全国書店新聞
             

令和5年3月15日号

入札・補助金活用・万引被害・レジ・キャッシュレス/組合加盟書店など実態調査/2月定例理事会

日書連は2月16日、東京・千代田区の書店会館で定例理事会を開催。地方公共団体への入札や補助金の活用、万引き被害、レジ、キャッシュレスに関する実態調査を全国の組合加盟書店などを対象に実施することを決めた。「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」(書店議連)が最終報告をとりまとめるにあたり、書店の現状を数値化したエビデンスを提供する。書店の窮状を具体的に示し、書店産業と文字・活字文化を守る各種政策への反映を目指す。
〔議連最終報告にエビデンス提供/書店の現状数値化、政策に反映へ〕
理事会の冒頭、1月2日に逝去した光永和史副会長の冥福を祈り、出席者全員で黙祷を捧げた後、矢幡秀治会長があいさつした。
矢幡会長は「書店業界は非常に厳しい状況が続いている。規模の大小を問わず窮地に追い込まれ、いつなくなってもおかしくない。今年は書店議連の最終報告という大きな目標があるが、書店自ら利益の上がる行動をしっかり起こしていくことも必要」と訴えた。
各委員会からの主な報告は次の通り。
[政策委員会]
▽書店議連は12月23日に岸田首相と面会し、中間とりまとめを手渡した。面会団の一員として参加した矢幡会長は、「首相は『たくさんの本に触れて選べることが書店の魅力』と言ってくれた。我々に対する好意的な姿勢を感じた」と当日の模様を報告した。
今後書店議連は5月に最終報告をまとめ具体的な書店政策の実現に取り組むが、矢幡会長は「苦しいと言葉で言うだけでなく、書店の現状を数値化して示さなければ。そこでエビデンス作成のため実態調査を行うことにした」と述べ、「地方公共団体への入札および補助金活用、万引き被害についてのアンケート」に回答してほしいと求めた。併せて「レジやキャッシュレスに関するアンケート」(取引取次より実施)への協力を呼びかけた。アンケート調査は組合加盟書店などを対象に実施。
▽昨年12月14日にホテル椿山荘東京で開催した「出版販売年末懇親会」の収支、18~22年度の決算推移を事務局が説明した。
[書店再生委員会]
2月6日に行われた公正取引委員会の出版業界への著作物再販ヒアリングに渡部満委員長が出席した。
渡部委員長は「ネット書店による送料無料サービスで書店のシェアが奪われていると主張した。また、官公庁における入札では過度の値引きが行われるケースもあり、利益の少ない書店経営に大きな痛手となっている。本は入札に合わないのではないかと話した」と当日の模様を報告した。
[組織委員会]
安永寛委員長は全国45都道府県組合の加入・脱退状況を報告。12月は加入なし・脱退10店で10店純減、1月は加入なし・脱退4店で4店純減だった。
[指導教育委員会]
鈴木喜重委員長は、日本出版インフラセンター(JPO)が運営する書店向け書誌情報サイト「BooksPRO」の研修会を日書連5月定例理事会終了後、5月25日午後に書店会館で開催すると報告した。テーマは「BooksPROの効果的活用法」を予定。講師はJPOに派遣を依頼する。
研修会開催にあたり、指導教育委員を対象にアンケートを実施。委員の店舗でのBooksPRO利用状況を調査する。調査結果はJPOに提供し、研修会の内容向上に役立てる。
[図書館委員会]
2月15日、髙島瑞雄委員長ら6名でアパレル副資材メーカーのナクシス(東京・渋谷区)を訪問し、同社が大手アパレル企業などに提供しているRFIDについて説明を受けた。
髙島委員長は「ナクシスのシステムは、出版業界では万引防止のために活用できるのではないか。図書館装備で導入することも可能」と期待を示した。
[読書推進委員会]
春井宏之委員長は、独自企画を提出した組合に補助金を支給する「令和4年度読書推進活動補助費」について報告。11月30日までに11組合から申し込みがあり、2月15日の委員会で審議の結果、11組合に総額200万5870円を支給することを決めた。支給額別の内訳は次の通り。▽20万円=青森、東京、山梨、愛知、富山、福井、大阪、奈良、兵庫▽15万7870円=京都▽4万8000円=長崎
[流通改善委員会]
藤原直委員長は、2年2ヵ月ぶりに開かれた雑誌発売日励行本部委員会の模様を報告。「昨年8月に同委員会宛に提出した要望書に対し、真摯に取り組むと回答をいただいた。全国同時発売や発売日違反への厳正な対応など、少しずつだが進展している」と述べた。
[取引改善委員会]
柴﨑繁委員長は、客注品の迅速確実な入荷を実現するため、広く仲間卸を利用できるよう大型書店に協力を呼びかけていきたいとの考えを示した。
[広報委員会]
全国書店新聞への記事投稿を担当する「広報委員」の23年度登録を各組合からの推薦で行う。森松正一委員は、すべての組合が広報委員を設置し、最低月1本記事を投稿してほしいと求めた。

新理事に足立岳彦氏/日書連臨時総会

日書連は2月16日に開いた臨時総会で理事の補欠選挙を行い、光永和史理事(愛媛県松山市・松山堂書店)に代わり、新理事に足立岳彦氏(愛媛県松山市・愛媛官報販売所)を選んだ。

前年比0・2%増の6770億円/22年コミック市場

出版科学研究所は2月24日、「出版月報」2月号で2022年(1~12月期累計)のコミック市場(推定販売金額)を発表した。紙+電子市場は前年比0・2%増の6770億円と微増にとどまった。内訳は、紙のコミックス(単行本)とコミック誌を合わせた販売金額が同13・4%減の2291億円、電子コミックが同8・9%増の4479億円。出版市場におけるシェアは同1・1ポイント増の41・5%に達した。

新理事に湊義彦、足立岳彦両氏/公取協

出版物小売業公正取引協議会は2月16日に開いた臨時総会で理事の補欠選挙を行い、森朗理事(広島県東広島市・森書店)、光永和史理事(愛媛県松山市・松山堂書店)に代わり、新理事に湊義彦氏(広島県呉市・中国堂書店)、足立岳彦氏(愛媛県松山市・愛媛官報販売所)を選んだ。

4月23日に「子どもの読書活動推進フォーラム」開催

「子どもの読書活動推進フォーラム」(文部科学省、国立青少年教育振興機構主催)が、「子ども読書の日」の4月23日(日)午後1時から東京・渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターで開催される。
当日は文部科学大臣表彰(優秀実践校、優秀実践図書館、優秀実践団体・個人)の式典、NHK「100分de名著」プロデューサー秋満吉彦氏と能楽師安田登氏の特別対談「子どもが自ら本を読み始めるとき」、文部科学大臣表彰を受けた代表団体による事例発表と対談、表彰式が行われる。なお、フォーラムの様子はYouTubeで配信する。
参加申込は国立青少年教育振興機構のホームページ(https://www.niye.go.jp/)から。入場無料。定員400名。申込締切4月21日。

「春夏秋冬本屋です」執筆陣が4月1日号から代わります

街の書店が日々の仕事を通じて思ったことや自店の取り組みなどを綴る連載コラム「春夏秋冬本屋です」の執筆陣は4月1日号から次の4氏に代わります。引き続きご期待ください。
神奈川・金文堂信濃屋書店  山本 雅之氏
静岡・焼津谷島屋  中野 道太氏
京都・宮脇書店亀岡店  服部 義禰氏
沖縄・大城書店  大城 洋太朗氏

「春夏秋冬本屋です」/「おしまいのとき」/福岡・麒麟書店常務・森松恵美

赤ちゃんが生まれた瞬間から、お母さんには、それまでのような自由な時間はない。180度変化した時間の流れと子ども中心の生活に慣れたのは、いつの頃からだろうか…。
あれは、ちょうど臨月を迎えた夏、私の机の上に一枚の紙が置いてあった。そこには、作者不詳の一編の「詩」が載っており、タイトルは「おしまいのとき」。のちに分かるのだが、育児の先輩である弟からの細やかな贈り物だった。
産後は、おっぱいと寝かしつけを繰り返す日々。睡眠時間はなく、熱々の食事を食べた記憶はない。遊び疲れると甘えん坊に振舞い、忙しい夕方に抱っこをせがむ。ゆっくりお風呂に浸かる暇はなく、これが永遠に続くかのように思われる。その反面、親になった喜びも年々増えていく。幼稚園の窓から、私が見えなくなるまで手を振る姿。「ままだいすきだよ」と何度も綴られた手紙。「これよんで」と絵本を抱えてくる笑顔。ぐずっても、最後は私の腕の中で眠りに落ちる夜。そのどれもが、明日の先も同じように続くと思っている。
しかし、忘れてはならない、全てのことには「おしまい」のときがあるということを。そして、あの時が「おしまい」だったのかと、あとから気付くのだ。だから今夜も、絵本を読んで眠った我が子の頬をなでよう。これからも、たくさんの親子が幸せな時間を過ごせるように「絵本選びのお手伝い」を通して、多くのお母さんに「母と子のとき」を伝えていきたい。

静岡組合新年総会/大河ドラマ関連企画で来店・売上アップを目指す

静岡県書店商業組合は1月26日、静岡市葵区のグランディエールブケトーカイで新年総会を開催し、組合員18名、出版社(小学館パブリッシング・サービス、集英社サービス、静岡新聞社)3名、取次3名、合計24名が出席した。
総会は長倉一正理事(長倉書店)の司会で進行し、はじめに吉見光太郎理事長(吉見書店)があいさつ。「4年ぶりにこの会を開くことができてうれしく思う。昨年12月、『今年(22年)の漢字』が京都・清水寺で発表され、『戦』の文字が選ばれた。昨年はウクライナの戦争、それに伴う物価高との戦い、ワールドカップの日本代表の戦い、静岡では台風15号の記録的な大雨による被害との戦いもあった。先行き不透明な状況下で書店経営を継続できるよう、組合員の連携をこれまで以上に深めていきたい」と呼びかけた。
続いて理事会で承認された各委員会および変更役員の発表を行った。常務理事に斉藤晋一郎氏(谷島屋)が就任し、事業委員に長倉一正氏、読書推進委員に中野道太氏(焼津谷島屋)が就いた。
支部制改変に伴う支部長選出では、これまでの8支部から東部、中部、西部の3支部に集約。東部支部長は長倉一正氏、中部支部長は岩田顕彦氏(大和文庫)、西部支部長は酒井良幸氏(遠州堂書店)が選ばれた。
県内書店参加企画の大河ドラマ「どうする家康」連動企画について、佐塚慎己副理事長(島田書店)は「各書店に関連本コーナーを作り、オリジナルデザインの『家康仕様』の紙帯を作成し配布する。記載されたQRコードを読み取ると関連書籍を把握できる。次回の来店を促したい」と説明。「大河ドラマで盛り上がった後も家康本を継続して売り続けるため、新しい読者層の拡大と店頭外への仕掛けで来店客と売上増加を目指したい。取次の協力で組合非加盟書店にも参加を呼びかけている。みんなで盛り上げていきたい」と訴えた。なお、帯は3月中に配布する予定。
新年総会終了後、同会場24階に移りランチ会食。青空に映える富士山を眺めながら、久しぶりに業界3者で歓談した。
(佐塚慎己広報委員)

帯コン展示会、府立中央図書館で開催/大阪組合

大阪府書店商業組合(深田健治理事長)は2月18日、大阪市北区の組合会議室で定例理事会を開催した。
読書推進委員会から「本の帯創作コンクール」の展示会について、大阪府立中央図書館で3月23日~4月18日、11月8日~14日、24年3月27日~4月16日の日程で開催すると報告があった。(石尾義彦事務局長)

東京組合「♯木曜日は本曜日」/半年間で加盟店の選書売上220%に/上白石萌音さんらゲスト20名が出演、総集編動画を公開

東京都書店商業組合は3月2日、本屋へ足を運ぶ習慣作りを目指すプロジェクト「#木曜日は本曜日」が区切りを迎えるにあたり、プロジェクトの締めくくりとして、本屋と本を愛する全20名のゲストが出演する総集編動画を、特設サイトおよび東京組合公式YouTubeチャンネル「東京の本屋さん~街に本屋があるということ~」で公開を開始した。
このプロジェクトは昨年10月6日から開始。毎週木曜日に、本屋と本を愛するゲストが出演するYouTube動画を公開し、各ゲストには「人生を変えた本」の選書、本屋での本との出会いやエピソードについて語ってもらった。さらに、組合に加盟する約180の書店で特設の本棚を作り、著名人による選書を毎週紹介し販売してきた。
約半年間の期間中、組合加盟店での各著名人の選書の売上げは220%にのぼった。また、公開された動画のYouTube内総再生回数は400万回超(2月28日時点)、「#木曜日は本曜日」に関する総ツイート数は4万件超(同)と、インターネット上でも多くの反響があった。
協力した著名人は次の20氏。
上白石萌音/深井龍之介/宇賀なつみ/ラランドニシダ/佐久間宣行/岸田奈美/林士平/松井玲奈/カツセマサヒコ/鈴木涼美/成田悠輔/呂布カルマ/加藤シゲアキ/羽田圭介/鈴木おさむ/本谷有希子/尾崎世界観/松岡茉優/梶裕貴/きゃりーぱみゅぱみゅ
東京組合常務理事で同プロジェクト実行委員長の小川頼之氏は「出版業界が一体となることでプロジェクトを全うできた。YouTube動画やSNSを見て、久しぶりに本屋に足を運んだというお客様が多くいた。スマホから離れて、本屋で本を選び、実際に本を読むと、自分の中に新しい発見があることに気づいたのではないか」と手応えを語り、「YouTubeに出演した著名人の方々には、それぞれが感じる本屋の魅力を語ってもらった。これからも本屋が魅力的な場所であり続けられるよう、業界一丸となって努力していく。これからも週に一度は本屋に足を運び、『まだ見ぬ本との偶然の出会い』を楽しんでもらえれば」と期待を示している。

日書連のうごき

2月1日 塩谷立政経セミナーに矢幡会長が出席。
2月6日 公取委のヒアリングに渡部副会長が出席。
2月7日 子どもの読書推進会議総会に春井副会長が出席。
2月9日 学校図書館整備推進会議幹事会に事務局が出席。NHK出版の春の企画説明会に矢幡会長他が出席。
2月15日 各種委員会。雑誌発売日本部委員会に藤原副会長、大塚、長﨑両理事が出席。
2月16日 定例理事会。図書コード管理委員会に藤原副会長、志賀理事が出席。
2月21日 雑誌コード管理委員会(Web)に事務局が出席。
2月22日 全国書店再生支援財団定例理事会に髙島、平井両理事が出席。

読者が選ぶビジネス書グランプリ/『佐久間宣行のずるい仕事術』に

本の要約サイト「flier」を運営するフライヤーとグロービス経営大学院は2月16日、東京・千代田区のメディアドゥ本社で「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」の授賞式を開催し、総合グランプリと部門賞を発表。総合グランプリには佐久間宣行『佐久間宣行のずるい仕事術僕はこうして会社で消耗せずにやりたいことをやってきた』(ダイヤモンド社)が選ばれた。同書はビジネス実務部門の1位も受賞した。各部門の受賞作は次の通り。
▽総合グランプリ、ビジネス実務部門賞=『佐久間宣行のずるい仕事術僕はこうして会社で消耗せずにやりたいことをやってきた』(佐久間宣行/ダイヤモンド社)▽イノベーション部門賞=『自分のスキルをアップデートし続けるリスキリング』(後藤宗明/日本能率協会マネジメントセンター)▽マネジメント部門賞=『だから僕たちは、組織を変えていける』(斉藤徹/クロスメディア・パブリッシング)▽政治・経済部門賞=『22世紀の民主主義選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』(成田悠輔/SBクリエイティブ)▽自己啓発部門賞=『言語化の魔力言葉にすれば「悩み」は消える』(樺沢紫苑/幻冬舎)▽リベラルアーツ部門賞=『13歳からの地政学カイゾクとの地球儀航海』(田中孝幸/東洋経済新報社)▽特別賞「ロングセラー賞」=『生き方人間として一番大切なこと』(稲盛和夫/サンマーク出版)▽特別賞「グロービス経営大学院賞」=『限りある時間の使い方』(オリバー・バークマン、高橋璃子・訳/かんき出版)

学習参考書協会・辞典協会「学参・辞典勉強会」②

学習参考書協会と辞典協会は「2023年度新学期学参・辞典勉強会」を2月10日にオンライン配信で開催。第2部は、漫才コンビ「米粒写経」と日本語学者の両輪で活躍し、国語辞典コレクターとして知られる学者芸人のサンキュータツオ氏が「書店で見せる辞典の魅力」と題して講演した。概要を紹介する。
【国語辞典棚工夫のポイント/学者芸人・サンキュータツオ】
国語辞典棚はいろいろな書店に必ずと言っていいくらいある。書評の仕事をしているため書評を書いている方によく話をうかがうのだが、本屋に行ってまず辞典棚を見るという方が意外と多かった。それは、国語辞典は「本を読むための本」でありとても大事だからだ。本屋を1つの家とするならば国語辞典棚は「台所」。生活の根幹をなす場所で、普段お客さんが来ないと思って油断している台所は、充実していないと恥ずかしい、キレイにしておかないと本屋のリテラシーを問われてしまう場所だ。国語辞典は3月、4月の卒入学シーズンしか売れない特殊な書籍だが、この時期に棚をどう見せるかという工夫をすれば、その財産で他の月も頑張れると思う。
とある書店の「春の辞典フェア」を例に、棚に陳列されている国語辞典をみてみる。ここには『三省堂国語辞典』『明鏡国語辞典』『旺文社国語辞典』『旺文社標準国語辞典』『学研現代新国語辞典』『新明解国語辞典』『ベネッセ新修国語辞典』と、一見いろいろな辞典が並んで充実しているように見えるが、大人向け、中高生向けが混在し、とりあえず種類を集めただけで用途の違いがわかりにくい。辞典の箱に書いてあることくらいしかヒントがなく、どうやって選べばいいのかわからない人には決定打がない。
書店の国語辞典棚の例をもう1つ。上の棚には、青い箱や革装のものなどいろいろなバリエーションの『新明解国語辞典』が並ぶ。その下の棚は、『三省堂国語辞典』の普通版と小型版がたくさん並べられている。この2つの辞典は実際によく売れているのだが、小型国語辞典の種類があまりにも少ない。せめて改訂がしっかり行われている辞典、代表的なところで『新明解』と『三省堂』のほか、『明鏡国語辞典』『岩波国語辞典』『新選国語辞典』の5冊は常に棚に置いてもらいたい。
『明鏡国語辞典』は文法項目が非常に充実した辞典でライターの方も結構使っている。『岩波国語辞典』は、最新版は大きく方針転換して現代にもフィットする一方、文学研究の先生や学生が昭和初期などの文章を読むときに非常に重宝していると聞く。『新選国語辞典』はもう第十版まで出ていて、非常に歴史があり現在の日本語にも対応している辞典だ。
3月、4月は卒入学シーズンなので、子どものために買うという人も多い。辞典棚の前に来る人たちはそもそも興味を持って来ているはずなので、どうアプローチするか考えていただきたい。平置きで国語辞典がたくさん華やかに並べられているのをよく見かける。でも、どの辞典も何らかの「ナンバーワン」、あるいは「信頼」「安心」などの言葉をうたうので、ユーザー目線に立つとその違いが結局分からないことになる。
何年かに一度、国語辞典棚に来るユーザーとはどういう人たちなのかを考えてみる。基本的には国語辞典はどれも同じことが書いてあると思っている人たち。その裏には、言葉には「正しい」ものが存在すると思っている。だが、どの国語辞典も正しさはあまり標榜していない。国語は生き物なので、10年たてば日々使っている言葉やその意味もだいぶ変化するからだ。
しかし国語を専門にしない人にとってみれば、言葉には正しい意味、正しい使い方があるゆえに誰が書いても同じだろうと考える。結局新しいものを買わなくてもいいと思い、お父さんの古い辞典をいまだに使っていたりする。だが言葉の意味は広がったり限定的になったり、新語や新用法が登場している。また、常用漢字表は2010年に改訂され、今は2136文字が入っている。古い辞典を使い続けている人たちは、現代の日本語を読んだり書いたりするのには向かないものを使っているので、今使うべきは最新の辞典だということを訴求したい。
また、言葉が分からないときに国語辞典を引くものなので、収録語数が多いほうがいいだろうと思っている。でも、一定のページ数で収録語数を多くすると説明は簡素になる。一方、収録語数が少ないことは説明に文字を割いている丁寧な辞典だということだ。収録語数の多さだけで比較しようというお客さんもいると思うので、本当に自分が求めているのはそこなんですかと辞典棚で気づいてもらえるようにしたい。
〔同じ言葉を引き比べた表を作る〕
Webと違って書店のいいところは、自分のニーズに合った国語辞典をマッチングできるところだ。「あなたのニーズに合った国語辞典を選んでくださいね」と展開することがリアル店舗の強み。せっかく書店に来て国語辞典棚の前に立った人に、本当にその人に合った辞典をマッチングしていただきたい。まず自分のニーズに気づいてもらい、そのニーズにフィットする辞典が分かるような陳列やPOPを駆使していただければと思う。それは手間だと思うかもしれないが、一回ここで手間をかければあとはそれを使い回すことができる便利なジャンルなので、考えてほしい。
わざわざ書店の国語辞典棚に来るユーザーは、それなりに本が好き、書店に行って本を探すことの意味を分かっている人たちだ。受験のため、学習のため、自分はこういうことを求めているというのを何となくぼんやりと持っている人が国語辞典棚に来るときに、売れているものだけが陳列されているとなると、ニーズに応えられない可能性がある。でも、リアル書店はそこはちゃんとニーズに合ったものを提供できる場であってほしい。ネットで調べてもアマゾンで調べても分からないという人に、本屋に来てよかった、今こういうのがあるんだ、というのを分かってもらうだけでも十分収穫があると思う。
私の本では、国語辞典を擬人化し、タイプの子とマッチングするという意味でキャッチコピーなども付けて紹介しているので参考にしてみてほしい。国語辞典には、小型、中型、大型とか、読む用、書く用、ニュアンス用といった用途別、小学生用、中高生用、大人用といろいろ種類がある。現代語に特化した辞典もあれば古語辞典や漢和辞典、英和辞典などいろいろな辞典の要素が入ったり、カタカナ語、イラストに力を入れるとか、簡素な説明なのか語釈重視なのかなど、あの手この手で特徴を出そうと頑張っているジャンルでもあるので、陳列ではそうした各出版社の努力も汲んでいただければと思う。
私は、国語辞典は最低2冊持って読み比べようと訴えている。陳列では、「恋愛」とか「右」「ない」など、同じ言葉を引き比べて違いが明確になるような表を作ってみる。また、その辞典の特徴がよく出ている項目を掲示してみてほしい。辞典の序文や、箱に小さく書いてある場合もあるし、出版社が送ってくるプロモーションの小冊子などを参考にする。辞典の種類が多過ぎて困るという場合は、2010年以降に改訂されていて現行の常用漢字表に対応したものを置く。常用漢字表に対応しきれていない辞典は、実際はもう死にかけている辞典だと思う。今後も改訂が予定される、生きている辞典を置いていただきたい。
辞典棚が充実すれば、「この書店は信用できる」と思ってほかの本も買いに来るお客さんがたぶん出てくるだろう。そういったユーザーのためにもぜひ魅力的に陳列していただければと思う。

12月期販売額は5・7%減/雑誌の大幅な減少が続く/出版科研調べ

出版科研調べの12月期の書籍雑誌推定販売金額(本体価格)は前年同月比5・7%減となった。内訳は書籍が同3・5%減、雑誌は同8・2%減。雑誌は前年同月に2桁減と大きく落ち込んでいたが、そこからさらに減少した。雑誌の内訳は、月刊誌が同9・1%減、週刊誌が同1・8%減。月刊誌はコミックスが前年同月に人気作の新刊が集中していたのに対して当月は大物が少なく、大幅に減少した。週刊誌は『週刊少年ジャンプ』などが曜日の関係もあって刊行本数が多く、発行・販売ともに小幅減にとどまった。
返品率は書籍・雑誌ともに改善傾向にあり、書籍が同1・0ポイント減の29・0%、雑誌が同0・7ポイント減の37・8%。雑誌の内訳は月刊誌が同0・8ポイント減の36・4%、週刊誌は同0・9ポイント減の45・3%。月刊定期誌とムックの返品率は年間を通して改善した。
書店店頭の売上は、書籍が約8%減。ゲーム攻略本は人気ゲーム最新作の攻略本『ポケットモンスタースカーレット・バイオレット公式ガイドブック完全ストーリー攻略』(オーバーラップ)が大きく伸びて好調だったが、児童書は前年同月プラスだった反動もあって約9%減と苦戦。その他のジャンルも地図・ガイド関連書以外は伸び悩んだ。
雑誌は定期誌が約3%減、ムックが約4%減、コミックスが約13%減。コミックスはアニメ化された『チェンソーマン』(集英社)と『ブルーロック』(講談社)が全巻好調だったものの、前年同月を上回るには遠く及ばなかった。
書籍扱いコミックスでは作者自ら監督を務めた映画が話題の「SLAMDUNK」が好評で、『THEFIRSTSLAMDUNKre:SOURCE』『SLAMDUNK新装再編版』(いずれも集英社)が大きく売り伸ばしている。

新書大賞に千葉雅也『現代思想入門』/中央公論新社

中央公論新社は2月10日、「新書大賞2023」の結果を発表し、千葉雅也『現代思想入門』(講談社現代新書)が大賞に選ばれた。
今回で第16回を迎えた同賞は、2021年12月~22年11月に刊行された1200点以上の新書を対象に、有識者、書店員、各社新書編集部、新聞記者など106名が投票して決定した。2位は稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)と篠田謙一『人類の起源』(中公新書)だった。20位までのランキングと、有識者48名の講評などが2月10日発売の『中央公論』3月号に掲載されている。

富樫建氏が専務に昇任/日販GHD役員・執行役員等体制

日販グループホールディングス(日販GHD)は2月20日開催の定例取締役会で、2023年度の役員・執行役員等の体制を決議した。富樫建取締役が専務取締役に昇任。取締役に小松和広氏と藤澤徹氏が、社外監査役に髙木融氏が新任。平林彰取締役会長、酒井和彦専務取締役、真鍋朝彦社外監査役は退任し、平林氏は相談役に就任する。取締役・監査役の選任については6月28日開催予定の第75回定時株主総会で決議する予定。
日本出版販売(日販)では4月1日付で、富樫建常務取締役が専務取締役に昇任するほか、取締役に田中宏樹氏が新任。野﨑利里子氏と重野美信氏が執行役員に新任する。安西浩和取締役副社長、髙瀬伸英専務取締役、平林彰取締役、小河洋一郎監査役、竹山隆也執行役員は退任し、安西、髙瀬、竹山の各氏は顧問に就任する。
日販GHDと日販の新経営体制は次の通り。◎印は昇任、○印は新任。
□日販グループホールディングス
 〔取締役・監査役〕
       (6月28日)
代表取締役社長(グループCEO)   吉川 英作
専務取締役(取次事業総括)     奥村 景二
同(グループ経営戦略担当、不動産事業担当)
      ◎富樫  建
取締役(グループCFO、グループCHRO、グループガバナンス担当)
      ○小松 和広
同(グループCIO)
      ○藤澤  徹
社外取締役(カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役社長兼CEO)
       増田 宗昭
同(学研ホールディングス代表取締役社長)
       宮原 博昭
同(ジャーナリスト)
      大門 小百合
常勤監査役  西堀 新二
社外監査役(森・濱田松本法律事務所パートナー)
       金丸 和弘
同(税理士法人髙野総合会計事務所社員 公認会計士・税理士)○髙木  融
 〔執行役員〕 (4月1日)
取次事業責任者(日本出版販売代表取締役社長)
       奥村 景二
同(MPD代表取締役社長)     長  豊光
小売事業責任者(NICリテールズ代表取締役社長)
       近藤 純哉
海外事業責任者(日販アイ・ピー・エス代表取締役社長)    佐藤 弘志
雑貨事業責任者(ダルトン代表取締役社長)
       君塚  真
エンタメ事業責任者(日販セグモ代表取締役社長)
       安井 邦好
コンテンツ事業責任者(ファンギルド代表取締役社長)     梅木 読子
グループシェアード責任者(日販ビジネスパートナーズ代表取締役社長)
       小松 和広
グループIT責任者(日販テクシード代表取締役社長)     藤澤  徹
(NICリテールズ取締役会長)    露木 洋一
(日販グループホールディングス事業統括室長)
       平岡  隆
□日本出版販売
       (4月1日)
代表取締役社長
       奥村 景二
専務取締役(物流本部長)
       酒井 和彦
同(プラットフォーム創造事業本部長)◎富樫  建
常務取締役(マーケティング本部長、流通改革推進部・仕入部担当、渉外担当)     中西 淳一
取締役(CVS部・ネット営業部担当) 伊藤 宏治
同(文具雑貨商品本部長)
       野口 瑞穂
同(管理本部長)
       小松 和広
同(マーケティング本部副本部長、マーケティング推進部・支社担当)
      ○田中 宏樹
同      吉川 英作
監査役    西堀 新二
執行役員(マーケティング本部副本部長、支社担当 TSUTAYA事業統括)       長  豊光
同(物流本部副本部長)
       太田 紀行
同(管理本部副本部長、人事部長)   徳田  毅
同(図書館営業部長)
      ○野﨑利里子
同(マーケティング本部副本部長、支社担当 特販首都圏支社長)○重野 美信

日販「出版流通改革レポートvol.6」/書籍粗利改善は計画内で進捗

日本出版販売(日販)は1月25日、出版流通改革の昨年12月までの取り組み進捗をまとめた「出版流通改革レポートvol.6」を発行。書店粗利改善施策「PPIプレミアム」は、参画書店の平均マージンが28・0%に。雑誌粗利改善施策の参画書店の平均マージン改善率は1・2%増となった。
日販が取り組む低返品・高利幅スキーム「PPIプレミアム」は、売上拡大・低返品・コスト削減により得られたプロフィットを書店に還元することで、取り組み書店の書籍マージン30%を実現する施策。参画書店の平均マージンは28・0%で22年3月から平均0・1ポイント増加し、市況が厳しい中でもマージンは維持している。
書店粗利改善の参画出版社は29社で、シェアは37・8%。22年10月より、三省堂、サンマーク出版、TOブックスが新たに参画。23年2月以降、主婦と生活社、小学館、誠文堂新光社が参画予定。参画書店は21法人で、シェアは49・6%。22年度の目標は出版社シェア40%超、書店シェア40%超、マージン29%超とし、参画シェアはいずれも達成の見通しで、日販では「計画内で進捗」と評価している。
参画書店のPOS売上・返品率実績を全国動向と比べると、グループ書店3法人のPOS実績は前年比2・1%減で全国動向差3・1ポイントのプラス、返品率は23・5%で同8・8ポイントのマイナス。売上、返品率ともに全国動向より好調に推移している。21年10月に参画した7法人では、POS実績が前年比4・0%減で全国動向差0・2ポイントのプラス、返品率は19・0%で同13・8ポイントのマイナス。返品率は20%を下回り、全国動向に対し大きく差をつけている。22年7月に参画の9法人では、POS実績が前年比15・6%増で全国動向差15・8ポイント、返品率は25・2%で同7・1ポイントのマイナス。売上は前年比20%増に迫り、返品率も20%台で推移する。
雑誌粗利改善施策の契約銘柄は計210誌、契約銘柄シェアは28・2%となった。22年10月以降、講談社「月刊少年マガジン」など計10社、23誌が参画。23年3月までに計5社、6誌の参画を予定している。参画書店は計6法人、参画シェアは33・2%になった。
参画書店では、対象商品を最新号発売以降もバックナンバーとして割引販売する。参画書店のマージンは平均で1・2%改善した。22年度の目標は、契約銘柄シェアが40%超、書店シェアが55%超、マージン2%超改善としているが、いずれも未達の見込み。
配送コース再編では、首都圏は東京都、神奈川県ほかの一部エリアの再編を実行し、147コースから121コースへ削減。22年度は運送会社7社のトラック走行距離を1日当たり911km削減し、積載率は10%増の40%になった。一般的な営業用トラックの積載率は平均39%で、一定水準まで改善している。名古屋では、大高運輸のエリアで22年度中に協議を開始し、23年度上期での実行を目指す。関西は、もともと配送時間が短く目指す効果が得づらいため22年度中の実施は見送った。共同配送は、先行エリアとしてカンダコーポレーションと実行に向けた協議を進めている。

「本屋のあとがき」/「本屋大賞の20年」/ときわ書房文芸書・文具担当・宇田川拓也

2023年本屋大賞の2次投票が、2月末日で締め切られた。全国471書店、615人の書店員の1次投票により選出された10作品から、果たしてどれが大賞に輝くのか。投票者のひとりとして結果が愉しみでならないが、今年の本屋大賞は20回目という節目を迎えた点でも注目だ。
もう20年か、と感慨もひとしお。第1回目のときは、当然ながらいまほど目を向けられることもなければ、版元も珍しいものを見るような態度だったと記憶している。セールス効果では歴史ある文学賞にも負けない現在と比べてみると、その違いの大きさには驚嘆するしかない。
ご存じない方も多いが、本屋大賞の公式ウェブサイトでは、この賞を立ち上げるきっかけとなった「本の雑誌」2003年9月号掲載の書店員緊急座談会が読めるようになっている。
改めて目を通して見ると、不景気かつ本が売れないことへの危機感がひしひしと伝わってくるが、いま20年前を振り返ると、業界にも充分活気があったし、本もはるかに売れていた。結局のところ、なかなか売れない本をそれでも売っていこうとする本屋で働く側の意識は、当時もいまもまったく変わらないのだ。
それでいいと思う。売れない本をそれでも労を惜しまず売ろうとする意識の裏側には、本が広くひとの手に届くべきだという理解と納得があるからだ。命短しあがけよ書店人。さて、今日も前を向いて正しくあがいていくとしましょうか。