全国書店新聞
             

令和4年3月1日号

「ロス対策士」育成に本腰/万引防止出版対策本部5年目の活動/寄稿=阿部信行事務局長

日書連など6団体・1企業で構成する万引防止出版対策本部(出版万防、矢幡秀治本部長=日書連会長)の活動が5年目に入った。昨年11月10日の第5回総会では、書店利益確保のために各書店で「ロス対策士」を育成するよう促進活動を行うことなどを盛り込んだ活動計画を決定した。全国万引犯罪防止機構(万防機構)は昨年7月にロス対策士検定試験をスタート、これまで3回試験を行い、書店や取次を含め計357名の認定ロス対策士が誕生している。出版万防・阿部信行事務局長に出版万防のこれからの活動と、万引防止対策に果たすロス対策士の重要性について寄稿してもらった。
【出版万防第5回総会報告から】
〔事業報告〕
1、書店の外的環境への対応
1)万防機構インターネット委員会で、引き続きインターネット上での不審な出品への対策を構築準備。その他新古書店部会発足に向け協議を継続。
2)「第13回全国小売業不明ロス・店舗セキュリティ実態調査」への書店参加を促進し、書店データを抽出し資料とした。
3)JPOとRFIDの勉強会準備会を開催し、合わせて経産省担当と情報交換した。
2、書店の内的環境に対する働きかけ
書店が独自で万引防止に取り組めるための支援施策を展開。
1)研修支援対応として日書連全組合に明日香出版社提供、豊川奈帆氏著の小冊子、並びに第13回実態調査を配布。
2)21年2月刊行の「ロス対策テキスト2021」を書店促進し、7月に第1回試験を実施。
3)万引防止のための情報発信。
①警察庁後援の日書連統一ポスター、書店マイバッグマナーポスターを配布。また本紙に当本部の活動報告を掲載。
②冊子「中1の保護者さまへ」への編集協力により全国110万人の新中学1年生の保護者に万引に対する書店人の気持ちを伝えた。
③3書店によるセルフレジの万引防止策に関する対話を新文化に掲載。
3、渋谷プロジェクトの成果の水平展開
1)全国書店新聞他メディアに1年目の総括を掲載。
2)地域誌掲載やイベントでの情報発信、東京都安心安全街づくり協議会での講演等により万引防止の地域連携体制構築の必要性を発信。
〔事業計画〕
1、書店の内的環境への働きかけ
1)自店の万引防止力を向上し、自店防衛によりロスの根絶、削減を達成するため次の諸施策によりロス対策士資格の普及・促進を目指す。
①日販出版流通学院とのコラボレーションによるLP教育制度作成委員会委員長・近江元氏のセミナーの促進用無料動画の活用
②「トーハン週報」ロス対策士特集記事の活用
③日書連を始めとした各書店団体への促進
④取次を通じた関係書店への促進
2)渋谷プロジェクトのノウハウの水平展開
2年間の蓄積を共有するための情報開示と実践
①2021年11月、2年目の状況共有
②2022年4月の個人情報保護法改正への対応
③顔識別機能付きカメラ導入の促進と研修対応
④万引敢行者登録ノウハウの共有
2、書店の外的環境への働き掛け
1)インターネット上の不審な出品に対する牽制を目的としたメッセージ発信の研究。
2)万引防止のためのRFID普及に向けた対応
3)新古書部会創設へ向けた継続協議。
3、研究活動
1)愛知県常滑署の実践例による仕掛学活用の研究。
2)書店地域万引防止連絡会設立。
【万引予防で利益確保/ロス対策士が重要な役割】
以上の活動内容を踏まえ、「ロス対策士」に焦点を当てて記述します。
1、日本出版インフラセンター(JPO)調査から
2008(平成20)年にJPOが発表した「書店万引き調査等結果概要」から、万引によるロス率は1・41%と推定されています。貴店のロス率はどうなっていますか。まずは自社全体の、そして店舗ごとのロス率を知るところから万引防止活動は始まります。
2、万防機構が実施した被害調査から
前述の「第13回全国小売業ロス・店舗セキュリティ実態調査」分析報告書の書店回答で気になった結果を紹介します。貴社、貴店と比較してみてください。
1)「万引防止を担当している部署」は、72・5%の社が店舗とし、18・8%が本部と回答しています。各法人の事情があることから一概には決めつけられませんが、万引対策が店舗任せになってはいないでしょうか?万引防止を「利益を逸失してしまう経営課題」として捉え、経営(本部)としての基本方針と、各店舗の個別課題の発見と解決という2本柱での対応が必須と考えています。
2)「万引犯罪発生時に他社と情報共有を行う仕組み」について、15・9%の社が「ある」と答え、81・2%が「ない」と答えています。後述の渋谷プロジェクトにつながるポイントですが、万引被害の他社との情報共有は、「万引防止のためには個店の努力のみでは限界があり、近隣他店との情報共有による防止が必須である」という認識に基づいています。商売上は競争関係にあるものの、防犯に関しては共同して取り組もうという共通認識です。
3、渋谷プロジェクトの2年目の状況から
1)同プロジェクトの2年目の状況は先般本紙で既報の通りです。注目の点は2021年の5月から7月にかけての状況です。再来店事案は、2年目は年間28件で前年比12件増ですが、当該期間だけで18件あり、年間シェアで64・3%もあります。とするとマスク顔が検知できなかった期間の再来店事案はどのくらいあったのかと、この結果に今更ながら驚いた訳です。周知のことでしょうが具体的な数値をもって示せたことで、万引被害撲滅への第一歩は常習者対策であることが明確化されました。
2)渋谷プロジェクトの本質
このプロジェクトは顔認識カメラという最新技術を活用した取り組みです。誤登録、恣意的な登録はあってはなりませんし、そのため登録まで幾重のチェックを経ます。また万引敢行者の再来店を受け発報しても、当人を特別凝視したり犯人扱いすることはせず、自然な注視行動による抑止を旨とします。このように万引敢行者を抑止し捕捉するのは「人」です。機械はその補助にしかすぎません。人間力が基であって、それを機械力が補完する関係で成果を上げているということです。
4、そして「ロス対策士」の自店養成へ
以上、万引は常習者の敢行が予想通り多いこと、共同対策によりロス率が下がっていること、そして人間力がその基盤となっていることを報告しました。加えてこの共同対策の成果を公表してきたことのアナウンス効果がロス率改善の力になったとも考えています。かつて徳島の書店がある事案で、多くのメディアに情報提供したことが思い起こされます。
現状、万引防止は自店独自で対策するもの、自店の万引被害を明らかにしないという考え方が大勢でしょう。またそこから他店と被害状況や対策を共有することもないと存じます。
それとは逆に、万引被害防止に共同して取り組み、その結果を共有して更に改善を重ねるという取り組みがあってもよいのではないでしょうか。「共同」という取り組みを地域的隣接性に拘って述べている訳ではありません。広域的であっても共に研究し、自店の取り組みとその成果を知らしめ、そのアナウンス効果で出来心的敢行を思い止まらせるとともに、これら常習者の万引敢行を未然に防ぐという逆転の発想による万引対策が必要ではないでしょうか。そのための橋頭保、中心人物として「ロス対策士」を自社で養成することが重要と考えます。各店のロス対策士が、自店での取り組みを基に、企業の枠を超えて他店と相互に様々な情報共有を図る――そんな新しい万引防止の姿に被害撲滅の未来を見ています。
5、「ロス対策士」受験の現場から
まとめとして「ロス対策士」検定試験の2021年度全3回の受験状況についてご報告いたします。
2021年2月発刊された「ロス対策テキスト2021」は、200部を書店用在庫としました。1月末現在155部が出荷され、そのうち先行取次のシェアは4分の3を超えています。次に延べ受験企業数に占める書店関係の占有は21・3%に対して、受験者数に占めるそれは41・6%となっています。これは既に書店業界においては、「ロス対策士」の効用に着目した法人の組織的対応が始まっていることを物語っています。
次回の第4回検定試験は5月17日に実施され、第5回は11月9日に予定されています。前述のLP教育制度作成委員会・近江委員長の促進用無料動画の活用等により、更に多くの書店にロス対策士が理解され、問題意識を持った多くの受験者が当該試験にトライされることを願ってやみません。
最後に、ロス・プリベンションの伝統的リスクマネジメント手法を別表に掲げます。是非ロス対策士養成の参考としてください。
【ロス対策士検定試験とは】
万引など小売店舗におけるロス防止に取り組む、全国万引犯罪防止機構(万防機構)が設立した検定試験。欧米ではすでに広く認知され、研究活動も進んでいるロス・プリベンション(損害予防)教育を普及させ、ロス対策の知識と技術を向上し、実際の現場で活用することを目的としている。
万防機構は、この検定試験の公式テキスト「ロス対策テキスト2021」(定価本体2800円)を発行している。テキストと検定試験で得た学びの成果を書店店頭の実際の現場で活用し、万引防止などロス対策に役立てていただきたい。
【第4回「ロス対策士」検定試験実施要項】
◇受験日時2022年5月17日(火)正午~翌18日(水)正午(ログインは11時まで)
◇受験方法ウェブテスト(ネットワーク環境で受験者自身のパソコン、タブレット、スマートフォンで受験可能。事前に受験者にアクセス方法を知らせる)。受験時間60分間(試験開始時刻は上記日時の中で任意)
◇受験手数料
万防機構個人会員および企業会員
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