全国書店新聞
             

令和5年8月15日号

日書連、BooksPRO研修会を開催/販売に役立つ機能や活用法学ぶ

日書連は5月25日、日本出版インフラセンター(JPO)が運営する出版情報登録センター(JPRO)の書店向けポータルサイト「BooksPRO」の研修会を開催した。指導教育委員会(鈴木喜重委員長)が企画して実施したもの。JPROの書誌情報登録点数は360万点を超え、BooksPROは販促情報の検索機能が新設されるなど、書店現場で役立つ機能の拡充が図られている。研修会ではJPOから講師を招き、サイトへの登録の仕方から、閲覧できる情報の内容、便利な機能や効果的な活用法を学んだ。研修会は、初めにJPOの渡辺政信専務理事があいさつ。渡辺氏は「JPOは2015年からJPROの運用を開始し、出版社から近刊情報を集めて取次、書店に届けることを始めた。BooksPROは20年3月、出版社からの情報を書店が見やすい形で提供しようと、書店の現場で使えるポータルサイトとしてオープンした。残念ながら当時は新型コロナの感染拡大が始まった時期で、書店の皆様に広報と促進を図る機会がなかなかなかった。日書連で研修会を開催する機会をいただき、感謝申し上げる。BooksPROでどういうことができるのか、ぜひ使っていただいて改善点等についてご意見をいただき、さらに良いサイトにしていきたい」と述べた。
続いて、JPROの米津ますみセンター長が、BooksPROの概要について「JPROは、2015年の立ち上げ当初は、データをファイルとして受信して閲覧するという形しかなかった。もっと手軽にJPROのデータを見られないかという書店の皆様からの要望が、BooksPRO立ち上げのきっかけになっている。その際に行ったアンケートで、書店からは『情報の伝達が遅くお客様への対応に遅れが出る』『正確な発売日が不明だ』『お店の規模やエリアによって情報の格差が大きい』という意見が多く寄せられた。そうした書店の声に応えるために誕生したのがBooksPROだ。全国どこでも同じタイミングで同じ情報を見ることができ、情報格差がなく、豊富で正確な情報を利用できる」と説明。続いて、実際のサイトを示しながら、新規登録方法や、閲覧できる情報の内容、便利な機能と活用法について解説した。
〔近刊・既刊の知りたい情報が閲覧可能・販促情報も充実、検索機能を追加〕
新規にユーザー登録を行うには、まずBooksPRO(https://bookspro.jp)にアクセス。ログイン画面にある、「ユーザー新規登録(初回ログイン)」をクリックする。利用規約を確認後、ユーザー登録画面が表示されるので、ユーザー種類、ID(共有書店コード)、書店名、取次会社、取次書店コード、Eメール、パスワードを入力する。共有書店コードが不明の場合は、書店マスタ管理センターのサイト(https://www.jpoksmaster.jp/default.aspx)から検索できる。登録完了後、届いた確認メールに記載されたリンクをクリックして登録が完了。以降は、ログイン画面にID、パスワードを入力し、ログインボタンをクリックするとログインできる。
BooksPROのトップ画面には、上から「ジャンル検索」、「検索ボックス」、そして「近刊カレンダー」が表示される。中ほどに「販促情報ヘッドライン」、下の方には、「JPOからのお知らせ」、「本体・発売日の変更、発刊中止など」という連絡事項が載っている。
検索方法のポイントは、①ジャンル検索、②フリーワード検索、③発売予定日、④近刊カレンダーの4つ。これらを自由に組み合わせて利用することで検索結果の絞り込みができる。
①ジャンル検索は、トップページに初期設定として載っているのが「大ジャンル」で、例えばその中の「趣味・実用」を押すと、その下に「中ジャンル」が、「スポーツ」「趣味・娯楽」「料理」「出産・育児」……とジャンルに沿った形で表示される。クリックしたジャンルは、近刊カレンダーと販促情報にも連動するので、必要に応じた絞り込みが可能になっている。
②フリーワード検索は、「検索ボックス」に任意のキーワードを入力すると、タイトル、著者名、内容紹介などあらゆる項目から該当するものを全て検索結果として表示する。複数のワードでも検索でき、大ジャンルまでのジャンル指定や、発売(予定)日の期間指定もできる。
BooksPROは発売予定月で検索可能になっており、③発売予定日は、検索ボックスにある「発売(予定)日○○年○月~○○年○月」の欄に入力すると検索結果が表示される。これもジャンル別に検索することが可能。
BooksPROの目玉機能の1つが、ログインするとトップ画面に④近刊カレンダーが表示されること。カレンダーは当月のものが表示され、日付を指定すると、その日の発売点数が表示される。6ヵ月先の発売まで見ることができるほか、発売済みの前月も遡って見ることができる。「ジャンル選択」をした場合は、該当するジャンルの点数のみが表示され、大ジャンル、中ジャンルでの絞り込みが可能。昨年からは「小ジャンル」を採用し、出版社の登録を促進しており、さらにジャンル検索機能の強化を図っていく。
BooksPROで公開しているコンテンツの主な構成は、書籍、雑誌、ためし読み、販促情報の4つ。書籍は、タイトルをクリックすると、著者名、版型、定価、発売予定日など主要な書誌情報のほか、内容紹介、目次、著者略歴、類書など豊富な情報を掲載している。雑誌は、内容紹介、目次、特集などの情報を掲載。出版社が登録した画像で付録の内容も確認できる。「ためし読み」ができるものはボタンが表示され、目次や中身を少し読めるようになっている。
BooksPROは、書誌情報と並んで販促情報を書店に届けることを主眼としている。販促情報ヘッドラインでは、①受賞情報、②メディアで紹介、③書評情報、④新聞広告、⑤メディア化情報、⑥重版情報、⑦旬のオススメ、⑧拡材いろいろ、⑨その他――の9つの販促タイプに分けて表示する。昨年、販促情報の検索機能を追加し、地域や書店の実情に合わせた情報を検索しやすくなった。
「受賞情報」は、有名な賞だけでなく、様々なジャンルや地域の賞の情報が記載されていることも。「メディアで紹介」はテレビ・ラジオだけでなくSNSなどで話題の情報も掲載する。「書評情報」には様々な媒体での書評や紹介記事をアップ。「新聞広告」は全国紙だけでなく作品や著者に縁のある地方紙の掲載情報も確認できる。「メディア化情報」は、映画化・アニメ化・ドラマ化を始め、ゲームとのコラボやグッズ販売、イベントなどの情報も。「旬のオススメ」は、既刊・近刊に関わらず、話題の事件や人物などに絡めて出版社が推したい本の情報を掲載。「拡材いろいろ」では、POPやポスターなどのデータがダウンロードできる。
BooksPROは、「s―book」「Webまるこ」「WebHotLine」「Bookインタラクティブ」「一冊!取引所」の各注文サイトと連携し、取り扱いのある商品はバナーが表示され、当該サイトを通じて注文することができる。
また、トーハンの「enCONTACT」、日本出版販売の「NOCS7」でBooksPROの情報の利用を推進、連携の強化が図られている。
さらに、BooksPROはスマホ版が用意されており、来客の問い合わせや店頭作業でも手軽に閲覧することができる。
〔23年度は雑誌書誌情報の充実に力点〕
渡辺専務はBooksPROの今後について、「今年度は雑誌情報に力を入れる。日本雑誌協会(雑協)の雑誌POSセンターから取得している雑誌の基本情報の表示がベースになっているが、そこに出版社が詳細情報を追加登録するという部分がまだ少し足りない。雑協、日本出版取次協会とJPOとで、出版社がBooksPROを通じて事前にしっかり情報を書店にお届けできる体制づくりに取り組む」と述べた。
最後に質疑応答を行い、JPO出版情報管理部の田代信光部長が、指導教育委員会で委員に事前アンケートして寄せられた要望や質問について回答した。
このなかで、「予約注文できるとよい」「検索からの発注、事前予約ができるとありがたい」という要望には、出版社系注文サイトと連携しているので活用してほしいと回答があった。「類書情報はどういう基準で関連付けられているか。関連性の薄いものもあるように見受けられる」との指摘には、表示のアルゴリズムを見直す予定と説明。また、「データが大量のため、出版社ごとでも検索できればと思う」との要望には、出版社で絞り込みができる機能を今年度追加すると述べた。
このほか、会場からの意見で、「必要な本をピックアップしていくと、書名やISBN、出版社、価格といった基本情報の載ったリストを作成してくれてダウンロードできる機能があれば見積もりなどを作るときに便利」との要望があった。

柳田邦男氏と酒井邦嘉氏の対談公開

活字の学びを考える懇談会が主催した、ノンフィクション作家・柳田邦男氏と東京大学教授・酒井邦嘉氏の特別対談「生成AIに対する『危機管理』とは―教育現場での活用の是非―」が、文字・活字文化推進機構のYouTubeチャンネルで公開されている(https://youtu.be/pI-tyNy9QIM)。視聴無料。
生成AIについて言語脳科学の観点から、教育分野での利用、科学技術や社会のあり方を議論している。

「本だなプロジェクト」規模を拡大して実施/JPIC

出版文化産業振興財団(JPIC)は6月23日、子ども食堂や無料塾に本と本棚を寄贈し、おはなし会開催のサポートをする「本だなプロジェクト」のオンライン説明会を開催、参加出版社を募集した。
全国の30施設に各30タイトルの贈呈を予定し、10月~24年3月に実施する。参加出版社は寄贈する書籍を選び、その本の定価(税込)と手数料500円を合計した金額を施設の件数分、参加費として納金する。JPICは寄贈本リストを作成し、贈呈先の施設を募集・選定。各施設は地域の書店を指定し、書店は寄贈本リストに掲載された本を取次に注文して施設に届ける。購入費用は、参加出版社が納金した参加費でまかなう。参加出版社は社会貢献をしながら、参加料が売上として一部戻る仕組み。施設では、JPICが送った本棚を子どもがいつでも本を取り出せる場所に設置し、おはなし会を定期的に開催する。
説明会で松木修一専務理事は、「このプロジェクトは昨年10施設に本と本棚を寄贈し、大変好評をいただいた。昨年は出版社から提供された本を施設に贈ったが、今年度は取次、書店にも関わっていただけるモデルに変更した。今回の事業は、SARTRAS(授業目的公衆送信補償金等管理協会)の助成金を使い、施設の方が読み聞かせの基本などを学べる動画をJPICで作成して提供する」と述べた。

ABSC管理委員会を設立/中西、山下両氏が理事に/JPO総会

日本出版インフラセンター(JPO=相賀昌宏代表理事)は6月28日、東京・千代田区の出版クラブビルで2023年度定時総会を開催。22年度活動報告、決算・監査報告、23年度活動計画、予算の全ての議案を原案通り承認した。
22年度活動報告では、出版情報登録センター(JPRO)の今年3月末時点の利用状況は、出版社2621社(前年同期比10%増)、基本書誌情報登録点数368万996点(同32%増。内訳は、紙の書籍314万4609点、紙の定期雑誌2万4896点、電子書籍50万7511点、オーディオブック3980点)、新刊(委託配本)比率は93・6%となった。書店・図書館向けポータルサイト「BooksPRO」の3月末時点の登録書店数は2676店、登録図書館数は196館。
JPROは、BooksPROに販売促進情報検索機能を追加し、書誌の絞り込みに使用する「JPROジャンル」を拡張。また、取次と電子取次の協力により紙と電子の既刊情報を拡充した。
23年度活動計画では、ABSC(アクセシブル・ブックス・サポートセンター)管理委員会が4月に設立され、アクセシブル・ブックコンテンツ保持団体との書誌情報連携、一般向け書誌情報サイト「Books」のアクセシブル・ブック情報の充実、ホームページ開設による情報提供、「ABSCレポート」の定期刊行による広報活動の実施などに取り組む。JPROは、雑誌の書誌情報の利用促進に向けた対応を行っていく。新出版ネットワーク(出版VAN)検討委員会は勉強会を4月に開催したほか、現状における運用課題の整理などを行う。
役員改選では、中西淳一(日本出版販売)、山下直久(KADOKAWA)両氏が理事に、村上和夫氏(オーム社)が監事に新任。安西浩和理事(日本出版販売)、松原眞樹理事(KADOKAWA)、下中直人監事(平凡社)は退任した。

「春夏秋冬本屋です」/「釣りと読書の共通点」/静岡・焼津谷島屋専務取締役・中野道太

弊社所在地である焼津は港街としても有名な場所だ。近くに海があることも影響し、自分の趣味は「釣り」だ。「釣り」を趣味としている自分は前々から「釣り」は「読書」と共通点が多いと感じている。
「釣り」をするためには釣りたい魚に合わせた準備が必要となる。海釣りと川釣りでは竿や仕掛けなど用意する道具も違うし、釣り方も変わる。
「読書」も小説、エッセイ、漫画、雑誌と各々に本の良さがあり、読書の楽しみ方にも違いがある。「読書」の醍醐味はなんといっても読んでいる本に「夢中になる瞬間」の心地よさだと自分は思う。ページをめくる手が止まらない瞬間、寝る間を惜しんで先を読みたくなる瞬間……時間を忘れるあの瞬間だ。それを自分は最高級に上質な「夢中になれる瞬間」だと思っている。
それと同じくらい上質な夢中になれる瞬間を、自分は「釣り」から得ている。竿を持ち、海に糸を垂らし、じっと穂先や糸の先を眺める。釣りによっては水中をイメージして竿に動きをつける。大漁であれば嬉しいけれど、釣れなくとも心地よい時間が流れる。
既に「釣り」と「読書」両方好きな方には共感していただけるだろうか。そして「読書」だけ好きな方は、機会があればぜひ「釣り」にも挑戦し、共感できるか確認してほしいと勝手ながら願う。

河出「世界探検全集」第一期を特別増売/来年1月に新年懇親会を開催/東京組合

東京都書店商業組合(矢幡秀治理事長)は7月4日、東京・千代田区の書店会館で定例理事会を開催した。
事業・増売委員会では河出書房新社の「世界探検全集」第一期(全8巻)完結セットについて特別増売企画として取り組むことを説明し、これを承認した。出荷条件は4ヵ月長期、8タイトル各1冊を配本する。また、6月理事会で特別増売企画とすることを承認した西日本出版社の『写真集関東大震災』『一高生が見た関東大震災現代語訳大震の日』は、8月10日発売で2タイトル各2冊を配本すると説明があった。
厚生・倫理委員会では、令和6年新年懇親会を来年1月16日(火)に文京区の東京ドームホテルで開催することを諮り、承認された。新年懇親会の開催は4年ぶり。また総務・財務委員会では、10月28日~29日開催の第31回神保町ブックフェスティバル(同実行委員会主催)の後援名義使用申請を承認した。

大人の塗り絵コンテスト募集開始/河出書房新社

河出書房新社は第18回「大人の塗り絵コンテスト」の作品募集を9月1日より開始する。応募期間は12月1日まで(必着)。読売新聞社共催、サクラクレパス、北越コーポレーション、ユーキャン、BS11協賛、日書連協力。
このコンテストは、河出書房新社刊行・監修「大人の塗り絵」シリーズ収録の塗り絵から好きな絵柄を選び、好きな画材で塗って応募する。参加無料。入賞者には受賞作品の額装、塗り絵画材、受賞作品をプリントしたオリジナルバッグ、入選者には入選作品をプリントしたオリジナルエコバッグを贈る。
結果は2024年2月上旬、読売新聞紙上、公式ホームページで発表。入賞・入選作品は24年2月17日~25日に東京都千代田区のよみうりギャラリー、24年3月16日~24日に兵庫県西宮市の西宮市立北口ギャラリーで開催される「大人の塗り絵コンテスト展覧会」で展示する。
審査員は山田五郎氏(評論家)、清水靖子氏(サクラアートミュージアム主任学芸員)他。
なお、昨年は6857作品の応募があった。
【作品送付先】大人の塗り絵クラブ事務局〒302-0199茨城県守谷市本町701-2守谷郵便局私書箱13号
【問い合わせ】大人の塗り絵クラブ事務局℡03(3560)8399(10時~17時土日祝日除く)

芥川賞・市川沙央さん「ハンチバック」/直木賞・垣根涼介さん「極楽征夷大将軍」、永井紗耶子さん「木挽町のあだ討ち」

第169回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が7月19日、東京・築地の料亭「新喜楽」で行われ、芥川賞は市川沙央さん(43)の「ハンチバック」(文學界5月号)、直木賞は垣根涼介さん(57)の「極楽征夷大将軍」(文藝春秋)と永井紗耶子さん(46)の「木挽町のあだ討ち」(新潮社)が受賞した。副賞は各100万円。
同日夜、都内会場で記者会見が開かれ、3氏が受賞の喜びを語った。
芥川賞の市川さんは早大人間科学部通信教育課程卒。難病の先天性ミオパチーにより普段から人工呼吸器と電動車椅子を使う。受賞作は文學界新人賞を受賞したデビュー作で、著者と同じ重度障害者の女性が主人公。芥川賞は初候補での戴冠となった。
市川さんは「広く訴えたいことがあって、去年の夏に初めて書いた純文学が『ハンチバック』。芥川賞の会見に導いていただいたことは非常にうれしく、我に天祐ありと感じている」と喜んだ。
「当事者性」「当事者文学」と評されることについては、「その表現を使うのはOKと言っている。これまで当事者の作家がいなかったことを問題視してこの小説を書いた。重度障害者で初めての芥川賞受賞と紹介されるだろうが、どうして2023年にもなって初めてなのか、皆さんに考えてもらいたい」と述べた。
芥川賞の平野啓一郎選考委員は「健常者中心主義的な考えの中で『自分を認めてほしい』というのではなく、本人が抱える問題を通じて社会的な通念や常識を批評的に解体しながら、自分の存在を描いた稀有な作品」と評価した。
直木賞の垣根さんは長崎県諫早市生まれ。筑波大卒。2000年「午前三時のルースター」でサントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞しデビューした。直木賞は3回目の候補で受賞。受賞作は室町幕府の初代将軍・足利尊氏の人生を描く歴史長編。やる気も使命感も執着もない尊氏が天下を取ることができた謎に迫る。
垣根さんは「10年前から歴史小説を書き始めた。この10年で5回くらい文学賞の候補に挙がっているが、すべて受賞に至らなかった。今こうして壇上にいることができて、ほっとしている。一生懸命に汗をかきながら書くのは当たり前。読者は笑って読んでくれればいい。面白おかしく読んでもらい、読み終わった後に何か残る小説を書こうと努力している」と喜びを語った。
〔地元・島田市の書店の応援に感謝/永井さん〕
同じく直木賞の永井紗耶子さんは静岡県島田市生まれ。慶大文学部卒。2010年「絡繰り心中」で小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。20年の「商う狼」で新田次郎文学賞を受賞した。直木賞は2回目の候補だった。受賞作は山本周五郎賞も受けている。雪の夜の江戸の芝居小屋を舞台に、父を殺された若衆のあだ討ちの秘められた真相を描いた時代小説。
永井さんは「吉報を受けてから、嬉しいというのと、怖いというのと、なんだこれというのが極まってきた。『恐悦至極』はこういう感じかと思う。多くの読者、書店の方から応援していただいた作品なので、ここまでたどりつけて良かった」と喜んだ。受賞作については「歴史時代小説は難しいのではないかと敬遠されることもあったが、誰でも手に取ってもらえるように書いた。読みやすさには自信がある」と述べた。
地元・島田市のファンへメッセージを求められると、「デビュー当時から応援していただいている書店の方たちがたくさんいる。そんなに仕入れて大丈夫なの?と思うぐらい仕入れてくれたり、手作りのPOPを作ってくださったり、これまで暖かく見守ってくれたことに感謝している」と話した。
直木賞の浅田次郎選考委員は「今回はどちらも時代小説だったが、垣根さんは愚直なほど真面目な長編、永井さんはとても技巧的な読み応えのある作品と、好対照な2作品」と評した。

本の日読書感想文コンクール/県下小中学生対象に作品募集/岐阜県教販

岐阜県教販(木野村匡社長)は、県下の小中学生を対象に「本の日読書感想文コンクール」を開催する。県教育委員会、日書連、岐阜県書店商業組合が後援。応募期間は9月1日~9月30日。入選者には賞状と図書カードを贈呈する。
このコンクールは、読書の感動を文章に表現することで豊かな人間性や自主性、考える力を育むことを目的に実施。また、スクールイーライブラリー(小中高校向け電子書籍の定額制読書サービス)などデジタルコンテンツによる新しい読書体験を通して、そのコンテンツの中から感想文を書いてもらう。今回で3回目。
対象図書は、図書館図書(学校図書館・公共図書館の蔵書)およびスクールイーライブラリーのコンテンツ。図書館図書、スクールイーライブラリーそれぞれに1人1編ずつ応募できる。公正な審査の元、最終的に元文科省審議官・寺脇研氏が選定。最優秀賞各15名に賞状と図書カード5000円分、優秀賞各15名に賞状と図書カード3000円分、入賞各50名に図書カード1000円分を贈る。審査結果の発表は「本の日」の11月1日に同社ホームページに掲載する。

5月期販売額は7・7%減/書籍・雑誌とも返品率増加続く/出版科研調べ

出版科学研究所調べの5月期の書籍雑誌推定販売金額(本体価格)は前年同月比7・7%減となった。内訳は、書籍が同10・0%減、雑誌が同4・9%減。雑誌の内訳は、月刊誌が同6・1%減、週刊誌が同0・7%増。書籍は、返品増のため前月に続き2桁のマイナスになった。雑誌は、月刊定期誌の推定発行金額は前年同月を上回り、コミックスもアニメ化された『【推しの子】』(集英社)が既刊含め全巻ランクインするなど絶好調だったが、前年同月の『SPY×FAMILY』(同)の売上げには及ばなかった。週刊誌の販売金額が前年を上回ったのは平均価格の上昇に因るところが大きい。
返品率は書籍が同2・0ポイント増の40・8%、雑誌が同0・5ポイント増の45・9%。雑誌の内訳は、月刊誌が同0・5ポイント増の46・3%、週刊誌が同1・1ポイント増の44・3%。今年に入ってから返品増の傾向が続いている。
書店店頭の売れ行きは、書籍が約5%減。凪良ゆう『汝、星のごとく』(講談社)などが引き続き好調で、文芸は約1%増。雑誌は定期誌が約4%減、ムックが約4%減、コミックスが約11%減。

九州選書市の開催準備進む/福岡理事会

福岡県書店商業組合(安永寛理事長)は6月23日、福岡市中央区の組合会議室で定例理事会を開催した。
はじめに森松正一副理事長が日書連6月理事会について報告。書店議連の提言を受けて政府の骨太の方針で「書籍を含む文字・活字文化の推進」などの文言が盛り込まれたことに言及し、書店支援の政策具体化が進む状況になったと期待を示した。
9月12日の開催に向けて準備が進む「九州選書市」については、白石隆之副理事長が進捗状況を説明。5月17日に取次を交えて行った打ち合わせで出展予定出版社を決定し、計157社に案内状を送付したことを報告した。また、前回は福岡県だけで173名の書店来場があったが、今回はそれ以上の来場を目指すとして、チェーン店や近隣書店、外商店などに来場促進を図る方針を示した。(加来晋也広報委員)

新理事長に48歳・佐藤大介氏/図書館問題への取り組みに意欲/福島組合総会

福島県書店商業組合は6月24日、郡山市の郡山商工会議所で第39回通常総会を開催し、組合員38名(委任状含む)が出席。新理事長に48歳の佐藤大介氏(須賀川市・郡山書店)を選出した。
コロナが5類になったとはいえまだ感染には注意が必要な状況との判断から、今年も来賓の招待と懇親会は行わず、感染防止対策を徹底して開催した。
冒頭あいさつした鈴木雅文理事長(昭和堂書店)は「書店経営はますます悪化しており、このままでは自信をもって後継に引き継ぎできない」として、日書連が取り組む書店再生運動や「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」(書店議連)への期待を表明。すべての叡智を結集して書店消滅の危機を救うことが急務と訴えた。
議案審議では事業報告、決算報告、事業計画案、収支予算案、役員報酬決定の件などすべての議案を原案通り承認した。
役員改選では、理事は全員再任したが、鈴木理事長は地元・白河商工会議所の副会頭に就任し、書店組合理事長職に専念できないとして、退任を希望。新理事長に全会一致で佐藤氏を選出した。
佐藤新理事長は、所信表明の中で賦課金の見直しに言及。また、図書館や学校の図書装備を無償ですることは値引きと明確に定義し、官公庁から市町村や学校に通達してほしいとの声を受け、この問題を喫緊の課題として日書連図書館委員会の髙島瑞雄委員長(福島・高島書房)と話し合いたいとした。
(大内一俊広報委員)

「古典新訳コレクション」河出文庫で10月から刊行開始/河出書房新社企画説明会

河出書房新社は7月12日、東京・千代田区の出版クラブビルで、今後刊行予定の書籍・雑誌などを紹介する企画説明会をオンライン併用で開催。河出文庫「古典新訳コレクション」や『サイエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ関連書籍などを紹介した。
冒頭、小野寺優社長は出版界の厳しい状況に触れ、「書店の来店客数、購入客数が下がっていることが気になっている。しかし、本当に人々が本に興味を失ってしまったのかといえば、やや違和感を覚える」と指摘。16号限定の季刊文芸誌「スピン」が創刊直後からSNSなどで話題となり、普段紙の本に親しんでいない人にも読まれて好調が続いていることや、4月に刊行した西加奈子さん初のノンフィクション『くもをさがす』が14刷21万部に達していることを報告し、「良いコンテンツをそれに相応しいものとして仕上げ、その魅力を潜在的な読者に直接発信し、情報を伝えることができれば、書店に足を運び、本を読もうという人はたくさんいる。今一度、自社が刊行するコンテンツを見つめ、それに相応しい作りや情報発信の方法を考え、多くの人が読みたいと思うきっかけを作りたい」と話した。
このあと新企画を各担当者が説明した。
河出文庫「古典新訳コレクション」は、「池澤夏樹=個人編集日本文学全集」から古典の新訳・新釈を選りすぐって文庫化するもの。現代を代表する作家たちが自らの言葉で訳し、名作をよみがえらせる。今年10月から刊行開始し、年内は毎月4点、来年から毎月2点刊行する。第1弾は『古事記』(池澤夏樹・訳)、『伊勢物語』(川上弘美・訳)、『源氏物語(1)』(角田光代・訳)、『平家物語(1)』(古川日出男・訳)の4点。本体価格は800~900円に設定、装丁も各巻ごとに斬新なデザインを採用し、若者を含め新しい読者の獲得をめざすという。全40巻前後、2025年に完結する予定。
続いて秋冬刊行予定の大型企画5点を紹介。『黒人の歴史30万年の物語』は人類の発祥から現在まで、アフリカ大陸から始まる黒人の歴史を総合的に扱った日本で唯一の本。図鑑ではなく歴史書で、読者対象は中学生から大人まで。7月下旬発売。「世界を知る新しい教科書」シリーズの第1弾『生物学大図鑑』は平易な文章で生物学の主要な分野を網羅し、最新で本格的な知識を学ぶことができる。10月上旬発売予定。『オペラ大図鑑』は総合芸術オペラの歴史を網羅した世界初の大型ヴィジュアルガイド。11月刊行予定。100年前の全国100都市詳細地図集『日本の都市100年地図』は、11月発売。『ピーナッツ大図鑑』に続くスヌーピーの豪華解説本第2弾『チャールズ・M・シュルツと「ピーナッツ」の世界』は、11月発売を予定している。
雑誌「文藝」発の23年下半期注目作品では、第169回芥川賞候補になった児玉雨子『##NAME##』と直木賞受賞作家の佐藤究『幽玄F』の発売、芥川賞受賞作で全世界80万部突破のベストセラーとなっている宇佐見りん『推し、燃ゆ』の文庫化などを紹介。彩瀬まる『森があふれる』、青山七恵『ひとり日和』、木村紅美『あなたに安全な人』、玉谷晶『ババヤガの夜』、安堂ホセ『ジャクソンひとり』の5作品の英語版発売が決まったことを報告した。
創刊5周年を迎え、これまで約70点を刊行した河出新書では、山極壽一『共感革命――社交する人類の進化と未来』を刊行する。また、創刊5周年記念「河出新書ベストオブベスト」フェアを今秋開催する。
秋の注目企画としては、佐野徹夜『透明になれなかった僕たちのために』、五十嵐貴久「交渉人シリーズ」、平戸萌『私が鳥のときは(仮)』、津原泰水『夢分けの船』の4作品をあげた。
ユヴァル・ノア・ハラリ関連書籍では、全世界2500万部の世界的ベストセラー『サピエンス全史文明の構造と人類の幸福(上・下)』を10月に文庫化する。予価各990円。また、同月に児童書シリーズ「人類の物語」の第2弾『人類の物語不平等な世界はこうして生まれた(仮題)』を発売する。

書店組合総会スケジュール

◇滋賀県書店商業組合「第40回通常総会」8月22日(火)午後3時、近江八幡市のグリーンホテルYes近江八幡で開催。
◇神奈川県書店商業組合「第46回通常総会」8月25日(金)午後2時、横浜市神奈川区のかながわ県民センターで開催。

日販GHD・CCC、FC事業と卸事業を統合/新共同事業会社10月設立

日販グループホールディングス(日販GHD)とカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は7月21日、両社の合弁会社MPDの社名を変更し、FC事業と卸事業を統合した新たな共同事業会社「カルチュア・エクスペリエンス株式会社」を10月1日より始動すると発表した。
新会社の代表取締役会長には日販GHD執行役員兼MPD代表取締役社長の長豊光氏、代表取締役社長にはCCC執行役員TSUTAYA事業管掌の鎌浦慎一郎氏が就く。
TSUTAYAは2017年より、レンタル事業から書店事業へ事業転換を図っており、今後は本を核とした文化(カルチュア)を生み出すライフスタイルコンテンツを、地域に根差したコミュニティで体験(エクスペリエンス)できる書店に進化する。
カルチュア・エクスペリエンスは、業界の中でも類を見ない流通販売の一体化により、顧客に喜んでもらえる品揃えや豊かな読書体験を提供し、収益構造の改革も進めながら、MPDの流通、TSUTAYAの顧客接点という両社の強みを活かした事業シナジーを創出する。店舗の価値と利益の最大化を図るため、「BOOK&CAFE」「SHARELOUNGE」「トレーディングカード対戦スペース」等の体験価値や空間価値の向上、店舗粗利の改善、FCサービス改革に取り組み、新しい店舗モデルを創造する。
これにより、書店としての核を強固にしながら、地域でTSUTAYA店舗を運営しているFC加盟企業の事業運営の向上を図り、より地域の人々に支持される店作りを行う。また、日本全国の地域で、「地域に交流を生む新しい時代の体験型書店」の店舗拡大に取り組む。

「本屋のあとがき」/「稲川淳二さんの怪談ライブ」/ときわ書房本店文芸書・文庫担当・宇田川拓也

自宅から「ちょっと長めの散歩」くらいの距離に、区営のホールがある。そこで、稲川淳二さんの怪談ライブ「MYSTERYNIGHTTOUR2023稲川淳二の怪談ナイト」が行なわれるというので足を運んだ。
稲川さんの怪談語りに初めて触れたのは、まだ昭和の時代、夏のテレビ番組だったように記憶している。当時、カセットテープで販売されていた、『秋の夜長のこわ~いお話』『木枯らし吹く夜のこわ~いお話』を買い求め、友人たちと聴いては震えあがったものである。
以来、テレビや映像商品で稲川怪談に親しんではきたものの、目の前にして味わうのはこれが初めて。会場は、ツアー用語でいうと「満員御霊!」状態。グッズ売り場には長蛇の列ができていた。
そして前口上と恐ろし気な曲が流れたのち、いざ怪宴(開演)。舞台に稲川さんが登場するや、万雷の拍手と「淳二!」という威勢のいい掛け声が。「ありがと~!」と笑顔で手を振りながら、まるで客席の一列一列に感謝を伝えるかのごとく丁寧に応えていく稲川さんの姿はとても温かで、つい怪談を聴きにきたことを忘れそうになってしまうほど。しかし腰を落ち着け、いよいよ語りが始まると、空気は一転。息を呑んで聴き入り、いつの間にか2時間が過ぎていた。語りだけで、ひとを2時間も夢中にさせてしまう。これぞ話芸である。恐れ入るしかない。
稲川さんの怪談ライブツアーは、なんと今年で31年目だという。長寿の理由が、よくわかった。