全国書店新聞
             

平成21年8月1日号

小売公正競争規約を一部改正/景表法の管轄、消費者庁移管で

小売公取協は25日の理事会で景品表示法の管轄が公取委から消費者庁に移管するのに伴い、出版物小売業公正競争規約、施行規則、組織及び運営に関する規則を一部改正することを了承した。消費者庁及び消費者委員会設置法の施行日から新しい規約、規則が施行されることになる。
東京組合とアクセスグループが共同で運営するケータイ書店サイト「BOOKERS」の販売するデジタルコンテンツは再販商品か非再販商品かという問い合わせに、影山専務理事は①著作物再販制度の対象になるのは書籍、雑誌、新聞、レコード盤、音楽用テープ、音楽用CDの6品目、②デジタルコンテンツは非再販商品として自由な価格で販売できる、③サイト内のポイント提供は対価の減額なら値引きに当たる、④景品提供の場合であれば、公取委の懸賞告示の範囲内であれば可能、などと説明した。

山形で図書館納入研修会

山形県書店商業組合は、「2009学校図書館システム導入研修会」を8月3日酒田で、4日には米沢で開催する。学校図書館電算化システム「情報BOX」の最新情報を伝えるとともに、県内のシステム導入事例、図書館活性化の具体例を説明する。酒田会場は酒田市総合文化センター、米沢会場は米沢市南部コミュニティセンター。いずれも午後1時半より。

大橋会長の2期目始動/責任販売制の拡がり期待

6月25日の日書連定時総会で大橋信夫会長の2期目がスタートしたが、7月23日に開かれた日書連理事会では常設委員会、特別委員会に続いて外部団体派遣委員を承認。リフレッシュした顔ぶれで新年度の取り組みを開始した。流通改善委員会の報告では、藤原直委員長が書店マージン35%を確保する中堅版元8社の新しい責任販売制「35ブックス」について、「広がりを期待している」と述べ、全国書店に支援を求めた。〔流通改善〕
筑摩書房など中堅出版社8社が発表した「35ブックス」は書店の粗利35%、返品時は35%の歩安入帳という仕組み。
藤原委員長は「2年前、日書連が新責任販売制を企画した時は取次出し正味を変えられなかったため、あとから補てんする形をとった。今回、ようやく取次が(正味変更を)のんだ。対象商品は復刊を中心に、既刊、新刊もあり、既刊については発行年を明記している。こういう形をきっかけに責任販売制が広がっていくことを期待している。各県組合で宣伝をお願いしたい」と述べた。
雑誌発売日問題では日書連の要望として、①北海道、九州地区の3日目発売を2日目発売にしてほしい、②沖縄の週刊誌空輸の早期実現、③年末年始、ゴールデンウイークの合併号を廃止し、レギュラー発売を励行してほしいなど、7項目を発売日本部委員会に求める。
また、出版社が年間購読割引、特別景品など、書店ではできないサービスで読者から直接購読しているケースが増えているという声があるため、問題のある雑誌を調査することになり、8月末までに日書連に提出してもらうことになった。
〔情報化推進〕
7月9日に開かれた全国情報化推進委員長会議の概要について、井門委員長から報告があった。
このうち久留米市が緊急雇用事業として教育センターの蔵書を日書連マークに切り替えるため2名、4カ月の雇用があったことについて、福岡組合山口理事長が報告。「来年度以降、久留米市の発注は地元書店に回ってくることが期待される」と述べ、地域の情報にアンテナを張る重要性を強調した。
開発中の「選書ツール」について井門委員長は「学年別貸出回数やランキング等の情報のほか、在庫情報をデータベースに反映していく」とし、12月までには提供できる見通しとした。
大分組合大隈理事長からは、中央会の補助金で書店の在庫をネット上で販売する仕組みを構築すると報告があり、井門委員長も全国の書店で利用できるのではないかと期待を述べた。
〔再販研究〕
アマゾン・ジャパンが早稲田大学の学生、教職員、卒業生に対して3%から8%の割引を行っている問題で、大橋会長は改めて「生協の組合員に対する割引とは一緒にできない。卒業生まで対象にするのもおかしい」と問題点を指摘。
山口理事は「民事保全法に基づいて現状を打破できないか。差し止めを求める仮処分申請の道も開けるのではないか」と問題提起した。
また、ソフトバンクのホワイト学割については当初8月31日までのキャンペーンとしており、その後の経過を確認してほしいという声が上がった。
近畿ブロック会では7月11日、昭和図書大竹靖夫氏を招いてアマゾン問題を中心に勉強会を開いたことが面屋、戸和両理事から報告された。当日の模様は「大阪書店組合だより」8月1日号に掲載される。
このほか神奈川組合からはショッパーズプラザ横須賀が7月18日から22日までの5日間、1割引のクーポンをつけたチラシを配布。テナントで入っている書店も1000円の本で100円値引きしたケースが報告された。
〔取引改善〕
取引用語の統一問題で、7月16日に取協と2度目の話し合いがもたれたことを柴﨑委員長が報告した。
この中で委員長は①新刊委託であれば書店―取次間は105日に対し、取次―版元間は120日と委託日数が違うことに問題がある、②ムック、コミックは返品期限なしなのにL表示で逆送される場合がある、③そもそも、委託でも買切りでも正味が同じなのはおかしい――などと問題点を指摘した。
〔物流研究〕
6月4日、24日、7月7日と相次いで委員会を開催。この間、出版社、取次と数回にわたり意見交換を行ったことを戸和委員長が報告した。
委員会の研究課題は①取次各社のウェブ特急便の特別正味が下げられないか、②取次で日書連独自のウェブ特急便が構築できないか、③出版社直の物流ルートが構築できないか――という3点。
出版社との意見交換について山本委員は「大手出版社は自社倉庫から直接出荷はむずかしいという反応だったが、中堅出版社は興味を示した」と報告。鶴谷委員は「集金はカード会社決済も考えられる」としたほか岩永委員は「(入荷の早い)アマゾンに対抗して取次の特別便を利用すれば、今度は85掛という高正味が書店経営を圧迫する」と問題点を指摘した。
〔理事交替〕
▽新理事=五藤栄一郎(高知市・冨士書房)
▽退任理事=本久善一(高知市・片桐開成社)

7地区で絵本ワールド/北海道は中学生フェア/7月理事会

〔読書推進〕
子どもの読書推進会議が展開している「絵本ワールド」。平成21年度は7月18日~20日の金沢市を皮切りに、郡山市(8月15・16日、ビッグパレット福島)、奈良市(8月29・30日、奈良教育大学)、松江市(同、松江イングリッシュガーデン)、神戸市(11月14・15日、神戸海星女子学院大学)、米子市(11月21・22日、米子コンベンションセンター)、鹿児島市(10年1月23・24日、南日本新聞会館)の7会場で開催されることを西村委員長が報告した。鹿児島は5年ぶりの開催となる。
北海道組合が実施する「中学生はこれを読め」のキャンペーンは7月17日から8月23日まで第6回フェアを各書店で行う。
北海道組合久住理事長は「ブックレット『中学生はこれを読め2』(=写真、A5判72頁、本体定価500円)を北海道新聞社から発行した。2006年に出た『中学生はこれを読め』は4刷、1万4千部出ている。今回も500選のリストと、リストの中から書店人のイチ押しとして101点を書店人が詳しく紹介した。今後、高校生版の『これを読め』も企画している」と説明した。
読売新聞東京本社と日書連のコラボ企画「読売新聞本屋さんへ行こう!キャンペーン」は9月16日から10月20日まで、書店で本・雑誌を購入したレシートを貼って応募すると総額30万円の図書カードをプレゼントするキャンペーン。首都圏の2千店にキャンペーンポスター、応募はがきを送付する。
〔増売〕
春の書店くじ特賞当選者は別掲の12名が決まり、「北京4日間の旅」にペアで招待する。また、Wチャンス賞には2620通の応募があり、100名の当選者を決めた。
児童図書出版協会とタイアップして行う「心にのこる子どもの本新刊セール」は、昨年4月から今年3月までに出版された児童書を①絵本セット、②読み物セット、③あそびと学習セット、④読み聞かせ絵本セットの4セットから受注。6カ月長期委託で出荷する。申込締切9月10日、商品は10月中旬発送予定。
〔財産運用〕
日書連共済会の残余財産は6月末現在5億3442万円。ホテルエドモントの解約に伴う保証金610万円が7月末に入金する予定であり、7月末か8月末に日書連に移したいと木野村委員長が報告した。
残余財産の処分方法について、木野村委員長は「今一度、各県組合の意見を聞いて結論を出したい」として、8月中に文書で意見を集約して9月理事会に報告すると述べた。
〔組織〕
6月期の各県組合の加入状況は加入2店、脱退14店で、6月末現在の組合員数合計は4月1日対比60店少ない5442店となった。
中山委員長は各県組合の総会開催の際には、事業報告、決算報告など関係書類を日書連に提出願いたいとした。
〔指導教育〕
所持するだけで罰則という児童ポルノ法案は、今国会で廃案になったことを鈴木委員長が報告した。また「35ブックス」の企画をめぐって「組合員から責任販売制の論文を募集してはどうか」という議論になったことが紹介された。
福岡組合が行った万引き防止キャンペーン(別掲)については、福岡組合山口理事長が「7年間継続して取り組んでおり、県警本部も全面的に協力してくれている」と報告した。
〔共同購買〕
日書連のオリジナル手帳「ポケッター」2010年版について、中山委員長は8月に送る申込書で注文願いたいとした、2010年版は9万部製作する。
〔広報〕
広報委員会副委員長に小泉忠男氏(東京・小泉書店)を決めたこと、全国広報委員会議は10月14日午後1時から書店会館で開催することを報告。今年の方針として面屋委員長は、廃業を思いとどまった書店を取り上げる「ストップ・ザ・廃業」のキャンペーンを展開したいと述べた。
※平成21年春の書店くじ当選者(カッコ内発券店)
北海道・秋山秀敏(マル三相馬書店)、青森市・木浪義美(吉野屋本間書店)、大崎市・遠藤純子(HON―YA!bySASAE)、横浜市・橋本良子(教文館)、山梨県・伊藤貞近(晩成堂書店)、尾張旭市・新保章(活人堂)、愛知県・石田和也、富山市・山本美佐子(BOOKSなかだ)、京都市・中川勇士、宝塚市・伊藤真弓(文明堂書店)、鳥取県・下山拓弥、熊本県・緒方裕之(清藤書店)

『1Q84』が牽引/文芸書9カ月ぶりに増加/日販調べ

日販書店経営相談センター調べの6月期書店分類別
売上調査がまとまった。6月期は平均で前年同月比95・4%となり、5月期の94・6%から、マイナス幅はわずかながら小さくなった。原因は村上春樹『1Q84』で、文芸書は平均104・9%と9カ月ぶりに前年同月を上回った。
ジャンル別の動向では、文芸書を除くと各ジャンルともマイナス。雑誌は97・0%、コミック97・5%、文庫95・1%と主力商品が振るわない。
新書は78・5%となり、直近1年間でマイナス幅が最も大きかった。昨年は『察知力』(幻冬舎)、『悩む力』(集英社)、『孤宿の人』(新人物往来社)などの売れ行き良好銘柄があったが、今年は引っ張る商品が見当たらないのが原因。
客単価は平均1139円で100・1%。2カ月連続でプラス。客数はすべての立地、規模で減少し、95・9%となったものの、平均商品単価は100・6%と微増になった。

万引ゼロを目指します/福岡組合、天神でチラシ配布

福岡県書店商業組合(山口尚之理事長)は7月20日午前10時半から福岡市天神の繁華街、博多大丸、旧いわた屋前で万引防止街頭キャンペーンを展開。「全国の書店は万引ゼロを目指します」というチラシ1千枚を用意して、ボールペンとともに通行人に配布した。福岡県警本部、中央警察署もこのキャンペーンに全面協力した。
7月は内閣府が定めた「青少年非行問題に取組む全国強調月間」。街頭キャンペーンはNHKや各新聞社も取材に入り、NHK総合テレビが同日夕方、2回報道した。
チラシには昨年募集した万引防止標語コンクールの受賞作品として「万引きは遊びじゃないよはんざいだ」(香椎小4年・深野翔介君)、「『やめようや』そ一言が第一歩」(田原中1年・平澤華菜さん)など6作品を掲載。コンクール応募校と福岡組合加盟全店に配布する予定。

紀伊國屋1198億円で首位/日経流通新聞調べ、日本の専門店ランキング

日経流通新聞(日経MJ)は7月8日付で第37回日本の専門店調査(2008年度)を発表した。
これによると、08年度の専門店414社の売上高伸び率は前年比1・6%増と前回調査の6・8%増を大きく下回り、消費税率引き上げ後の不況に見舞われた1997年度の0・7%増以来の低い伸びにとどまった。営業利益も7・5%減と2期連続の減少となり、落ち込み幅は97年度の26・6%減以来の大きさ。景気悪化が専門店各社の業績に打撃を与える中で、高収益を確保したのは店舗投資を抑え、割安なPB(自主企画)商品を投入したり効率販売を磨いた企業群であると、同紙では分析している。
23業種のうち増収増益は6業種と、前回調査より3業種減った。大手各社が徹底して低価格の販促を繰り出した靴などが健闘する一方、CDが売れない楽器・CDは経常赤字。厳しい消費環境を映し、前回調査の3倍にあたる9業種で減収となった。
書店部門の売上高ランキングを見ると、紀伊國屋書店が2・1%増の1198億円で7年連続のトップ。2位は丸善で5・7%減の958億円、3位は有隣堂で2・2%増の546億円、4位はジュンク堂書店で4・0%増の421億円、5位は未来屋書店で10・0%増の366億円。大手5社のうち丸善を除く4社が増収だった。丸善は大学関係の案件減少が響いた。売上高伸び率ではヴィレッジヴァンガードが幅広い顧客層を取り込み18・5%増と高い伸びを示した。
総売上高経常利益率はヴィレッジヴァンガードが11・7%、1人当たり総売上高は戸田書店が6910万円、3・3㎡当たり直営店舗売上高は京王書籍販売が304万円、直営+FC新設店舗数はヴィレッジヴァンガードが31店で、それぞれトップだった。
書店を含む「書籍・文具」業種全体の増収率は1・8%と前回調査を0・8ポイント下回った。書籍や雑誌販売は長期低迷傾向にあるが、大手書店は店舗大型化で増収を確保するケースが多い。資本力で劣る中堅書店は既存店が苦戦している、と同紙では指摘している。

平成21年度日書連各種委員会

(◎印は委員長)
〔常設委員会〕
◇政策=◎大橋信夫(総務担当、東京)、◎井門照雄(財務担当、愛媛)、鈴木喜重(千葉)、藤原直(宮城)、中山寿賀雄(長崎)、面屋龍延(大阪)、柴﨑繁(東京)、木野村祐助(岐阜)、西村俊男(新潟)、久住邦晴(北海道)、舩坂良雄(東京)、吉田達史(岡山)、戸和繁晴(大阪)、岡嶋成夫(東京)、大川哲夫(事務局)
◇組織=◎中山寿賀雄、鈴木喜重、面屋龍延、柴﨑繁、鶴谷祿郎(青森)、塚越賢次(茨城)、井上俊夫(神奈川)、舩坂良雄、古澤隆(静岡)、森井清城(石川)、戸和繁晴、西本功(奈良)、三上一充(兵庫)、冨永信(山口)、長谷川澄男(福岡)、岩永藤房(佐賀)、田中隆次(宮崎)、岡嶋成夫
◇指導教育=◎鈴木喜重、鶴谷祿郎、西猛(福島)、杉山和雄(栃木)、山本裕一(神奈川)、作田幸作(三重)、吉岡隆一郎(富山)、安部悟(福井)、田江泰彦(鳥取)、冨永信(山口)、西尾文士(香川)、五藤栄一郎(高知)、山口尚之(福岡)、長﨑晴作(熊本)、井之上博忠(鹿児島)、小泉忠男(東京)、藤田彰(大阪)
◇広報=◎面屋龍延、玉山哲(岩手)、東浦澄夫(山梨)、谷口正明(愛知)、平柿宗敏(滋賀)、辻本和樹(京都)、大隈劭(大分)、小泉忠男
◇流通改善=◎藤原直、西村俊男、和泉徹郎(秋田)、塚越賢次、大澤孝輝(群馬)、佐藤光弘(愛知)、赤羽好三(長野)、戸和繁晴、中村晃造(京都)、吉田達史、平野惣吉(徳島)、長﨑晴作、小橋川篤夫(沖縄)、梅木秀孝(東京)
◇取引改善=◎柴﨑繁、鶴谷祿郎、水野兼太郎(埼玉)、井上俊夫、谷口正明、宇治三郎(和歌山)、冨永信、岩永藤房、梅木秀孝、江﨑直利(静岡)
◇業界用語統一プロジェクトチーム=◎柴﨑繁、鶴谷祿郎、水野兼太郎、梅木秀孝
◇情報化推進=◎井門照雄、和泉徹郎、辻本和樹、三上一充、田江泰彦、平野惣吉、大隈劭、藤田彰、専門委員=高島瑞穂(福島)、岩瀬且敏(東京)、長尾幸彦(愛知)、中尾隆一(福岡)、川崎孝(長崎)
◇図書館サポート=◎井門照雄、辻本和樹、大隈劭、井之上博忠、藤田彰、高島瑞雄、岩瀬且敏、湯本光尚(東京)、長尾幸彦、中尾隆一、川崎孝、村田征禧(日外アソシエーツ)、岡本公一(フィルムルックス)、中賀伸芳(内田洋行)
◇再販研究=◎岡嶋成夫、柴﨑繁、西村俊男、五十嵐太右衛門(山形)、西猛、山本裕一、古澤隆、佐藤光弘、吉岡隆一郎、中村晃造、山本秀明(広島)、山口尚之、長﨑晴作
◇読書推進=◎西村俊男、久住邦晴、塚越賢次、水野兼太郎、東浦澄夫、赤羽好三、戸和繁晴、宇治三郎、今井直樹(島根)、五藤栄一郎(高知)、大隈劭、井之上博忠
◇増売=◎舩坂良雄、和泉徹郎、玉山哲、杉山和雄、作田幸作、安部悟、西本功、吉田達史、山本秀明、平野惣吉、長谷川澄男、田中隆次、小橋川篤夫
◇共同購買・福利厚生=◎中山寿賀雄、五十嵐太右衛門、山本裕一、平柿宗敏、西尾文士、岩永藤房、江﨑直利
〔特別委員会〕
◇消費税問題=◎面屋龍延、鈴木喜重、藤原直、中山寿賀雄、柴﨑繁、木野村祐助、西村俊男、玉山哲、大澤孝輝、森井清城、三上一充、今井直樹、吉田達史、山口尚之、岡嶋成夫
◇出版販売年末懇親会実行=◎木野村祐助、井門照雄、鈴木喜重、藤原直、中山寿賀雄、面屋龍延、柴﨑繁、西村俊男
◇物流研究準備=◎戸和繁晴、柴﨑繁、西村俊男、久住邦晴、鶴谷祿郎、山本裕一、古澤隆、今井直樹、平野惣吉、岩永藤房
◇財産運用=◎木野村祐助、藤原直、赤羽好三、中村晃造、西尾文士

総代会から総会制へ/兵庫移動理事会

兵庫県書店商業組合は7月14日、大阪・能勢町の能勢温泉で移動理事会を開催した。理事会に先立ち7月6日に逝去した大橋秀男氏(流泉書房会長、享年88歳)に黙祷を捧げた。また、第2支部の高井忠明理事(文明堂書店)が本年度の兵庫県商工功労賞を受賞したとの報告があった。
支部報告では、第1支部より西神中央駅前プレンティ3階で営業中の喜久屋書店が100坪から250坪へ増床し、日販からトーハンへ帳合を変更、営業時間等詳しいことがわかり次第支部長に連絡があるとの報告があった。第5支部では返品運賃交渉のため、支部内で運送業者を統一するための選定を行っているなどの報告があった。また、本年度は各支部とも理事の改選年度にあたり、7月中旬から9月中旬にかけて総会が行われる。
事務局からの報告では、近年の組合員数減少により総代を選出することは組合法に反するとし、4月から定款の変更について検討してきた。組合員数が200名を割ると総代会に代わり総会の開催となり、役員数についても現行40名から35名になる。35名の各支部への按分については、今年度各支部の登録数より算出・決定することを可決し、9月の理事会で理事候補者を報告することを決めた。
理事会後、兵庫県発売日励行委員会のメンバーを交え懇親会が行われた。
(中島良太広報委員)

出版産業の課題解決に向けて/本の学校・出版産業シンポジウム2009in東京より

「本の学校・出版産業シンポジウム2009in東京」が東京国際ブックフェア会期中の7月11日、東京ビッグサイトで開催され、「出版産業の課題解決に向けて―これからの取引・流通・販売のあり方とは―」をテーマに行なわれた。文化通信社・星野渉取締役編集長を総合司会に、筑摩書房社長・菊池明郎氏、丸善社長・小城武彦氏、日販常務取締役・安西浩和氏、トーハン専務取締役・近藤敏貴氏、NET21取締役副社長・田中淳一郎氏がパネリストとして出席。それぞれの立場から、委託制度の問題点や責任販売など今後の取引システムのあり方について発言した。
【責任販売推進で返品減図る】
星野今日は「出版産業の課題解決に向けて」というタイトルだが、ポイントは取引の問題に絞られていくと思う。雑誌に依存していた出版産業のモデルが非常に厳しくなってきている中で、返品などを削減することによって書籍がきちんと自立したビジネスモデルを獲得できるか。それによって出版社、取次、書店が、きちんと再生産をしていける構造をこれからも維持できるのか。それが今大きなテーマになって、取次、出版社などから責任販売という形で具体的な提案がされていると思う。
今日はその最先端でお仕事をされている方々に出席いただいた。いきなり核心から入り、どういう取引システムがよいだろうかというところから、話を始めさせていただきたい。
安西私はずっと物流一筋で会社人生を送ってきたのだが、昨年初めて書籍や雑誌の仕入れを担当することになった。書籍は正直ほとんど赤字に近いという構造だと思う。書籍で儲かる商売の体系を作っていかないと、本当にまずいのではないかというのがこの1年の印象だ。
書籍は40%をゆうに超える返品率だ。いろいろな課題が業界にあるのだろうが、やはり返品を減らして、そこで生まれた利益を皆で分け合うということが、一つの解決策としてあるだろう。今売れ残りのリスクを一番背負っているのは出版社で、その分マージンの配分も出版社のほうが多くなっているということだろうと思う。
逆に、返品を仮に書店の努力によって減らしても、書店には何の実入りも増えないというのが、今の取引制度の実態だろう。書店に新しく生まれた利益を還元できるようなビジネスのスキームを考える必要があると思う。
返品が悪だと考えるならば、取引の制度の中で返品をした人が損をするような仕組みを構造的に作るべきだ。逆をいえば、返品をしなかった人がもうかる仕組みだ。掛け率やマージン率を変えるとか、いろいろな考え方がある。
今責任販売で提唱されているのはそういうスタイルだと思うが、それをもう少し通常の取引の中に導入していくことが必要なのではないか。それに合わせて、商品の供給をきちん保証するというようなことを、取次がリスクをとってやる仕組みを作っていくことが必要なのではないかと思う。
小城私は2年前に出版業界に入ったのだが、来て思ったのは、なぜこんなに皆一生懸命やっていながら、皆儲からないのだろうということ。何とかこれを変えたいと思っている。
分かったのは、出版業界のマーケティングが大変弱いということだ。委託に小売が甘えていると思う。書店がちゃんとお客さんを理解して、どういう書籍をお勧めするべきかを考えて陳列をし、売り切っていく力をまず付ける。顧客接点の一番前線がしっかりしないと、業界全体のマーケティングの仕組みが回らないのではないかと思う。
菊池高い返品率を解決しなければ、厳しい状態が続く。出版業界が厳しくなったのは、委託制の限界が来てしまっているのではないか。出版社の側から言えば、不況が進行してくると、お金がほしいので売れるか分からない本を作りすぎる傾向がある。作る側ももう少し企画を厳選して、作る部数もきちんとしたマーケティングを行いながら抑制気味にしていく。そういう注意が必要だろう。
よく書店から聞くのはパターン配本の限界ということだ。出版社、取次、書店で協力して、もっと精緻な配本制度を考えていく必要があるのではないか。委託の運用がノールール化している状態を具体的に改善していくことが必要だろう。
出版社8社の仲間で書店のマージンを35%にする提案をした。責任販売というと書店に責任を押し付けているみたいで嫌だということで、「35ブックス」と名づけた。その代わり返品した場合には安くしか取りませんよという仕組みだ。業界をよくするために、具体策を打ち出していかなければいけない時期に来ているという認識を持っている。
近藤取引を我々がどう変えていくかということについては、日販の安西常務にほとんど先に言われてしまった。一緒にやれることがあれば、取次で無駄な競争をしないでやっていこうということを、まず申し上げたいと思う。
どんな取引制度が望ましいのかだが、その前に現状の取引制度の基本になっている再販制度について、一度整理する必要があると思う。そもそも再販制度を作ったときにこんな返品率を想定していなかった。出版社、販売会社、書店の分け前は、再販制度を前提に作っているわけだから、ひずみが出るのは当然だ。その中で書店が身を削ってやっているのが現状だと思う。
その解決策として、責任販売や、新しい個々の取引にチャレンジをしているところだ。責任販売は今のやり方がベストだとは思っていない。書店や出版社だけがリスクを負う形は決してよくないと思っているし、我々もこれからはリスクを背負っていくつもりだ。
ではこうした利益を再配分する原資はどこにあるのかというと、間違いなく返品を減らすことしかない。逆をいえば、返品を減らせばそれぞれの取り分を増やす原資はまだある。現状の取引についていえば、いい形に直していこうというのが、目指すべき方向ではないかと思う。
田中現状ほとんどの商品は委託制度の中で流れているわけだが、配本の精度をよくすることで、委託制が生き延びることができる可能性は十分ある。毎日開けている荷物の内容を見れば、どの書店もおそらくそのように考えているのではないか。
私は2002年に今の取次に替わったのだが、そのときの条件で、新刊の必要がないものをカットしてもらうように事前に打ち合わせをして配本のFAXを送ってもらい、その中から要らないものを削るという作業をしばらくしていた。それで、45%近くあった返品が35%ぐらいまで落ちた。
これは売上げが下がったとか上がったという問題ではなくて、配本の精度を上げることで少なくとも返品は下がるという現実だ。だから配本の精度を上げることによって委託制は維持できると考えている。
例えば、出版社、取次、書店と三者が契約して新しい取引を始めるというふうにしていったらどうか。委託制で流したり、あるいはもう一つ新しい取引形態で商品が流れてくるという仕組みを作って、書店が選択できたら、非常にありがたい。責任販売制は、最終的には書店の責任で本を仕入れてくださいという意味合いだと思う。それを考えれば、書店が納得できるような選択肢を作ってほしい。
【配本精度のアップも必要】
星野今のお話の中で、委託の限界という言葉がよく言われている。返品が自由だという世界から、まったく返品できないという完全買切りの世界は相当幅がある。田中さんは委託はまだやれるだろうと。ただ、一方的に送る配本ではなくて、書店が選択しなければいけない。誰が商品供給、調達のイニシアティブを持つべきか。その辺りについて、委託の限界というところを踏まえて伺いたい。
安西田中さんが先ほど三者間の契約というお話をした。新しい販売形態をとる上で、それに伴って商品の選択権や供給権をきちんと保障しないと、おそらく新しい仕組みは作っていけないだろうと思っている。
今具体的に我々が導入しようと思っているのは、書店との間で返品と売上げ目標みたいなものを決めさせていただき、その目標を達成すると報奨を支払うことができるというもの。そうやって契約の概念をきちんと作りながら、賛同をいただける書店を今集めているところだ。
書店からの注文や新刊の申込みを受けて満数配本しますというような仕組みを前提にして、書店にリスクをかぶってもらう、あるいは我々もリスクをとっていくというようなことをやろうと思っている。イニシアティブを持ったところが責任をかぶれるような取引形態にするべきだろう。田中さんがおっしゃった、責任販売が並存するような取引は可能だと思う。全員が右向け右で動くわけがないので、そのへんのリスクをかぶって調整するのが取次の役割なのかなという気がしている。
近藤配本の精度を上げることで返品率が改善できるかというと、まだまだできると思う。そのイニシアティブをどこがとるかは、ちょっと言い切れない。ただ、日販さんも我々も、過去と比べ物にならないほど販売のデータをかなり持っているので、どちらかというと我々に移してもらったほうがいいかなと思う。
仕入れた商品をある程度ストックして、市場在庫を見ながら供給する。新刊については、基本的にはそういうことを始めている。出版社側の理解が得られないと、「これをあんたのところに任せるよ」とはいかないので、今実績を積み上げてご納得いただき、我々がほぼできるような形に持っていければと思っている。
ただ、書店が商品を発注するという仕事は絶対に残さなければいけないと思っている。書店の中にはきちんとした発注ができるお店とそうでない店があるので、すべて同じ対応はできないと思う。そうしたコントロールをするのが我々の仕事だと思っている。
小城現場にいる人間こそが、お客さんが何を求めているかを一番分かっているはずだ。だったら現場にいる人間こそがそれを必死に追い求めて、自らのリスクで発注すべき。これが商売の原点だと思う。ただ、書店はこれまでやったことがなかったので残念ながらすぐにはできない。どうやったらそこに近づけるのか、そういう議論だと思っている。
私は着任してすぐ、フランクフルトのブックフェアに行くチャンスがあった。ドイツには再販があるが、委託ではない。返品率は5%と聞いた。書店員が自分で売れるという自信を持った本しか仕入れない。だから、店舗ごとにラインアップがぜんぜん違うという。
日本はどこに行っても基本的にあるものはそんなに変わらない。私は書店にもっと個性があっていいと思う。そこに商売の喜びがあるはずだ。従って、リスクを取れる人はハイリターンを取り、それをできない人は現状で頑張るというのがしばらく続くのはやむをえないと思う。
あと、自動配本は改善の余地はけっこうある。うちでもある店舗を調べたところ全体の4分の1ぐらい、1冊も売れずにそのまま返している。ただ書店側にも問題があって、新刊の追加発注は多すぎる。結局それもまたお返ししているので、両方に問題がある。
星野こういう議論の中で、発注能力がないのだから、書店に発注のイニシアティブを渡すことはできないだろうという意見がある。田中さん、現場で毎日仕事をされていて、どう思うか。
田中書店として生き残るのであれば、ないはずはないと思う。現場としてはその商品の感触というか、実物を見てから注文したいというのは非常に感じる。これは売れるんじゃないかとか、これはうちには絶対あわない商品だなといったことで、毎日店でお客さんの顔を見ていれば分かるものがたくさんあると思う。そういう意味では、見本配本とは言わないが、委託で見本程度に商品が流れてこないと難しいだろうという感触は持っている。やはり現場にいる人間が現場感覚で本を仕入れなければ、何のために商売をやっているか分からないと思う。
安西何でもかんでも書店に買い切りなさい、リスクをとりなさいというような議論になりがちなので、発注能力の問題は取次のほうから、例えばご提案とか事前にお見せして、直したり、要らないと言ってもらえるようなフォローをすることが必要だろうと思う。今の見本の件も、送りと返品と売上げのみならず、店頭の在庫まで分かるような環境になっているので、薄めにまいて、意外な著者が売れたらそこから一気に追加の供給を保証する。そういうことをあわせてご提案をすることができる。
田中東京にまったくない本が、地方に行くとけっこう山積みになっていたりする。そういうものも含めてすべて市場在庫というならば、取次はそこで調整機能を発揮するという考えはないのだろうか。
近藤偏在するということは確かにある。重版も新刊もそうだが、昔この店でいっぱい売ったからとりあえずいっぱい入れておこうよというのは、確かに多い。偏在を少なくして、返品を減らすということを当然しなければいけないことだと思う。
菊池ドイツは同じ再販でありながら日本と対照的で、確かに返品は5%ぐらいに抑えられている。なおかつすごいのは、売上げが少しずつ伸びている。じゃあ直ちに買切りかというと、日本の業界はそこにまだ慣れていないから、委託そのものをなくせと言っているわけではない。配本をどこが主体になってやるかというとき、出版社は書店の近い過去のデータをきちんと押さえて、それに基づいてこういう形で配本をしたいという提案をできるはずだ。
ただ限界はある。その中で、今回提案しているような責任販売の仕組みを組み込んでいく。それ以外にも、例えば特約店システムというところで、返品率を大きく下げられた場合には、それに応じてマージンを考える。出版社としてもそういう考え方はとれるかなと思っている。
星野新しい取引のルールということになると、今までの利益配分ということではないだろう。むしろ書店のマージンをもう少し増やさなければいけない。これは多分共通したお考えだと思う。そのへんの利益配分について伺いたい。
田中本屋がやめていく状況というのは、やれなくてやめてしまう場合と、後継者がいなくてやめる場合と、大きく二つだと思う。やりたい商売であれば、後継者がいないということはないと思うので、現状あまり書店をやりたくないのだろうと推測できる。それを考えると、今の人件費に割く割合を50%ぐらい上げられるような水準の業界にしていくのであれば、利益として35%ぐらいはほしい。
買切りということになると、その中でどうしても売れない商品が出てくるので、最低40はないと。できれば買切りの商品に関してはある程度時限再販できるようなものにする。そうすれば書店としてもリスクが減っていくのではないか。
小城社長の立場から言うと、もうちょっと従業員に高い給料を出したい。弊社の場合も正社員比率はかなり低くなっているのだが、男性の場合には結婚を機に退社する。家族を養えないからで、つまり書店員という職業は自立できていない。やはり粗利で35とか40%は最低限だ。そのぐらいないと給料を払えない。
菊池書店が厳しい状態にあるのは確かだ。出版社側も、もうこれ以上マージンを出せないと、今でも多くの人たちは思っているだろう。ではいったい原資をどこに求めるのか。今回35ブックスみたいな形で特別にマージンをひねり出すのは、原価率を安くできるものを選んでまずは送り出しているということで、全部が全部いっぺんにできるわけではない。
それは、日本の本が安すぎるからだ。ドイツは同レベルの本が2倍以上する。そのような状態を読者の方に理解していただき、日本の文化を発展させるために出版社が値上げするのを、「よし分かった」と買ってくれないと、最終的には解決しないということだ。だからロングレンジで見たときに、大手さんも少し値上げに努力していただけるとありがたい。
安西この議論は取次は非常に難しいというのが正直なところだ。書店の競争力が上がるような条件をベースにしながら、取次は工夫しなければいけないだろうと思っている。取次は返品が減って楽になるだろうから取次のマージンを落としてしまえと、こういう論議の中でけっこう言われたりする。我々は投資もするし、リスクも当然取りながらやっていくわけなので、下げるということは考えられないとは思う。
近藤やはりまず書店が先に元気になってもらう利益配分にしてほしいということと、マージンをこれ以上というより、返品が減ったほうがずっと儲かるので、そっちのほうが我々にとってはいいと思う。ただ、いろいろな形の条件の商品が入ってきて、いろいろな形で返品されてくる。けっこうシステムを作るお金がかかるので、そこは考えてもらえたらと思う。
【書店が本を選べる仕組みを】
星野35ブックスで非常に画期的だと思ったのは、取次が新しい取引形態にシステム的に対応するということを宣言したことだと思っている。今後利益配分のことはもう少し議論になっていくという感じがする。
先ほど書店の後継者の話があって、とくに中堅以下の書店が非常に厳しくなっている。例えばマージンがある程度変われば、中小書店の経営は今後安定していくのだろうか。
田中難しい問題かもしれないが、まず書店が自助努力すれば経営状況がよくなるという実感が持てるか持てないかだと思う。あるいはさっきの配本にもあったが、選択できるということだ。今、新刊配本は、まず選択の余地がなく、勝手に送られてくるという状況がある。
まずお客さんに信用されるお店でなければいけない。そういう点で、自分たちで本の選択ができるというのは非常に大きいことではないか。もちろんマージンがあればそれだけ楽になると思うが、それに見合った仕事の内容がなければやりがいも起きないのではないかと思う。返品率だけというのは、意外と書店にとってはモチベーションは上がらない。返品率を下げればマージンをもらえるというのは、じゃあ仕入れるのをやめようみたいな方向に流れがちだと思う。やはり業界全体で書店がやる気を起こさせるような仕組みを作ってほしい。
菊池売上げを上げつつ返品率を抑えていく、それに対して何か手当てをするという考え方自体は受け入れられると思う。どうやって実現するかというところで、知恵を出していかなければいけない。
小城東京都書店組合の立場で発言するのだが、やはり田中さんと同じ問題意識があって、売りたくても商品が来ないという声をすごく聞く。返品を下げる、もしくは実売率を上げるのであれば、商品供給はちゃんと保証されなければいけない。そこはぜひ取次にもお願いしたい。
田中偏在はまちがいなくしていると思う。一番危惧するのは、責任販売制ではないにしても、例えばある取次のサイトで高正味で買えば商品はあるのだから、もしないのだったらそっちで買ったらどうですかみたいな、中小書店には高い正味の商品を案内して、大書店にはドンと積んである。何かシステム矛盾を感じるような場面もある。その不透明さみたいなものが、書店の不人気にもつながると思う。
近藤先ほど偏在と言ったが、それを解決する手段はいろいろやっている。一つの解決方法として、責任販売がある。この商品を私のところは10%の返品で仕上げますから必ず入れてくださいという意思表示をしていただいた書店には100%供給する。意外と中小の書店さんには評価をいただいていて、こういったものを積み上げていくことが、偏在とかそういうことを解決することになるのではないかと思っている。
菊池我々中堅から小さい出版社は、大ベストセラーは出ないけれど、ロングセラーとかそこそこの売れ筋というのは持っている。そのクラスの品揃えが、まだまだ悪い。我々としては情報を流しているつもりだが、大きめの書店でもポコンと抜けてしまっていることがある。売上げが上がれば相対的に返品率は下がるわけだから、書店の現場の方々が情報をうまくとって品揃えをしていただく。そのために、例えば出版社の団体などからもっと提案していかなければいけないのかもしれない。
星野最近の業界再編について小城さんにお話を。
小城丸善はDNP(大日本印刷)グループに入った。DNPはもともと出版印刷を事業の基軸と思っている会社であり、出版業界の衰退を止められないかという意識を大変強く持っていて、力を貸さないかという話があった。顧客接点を丸善は担っているので、どういう方法があるのか一緒に考えようではないかということで、DNPグループに入ることを決断した。我々のグループだけではなく、この業界全体のために何とかできることはないのかということを、今一生懸命考えている。
【ロングセラーを責任販売に】
星野最後に、個々の出版社や書店はこれからどういうことを考えていかなければいけないかということの提案を含めて、お一人ずつ発言していただきたい。
安西責任販売とかいろいろな話が出たが、商品の供給の件で、書店と出版社の間でさまざまなブレとか違う思惑が明らかにあると思う。我々中間の業者としては、そこをきちんと受け止めて、我々の責任を受けるという方向で、足を踏み出したいと考えている。
小城我々書店がお客さんをちゃんと見て、きちんとものを丁寧に売っていくという原点をもう一回再確認し、そこに注力をするということだと思う。菊池さんが、本の価格は安いとおっしゃったがまったく同感だ。もっと価格を上げていい、その分丁寧に売ったらいいと思う。
菊池書籍に限った話だが、決して将来を悲観しているわけではなくて、読者の方々はちゃんとしたものを出版していけば必ず反応してくれるという実感を持っている。ただ、専門書などを出している出版社にとって厳しいのは、大学から公立図書館に至るまで、図書予算が減らされたままであることだ。来年は国民読書年だが、例えば自治体に向けて、図書予算を回復してほしいというような要求を突きつけること。出版物が多くの読者に受け入れられていくような具体策を、我々は一つずつ積み上げていかなければいけない。
近藤先ほど責任販売であるとか、個々の取引条件の中で今解決しなければいけない問題があると申し上げたが、これだけで書店の状況が変わるかというと、決してそんな甘いものではないと思う。書店が本を売ることに集中できるような仕組みを、我々はファイナンスを含めて考えていかなければならないし、果たすべき役割は大きいと思う。
田中今責任販売制というのがいろいろ出版社から出ている。ペーパー1枚でいくつ注文するという話で、書店にとっては非常に難しい状況だ。筑摩書房でいえば、ロングセラーになった『思考の整理学』のようなものを責任販売制にしてもらえばこちらもやりやすい。版元さんにはぜひ考えていただきたい。
書店の立場として書店をどうしていくかというのはおこがましい話になるが、書店が何のために毎日商売をしているのかを、とことん考えなければいけない。どうして売上げが下がったのか、どうしてお客さんが来ないのか、そういう疑問を持ちながら、書店としてあるべき姿を作り上げていってもらえればと思う。

本に寄せる私の恋ごころ/ジャーナリスト・むのたけじ

秋田県六郷町で生れ、横手中学から東京外国語学校を経て新聞記者となり、戦後、横手市で週刊新聞「たいまつ」を創刊。30年にわたって健筆をふるった「むのたけじ」氏。94歳でなお活躍する同氏が書店東北ブロック大会で行った講演を抄録した。
私は秋田県南部の米どころに生まれました。親父、おふくろが結婚したばかりで金がない。私のあと3年ごとに弟、妹が生まれましたから、がんばって肉体労働して、やっと生きていける状態でした。
小学校、中学校と教科書以外には本を買ってもらえませんでした。1回だけ小学校1年生の夏休みに、はしかにかかり、親父が「譚海」という雑誌を買ってきてくれた。「鳩の恩返し」という物語を読んだ興奮を今でも思い出します。
私の生まれた町はお寺がたくさんあり、本覚寺の土田善静住職が東光会という子ども会を作り、こども文庫を設けた。雑誌や単行本を3百冊ぐらい揃えていました。それを読ませてもらうのが、7歳、8歳の私には生きがいでした。人気があったのは倉田百三の「出家とその弟子」でした。
そういう雑誌で初めて英語を知りました。その単語が「ユートピア」だったのです。19世紀、フランス革命から産業革命と、資本主義が発展する。そして品物、カネの世界になると同時に人間生活が荒れ、理想郷を求める動きがあった。その流れが大正10年前後に日本にも入ってきて、「ユートピア」という言葉を、こどもまで覚えるような歴史の動きを書物は語っていたのです。
貧乏人の子ですから旧制中学校に入ることは無理だったけれど、お寺の和尚さんが「おまえのせがれは学校の成績がよいそうだな。中学校さ行くのか」「いやあ、畳屋の小僧にでもしようと思います」「出来る子は上の学校さいかねば」と中学校へ入るようになりました。入ったけれども、教科書以外の本は買ってもらえない。それで町立図書館に行き始めた。学校にも図書室ができて、自分から係になり、本を読む喜びを持ち始めました。
その頃、若い胸を燃やす場所がありました。横手の金喜書店。学校から歩いて25分ほどかかるが、夏でも冬でも授業が終わると本屋の店先にたむろしました。中学生、女学生が立ち読みしたり、おしゃべりをしたり、自分たちで同人雑誌を作って、売りました。
その同人雑誌が売れるものだから問題になり、叱られた。ちょうど石坂洋次郎さんが先生をしておられて、一教師として支えてくれました。青春の交流の場、新しい時代の動きを作る場、それが本屋さんの店先でした。
先だって東京に行き、デパートの大きな本屋さんへ行ったら山のように本がある。「子供の頃、本屋さんの店先にあった、歴史の足跡を聞くような空気が、この大書店にはないな。ただ、買うだけか。つまらねえな。本屋っていうのはそういうものじゃねえべ」と思ったものです。
中学に入るだけで精一杯でしたが、ある事情で東京外国語学校に入れることになりました。東京外国語学校は、現在の毎日新聞、徳川時代に蛮書取調所のあったところです。それが関東大震災で焼け、バラックの粗末な校舎でしたが、そこから歩いて15分のところに神田神保町の古本屋街がありました。古本屋街に行って丁寧に探せば値打ちの高い本を安い金で買える。私は神保町に通い、むさぼるように本を読んだ。
私の人生は18歳の夏、神田神保町で書物を読むことにより決まりました。80歳過ぎて胃ガン、92歳で肺ガンをやって、去年は眼底出血。それでも一人で東京へ往復できる、そういう自分のエネルギーは、18歳の夏、書物が私に与えてくれた力です。
1936年、21歳で新聞記者になりました。昭和12年は盧溝橋事件、日本軍が満州、北京、南京、重慶まで爆撃して全面攻撃を始めた。軍国主義下の奴隷のような新聞記者を想像されるかもしれませんが、そういう中でも本当の生き方を求める真剣な模索は続いた。
新聞社に入って「よい文章を書きたいと思ったら、よく読め」と言われました。先輩たちはみな、ポケットに本を入れていて、暇があれば本を読む。本当によく本を読んでいた。「本が出版され、2百年売れ続けている本なら間違いなく人間の役に立つ。そういう本を見つけて、評価できる人間にならなくては、本当の新聞記者になれないぞ」と言われました。
だから、月給の半分は本を買いました。女房をもらって子どもが生まれても、月給の半分ぐらいは本代だった。家族には苦労をかけましたが、とにかく本を買うことが生きがいだった。
シェイクスピアはよく読みました。本当に役に立つ本は、歴史の雨風をくぐりぬけ、人間とともに生きてきた本だ。
人類に言葉が表れたのは7百万年前ですが、699万5千年は書き言葉がなかった。文字ができたのは5千年前です。木の実、魚と自然の恵みに依存していた人間が1万年前に農耕を始めた。食料が余り財産になる。権力が生まれる。国家ができる。品物と数を記録しなければいかん。それから5千年で人類は急激な変貌を遂げた。生活は便利になる。月にも行ける。そういう大変化の中で本当に大事なものは何か。それを育てるにはどうしなければいけないか。そこに言葉が現われ、やがて伝達、相互理解を深めるため出版物が生まれた。最も役に立つもの、その記録が本として編まれた。本そのものの中に歴史伝達の本流が保たれているのです。
このごろ本が売れない、新聞に載る出版広告も減った。出版業界は不景気で本屋さんが困っている。本が売れないのは、経済上、産業上の問題だけでなく、人間の生き方がおかしくなって人間らしさを失ったから本が売れなくなったのではないかと想像しています。これは昨日、今日始まったのではない。
昭和45年までの日本はまともでした。1960年の安保闘争の時には70万人の人間が平和を守るため国会議事堂に行った。秋田県で一番保守的な青年会、婦人会まで国会議事堂を囲んだ。この民衆のうずきを汲み取れなかったから、労働組合は現在のようになってしまった。
1970年代から教育も人的資源の開発だと、教育現場に資本主義を導入しようとした。人間を経済活動、儲けの資源として扱い、幼稚園から大学まで就職予備校になった。農業は減反政策で、先祖伝来の田にペンペン草を生やせば政府が3万円、県庁が5千円を出すなんて馬鹿なことを考え、我々もやすやすと受け入れてしまった。
ここから、いい本が生まれるのは非常に難しい。1991年に日本ジャーナリスト会議から「ジャーナリズムは死んだか」という記念講演を頼まれました。ジャーナリズムは死んだかどころではない。とっくの昔にくたばっている。しかし、生き返らせなければいかんだろう。だからどうするということをみんなで考える集会だろうと、怒鳴った。あれから19年たち、言ってることはみんなもっともだが、現実の社会生活をどうするかというエネルギーは作ろうとしない。それを作らせるために出版は活気づかなければいけないんじゃないですか。
本屋は地域の文化センターとして、何かを創造したい、発見したい人が集まってくる状況を作り、日本を変えていかないといけないのではありませんか。
私の師匠は中国の文学者、魯迅です。その魯迅の文章で一番心に刺さったのは、「野草」という随想集の中の「希望」という短い文章です。
「絶望は虚妄だ。希望がそうであるように」
この言葉を読んだのは24、25歳の時です。そして94歳の今、色紙を頼まれると「希望は実在しているよ。絶望のど真ん中に」と書いている。魯迅は絶望も希望も空しい幻のようなものだ、どっちも同じだと言った。それは清朝から中華民国への混乱の中に戦った魯迅の裏側から見た希望論と絶望論だと思います。私は20世紀をだいぶ生きて日本の波を眺めてきて、絶望のど真ん中にこそ希望が実在していると思う。
その希望とはなんだ。過去の日本にはいなかった新しいタイプの人間が生まれている。年齢からすると20歳以下ですね。小学1・2・3年生をごらんなさい。素晴らしい素質をもった日本人が生まれていますよ。腐ったような政治状況の中であればあるだけ、憲法9条を頼りにひたむきに生きてきた祖父母、父母を乗り越えた新しい人間が生まれつつある。その子たちは本当に本が好きですね。朝日新聞に「94歳のむのたけじと14歳のこどもたちは80年の年齢差がありながら触れ合った」という記事が出た。そういうことが現実に生まれつつある。親たち、大人たちが目を尖らせているから、絶望から逃げるから、希望が見えない。
私は今こそ出版の仕事が本来の任務を果たして、ちゃんと商売が成り立つし、日本の歴史を本来のものに戻す。そういう仕事がこれから始まると思います。
魯迅は55歳で死にました。私は25歳で魯迅の言葉に触れ、魯迅の一生より長い70年かけて「希望は絶望のど真ん中に実在している」と考えた。困難から逃げない。まっすぐそこを突き抜けて希望を作っていく。希望と絶望は別のものではない。同じものだ。がんばろうじゃないですか。心からの感謝と仲間としての敬意を贈ります。