全国書店新聞
             

平成23年4月15日号

JPIC、取協、照林社は100万円寄付

出版文化産業振興財団(JPIC)は3月24日の定例理事会で、東日本大震災復興協力事業費用として1000万円を予算計上。このうち100万円を日書連の義援金に拠出することを決定し、4月4日付で寄付した。このほか日本出版取次協会(取協)は3月29日に100万円、照林社は3月31日に100万円を寄付した。

岩手組合、辞典売上の一部寄付/被災地の「学び」復興に

岩手県書店商業組合(玉山哲理事長)は、小学館、大修館書店、明治書院、三省堂、旺文社の協力を得て、東日本大震災被災地の児童生徒の学習環境整備を支援する「がんばろう岩手!まけるな岩手の子どもたち!!運動」を展開している。組合加盟書店の辞典売上の一部を寄付し、岩手県教育委員会を通じて被災地の「学び」の復興に役立ててもらう。
今回の運動は、内陸などの地域の子どもたちが辞典を買うと、その一部が沿岸で被害を受けた子どもたちの援助につながる。岩手組合では被災した書店もあるが、できるところから支援を開始した。
(小原玉義広報委員)

地震義援金に協力を

日書連は「東北地方太平洋沖地震被災書店義援金」の口座を開設しました。受付口座は、文化産業信用組合本店・普通預金・口座番号0189699・口座名義「日書連地震災害義援金口」。受付は6月30日まで。義援金は全額、被災書店支援に活用されるよう寄付します。組合加盟書店はじめ出版関係者皆様のご協力をお願いいたします。

書店業界にも節電協力の要請/深刻な電力不足で

震災後、経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課から日書連に対して、深刻な電力不足の説明と節電についての調査依頼があった。「今回の大地震の影響を受け、東京電力管内では、このまま推移すると夏の電力需要のピーク時に大規模停電を招きかねない。書店業界として節電が何%可能か至急調査してほしい」というもの。
これを受け、日書連の対策本部は4月2日、東京電力管内の書店組合理事長に対して、書店における節電量の調査に協力するよう求める文書を送付した。「店内照明を3割消す」「空調の設定温度を2度上げる」など具体的な項目ごとの削減計画、または節電協力可能な具体的数値を回答するよう求めている。
また、書店で考えられる節電の具体的な取り組みとして①夏期休業日の設定、②営業時間の短縮、③広告灯の消灯、④店内照明の削減、⑤トイレ・廊下等の照明削減、⑥空調温度の抑制、⑦エレベーターの運転削減、⑧残業→早出業務へのシフト――などがあるとして、出来る限り協力するよう呼び掛けた。

新潮社、被災書店復興へ500万円/日書連義援金に寄付

新潮社は3月29日、日書連の「東北地方太平洋沖地震被災書店義援金」に500万円を寄付した。同社は「今回の地震で被災された貴組合書店の皆さまにお見舞いを申し上げると共に、1日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。義援金が復興のための活動の一助ともなれば幸いです」とのメッセージを寄せている。

東日本大震災救援活動進む/まず岩手組合10書店に見舞金

東日本大震災で被災書店支援のため書店、各県書店組合、出版社、業界団体などから「日書連東北地方太平洋沖地震被災書店義援金」に寄せられたカンパは、4月8日時点で総額1632万2854円に達し、書店復興のため多くの浄財が集まった。日書連は4月6日、東日本大震災対策本部(大橋信夫本部長)の会合を開き、まず岩手組合の書店10店に一律5万円の見舞金を送ることを決めた。
4月8日までに集計の終わった義援金は日書連本部に79件・1632万2854円。日書連の東日本大震災対策本部は、まず岩手組合が実施した組合員被災状況調査に基づき被害状況が確定した書店10店に対し一律5万円の見舞金を送ることを決めた。
対策本部では岩手、宮城、福島など被災地域にある組合加入書店の被害状況の確認を急ぐとともに、被害状況が確定した書店には速やかに見舞金を送ることを申し合わせた。大橋本部長は「被災したすべての組合加入書店に、一刻も早く見舞金を届けたい。出版業界関係者の皆様には引き続き義援金への協力をお願いする」と述べた。

東日本大震災義援金

(3月18日~4月8日)
富山県書店商業組合、ツジモトショテン、フジショボウ、タニグチマサアキ、アオキミサエ、フクサキショボウ、イノウエサヤト、フジワラヒトシ、日本漢字能力検定協会、医歯薬出版、福岡県書店商業組合、ヒメジイノウエヨシユキ、京都府書店商業組合、朝倉書店、アカゼンショテン、ミヤコショテン、ベレ出版、ヒラオカショテンヒラオカケンジ、二玄社、金の星社、日本出版取次協会、長崎県書店商業組合、フジキセイスケ、ミドリヤムネヒロショテン、第三文明社、フォレスト出版、職員互助会(日書連、東京組合)、イトウエリ、シラハラヒデオ、静岡県書店商業組合、神保町ブックフェスティバル実行委員会、あかね書房、九州雑誌センター、ナカイイサオ、タカオカショテン、照林社、くもん出版、オバタショボウ、東京都書店商業組合中野杉並支部、東京都書店商業組合千代田支部、コロナ社、金星堂、サノマモルサンニカンシャスルカイ、日本文教出版、筑摩書房、兵庫県書連第7支部、新潮社、清流出版、コボリナンガクドウ、黎明書房、無双舎、学陽書房、出版文化産業振興財団、香川県書店商業組合、タムラショテン、カスガシチトセショボウ、長野県書店商業組合、オカベトモハル、タムラショテンシャインカイ、サンノミヤブックス、徳島県書店商業組合、トクナガナオヨシ、キクガワサヅカショテン、吉川弘文館、ブックスキャン、アベショテン、福井県書店商業組合、デグチショテン、コウブンドウショテン、東京都書店商業組合、オオサカシハナタニショテン、ヒョウゴケンマツダショテン、シキシマショボウ、アサノショテン、サトウショテン、ブックランド・エル、オオシマヒロユキ、ザホンヤサン、淡交社
合計1632万2854円
(受付順、敬称略)

「復興支援基金」創設へ

書協、雑協、出版クラブの3団体で設置した〈大震災〉出版対策本部は「復興支援基金」創設に向けて準備を進めている。出版活動を通じた①読書環境の復活、②図書販売環境の復活、③人々の心の復活の3つの目標を掲げ、基金募集と運用を行うというもの。

返品入帳で要望書/福島組合

福島県書店商業組合は4月6日、「東北関東大震災で被災書店救済についてのお願い」とする要望書を日書連対策本部宛に出した。
①地震及び津波により書籍・雑誌(商品)の流失、棚からの落下、水濡れなどによる汚損本の全額入帳をお願いしたい、②販売会社様への支払い猶予(被害の大小によって異なる)――の2点を求めている。

うみふみ書店日記/海文堂書店・平野義昌

3月○日
岩波書店本棚の会、F店長と久しぶりに出席。毎回思うのは、有力店の中に当店が入っていること。劣等生、児童書だけが○。F店長がポスレジ不要論・スリップ原理主義をスピーチ。他店の若手が訊く。「ポスでないレジって、どんなのですか?」
「ヨキミセサカエル」なんて言うたらどうなるやろう?
3月○日
教科書搬入の谷間で、またも説明会。仏教書総目録刊行会主催で、映画試写会も。ビルの14階、上映前に壁やカーテンがゆーらゆーら揺れる。地震。東北で大地震。上映中にも揺れるが続行。終了後懇親会。京都H蔵館の会長とお話、創業400年。神戸呑み会ガールズIさん、ボーイズJさんも。私一人はしゃいでいる。帰宅して妻に怒られる。「呑んで騒いでる場合とちゃう。テレビ見てみ!」
3月○日
大地震・大津波の激しさ・残酷さに目をむく。阪神・淡路どころではない。さらに原発爆発まで。行方不明者の捜索、瓦礫撤去、ライフライン復旧、救援物資、仮設住宅、復興住宅、さまざまな補償……、生活再建までの道は途轍もなく長い。一歩ずつ、一つずつ。
3月○日
教科書。当店担当最大生徒数の男子校。しかも2階に上げなければならない。例年力尽きて倒れる者が出る(ウソ)。卓球部の生徒さん20余名が手伝いを申し出てくれる。大人の体つきの子もいれば、ひ弱な子、大丈夫か。作業大いにはかどるも、ラクを知ってしまうと来年が不安。
3月○日
雑誌・書籍の配送が隔日になる。自動車燃料不足のため。発売が遅れる雑誌も。計画停電で販売会社の検索・発注システムも使えない時間が。不便だが文句を言う時ではない。(後日配送平常に)
3月○日
当店社長は週1度東京出張。首都圏の日常生活はモノ不足、水も買えないそうで、乳飲み子を抱えた知人に神戸から水を送っている。停電で家庭の冷蔵庫はどうしているのか?店舗の営業は?想像力が働かない。
3月○日
業界新聞に阪神・淡路大震災を経験した書店員3名が被災地にメッセージ。それぞれが体験を語りながら、再生のための具体的提言をする。空疎な激励の言葉はない。
3月○日
雑誌の報道写真集が出始める。お客さんの関心は高い。他人事ではないのだ。担当者は追加・追加の手配。原発問題の本も問い合わせが多い。新聞は大きく報道しているが、テレビはおとなしい。風評被害を恐れるのか、大スポンサー様に気を遣うのか?関係者の会見を見ているだけで、事の深刻さがわかろうというもの。
3月○日
仙台の出版社「荒蝦夷」H氏より電話。阪神・淡路を長く取材してくれた人。自宅・会社とも被災。本は無事で、山形に移動。元気な声に安心するが、声が出せない。彼の言葉に頷くだけ。ようやく「全点フェアやりましょ」。
励ましはしない、本を売る!
3月○日
髙田郁さんの新刊、発売日に100冊サインを戴いたが、1週間で完売。追加のサインに来てくださる。早々と読了したF店長はタメ口で話す。悔しいが未読。
4月○日
「荒蝦夷」フェアを新聞社が取材、3社続けて。うれしいことなのだが、話すことがない。大義も志もなんもない。本がある、並べる、売る、それだけ!売れてほしい。

お詫びと撤回のお知らせ

本年二月の出版物小売業公正取引協議会の理事会で配布した「電子書籍のサービスは〝規約〟の制限の対象」と題する文書は、飽くまでも当協議会の試案であります。にもかかわらず、決定したかの如く「全国書店新聞」並びに業界紙に誤って公表してしまいました。関係者にご迷惑をおかけ致しましたことをお詫び申し上げますとともに、同文書につきましては撤回措置をとらさせていただきます。本件に関しては消費者庁に検討をお願いしているところであり、正式見解が出された時には、改めて公表致します。この点、ご承知置き下さるようお願い申し上げます。
出版物小売業公正取引協議会
平成二十三年四月一日

各県組合・被災地支援の取組み

(編集部調べ)
◇北海道=組合員に対し店頭での募金活動推進を依頼した(期間未定)。
◇群馬県=支援の取組みを次回理事会で理事長より提案予定。
◇埼玉県=支部を通して組合員に募金(義援金)を依頼する予定。
◇神奈川県=4月16日に対策を検討する。
◇岐阜県=日書連の義援金口座に組合として寄付する。
◇福井県=組合員へ支援活動を呼びかける予定。
◇大阪府=①3月26日にプレ・サン・ジョルディの日講演会を実施した折に募金箱を設置。集めた募金を共催者の朝日新聞大阪本社の厚生文化事業団に献金した。②組合書店各店で募金活動を実施。3月末と4月末の2段階で取りまとめて日本赤十字社に送る。③日書連の義援金についても、4月9日の理事会で理事から義援金を集めたほか、支部単位で協力を要請し4月中に取りまとめる。
◇京都府=義援金募金活動を3月23日~4月30日の期間実施。
◇和歌山県=傘下組合員に対し、義援金を日書連口座宛に送金してもらうようFAXにて依頼。
◇兵庫県=①全組合員に日書連の義援金口座への協力をFAXネットで発信した。②4月理事会でさらなる募金方法等を協議する。
◇広島県=支援活動を行う予定。
◇福岡県=3月25日に日書連の義援金へ20万円を振り込んだ。
◇佐賀県=4月開催の理事会で支援内容を協議する予定。
◇長崎県=組合として日書連義援金口座に30万円を送金。また、組合書店店頭での募金活動と、日書連義援金への協力を呼びかけた。
◇熊本県=1組合員3千円で募金をお願いし、50店程応じてもらっている。
※鹿児島県、沖縄県は募金活動を実施(既報)。

紙・インキの供給不足が深刻

東日本大震災は印刷産業にも大きな被害を与えている。印刷工業会によると、用紙とインキの不足が深刻で、生産体制に大きな影響を及ぼしているという。
用紙については、日本製紙石巻工場、三菱製紙八戸工場が被災、首都圏在庫品も甚大な被害を受けた。被災した製紙2工場は国内生産能力の約4分の1を担っているが、依然復旧に至っておらず、非常にタイトな供給体制が続いている。
インキについては千葉、茨城、福島など広域に渡り多くのインキ原材料供給メーカーの設備が被災して操業を停止。主要原料である顔料、樹脂の入手が困難になっている。印刷インキ工業連合会は、原料在庫が途切れる可能性があり、場合によっては製品出荷停止が起こりうるとしている。

本を集めて被災地に寄贈/東京理事会

東京都書店商業組合は4月5日、書店会館で定例理事会を開催した。
4月1日現在の組合員数は562店と報告。前年同期と比べ脱退35店、加入2店で33店純減した。
東日本大震災に関し支援活動として、被災地に本を贈る事業〝「本屋さんからの贈りもの」作戦〟の実施を決めた。書店と一般読者に呼びかけて児童書・文庫・新書・コミックの美本を店頭で集めてもらい、ルートサービスが集品し、栗田出版販売の板橋流通センターに集めて仕分ける。東京組合では4月11日に支部長、各組合員宛にFAXで協力を要請、店頭掲示用ポスターを郵送した。本を集める期限は4月23日まで。
被災地支援ではこのほか、日書連の義援金に東京組合として50万円を拠出すると報告。各支部にも1万円以上を目標に5月20日締切で協力を要請した。また、この日出席した理事に呼びかけて6万3880円が集まった。
万引問題に関して、古物営業法施行規則が改正、4月1日から施行され、書籍やCD・DVD等の買取りについて値段に関わらず本人確認と帳簿等への記載が必要になったと報告があった

被災地への配送状況

3月24日に岩手県沿岸部、25日に福島県会津地区、28日に福島県中通り地区の配送を再開。4月4日に宮城県全域(書籍及び注文品)、8日に宮城県全域(雑誌)と福島県浜通り地区の配送を再開している。(一部被災及び避難状況ににより配送不可地区あり)

JPOなどの4事業を採択/経産省書籍等デジタル化推進事業

経済産業省は3月24日、「平成22年度書籍等デジタル化推進事業」の委託先を発表した。
この事業は、総務省、文部科学省、経済産業省の共同懇談会である「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」(三省デジ懇)が2010年6月にまとめた報告書で示された課題のうち、①個々の出版物の特性に応じた契約を円滑化する取組の構築、②ファイルフォーマット(中間(交換)フォーマット)の共通化に向けて不可欠となる国内出版社・印刷会社等への普及促進、③外字・異体字が容易に利用できる環境の整備、④書店を通じた電子出版と紙の出版物のシナジー効果の発揮――の4つについて提案を公募したもの。
8件の応募があり、この中から①は電通、②は電子出版制作・流通協議会、③は凸版印刷、④は日本出版インフラセンター(JPO)の提案事業が採択された。各事業者は選択した課題について、検討委員会を開催して実証実験等を実施し、事業報告の作成を行う。事業実施期間は2011年3月末日まで。
JPOの事業には、日書連、出版文化産業振興財団、今井書店(本の学校運営委員会)、昭和図書(出版倉庫流通協議会)、東京電機大学、NTTコミュニケーションズが共同提案者として参加しており、①ICT利活用ハイブリッド型書店の調査研究、②地域におけるコミュニケーションセンターとしての書店の役割の強化、③ビジネスモデルの創出に向けた新業態研究――を目指した調査研究と実証実験を行う。

友だち100冊つくるんだ/4月23日から第53回こどもの読書週間

第53回を迎える「こどもの読書週間」(読書推進運動協議会主催)が4月23日から5月12日まで、「こどもの読書の日」(4月23日)から「こどもの日」(5月5日)を中に挟んだ3週間の日程で行われる。
「こどもの読書週間」の今年の標語は「友だち100冊つくるんだ」。読進協は読書週間の開催にあたり、公共図書館、全国小・中・高等学校図書館、書店、関係出版社、報道機関等にポスターや広報文書を配布してPR。読書週間の趣旨を表すマークを作成し、期間中やその前後を通じ各社から発行される雑誌・新聞・広報誌等に使用を呼びかける。
また、都道府県の読進協、関係各団体の協力を得て、以下の各種行事の実施を推進する。
▽公共図書館、公民館、小・中・高等学校の学校図書館等において「こどもの読書研究会」「こども読書のつどい」「親と子の読書会」「大人によるこどもの本研究会」「こどもの読書相談」「児童図書展示会」「児童文学作家による講演会」「児童図書出版社との懇談会」等の開催。「読書感想文・感想画コンクール」の実施。
▽都道府県の読進協による都道府県単位の「こども読書大会」等の開催。
▽出版社、新聞社、放送局、文化団体等による、被災害地域、児童養護施設、矯正施設等への「図書・雑誌寄贈運動」の実施

4月から14支部を8支部に再編成/京都組合

京都府書店商業組合(中村晃造理事長)は、京都組合を構成する14支部について、4月1日から8支部に再編成した。
京都組合は支部から理事を輩出して運営を行っているが、ここ数年、支部員が少なくなったことで理事の擁立が負担となる支部もあって、組合運営に直結する問題とされていた。
その解消のため、京都組合では4年前に組合定款と規約の改訂に着手。今回の支部再編完了までの期間をかけて、組合組織の体制を見直した。支部の再編についても専門委員会を立ち上げ、組合員にアンケートを実施するなどして意見を反映させながら、支部人員の充足を主たる目的として検討を重ねた結果、合併などにより8支部とした。
京都組合では支部再編により、組合運営が安定するだけでなく、支部の人員が増強されたことで各地域での活発な支部活動に繋げたいとしている。
(澤田直哉広報委員)

書店復興にこう取り組んだ/阪神大震災経験者に聞く/三宮ブックス(神戸市)村田耕平氏

東日本大震災の被害を受けた地域の書店は、店舗全壊・半壊・流失、建物・什器破損、商品散乱など甚大な被害を受けた。多くの書店が営業再開の目途も立たず途方に暮れ、営業を再開した書店もライフラインの寸断やマンパワーの不足に苦しんでいる。こうした中、被災地に対して何をすればいいのか。16年前の阪神・淡路大震災を経験した兵庫県神戸市中央区・三宮ブックスの村田耕平氏(日書連監事)に当時の苦労と復興への取り組みについて書いてもらった。貴重な体験記から復興へのヒントを探りたい。

この度の大震災に遭遇された書店仲間の皆様へ心からお見舞い申し上げます。
連日報道される状況は正視に耐えられないもので心を締め付けられる思いです。国難と表されますが、個人的に突然の被災に遭われ、長年のご努力や平常の生活を奪われてしまわれたご無念を思う時、お見舞いの言葉にも窮します。大震災、津波、そして原発事故による壊滅的な状態は想像を絶するものです。このような時、どんな事を申し上げたらよいのか分かりませんが、16年前「阪神淡路大震災」に遭遇した当時の体験を思い出し、資料をもとに記したいと思います。
1995年1月17日午前5時46分、淡路島、神戸市などを中心とする近畿地方及び東海、関東、九州の広い範囲にわたる大地震が発生しました。夜明け前の時間でしたので、多くの方は就寝中のことでした。当時の新聞報道では家屋の全壊被害18万6000戸、戦後最大の被害とありました。今回の被害状況は、それらと比較することはできない。あまりにも被害状況が広範囲であり、被災状況が異なるからです。
阪神淡路大震災では私自身の自宅も半壊し、自店もすべての商品が落下、書棚も傾斜する惨事であった。しかし、兵庫県書店商業組合の副理事長であった立場から、県下組合員書店の被害状況の調査に入らなければならなかった。さらに日書連から状況報告依頼があり、地震から4日後の1月定例理事会に出席し、状況報告を行った。結果として日書連及び全県理事各位の格別なご支援が決議され、続いて開催された出版販売新年懇親会では、出版社、取次各社の義援金などの支援が決定されました。
阪神間地域への各出版社及び取次各社の見舞いや支援は交通アクセス不通のなか行われ、連日多数の方々から本当に親身な協力を各書店がいただき大きな励みになったことは忘れられない思い出であります。
兵庫県の組合員書店の被災状況は、全壊及びそれに準ずる店舗は37店、半壊店15店、一部損傷10店と記録しており、その資料に基づき義援金の配分の基本にさせていただきました。
義援金配分については、「迅速性、透明性、公平性」の三原則があると言われています。日書連近畿ブロック会で近畿各県の理事長や関係者、出版社、取次が複数回の会議を重ね、時には感情論も交錯した激しい協議の中、配分方法を論じました。しかし、義援金を持参した折に、多くの組合員書店の皆さんから「日書連組合員で良かった」と涙まじりに感謝されたことも忘れられません。
多数の出版社から賜った義援金の配分については、趣旨は組合員、アウトサイダー両方の見舞金であるとのことであり、兵庫、大阪の被災書店447店へ5万円の見舞金を贈呈したことを記録しています。京都組合、奈良組合、滋賀組合、和歌山組合からは「義援金は遠慮するから、大阪、兵庫の被災店に少しでも多く配分されたし」とのご配慮を受けました。
混乱を極めた中、早いところでは1週間ほどで営業再開された書店もありましたが、廃業に追い込まれた書店もありました。また、配送などの流通面での支障もあり、営業再開まで数カ月を要した店が多かったのではないかと思います。しかし、多くの読書家や顧客から書店の営業再開に対して喜びの声があがり、ビルの取り壊しなどで騒然とした街でも文化の灯りへの期待度を肌で感じ、うれしく思ったものです。
この度の大震災は、各地域で被害が大きく、町ごと失われてしまったところもあり、復興の目途すら立っていない方々も多いことと思います。阪神淡路大震災時の体験を申し上げても失礼だと承知していますが、個人的にも震災体験の恐怖は簡単に払拭できないものと思いますし、体験した者しか分からないことが多いと存じます。震災後、16年経過した現在でも、少しの振動でも恐怖を覚えます。まして余震が続く現在、この点だけでも同情いたします。書店再開のこと、家族、従業員のこと、地域復興のこと、将来のことなど、何から手をつけていくべきかお悩みのことと思います。出版社の多くも地震の影響に遭遇されていると仄聞していますが、取次各社ともども、被災書店の皆様へ最大限のご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
国民一人ひとりの支援、また各業種、業界の援助活動も大きく報じられていますが、日書連の義援活動は「書店仲間への支援」と目的が明確です。どうか全国各地の皆様のお力添えを望みたいと思います。

仏教書売り伸ばしのチャンス/手塚治虫の傑作『ブッダ』初の映画化

手塚治虫の傑作コミック『ブッダ』のアニメ映画化がついに実現。5月28日より全国公開される。仏教書総目録刊行会が「ブッダの世界と仏教」フェアを展開するなど出版界にも映画化に呼応する動きが広がっている。混沌とする現代に生きる日本人にとって仏教への関心は年々高まっており、専門書から人生論、美術、料理、コミックまで幅広い切り口の仏教書の盛り上がりが期待されている。(白石隆史)
【2千万部超えるベストセラー】
手塚治虫の『ブッダ』は、仏教の開祖ゴータマ・シッダールタの生涯を描いたコミック。潮出版社の少年漫画誌『希望の友』で1972年から83年まで連載され、長編作品としては手塚のキャリアで最長の10年以上を費やした。ブッダの生涯を説話に基づいてなぞったものではなく、独自のドラマを構築し、圧倒的なエンターテインメントとして読み継がれてきた。
単行本はこれまで「希望コミックス(全14巻)」「愛蔵版(全8巻)」「潮ライブラリー(全8巻)」「潮ビジュアル文庫(全12巻)」(以上、いずれも潮出版社)、「手塚治虫漫画全集(全14巻)」(講談社)として出され、累計発行部数2000万部を超えるベストセラーとなっている。
アメリカでも高い評価を受けており、コミック界のアカデミー賞と呼ばれるアイズナー賞最優秀国際作品部門を04年および05年と2度にわたって受賞している。英語のほかフランス語、ポルトガル語、韓国語、中国語、スペイン語、イタリア語でも翻訳され、世界的に評価されているコミックだ。
【吉永小百合ら豪華声優陣で映画化】
手塚の『ブッダ』が映画化されるのは今回が初めて。過去にもいくつか映像化のオファーがあったが、原作の物語の壮大さのため数社が途中で断念。「映像化不可能な作品」と言われてきた。だが、東映の岡田裕介社長の熱意により構想10年、全3部作として最高の脚本が仕上がり、映画化が実現。『手塚治虫のブッダ』のタイトルで全3部構成、第1部の『手塚治虫のブッダ―赤い砂漠よ!美しく―』が5月28日より公開されることになった。
映画の舞台は2500年前のインド。王国間の争いが絶えないこの地で、のちに悟りを開いてブッダとなるシャカ国の王子ゴータマ・シッダールタと、彼と心を通わせた人々の姿を描く壮大なドラマが展開する。第1部となる本作は、シッダールタの誕生からブッダとなる前の姿を描く。声優陣は、ナレーションとチャプラの母役に吉永小百合、チャプラ役に堺雅人、スッドーダナ王役に能楽観世流二十六世家元の観世清和、シッダールタ役に吉岡秀隆、マリッカ姫役に黒谷友香と豪華なメンバーが顔を揃える。配給は東映/ワーナー・ブラザーズ映画。制作は東映アニメーションが担当し、手塚プロダクションが協力。監督は森下孝三。
【仏教がよくわかる!/ひろさちや氏が選ぶ100点】
手塚ブッダの映画公開、さらに浄土宗宗祖法然の800回忌、浄土真宗宗祖親鸞の750回忌という大きな節目となる今年、出版界でも仏教書増売の動きが広がっている。
仏教書を発行する出版社9社で構成する仏教書総目録刊行会(会長=西村七兵衛法藏館会長、事務局=トーハン)は5月から「手塚治虫のブッダ公開記念ブッダの世界と仏教」フェアを全国の書店で展開する。
この映画の歴史アドバイザーを務めるひろさちや氏が仏教書100点を選書。店舗スペースに合わせて、フルラインセット(100点・各3冊)、ミドルセット(50点・各3冊)=別掲=、コンパクトセット(30点・各3冊)を用意している。
数多い仏教書のうちで最も古い聖典で、人間・ブッダの言葉に一番近いものが記されていると思われる『ブッダのことば(スッタニパータ)』(中村元訳、岩波文庫)、日常生活の疑問や悩みを仏の教えから考える入門書『仏教はじめの一歩』(ひろさちや著、春秋社)など、仏教とブッダを理解する上で必読の書がラインナップされている。

【「手塚治虫のブッダ」公開記念/ブッダの世界と仏教フェア】
〔ブッダ入門〕
▽『お釈迦さまのお弟子たち1』石上みね、大蔵出版▽『お釈迦さまのお弟子たち2』石上みね、大蔵出版▽『お釈迦さまのお弟子たち3』石上みね、大蔵出版▽『釈迦』ひろさちや、春秋社▽『ブッダ入門(新装版)』中村元、春秋社▽『小説ブッダ』ティク・ナット・ハン、春秋社▽『釈迦最後の旅』ひろさちや、春秋社▽『ブッダの瞑想法』地橋秀雄、春秋社▽『お釈迦さま物語』若林隆光、中山書房▽『ブッダvsニーチェ』湯田豊、大東出版社▽『ブッダ』河西蘭、本願寺出版社▽『ブッダをめぐる人びと』里中満智子、佼成出版社▽『ブッダの幸福論』アルボムッレ・スマナサーラ、筑摩書房▽『ブッダ大人になる道』アルボムッレ・スマナサーラ、筑摩書房▽『大法輪』平成23年6月号(5月8日発売)、大法輪閣▽『ブッダの教えがわかる本』服部祖承、大法輪閣▽『「自ら確かめる」ブッダの教え』アルボムッレ・スマナサーラ、大法輪閣▽『ブッダが語る人間関係の知恵』田上太秀、東京書籍▽『釈尊の生涯』豊原大成、法藏館▽『ゴータマ・ブッダ釈尊伝(新装版)』中村元、法藏館▽『ブッダの悟り33の物語』菅沼晃、法藏館▽『ブッダのターミナルケア』吉元信行、法藏館▽『釈尊と十大弟子』ひろさちや、法藏館▽『ゴータマ・ブッダ(構築された仏教思想)』並川孝儀、佼成出版社▽『釈尊ものがたり』津田直子、大法輪閣▽『ブッダの人と思想』中村元/田辺祥司、NHK出版▽『いま、釈迦のことば』瀬戸内寂聴、朝日新聞出版▽『釈迦のことば法句経入門』松原泰道、祥伝社▽『ブッダとは誰か』高尾利一、柏書房▽『ブッダの教えがよくわかる』ひろさちや、日本文芸社▽『仏陀』増谷文雄、角川グループパブリッシング▽『仏陀のことば』増谷文雄、角川グループパブリッシング▽『ブッダ最後の旅』中村元訳、岩波書店▽『ブッダのことば』中村元訳、岩波書店▽『ブッダの真理のことば感興のことば』中村元訳、岩波書店
〔仏教入門〕
▽『なるほど仏教』木村隆徳、誠信書房▽『仏教入門』高崎直道、東京大学出版会▽『仏教思想へのいざない』横山紘一、大法輪閣▽『梅原猛の授業仏になろう』梅原猛、朝日新聞出版▽『仏教の基礎知識』水野弘元、春秋社▽『思想としての仏教入門』末木文美士、トランスビュー
〔経典・歴史〕
▽『お経の世界』ひろさちや編、中山書房▽『仏教』M・B・ワング、青土社▽『日本近世の仏教』末木文美士、吉川弘文館▽『新・佛教辞典〔第三版〕』中村元監修/山口瑞鳳他編著、誠信書房▽『原始仏教』中村元、NHK出版
〔仏教美術〕
▽『インドの神々』斉藤昭俊、吉川弘文館▽『仏像のひみつ』山本勉、朝日出版社▽『続・仏像のひみつ』山本勉、朝日出版社
〔人生論〕
▽『無所有』法頂著/金順姫訳、東方出版(大阪)
(ミドルセット計50点)

新しい形で広がる仏教文化関連書続々

近年、仏教文化をベースにした動きがブレイクし、30代男女を中心に若者から年配者の生活まで浸透してきた。生き方として実践的かつ科学的なところが受け入れられている。「食」で精進料理、オーガニック、マクロビオティック、「趣味」で仏像鑑賞、写経、座禅、ヨガ、瞑想、「旅」で寺社巡り、宿坊宿泊、パワースポット巡りにハマっている人も多い。「宗教」としての仏教とともに、「生き方」としての仏教にスポットを当てた品揃えで幅広い読者層をつかみたい。
【3週間で15万部突破/『超訳ブッダの言葉』】
心のトレーニングメソッドとしての仏道を語って人気の僧侶、小池龍之介氏の近刊『超訳ブッダの言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)が好調だ。2月20日に発売されてから3週間でたちまち15万部を突破した。同書はブッダの言葉を『スッタニパータ』『ダンマパダ』などの古い経典の中から選び出し、現代日本人にもわかりやすいよう「超訳」を施したもの。こだわりを捨て、怒りを静め、心の平穏を保つための言葉が12種類のテーマ別に分類されている。
27万部のベストセラーとなった同氏の『考えない練習』(小学館)とあわせて販売したい。
【ブッダとイエスが立川で共同生活/聖☆おにいさん】
ブッダとイエスが下界のバカンスを満喫しようと東京・立川の安アパート(風呂なし・ペット禁止)をシェアし、「聖(せい)」の苗字で暮らすという設定のギャグマンガ『聖☆おにいさん』(講談社)がアイデアの面白さもあってヒットしている。作者は中村光。07年から講談社の『モーニング・ツー』で連載中。コミックスの最新巻は10年12月24日発売の第6巻。宝島社「このマンガがすごい!2009」オトコ編1位。09年には手塚治虫文化賞短編賞を受賞している。
ブッダは螺髪、額の白毫、長い耳たぶが特徴的な青年。お調子者のイエスとは対照的に、大人しく温厚な性格。しかし倹約家ゆえに、イエスが無駄遣いをしたりすると途端に声が堅くなり、過剰な敬語で話す。家事全般が得意で、食事は専らブッダの担当。漫画喫茶で手塚治虫が自分の人生を描いた物語『ブッダ』を読み感動して全巻衝動買い、手塚ファンとなる。
イエスはロン毛、髭面で、頭に茨の冠を着けた青年。ジョニー・デップに似ていると言われることがあり、本人も意識している。ノリの良い性格で、何事も形から入るタイプ。ブッダを引っ張り回す役だが、浪費家な傾向によってしばしばブッダを怒らせる。
宗教を使ったギャグはよく練られており、哲学的な深みや社会批判もある。
【幸福論ブームでブータンに注目/『幸福立国ブータン』】
「GNP(国民総生産)世界一ではなくGHP(国民総幸福度)世界一を目指す」と国王が宣言した仏教を国教とするブータン。貧困者23・2%でも、「幸せですか」と尋ねられれば国民の97%が「はい」と答える。10年7月に刊行された大橋照枝著『幸福立国ブータン』(白水社)にも改めて注目が集まりそうだ。
仏像本といえばみうらじゅんが有名だが、3月に刊行された岩谷薫の写真集『笑とる仏』(西日本出版社)も面白い。播磨の石棺仏のスマイルが心を打つ。

売上アップに大きな効果/コミック試し読みシステム「ためほんくん」/日書連「ためほんくん」部会長・田江泰彦氏に聞く

【包装陳列のコミックス「中を見たい」読者のニーズに応える】
――コミック試し読みシステムに取り組んだきっかけは。
「デジタル化の時代に書店はどのように立ち向かえばいいのかという問題意識をずっと持っていた。いろいろと切り口を考えて、試し読みの機能を書店店頭で提供してはどうかと考えるようになった」
――デジタルにリアル書店がコミットする一つの方法ということか。
「書籍、音楽や映像などあらゆるコンテンツがデジタル化される時代はすでに来ている。それをどうプラスに活かすかということだ。店頭で紙の本を売り伸ばすことにも活かせるのではないか。リアル書店に一番相応しい活かし方として試し読みを思いついた」
――ジャンルをコミックに絞ったのは。
「コミックはシュリンクされているので中身が読めない。『ちょっと中身を見たい』というお客様の声をたびたび聞いていた。ではコミックで試し読みができる仕組みを作ってはどうかと考えて生まれたのが『ためほんくん』だ。お客様が書店店頭に足を運んでくださるのは、本が実際に置いてあって中がパラパラと見れるから。それが本屋の魅力なのに、コミックは中を見ることができない。そうしたお客様のニーズに『ためほんくん』なら応えることができる。書店の店頭に来ても中身が見られない本に試し読みのニーズがあると考えた」
【登録作品はしっかり品揃え専用注文書を仕入れに活用】
――「ためほんくん」を設置するメリットは。
「きちっと運用すれば売上が必ず伸びる。もう一つは、『ためほんくん』という端末自体がお客様を引っ張ってくる集客のパワーを持っているということ。端的に言うとこの2点だ」
――具体的にどのように運用すれば売上が伸びると考えるか。
「試し読みをいくらしてもらっても、本が店頭になければ売上にならない。だから、『ためほんくん』で公開されている作品、特にサイネージで取り上げられている作品、サムネイルで取り上げられている作品はしっかり品揃えしておくことが必要になる。毎月取り上げられる作品は変わっていくから、その情報を品揃えに反映させる。端末周辺の棚に『ためほんくん』で取り上げられている銘柄を集中的に置くなど、売場作りで工夫することが大切だ」
――品揃えや売場作りをサポートするための仕組みは。
「『ためほんくん』設置店には『ためほんくん』で取り上げている作品を発注するための専用注文書を送っている。取次各社の担当者にも情報を流しており、書店から専用注文書が来たら出来るだけ優先的に出荷してほしいというお願いも取協を通じてしている。設置書店から注文があったとき取次に在庫がないと困るので、まず取次に情報を流している。専用注文書の仕組みを利用して仕入れに役立てていただきたい」
――端末の持つ集客パワーとは。
「最近の若い人たちの購買行動を見ると、コミック雑誌を読んで興味を持ったコミックスを買うのではなく、最初からコミックスを買うケースが増えている。友だちと店頭に来て『私の好きなマンガはこれ。ちょっと見て』となったとき、コミックスがシュリンクされた状態では対応できない。『ためほんくん』ならば、こうしたお客様をつかむことができる。『あの本屋さんへ行けば中身を試し読みできるから行ってみよう』ということになる」
――そうしたニーズをつかむことは大きい。
「もう一つ例をあげると、お小遣いを貰った子供
が書店に来て、『お小遣いをもらったから、面白いマンガを教えて』と言われたとき、一緒に『ためほんくん』を見ながら『これどう?』『あれはどう?』と中身を見ながら会話できる。こうした場面で実際に試し読みが購買に結び付いたことも事例として報告されている。お客様との会話を取り戻すツールとしても『ためほんくん』が果たす役割は大きい」
【リアル書店に読者を呼び込む】
――実際に設置した書店の反応は。
「設置直後に次のようなコメントをいただいた。『設置初日は何の機械かわからずみんな素通りだったが、説明すると評判は上々。閉店後、端末のタッチパネルは指紋だらけだった』と。また、『サクサクと反応し、画面も美しく、想像以上の機械だ』『リアル書店にお客様を呼び込むツールとして、店とお客様がコミュニケーションをとるためのツールとして活用したい』『奥が深い、活用のしがいのあるツール』といった声もいただいている。サイネージ、サムネイル、特集キャンペーンなど様々な機能があるので、それらを売場とどう連動させるか、店によって様々な取り組み方があり、腕の見せどころでもある」
――売上への貢献度は。
「2009年11月から10年3月まで11店舗・13台で店頭実証実験を行い、試し読み回数が増えると売上も増えることがデータで明確に証明された。同様にサイネージで取り上げられた作品も売上が増えることがわかった」
――今年1月期の作品別アクセス数を見ると『進撃の巨人』が1位。『ONEPIECE』は3位だ。
「『進撃の巨人』はサムネイルに載せ、サイネージでも取り上げてプッシュしたからアクセス数が上がった。アクセス数が増えれば売上が増えることはデータで確認されている。『ためほんくん』での取り上げ方によって売上がある程度変動する」
――出版社の腕の見せどころだ。
「出版社がどの作品を仕掛けるか考え、『ためほんくん』を積極的に使うことが第1ステップ。その出版社の意向を受けとめて書店が品揃えと売場作りに活かすことが第2ステップ。両方がないと売上は伸びない。業界3者が一致結束すれば『ためほんくん』は大きな成果をあげることができる」
――導入に向いている立地、規模はあるか。
「立地と規模によって効果に差が出ることはない。何によって差が出るかというと、積極的に活用しようという姿勢があるかどうか。設置して放っておけば売上が伸びることなどありえない。『ためほんくん』をどう活用すれば売上が伸びるかをしっかりと考えて品揃えすることが大切だ。売場の見直しを常に行っている書店は売上を伸ばしている」
【地域密着の小規模店ほど設置すれば増売の武器に】
――小規模店では、売場面積の問題で設置をためらっているケースもある。
「通路も狭いし、端末を置く場所がないということが1つ。あと、棚の一部を使って端末を置くと、その分在庫が減ってしまう。元々たくさん在庫を持てないのに、少ない貴重なスペースを在庫以外のものに使いたくないということが、大きな理由だと思う。でも、小さな書店でも、導入して成果をあげているところはたくさんある。そういうところは、在庫を減らさないよう、端末の置き方を工夫している。少々通路が狭くなっても、お客様が通れるスペースを最低限確保しながら何とか上手に設置する努力を皆さんしている。ただ、そのやり方は各店の条件によって異なるので、一般論としては言うことはできない。例をあげると、大阪のブックスふかだでは棚を何段か空けて設置している。福島の高島書房では通路の片隅に小さな台を置いて乗せており、在庫を削っていない。小さな店でも工夫すれば設置できるし、地域密着の小さな店だからこそ設置すればお客様との会話が生まれて増売の有力な武器になる。小規模書店ほど『ためほんくん』を設置してほしいと思っている」
――作品を提供している出版社を教えてほしい。
「講談社、小学館、集英社、白泉社、秋田書店の5社で始まり、その後スクウェア・エニックス、双葉社、角川書店、実業之日本社、朝日新聞出版、徳間書店が加わった。2月末時点で11社が参加している」
――出版社の反応は。
「参加出版社は当初から大変な協力をしてくれた。実証実験の結果、売上が伸びるというデータが出たので、それからはますます協力してくれるようになった。実験スタート時に150作品だった試し読み作品は、実験終了時点では1000点になった。今は2200点を超えている。最近は新刊をどんどん出してくれるようにもなった。著者から許諾を取ったり、社内で編集と調整したりなど苦労は多いと思うが、『ためほんくん』の意義を前向きに理解して、大変協力的に支えていただいている」
――具体的には。
「ある出版社は『映像化される作品があるので売り出したいが、サイネージやサムネイルでやったほうがいいか、特集コーナーに載せることはできないか』など色々と提案してくる。取り組みに積極的な出版社の売上は確実に伸びている。工夫すればするほど成果が出るのは書店も出版社も同じだ」
――当面の課題は。
「『ためほんくん』がどういうもので、どういう効果があり、どういうふうにすれば導入できるかということが、まだ全国の書店の皆さんによく伝わっていない。まずは『ためほんくん』の機能と効果をもっと周知したい。各都道府県組合で研修会を開いていただければ積極的に足を運んで説明したいし、個別で問い合わせがあった場合も『ためほんくん』部会のメンバーが手分けして出来る限り皆さんに説明したい。設置台数は現在、申込ベースで約220台だが、年内の早い時期に500台まで持っていければと思っている。設置台数が増えれば新しいステップに踏み出すこともできる。試し読みできる作品数を増やすため、参加出版社数を増やすことも重要だ」
――今後の取り組みは。
「デジタルとリアルの店舗を結びつける結節点が『ためほんくん』だと思う。そう考えると、機能を拡張して、今後もっといろいろな形の使い方ができるよう発展していく可能性はある。ただ、それをやるにしても実験して検証せねばならない。実用化には一定の時間がかかるだろう。今はコミック分野での普及に全力を注ぎたい」

「ためほんくん」システムの概要

【システムの趣旨】
書店の店頭では、コミックはシュリンクされていて、読者は本をめくりながら、内容を確かめることができません。書店には、「中を見たい」という読者の声が以前から寄せられていました。一方、出版界にはデジタル化の波が押し寄せ、リアル書店においてもデジタル化の潮流を有効に活用する工夫が求められています。
「ためほんくん」は、タッチパネル方式ディスプレイを持つPCで、店頭におけるコミックの試し読み機能、デジタルサイネージ機能、さらには新刊情報、キャンペーン情報等の情報提供機能を搭載したデジタル情報端末です。これを活用することによって、従来、出版社が作成してきた店頭のポスター、チラシ、試し読み本等、店頭販促物の大幅なコストダウンも期待できます。
出版業界のデジタル化の取り組みは、下手をすると紙の本の売上減少に直結してしまいます。「ためほんくん」はデジタルを活用して、逆に、リアル書店店頭の活性化、ひいては、紙の本の売上を上げていこうとする取り組みです。
【主な機能】
□主機能
1、コミック試し読み機能
登録作品の内容(12P~50P程度)を試し読みできます。拡大や縮小の操作が不要な大画面での画面見開きサイズによる表示。画面に表示されている表紙画像から、または検索画面から試し読み作品の選択ができます。※試し読み公開作品数は2255作品、参加出版社は11社です(2011年2月末現在)
2、デジタルサイネージ機能
サーバに登録してあるストリーミング動画を時間帯ごとに繰り返し再生します。流す内容はサーバ側で時間帯毎、端末毎に制御可能です。
□その他の機能
1、新刊情報表示機能
新刊情報が表示されます。試し読みコンテンツに登録されている作品の新刊情報がある場合、一覧表の作品名の横に「試し読み」のボタンが表示されますので、作品に触れてもらう機会が増えます。
2、売れ筋ランキング表示機能
月間、週間の売れ筋ランキングがそれぞれ表示されます。試し読みコンテンツに登録されている作品がランクインしている場合、一覧表の作品名の横に「試し読み」のボタンが表示されますので、そこからも試し読みに進めます。
3、特集・キャンペーン情報表示機能
静止画による告知画面。動画では伝えきれないキャンペーンの応募要項など、文章の多い情報の告知に役立ちます。書店独自のおすすめ作品を紹介することもでき、店頭のミニフェアのような機能を果たしています。
【端末外観】
端末は20インチタッチパネルワイド液晶モニター一体型。インターネット常時接続によるASP方式で運用。重量約8・9キロ。
【端末設置に必要なもの】
1、ブロードバンド回線(実効速度8Mbps以上)
端末に流れる映像はすべてサーバから受信する形式ですので、通信を高速に行うための回線が必要になります。既にブロードバンド回線がある場合は新たに引いていただく必要はありません。
2、電源(コンセント)
端末はバッテリー式ではなくAC電源で電源供給をします。
3、端末設置場所
端末を置くことのできるスペースが必要になります。設置場所に応じた転倒防止措置は店舗側でお願いいたします。
【契約概要】
利用料=日書連加盟店舗様向けシステム利用料3000円/月(1台)(本体価格)。導入初期費用、保証金は不要です。
納期=端末は契約書受領から、おおよそ14日以内にお申込店舗様へご発送いたします。※端末の設置は店舗でお願いいたします。
【申込書の送付先】
日書連事務局まで。FAX03‐3295‐7180

ためほんくんに期待

【「試し読み小冊子」をPC端末で/講談社コミック宣伝部・藤田政則】
出版社、特に宣伝部門の立場から「ためほんくん」には、以下の点でメリットを感じています。
現在、出版社は様々な店頭宣伝物を作成しています。そんな中で、書店スタッフの方・読者双方から評判が良いのが「コミック試し読み小冊子」と呼ばれるものです。
通常、売り場ではシュリンクされて中身の読めないコミック単行本の約一話分を収録した小冊子で、読者にさわりを読んでもらい、購入意欲を高めて貰うツールです。
この小冊子を売り場に置かれたPCで展開できるのが「ためほんくん」です。PC端末なので場所を取りませんし、データを使用するので、作者の了解が得られれば、プッシュしたい作品を短期間でアップすることが可能です。また、小冊子を制作するほどのコストもかかりません。
最近は、デジタルサイネージ素材を作る機会も増え、それらを活用することも可能なので、DVDプレイヤーが無い環境でも動画を使ったプロモーションが可能になることも魅力です。
【お気に入りの漫画に出会える場に/小学館コミック営業二課・福本和紀】
「ためほんくん」を食い入るように見つめていた小学生が、画面に触れながらほぼ直感的にお目当ての漫画にたどり着き、目を輝かせながら試し読みを始める。そんな場面を目の当たりにすると、書店は子供にとって知的刺激に満ちた楽しい場所であることを再認識させられます。
出版社にとって「ためほんくん」は、将来お気に入りになるであろう漫画と最初に出会える機会を、読者へ提供してくれるありがたい存在です。このシステムを書店様が作り上げたこと、様々な機能の一つとして書店員さんが自らお勧めのコミックスを紹介してくれている動画があることに、特に感謝しています。
また店頭での試し読みはコミックスの購入に直結することが分かりやすく、多くの作家さんにデータ提供の許諾をいただけています。
今後、漫画に触れた最初の機会が「ためほんくん」だった…という人も珍しくなくなるかもしません。いつまでも書店店頭が、子供にも大人にも楽しい場所であるよう、「ためほんくん」のますますの発展に期待しています!

ためほんくん活用法

【シリーズ物の新規読者獲得に力を発揮/高島書房(福島)高島瑞雄】
店頭デビューは稼動開始と同時の一昨年11月。東日本大地震後の現在も元気に稼動中です。
設置場所は、コミックコーナー前の特設台の上です。注目度は高く、お客様はデジタルサイネージの映像や音声につられて恐る恐る眺めておりますが、直に慣れると、読みたいコミックを選び、楽しそうに試し読みをしておられます。(何冊も)
導入当初、パックされた刊行最終号の内容を確認することができると思っておりました。しかし、試し読みができるのは各シリーズの初巻のみ。どこまで効果があるか不安でした。しかし、試し読みをされたお客様は、そのコミックの在庫の有無を尋ねてくるようになりました。つまり、試し読みをしたシリーズの新規読者の獲得に効果が発揮されることがわかってきました。
当店は20坪の小規模書店ですので、『ためほんくん』掲載の全シリーズを全巻、在庫することは不可能ですが、1巻から数巻を在庫すれば充分新規読者に対応することがわかりました。
『ためほんくん』は、コミックコーナーの案内役、新規読者の獲得ツール、新刊コミック検索用、店舗内のBGM、万能店員として、機能を増やしながら成長していくよう願っております。
【「試し読みできます」POPでアピール/ブックスふかだ(大阪)深田健治】
当店は約40坪の店舗でためほんくんを設置してから約1年半になります。端末はコミックの棚に埋め込むような形で設置していますので、コミックコーナーでは自然と音が聞こえて映像も目に入ります。大人の方はじっと動画を眺めていることが多いのですが、子どもたちは遠慮なしに触っています。数人で来て「俺このマンガ好きやねん。いっぺん読んでみ‥」など自分の好きなコミックを友達に見せてくれるようなケースもありますし、店の人間と一緒に検索することもあります。
サイネージやサムネイルに取り上げられているコミックは、極力在庫を切らさないようにして、1巻をためほんくんの近くに並べたり、棚のコミックで試し読みのできるものに「ためほんくんで試し読みができます」POPを付けています。こういったことで手にとってもらえる機会が多くなっています。
お客様の注目度は大きく、他の書店との差別化も図れ、当店では店頭活性化の武器になっていると感じています。
私自身は、このためほんくんがコミックに限らず絵本や実用書などにも広がり、将来的に電子書籍などに関しても書店の武器になることを期待しています。