全国書店新聞
             

令和3年3月15日号

デジタル教科書慎重に検討を/矢幡会長と春井副会長、活字議連・笠事務局長に要望

日書連の矢幡秀治会長と春井宏之副会長は2月3日、重徳和彦衆議院議員(立憲民主党・愛知12区)の紹介で、衆議院第二議員会館に活字文化議員連盟事務局長の笠浩史衆議院議員(同・神奈川9区)を訪問。「デジタル教科書の基準見直しに関する意見書」を手交し、教科書のデジタル化推進にあたっては、子どもたちの健康面や脳への影響、紙・活字文化の重要性などを考慮し、慎重に検討してほしいと要望した。笠氏は、政府や文部科学省の動きを注視し、間違いのない方向にもっていくよう努力すると応えた。
政府は昨年12月18日に開いた経済財政諮問会議で、義務教育学校でのデジタル教科書の普及率を、2020年3月時点の8・2%から2025年度までに100%にすることを目指す目標を定めた。2024年度からの教科書改訂に合わせた本格的に導入に向けて、有識者会議で今後のあり方を検討し、今年夏頃に報告書をとりまとめる。また、学校現場でのデジタル教科書の普及促進を図るための実証実験を、今年4月から実施していくという。
矢幡会長は、デジタル教科書で学んだ子どもたちが大人になった時にどのような影響があるかという観点からの議論が行われていないことを危惧し、「書店組合は読書推進運動を展開していることもあり、子どもたちの将来を心配している。デジタル化に反対はしないが、有識者会議では子どもたちの将来を考えて検討していただきたいと考えている。大人になった時に悪い影響が出ても、(子どもたちの人生は)もう取り返しがつかない。教科書のデジタル化推進にあたっては、慎重に慎重を期した上で取り組んでいただきたい」と求めた。
春井副会長は「デジタル化が進むことで今よりも読書人口が減るようなことがあっては困る」と懸念を伝えた。
笠氏は、GIGAスクール構想で1人1台端末環境が急速に進み、さらにコロナ禍の教育現場でデジタルとの向き合いが求められている中、デジタル化の流れを止めることはできないとの前提を述べた上で、「教科書が完全デジタルでいいかというと、決してそうは思わない。読み書きの能力の低下、活字離れにつながりかねず、少なくとも小学校の発達段階までは紙の教科書は重要だ。中学校以降はある程度のデジタル化はいいと思うが、フルスペックでのデジタル化については慎重に考えなければならない」との認識を示した。そして、「デジタル教科書の導入にあたっては注意深く臨まなければならない。議連もデジタル教科書は重要テーマと認識しており、様々な角度から検討していきたい。国会でも議論する」と述べた。
重徳氏は「教育分野で全面的にデジタル化を進めれば様々な問題が出てくる。紙の価値をもっと正面から主張してもいい」と述べ、今後この問題に積極的に取り組んでいきたい考えを示した。
【デジタル教科書の基準見直しに関する意見書】
昨年12月18日に開催された政府の経済財政諮問会議において、義務教育における学習者用デジタル教科書の普及率を2025年度までに100%にするとの工程が示されました。まずは2024年度からの教科書改訂にあわせた本格導入を目指し、有識者会議で今後のあり方などを検討の上、今夏には報告書がまとめられるとのことです。
デジタル教科書の使用には「情報伝達型の授業から脱却して児童、生徒主体の学習が実現する」、「授業が楽しくなることで、学習意欲が高まる」、「重い教科書を持ち運ぶ必要がなくなる」などのメリットがあり、教育分野のデジタル対応は今後一層加速することが予想されます。
しかしながら教科書のデジタル化に関しては、視力低下や睡眠障害など健康面での影響を心配する声とともに、学習効果自体に懐疑的な意見も少なくありません。海外では小学校高学年グループの半数に紙の書籍で、残りの半数にタブレット端末で短編小説を読ませたところ、紙で読んだ生徒の方が内容をよく把握していたという事例がありました。タブレット端末からの情報を受けた人間の脳からは興奮性の神経物質であるドーパミンが出ているため、文章の読解に集中できないことが原因ではないかと考えられていますが、これが普遍的な事実となれば、若年層の読解力低下が憂慮されている我が国において、デジタル教科書の使用は最適ではないばかりか、状況を更に悪化させる可能性もあります。
子どもたちは将来の日本を背負う社会の宝です。教科書のデジタル化推進にあたっては、健康面でだけでなく脳への影響も考慮し、慎重のうえにも慎重を期した検討が不可欠です。諸外国と比較して少ないと言われている日本人の読書量が更に減少する結果を招くことのないよう、ひいては日本の国力を落とすことがないよう強く希望します。
日本書店商業組合連合会

20年のコミック市場紙+電子、23・0%増/統計開始以来最大に

出版科学研究所は2月25日発売の『出版月報』で、2020年の紙と電子を合わせたコミック市場規模(推定販売金額)は前年比23・0%増の6126億円と発表した。ピークだった1995年の5864億円を超え、78年の統計開始以来過去最大の市場規模となった。販売金額の内訳は、紙が同13・4%増の2706億円、電子が同31・9%増の3420億円。

丸岡義博日書連元会長が逝去

廣文館書店(東京・千代田区)代表取締役社長で日書連相談役の丸岡義博氏が1月7日に死去した。享年75歳。葬儀は家族葬にて執り行われた。喪主は妻の丸岡恵子さん。
平成5年日書連常任委員、15年副会長、17年に萬田貴久氏のあとを継いで第7代会長に就任。以降、平成19年に退任するまで1期2年会長職にあった。同年相談役に就任。
会長在職中、平成17年に立ち上げた書店経営実態調査特別委員会で6年ぶりとなる「書店経営実態調査」を実施し、18年に調査報告書を公表。同調査で判明した問題の改善策を検討・実施する機関として「書店業界環境改善政策審議会」と「環境改善検討ワーキング機関」を設置し、マージン拡大、返品入帳改善、支払いサイト延長などに取り組み、書店業界環境改善運動の先頭に立って運動をリードした。マージン拡大では「新販売システム」を導入し、出版社の協力を得て受注生産・満数配本・完全売り切り(返品ゼロ)を目指す施策を推進するなど、街の中小書店の店頭活性化で成果をあげた。

出版社4社の企画を増売/東京組合

東京都書店商業組合(矢幡秀治理事長)は2月2日、東京・千代田区の書店会館で定例理事会を開催。出版社4社の増売企画に取り組むことを承認した。
KADOKAWAの『角川まんが学習シリーズ世界の歴史』全20巻は、初回限定特典の「懐中コンパス」付きセットを東京組合限定で30セット用意。文藝春秋の企画は、文春文庫の須賀しのぶ『革命前夜』、佐藤愛子『老い力』を拡売。祥伝社の企画は、守屋淳著『こども論語と算盤』と「東京歴史街歩きフェア」セットを増売する。PHP研究所の企画は、畠山健二著の文庫「本所おけら長屋シリーズ」特別増売を実施。3月下旬の16巻発売に合わせ1巻と16巻が各3冊、2~15巻が各1冊のセットを全組合員に送付し増売に取り組む。条件は4ヵ月延勘。1~15巻の販売冊数に対し報奨金がつく。

日書連「キャッシュレス決済利用状況アンケート」報告書まとまる

日書連は、組合加盟書店のキャッシュレス決済の導入状況を把握し今後の支援活動に役立てることを目的に、「キャッシュレス決済利用状況アンケート」を昨年実施し、このほど報告書をまとめた。
調査は、神奈川、東京、愛知、大阪、兵庫、福岡の6組合に加盟する書店1033名を対象に調査票を郵送し、FAXで記入票を返送する方法で実施。調査票は2020年7月30日に発送、8月31日回収締切。回収総数は326票で、回収率は32%。
国は19年10月の消費税引上げの緩和策として「キャッシュレス・ポイント還元事業」を実施し、参加店に対しキャッシュレス決済手数料の割引等の補助を行ったが、同事業は昨年6月終了し、決済手数料の負担が書店経営に重くのしかかっている。日書連ではこの報告書の分析を元に、中小書店が参画しやすい決済手数料となる施策の実現を関係各所に働きかけていく方針。
報告書によるとキャッシュレス決済を「導入済み」の書店は153店(66・0%)、「導入するつもりはない」は72店(31・0%)だった。「導入済み」の書店に導入の理由を尋ねると、最も多かったのが「来店客数・客単価の増加が期待できるため」の57・7%。導入後に実感したメリットでトップになったのは「来店客数・客単価の増加」の47・1%、デメリットのトップは「コスト(初期費用、手数料)がかかる」で38・4%だった。
国の「キャッシュレス・消費者還元事業」に参加した書店の割合は79・9%で、そのうち59・6%の書店が効果があったと回答。来店客数や客単価のアップ、新規客の来店などの効果がみられたとの声が寄せられた。キャッシュレス決済について悩み事を尋ねる自由記述では、「利益率が低いのに手数料率が高い」「手数料負担が多くなったので、手数料が高いクレジットカードは契約を終了するか検討中」など、決済手数料の負担を懸念する意見が多数みられた。

「読者還元祭」しおりを全組合員に配布/店頭以外でも読者誘引に活用/大分組合

大分県書店商業組合(二階堂衞司理事長)は、日書連が始める「春の読者還元祭」で使う「しおり」1束(500枚)を組合加盟各書店へ無料配布することを決めた。この事業の実施は、新型コロナウイルス感染防止の観点から正副理事長の協議で決定した。
「春の読者還元祭」は、「書店くじ」に替わる新事業として実施されるが、「書店くじ」の参加書店は全国的に減少傾向にあり、大分県でも近年の参加は数件にとどまっていた。「春の読者還元祭」では、QRコードを印刷した「しおり」を購入客に配布すれば書店の業務は終了する。これまで「書店くじ」で必要となっていた、当せん券の引き換えなど諸々の業務負担が解消するため、「読者還元祭」への参加書店の増加を期待している。
二階堂理事長は「コロナ禍の中で紙の出版物が見直されている。書店くじは、1束500枚では多いと考え申込みをためらっていた組合員もいたと思う。今回のしおりは、職域配達したときなどに、そのお客様だけでなく周りの普段購入していない方にも配ることができ、使い勝手がよい。改めて地元の書店をアピールするツールとして使っていただきたい」と話した。
賞品の図書カードネットギフトは読者のスマートフォンにメールで送られるため、普段スマホで決済することが多い利用者にも利便性を訴求できる。「読者還元祭」は書店ごとに読者の応募件数を集計し、200件以上の応募を集めた書店には報奨金3000円(税別)が支払われる。各店でキャンペーンに積極的に取り組んでいきたい。
(大隈智昭広報委員)

新事業「読者還元祭」を実施/「デジタル教科書」に関し意見書/日書連2月理事会

日書連(矢幡秀治会長)は2月18日、東京・千代田区の書店会館で定例理事会を開催した。11都府県に新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発令されていたことから、書面議決書の提出による出席を呼びかけ、実出席者は少人数に絞った。
◇書店くじに替わる新事業「春の読者還元祭2021」実施について提案し、承認した。同事業は1000円分の図書カードネットギフトが3000名に当たるキャンペーンで、第1回を4月20日(火)から4月30日(金)に実施する。QRコードを印刷した「しおり」を書店に頒布し、読者は書店店頭で「しおり」を入手してQRコードから応募。賞品の図書カードネットギフトは、日本図書普及から当選者のスマートフォンにメールで送る。店頭業務の負担を解消することでより多くの書店が参加しやすい仕組みとしており、期間中の来店客・購買客の増加を目指す。店頭活性化活動の一環として、日書連傘下組合加盟書店全店に「しおり」100枚を無料配布する。
◇独自企画を提出した組合に補助金を支給する「令和2年度読書推進活動補助費」に、11月30日の締切までに11組合から応募があった。12月8日開催の選考会で精査した結果、青森、岩手、愛知、富山、大阪、京都、奈良の7組合に各20万円、山梨組合に18万1100円、兵庫組合に10万2100円、総額168万3200円を支給することを提案し、承認した。
◇21年4月1日施行を予定している国のデジタル教科書制限見直しに関連して、慎重な検討を求める「デジタル教科書の基準見直しに関する意見書」を承認した。
◇阪神コンテンツリンク、阪神電気鉄道、阪急阪神ホールディングスが共催する「Withコロナ展示会inデジタル甲子園」(21年3月10日~12日)の日書連協賛名義使用申請を承認した。
[政策委員会]
20年度の決算は黒字になる見込みと報告した。
[広報委員会]
各都道府県組合に「広報委員」の21年度登録を要請した。広報委員は各種組合活動の記事を執筆し、全国書店新聞に投稿する役割を担う。任期は21年4月から22年3月まで。後日、各組合宛に委員推薦依頼の文書を送付する。

「春夏秋冬本屋です」/「紙とデジタル」/鹿児島・楠田書店店長・楠田太平

昨年は巣ごもり需要やヒット作が書店業に上向きの影響をもたらしたところもありましたが、部門別売上においてデジタル関連が「紙」を上回った出版社もあるようです。
未来の本のあり方を考えるとき思い浮かぶことがあります。映画「マトリックス」で屋上に追い詰められたキアヌ・リーブス演じる主人公はヘリコプターを見て「操縦方法を知っているか?」と聞きます。それにヒロインは「今からよ」と答えます。そして基地にいる仲間のオペレーターが、操縦方法をヒロインの脳に直接送りこむのです。書物を「情報・知識を伝える手段」とするならば未来にはテレパシーのように伝達する機能を持つものが出てくるのかもしれません。小説などのように感情を動かす「読書体験」は異なる形をとってリアリティを増す「経験」にさえなる可能性もあります。
どのくらい未来のことか分かりませんが、宇宙での生活が実現したとき、今のように紙の本が身近にある状況は想像に難くもあります。宇宙への輸送コストはかなり大きいため、形ある本が地球と宇宙を行き来するとしたらどのようになるでしょうか。
料理に使い暖房として日常生活に欠かせない家庭燃料だった炭は電気、ガスに替わられました。同じように馬車から自動車、郵便手紙から電子メールへという変化もあります。炭はバーベキューでの利用、馬車は観光資源として活用されるなどしていますが、紙の本も非日常的な存在になるのかもしれません。
1年間、拙文にお付き合いいただきありがとうございました。皆様に感謝申し上げます。

「春夏秋冬本屋です」執筆陣が4月1日号から代わります

街の書店が日々の仕事を通じた喜びや手応えを綴る「春夏秋冬本屋です」の執筆陣は、4月1日号から以下の4氏に代わります。引き続きご期待ください。
岩手・小原書店 小原玉義氏
千葉・ときわ書房本店 宇田川拓也氏
奈良・倭の国書房 靏井忠義氏
愛媛・文具座やまさき 山﨑由紀子氏