文化リードしてきた自負〕
マガジンハウス(創立当時は凡人社、その後平凡出版)は昨年10月に創立70周年を迎えた。総合誌や経済誌を除き、戦後文化をリードした雑誌のほとんどはマガジンハウスが先鞭をつけたと言って間違いない。時代の切れ目に雑誌を創刊して文化を創ってきた。
昨年12月末で社長に就いて丸13年になるが、現在、雑誌の世界は大変厳しい状況が続いており、苦労しているところだ。ある取次の社長が新年のあいさつで「出版不況ではない。雑誌不況だ」と明言した。雑誌については大手出版社も青息吐息で、右肩下がりが20年も続いている。マイナス要因を挙げてもきりがない。どんな業種でも問題を抱えているのだから、出版社だけが泣き言を言ってもしょうがない。アイデアと努力と決断、施策の実行、そして正義感をもって乗り越えていくしかない。
ただ、現在の雑誌不況は、作り手側の怠慢にも原因があるのではないかと思っている。雑誌が良かった時代から進歩していない。「こういう作り方をすれば、このくらい売れる」「こういうタイトルをつければ、こういう反響がある」――長年雑誌作りをしていると、知らない間にそうした感覚が身体に染み込んでしまう。そこから脱却しないとますます部数を落としていくのではないかと危機感を持っている。
30~40年間続いた雑誌絶頂期の感覚に酔い浸って、当時と同じ作り方をしたままこの15年が過ぎてしまったのではないか。それでは駄目だ。読者が書店店頭で表紙を見た瞬間に「ええっ、なんだこれは」と思う。ページをめくったら「おおっ」と感嘆詞が出るぐらい、驚きのある誌面作りをしなければならない。戦後の雑誌勃興期の作り方の基本に戻るべきではないかとの思いを持っている。
現在マガジンハウスは、男性向けは「ターザン」「ブルータス」、女性向けは「アンアン」「ハナコ」、その他に「ポパイ」「クロワッサン」「ギンザ」「カーサ・ブルータス」「アンドプレミアム」「クウネル」といった雑誌を発行している。単行本も年間100~200冊、ムックも年間200冊ぐらい出している。
マガジンハウスは終戦直後の1945年10月10日、一面焦土と化した東京・築地で創立した。日本が文化的にも経済的にも徹底的に打ちのめされ何もない時代に、創業者の岩堀喜之助は「これからは若者の時代だ。若者に夢と娯楽を届けたい」との思いから出版社を始めた。
〔「読者に喜ばれる」第一に/戦後初の100万部雑誌『平凡』〕
マガジンハウスという会社は、スタート地点から出版業界では異端の存在だった。創業の年に創刊した『平凡』は、それまでどの出版社も手をつけなかった芸能というジャンルの先鞭をつけ、『平凡』の成功後、他の出版社も芸能路線を突き進むようになった。
『平凡』は歌と映画の娯楽芸能誌として創刊し、瞬く間に100万部雑誌に成長した。厚い歌本やタレントの大型ポスターなどを付録に付け、売れに売れた。
今から数年前に付録を付けることが各出版社で流行したが、マガジンハウスは戦後しばらくの頃に付録路線で成功した。読者が喜ぶ雑誌作りという原点に戻ることの重要性は付録についても言える。『平凡』は美空ひばりさん、石原裕次郎さん、中村錦之助さんといったスターとともに大きく成長していった。
戦後100万部を突破した雑誌は『平凡』が初めてだ。今の100万部と昔の100万部では意味合いが違う。今でこそ取材、印刷、運送、紙の手配、広告とすべて整っているが、当時、取次への配本は、北は北海道から南は九州まで10日間かけて貨車での配本だから、それで100万部を突破したのは大変なことだったと思う。
『平凡』創刊から14年後の1959年、日本初の芸能週刊誌『週刊平凡』が創刊された。この年は、皇太子殿下(今上天皇)と美智子様の御成婚で日本中が沸き返っていた。女性週刊誌揺籃の時代と言っていい。
『週刊平凡』もすぐに100万部を突破した。この雑誌の特徴は表紙に登場するタレントの異種交配。異なる分野の有名人を組ませて表紙にすることは今では当たり前のことだが、そうでなかった時代に、NHKアナウンサー高橋圭三さんと女優団令子さんの2人で表紙を作った。木滑良久が東京中を探し回って当時は珍しかった赤いオープンカーを借りて、スタジオで2人の写真を撮った。
『週刊平凡』創刊から5年後の1964年、日本初の若い男性向け週刊誌『平凡パンチ』が創刊された。多摩美術大学の学生だった大橋歩さんがクレパスで描いた絵を持ってきて、創刊編集長の清水達夫が表紙に使った。
この年も東京オリンピック開催というエポックメーキングな年だった。日本という国が音をたてて変わっていった時代だ。東京では首都高速道路が出来た。新幹線も開通した。羽田空港から浜松町までのモノレールも開通した。
東京オリンピックを機に、それまでマイナーだった広告関係の仕事が一躍脚光を浴びた。陸上短距離のスタートの瞬間をアップで撮った写真が東京オリンピック公式ポスターに使われるなどして、広告に注目が集まるようになった。
社会の外面的な変化だけでなく、男の子のおしゃれに対する意識も変化し始めた。当時、中学生、高校生、大学生の男の子は「男のくせに鏡の前で髪の毛をいじってるんじゃない。そんなことをするぐらいなら勉強しろ」と親から言われていた。そんな時代に、親がやってはいけないということすべてをけしかけたのが『平凡パンチ』だった。
若い男の子の女性観も変えた。書店で女性のヌードグラビアが載った雑誌を堂々と買えるようになるきっかけを作ったのが『平凡パンチ』だ。それまで「百万人の夜」とか「夫婦生活」とか淫靡なイメージだった女性のヌード写真を、スタジオで予算をかけて美しく撮影し、外人のモデル、日本人のモデルやタレントをカラーページで紹介した。カメラマンという職業も脚光を浴び始めた。今や大御所の篠山紀信さん、立木義浩さん、荒木経惟さんなども『平凡パンチ』でデビューしたと聞いている。
イラストレーターという言葉を初めて使ったのも『平凡パンチ』だ。それまでは挿絵画家と言われていた。
『平凡パンチ』創刊から6年後の1970年に『アンアン』が創刊された。この年も、大阪万博が開催されるという、日本にとって大きな意味を持つ年だった。昭和30年代後半からの高度成長期とともにマガジンハウスもまた成長した。
〔若者のライフスタイル変えた『平凡パンチ』と『アンアン』〕
『平凡パンチ』が若い男性の消費文化を変えたとしたら、『アンアン』は若い女性の消費文化を後押しした、日本初の雑誌だった。
今でこそ普通になったあの大判サイズの雑誌は日本にはなかった。印刷機もなかった。それを当時の編集長が印刷会社にかけあって、実現させた。
『アンアン』というタイトルも衝撃を与えた。当時は『服装』『装苑』『主婦の友』『主婦と生活』『婦人生活』といった漢字のタイトルが主流で、そこに突然『アンアン』というタイトルの雑誌が出てきたから世の中はびっくりした。その後に『ノンノ』『キャンキャン』『ヴィヴィ』『ジェイジェイ』というタイトルの雑誌が出たことを考えると、『アンアン』が時代を変えた雑誌ということが分かると思う。
スタイリストという言葉を初めて使ったのも『アンアン』だ。
当時、世の中の女性に対する視線は、男性に対する視線よりずっと厳しいものがあった。女性の消費に対する考え方は男性に比べてずっと遅れたものだった。女の子の旅など考えられなかった時代で、女性同士だと旅館も泊めてくれなかった。女性同士で国内旅行や海外旅行に行こうと言い出したのは『アンアン』『ノンノ』の時代からだ。
その後、1976年に『ポパイ』が創刊された。当時のアメリカ西海岸ブームを作ったのは『ポパイ』。それまで航空会社の太平洋路線は人気路線ではなかったが、突然ドル箱路線に転換した。若者の利用者が急増したので日本航空が原因を探った。すると『ポパイ』の記事に行き着いて、とても驚いたらしい。マツダのファミリアが発売されたときグリーン色ばかり売れたのも、『ポパイ』が「グリーン色がかわいい」という記事を載せたからだ。それぐらい『ポパイ』には勢いがあった。
1977年に創刊された『クロワッサン』は、最初は『アンアン』の卒業生をターゲットにしていた。「ニューファミリー」という言葉が生まれた頃で、『アンアン』『ノンノ』というオシャレな雑誌を読む女の子が結婚して子供を産んで、ファッションなどあらゆることにお金を使うオシャレな世代になっていくだろうという考えで、『クロワッサン』を創刊した。
これが駄目だった。結婚して子供を産んで、オシャレをしたいけれども、お金がない。ニューファミリー路線など絵に描いた餅で、全然うまくいかなかった。それで当時の『アンアン』の編集長がこの層には読者がいないと判断して、180度路線転換した。月刊誌から月2回刊に変え、誌面から何から全部変え、「クロワッサン症候群」という言葉も生まれて、今の隆盛につながっている。
『ポパイ』創刊4年後の1980年に、『ブルータス』が『ポパイ』の兄貴分として創刊された。そして、1983年に「平凡出版」から「マガジンハウス」に社名変更した。
『オリーブ』は1982年に創刊され、2003年に休刊になった。『週刊文春』女性版の『週刊文春ウーマン』が元日に発売されたが、井崎彩編集長が編集後記で「この雑誌は『オリーブ』を読んでいた方たちに読んでほしい」と書いていた。彼女とは仲がいいので聞いてみると、「本当なんです。『オリーブ』に憧れ放題、憧れきって文春に行ってしまったものですから」と言われて驚いた。昨年は『ギンザ』の別冊付録として『オリーブ』特別号を出した。30年以上前に出た雑誌が、今もこういう形で残っているのは、すごいことだと思う。
1986年に創刊された『ターザン』は、総合週刊誌を除くと男性誌の中でトップクラス。いまだに大きな影響力を持っている。創刊当時、体を鍛える文化というものはまだなかった。20年間赤字だったが、豊かになれば体を鍛えることは絶対に商品になると考えて続けた結果、現在まあまあのところまで来た。
1988年に創刊した『ハナコ』、1997年に創刊した『ギンザ』も非常に元気だ。2000年に『ブルータス』増刊からスタートした『カーサ・ブルータス』も、独り立ちして頑張っている。
〔『クウネル』リニューアルで50台女性向けゾーンを確立〕
マガジンハウスは50代女性向けゾーンで確立している雑誌がなかった。2014年に創刊した『アンドプレミアム』は、最初は『クロワッサン』の上の世代に向けて『クロワッサンプレミアム』という形で出した。ところが3年やったけれども全然駄目だった。そこで当時『ブルータス』の編集長をやっていた男に「女性誌だけど、タイトルもサイズも読者ゾーンも何をどう変えてもいいから」とやらせたら、タイトルを『アンドプレミアム』、読者ゾーンも50代女性向けから30代女性向けに変えて、今なかなかいい数字になってきている。
2003年に創刊した『クウネル』は最初は好調で愛読者も多かったが、部数はだんだんジリ貧になっていった。そこで、今年1月20日発売の3月号から大幅リニューアルを実施。50代からの大人の女性のライフスタイル誌に変えると、部数が上向いた。編集長は、映画評論家の淀川長治先生の姪で、『アンアン』全盛期に編集長を務めた淀川美代子。「セックスできれいになる」の企画を手掛けるなど、大変勢いのある編集長だった。その彼女が「50代向けの雑誌ならやってもいい」と言った。
最初50代向けの雑誌を目指して創った『クロワッサンプレミアム』が、誌面を刷新して30代向けの『アンドプレミアム』にしたら、売れ始めた。そして、「ストーリーのあるモノと暮らし」をコンセプトにしたライフスタイル誌として始まった『クウネル』が、50代向けと銘打った途端に売れてしまう。46年間、出版社人生、雑誌人生を送ってきたが、雑誌は何が売れるか、どうやったら売れるか、今もって分からない。
間違いなく言えるのは、マガジンハウスの雑誌は後に続く雑誌文化をリードしてきたこと。『平凡』が出た後に芸能月刊誌、『週刊平凡』が出た後に芸能週刊誌がたくさん出た。『平凡パンチ』が出た後に、男の雑誌がたくさん出た。いま隆盛を極めている男の雑誌を辿ると、すべて『平凡パンチ』に行き着く。車、音楽、お酒、ヌードなど、元を辿るとすべてパンチだ。当時日本テレビで放送されていた大人向け情報番組「11PM」のプロデューサーも「パンチをテレビで映像化したらどうなるか」と相談に来た。
『アンアン』はサイズ、タイトル、誌面構成まで後の女性誌に大きな影響力を持った。『アンアン』が出るまでの女性誌には洋服の型紙が付いていた。それを「そんな時代じゃない。既製服の時代だ」と主張して、既製服に脚光を当てたのが『アンアン』だった。女性がセックスのことを堂々と話せるようになったのも、『アンアン』が先鞭をつけたから。女性のライフスタイルの変化をリードしたのは間違いない事実だ。
われわれ作り手側は雑誌作りの基本に戻って、終戦直後の苦労して作られた付録しかり、企画しかり、どんなことをやったら読者が書店に買いに来てくれるのか、店頭で「わあっ」と声をあげてくれるのか、よく考えて雑誌を作らなければならない。本日、近畿ブロック会の書店の皆様の前で講演させていただき、雑誌作りの基本に戻るという思いを新たにした。

書店くじ立替金振り込みました

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日書連のうごき

2月2日NHK出版春の企画説明会に舩坂会長が出席。
2月4日JPO運営幹事会に事務局が出席。雑誌買切制度小委員会に藤原副会長が出席。
2月5日JPO出版情報登録センター管理委員会に事務局が出席。
2月8日JPIC読書アドバイザー養成講座修了式に舩坂会長が出席。
2月9日読書推進運動協議会常務理事会に舩坂会長が出席。
2月10日全国中央会決算実務講習会に事務局が出席。JPO運営委員会に柴﨑副会長が出席。
2月17日各常設委員会・部会を開催。
2月18日2月定例理事会を開催。出版物小売公取協臨時総会、理事会を開催。
2月22日JPO雑誌コード管理委員会に柴﨑副会長が出席。東京国際ブックフェア開催発表会に事務局が出席。
2月23日読書推進運動協議会理事会に舩坂会長、西村副会長が出席。
2月24日文化産業信用組合理事会に舩坂会長が出席。
2月25日ためほんくん管理委員会に事務局が出席。
2月29日公取委再販ヒアリングに本間副会長が出席。

JPIC読書アドバイザー/第23期受講生百名が修了

出版文化産業振興財団(JPIC)が主催する第23期読書アドバイザー養成講座の修了式が、2月8日に東京・新宿区の日本出版クラブ会館で行われた。
冒頭であいさつしたJPICの肥田美代子理事長は、「受講生の皆さんは年齢は21歳から70歳まで、地域は北海道から九州まで、職業も様々だが、本や読書と結びついていることは共通している。読書は言語力を養うための最大の手段。これを次の世代に伝えていくことが私たちの大きな使命だ。本離れ、活字離れと言われるが、マイナス思考はやめ前を向いていこう。皆さんの大きな力をこれから発揮してほしい」と今後の活躍に期待を寄せた。
来賓として祝辞を述べた日書連・舩坂良雄会長は「講座が始まった時は、知り合いもいない中、緊張されたことと思うが、今は皆さん隣の方と和気あいあい話をされている。この講座を通じて、志を同じくする素晴らしい友達ができたのではないか」と修了生を祝福。雑誌売上の落ち込みや消費税軽減税率運動など、書店業界を取り巻く様々な問題について説明して、「講座で仲間と話し合ったことを読書推進に役立てていただきたい」と結んだ。
この後、第23期修了生百名を代表して、最年長で参加した永井敬子さん、成績最優秀者の新田久美さん、原田早苗さんが修了証書を受け取り、受講の感想や今後の抱負を語った。

トーハンセミナーハウスが完成/出版界の人材育成の場に

トーハンは、宿泊設備を有する研修施設「トーハンセミナーハウス」を東京・飯田橋に完成させた(写真)。全国書店共助会との共同事業で建設を進めていたもので、出版業界の人材育成の拠点として積極的な運用を図っていく。
セミナーハウスは、JRと地下鉄4路線が利用可能な飯田橋駅から徒歩5分の好立地。鉄筋コンクリート造地上5階建てで、1階と2階に13名から95名まで利用可能な3つのセミナールームを設けている。泊まり込み研修には、3階から5階にバス・トイレを備えた宿泊室を用意し、30名までの宿泊が可能。館内はWi―Fi環境を完備し、宿泊時は5階のキッチン付き談話室が利用できる。施設にはスタッフが常駐、研修利用時のケータリング手配や、宿泊利用時の朝食・夕食等にも対応する。
予約は希望日の半年前から受け付け、セミナールームの貸出時間は月~金曜の9時~12時、13時~17時、18時~21時で、その他の時間の利用は応相談。全国書店共助会会員やトーハンセミナーハウス会員は割引価格で利用できる制度を設ける。施設はトーハンの社内研修でも利用するほか、一般にも貸し出す。
報道関係者を対象に2月22日に行った内覧会で、川上浩明専務は「出版業界の『梁山泊』となるよう、会議やセミナー、宿泊付きの研修などで皆様にオープンに使っていただきたい」と述べた。
問合わせはトーハンセミナーハウス(東京都新宿区新小川町1―6)℡03―6228―1620まで。

受賞の三氏が喜び語る/第154回芥川賞・直木賞贈呈式

第154回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の贈呈式が2月25日、都内のホテルで開かれ、芥川賞の滝口悠生氏(受賞作『死んでいない者』文學界12月号)、本谷有希子氏(同『異類婚姻譚』群像11月号)、直木賞の青山文平氏(同『つまをめとらば』文藝春秋刊)に正賞の懐中時計と賞金の目録が贈られた。
受賞者あいさつで、滝口氏は「この作品は、葬式に親戚が大勢集まるという話だが、書いていてどんなに人が増えても、その場にはいない人のことを考えてしまう。いない人を思い出し、考えたりすることが、自分が小説を書く理由なのかなと思った。今日は呼べるだけ親戚を呼べる機会になってうれしい」と語った。
本谷氏は「小説とは魂の叫びを入れなければいけないと、自分の中で模索しながら8年近く書いていた。小説なんて大したものじゃないと考え、小説と戯れるように書いたら、この賞をいただくことができた。自分の書き方を自分なりに考え、こつこつ続けてみて、本当に良かったと思っている」と話した。
青山氏は「男は、何かをして自分の存在証明をしようとする不安定な『点』。女は、何もしなくても生きられる安定した『実線』だ。だが、女は安定で男は不安定という単純なものではない。点と線の相関について、この物語で様々な人間模様を描こうと思った」と述べた。
日本文学振興会の松井清人理事長は、「読書離れが言われる一方、先行きの見えない時代に本当に豊かな人生とはなんだろうと考えている人も着実に増えている。そういう人たちに文学の面白さをどうアピールしていくべきか、いま次の選考会に向けてプロジェクトを企画している。素晴らしい文学を多くの読者に届け、その人生を豊かなものにしたいという想いで取り組んでいく」と話した。

読書ノート・帯コンの現状を説明/大阪理事会

大阪府書店商業組合(面屋龍延理事長)は2月13日に大阪市の大阪組合会議室で定例理事会を開催した。
委員会報告では、読書推進委員会から、大阪読書推進会の会長人事について新会長を3月25日に正式決定すると報告。大阪市版「帯コン」展示会を、7月22日から8月3日まで大阪市立中央図書館1階エントランスで開催すると説明があった。また、読書ノートと帯コンの現状と協賛社の依頼について説明が行われた。
レディース委員会では、2月3日にレディースランチを開催し、大変好評だったと報告した。
情報化・図書館委員会からは、近畿ブロック情報化図書館委員会を6月に開催すると説明があった。
(石尾義彦事務局長)

佐賀県の伊万里市民図書館などを訪問/大分組合青年部

大分県書店商業組合青年部は昨年12月15日、佐賀県を訪問し、伊万里市民図書館を視察した後、武雄市の北方小学校、北方中学校の公開授業を見学した。青年部の樋口、渕、金光、大隈の4氏に加え、晃星堂書店の大野店長が参加した。
午前は伊万里市民図書館を視察した。同5月に豊後高田市立図書館を視察した際、渕青年部員が栗屋館長から勧められたもの。まず古瀬義孝館長が図書館の概要と今後の展望について「運営は市役所で職員は嘱託も含めると現在18名。書店との共存共栄が大事だ。出版社、取次、隣接商店街とのつながりを持てば市民が集まる面白い企画も可能」と実例や構想を話し、書店5名と懇談した。このあと、芸術書コーナー、児童書コーナー、読み聞かせや紙芝居をするホール、150名が座れるミニシアターなど館内見学を行った。
2時間ほどの視察だったが、参加者全員、伊万里市民図書館の在り方に感嘆した。図書館と書店との関係を考える検討材料になったのはもちろん、本を中心に置いた地域市民、地域文化の豊かな土壌作りを学ぶことができた。「図書館と書店は競合するのではなく共存するものでなくてはならない」という館長の言葉がすべてを言い表している。我々も地域で図書館との連携を図り、地域文化を支える一端を担う活動ができればと考えた。
午後は武雄市の北方小学校、北方中学校での公開授業見学。佐賀県ICT利活用教育フェスタ「新たな学び公開授業」の一環として行われたもの。佐賀組合の堤理事長の紹介を受け、大隈部員が佐賀県教育委員会、武雄市教育委員会、学校と連絡を取り、実施した企画。教育関係者をはじめ、県外からの見学者も多数訪れていた。
ICT利活用教育の進捗がトップの県の公開授業を見学して、「紙の教科書から代わってしまうことはまだまだないのではないか」というのが参加者5名の総意だった。
(大隈智昭広報委員)

読者向けイベントに衣替え/9月23日~25日に開催/東京国際BF

第23回東京国際ブックフェアの開催発表会が2月22日、東京・港区の第一ホテル東京で開かれた。今年は9月23日(金)~25日(日)の3日間、東京・有明の東京ビッグサイトで、読書推進や読者謝恩に特化したイベントとして開催される。
主催は東京国際ブックフェア実行委員会とリードエグジビションジャパン。同実行委員会は日本書籍出版協会、日本雑誌協会、日本出版取次協会、日本書店商業組合連合会、出版文化国際交流会、読書推進運動協議会、日本洋書協会で構成。会期3日間で4万人の来場を見込む。
発表会で、同実行委員会の相賀昌宏委員長(書協理事長、小学館社長)は「本に関わっている者にとって共通の敵は、本から人が離れ、読まれなくなること。このブックフェアを、本により親しむ環境づくりに役立てたい。ブックフェアの魅力はやはりブース。読者に何か心に残るものを持ち帰ってもらうために、各出版社が展示の仕方を工夫してほしい」とあいさつ。
リードエグジビションジャパンの石積忠夫社長は、「実行委員会からの要請を受け、ブックフェアを読者向けに特化することに賛同した。開催を7月上旬から読書の秋9月へ、土日の入った会期にし、出版業界を挙げた完全読者向けイベントに変わる。1社でも多く出展していただきたい」と述べた。
展示会は、一般ゾーン、人文・社会科学書フェア、自然科学書フェア、児童書フェア、ワールドブック&カルチャーフェア、電子書籍ゾーン、読書グッズゾーンと、今回新設する「こどもの学びフェア」の8つで構成。同時開催イベントは、読書推進のための大規模講演として、林真理子氏や茂木健一郎氏の講演を開催することが決定しており、この他、「出版ってどんな仕事?」セミナー、読み聞かせやサイン会などの「こどもひろば」、こども向け体験イベント、ワークショップ、学校単位でのブックフェア見学ツアーなどを行う。また、書店新風会の協力により、地方でしか配本されない出版物を展示販売する「郷土出版パビリオン(仮題)」を開催。「本の学校出版産業シンポジウムin東京」などの各種シンポジウムも行われる。

小泉今日子新刊を575冊受注/紀伊國屋書店の買切施策で/東京組合

東京都書店商業組合(舩坂良雄理事長)は3月3日、東京・千代田区の書店会館で定例理事会を開催した。
組織委員会からは、5つのエリア会議がそれぞれ開かれ、提出された報告書の内容を基に、エリア長の意見交換会を4~5月頃に開催したいと説明があった。
事業・読書推進委員会では、2月24日に開かれた増売システム検討小委員会について報告。出版社から紹介された商品を増売する方式だけでなく、組合から積極的に増売対象商品を提案して出版社へ働きかけること、「東京組合が取り上げたものは確実に売れる」というイメージを植え付けられる商品を中心に検討すること――の2点を主眼に取り組むと説明があった。
また、紀伊國屋書店が買切施策商品として扱う、小泉今日子のエッセイ集『黄色いマンション黒い猫』(スイッチ・パブリッシング刊、4月15日発売予定)について、注文募集の案内を2月29日に組合員にFAX送信したと報告。3月9日締切で44店から合計575冊を受注した。

福岡・大石監事が組合功労者として表彰/福岡県中央会から

福岡県中小企業団体中央会の創立60周年記念式典が2月19日、福岡市博多区のホテル日航福岡で開催され、福岡県書店商業組合の大石宏典監事(大石金光堂)が組合功労者として同中央会会長より表彰された。(加来晋也広報委員)

77期は減収減益の決算/デジタル、版権が大幅増/講談社

講談社は2月24日、東京・文京区の本社で第77期定期株主総会と取締役会を開催。終了後、報道関係者に決算概況並びに役員人事を発表した。
第77期決算(平成26年12月1日~27年11月30日)は売上高が1168億1500万円(前年比1・9%減)。内訳は雑誌678億2000万円(同5・8%減)、書籍175億6700万円(同17・7%減)、広告収入48億1100万円(同13・6%減)、事業収入218億5400万円(同34・8%増)、その他16億900万円(同90・6%増)、不動産収入31億5100万円(同1・5%増)。この中で雑誌の内訳は、雑誌167億6600万円(同0・8%増)、コミック510億5400万円(同7・8%減)。広告収入の内訳は、雑誌47億2900万円(同14・5%減)、その他8200万円(同127・1%増)。
出版事業に関する売上高は、デジタル、版権分野を中心に事業収入が前年を大幅に上回ったが、製品売上、広告収入が落ち込み、前年比2・0%減の1136億円。不動産賃貸収入を含む全社売上高は同1・9%減の1168億円となった。原価面では、製品の直接製造費を削減したが発行部数減と売上率低下により原価率は前年並みに。また、在庫の抑制等により費用全体は前年を下回ったが、売上の減少を補うには至らなかった。この結果、税引前当期純利益は34億6200万円(同10・6%減)、当期純利益は14億5400万円(同47・2%減)と減収減益の決算になった。今期は、売上高1173億円(前年比0・5%増)、税引前利益は約67億円を計画している。
会見で、野間省伸社長は「減収減益となったが、厳しい市場環境の中で一定の成果を上げられた。昨年4月に大規模な機構改編を行い、新体制になってから局長レベルの情報共有が格段に進んでいる。また、各局内でのシナジー効果も順次現れている。だが、新しい組織に実効性を持たせる施策は、まだ道半ばだ。今回役員体制を変更しなかったのは、改革をさらに推し進めて確実なものとするためだ」と述べた。
〔役員人事〕○重任
代表取締役社長
野間省伸
専務取締役〔担当局=広報室〕○森武文
同〔担当局=社長室、総務局〕○山根隆
常務取締役〔担当局=第六事業局〕○清水保雅
同〔担当局=第二事業局〕
○鈴木哲
取締役〔担当局=編集総務局、経理局〕金丸徳雄
同〔担当局=販売局〕
○峰岸延也
同〔担当局=ライツ・メディアビジネス局、デジタル・国際ビジネス局〕
古川公平
同〔担当局=第一事業局、第五事業局〕○渡瀬昌彦
同〔担当局=第三事業局、第四事業局〕○森田浩章
同(非常勤)○重村博文
同(非常勤)入江祥雄
同(非常勤)大竹深夫
常任監査役白石光行
監査役○足立直樹

人事

★河出書房新社
2月23日開催の定時株主総会後の取締役会で、左記の役員業務分担を行った。
代表取締役社長
小野寺優
常務取締役(営業・製作・総務担当)岡垣重男
取締役(営業担当)
伊藤美代治
同(編集担当)阿部晴政
同(営業・製作担当)
山口茂樹
同(総務担当)金綱美紀夫
監査役(非常勤)
野村智夫

新会長に片桐栄子氏/全国で初の女性会長に/東海日販会

東海日販会は2月16日、名古屋市中区の名古屋東急ホテルで第60回総会を開き、会員書店、出版社、日販関係者合わせて402名が出席。規約を改正して「世話人会」から「役員会」に名称変更し、新会長に片桐栄子氏(磨里書房)を選出した。同氏は全国の日販会で初の女性会長となる。
冒頭あいさつした宮川源世話人代表(鎌倉文庫)は「昨年、今年と中堅取次が破綻し、出版業界を見る目はますます厳しくなっていく。不況な業種だが、不要な業種ではない。出版物に誇りをもって売っていきたい」と述べた。
議事では、①「世話人会」から「役員会」への名称変更、②会計年度・総会開催日の変更、③出版社世話人制度の廃止――を主な内容とする規約改正案を承認可決した。これにより、世話人代表1名、副代表3名以内、会計2名、会計監査2名だった体制を会長1名、副会長若干名、幹事若干名、会計1名、会計監査2名に改めた。
役員改選では、新会長に片桐氏を選んだほか、新副会長に林茂夫(松清本店)、水野賢一(白沢書店)の両氏を選出した。世話人代表を退いた宮川氏は相談役に就任した。
就任あいさつで片桐会長は「女性初の日販会会長として新しい風を入れたい。来年4月に消費税10%が控えているが、出版物に軽減税率が適用されるかどうかが大きなポイント。激動の時代に出版業界が生き残るためには、小手先ではない根底から覆すような改革が必要。今、出版業界は正念場に立たされている。新しい仕組みを考えていかなければ」と訴えた。
来賓を代表して日販の平林彰社長は、中期経営計画「Breakthrough」のプレゼンを行い、書籍情報サイト「ほんのひきだし」を開設したこと、店頭端末用アプリ「attaplus!」の機能を拡充したこと、文禄堂荻窪店・高円寺店でリノベーションを行ったことを説明した。
なお、総会前に「第5回東海ブックフェス2016」を開催。商談の中で書店員が売りたくなった本を投票する「東海ブックフェス大賞2016」に『おやすみ、ロジャー魔法のぐっすり絵本(カール=ヨハン・エリーン、飛鳥新社)、普段は新刊の陰に隠れてスポットライトが当たりにくいロングセラー商品の中から投票する「掘り起し大賞」には『この闇と光』(服部まゆみ、KADOKAWA)が選ばれた。

吉川英作専務が副社長に/常務に酒井取締役/日販新役員体制

日販は2月19日、2016年度(第69期)の役員体制について、4月1日付の役職変更、昇任並びに業務分担変更、6月28日付の新任・退任を同時に発表した。
4月1日付では、吉川英作専務取締役が取締役副社長、酒井和彦取締役が常務取締役に昇任。6月28日の株主総会で正式決定する役員体制案では、西堀新二、北林誉両氏を取締役に新任。古屋文明会長、加藤哲朗専務取締役、髙田誠、大久保元博、宮路敬久各取締役、兼子信之常勤監査役が退任し、古屋会長は相談役に、宮路取締役は常勤監査役に就任する。
組織改訂では、経営戦略室にコーポレート統括グループを新設し、グループ各社の意思決定支援やグループ全体のガバナンス強化を担当するとともに、人事制度設計、人材育成や人材交流の活性化に取り組む。また、管理部とビジネスサポート事業部を新設し、人事部・総務部・経理部・取引部の4部の機能を統合再編して2部体制とする。
6月28日付の役員体制は以下を予定している。○新任。
〔日販新役員体制〕
代表取締役社長
平林彰
取締役副社長(営業全般総括、商品開発部担当)
吉川英作
専務取締役(マーケティング本部長、物流部門総括、取協担当)安西浩和
常務取締役(ネット営業部、図書館営業部担当)
大河内充
同(特販支社、東部支社担当)髙瀬伸英
同(首都圏支社長、CVS部担当)清地泰宏
同(経営戦略室長、秘書室長、システム部担当)
酒井和彦
取締役(MPD代表取締役社長)奥村景二
同(関西支社長)
竹山隆也
同(中四国・九州支社長)
横山淳
同(特販支社長、特販第一部長)逸見剛
同(管理部長、ビジネスサポート事業部担当)
○西堀新二
同(物流部門担当、流通計画室長)○北林誉
同(カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役社長兼CEO)増田宗昭
同(講談社代表取締役社長)野間省伸
常勤監査役久保朗
同○宮路敬久
監査役(森・濱田松本法律事務所弁護士)相原亮介
同(税理士法人髙野総合会計事務所シニアパートナー公認会計士税理士)
真鍋朝彦
相談役(小学館代表取締役社長)相賀昌宏
同(紀伊國屋書店代表取締役会長兼社長)高井昌史
同(有隣堂代表取締役社長)松信裕
同(三省堂書店代表取締役社長)亀井忠雄
同(出版協同流通代表取締役会長、日販物流サービス代表取締役会長)
○古屋文明