全国書店新聞
             

令和5年1月15日(前)

書店議連岸田首相と面会/塩谷会長、齋藤幹事長ら「中間とりまとめ」手渡す/街の書店守る政策実現を訴え

「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」(書店議連)は12月23日午前11時、首相官邸で岸田文雄首相と面会。中間とりまとめを手渡し、街の書店を守るための政策実現を訴えた。会合には議連メンバーから塩谷立会長、山谷えり子副会長、齋藤健幹事長、小寺裕雄事務局次長が参加。業界からは書店側事務局を務める出版文化産業振興財団(JPIC)の近藤敏貴理事長(トーハン社長)と小野寺優(河出書房新社社長)、奥村景二(日本出版販売社長)、矢幡秀治(日書連会長)の各副理事長が参加した。
冒頭、塩谷会長は、直近15年で街の書店が40%も減少していること、平成28年9月に書店議連を立ち上げて議論を重ね、このたび中間とりまとめができたので持参したと訪問の主旨を説明した。
続いて齋藤幹事長が中間とりまとめの概要を説明。書店、図書館、インターネットが共存して日本の知的水準、文化水準を維持していくことが必要だが、現状は一方的に書店だけが減少しており、全国の市区町村の26%が無書店地域であること、来春には最終報告をまとめて公平公正な競争政策上の措置を講ずるなど、政策的対応を実現していく予定と報告した。
業界からは「小さな書店だけでなく大型書店も街からなくなっている。自ら努力は続けるが限界もある。政府の支援をお願いしたい」(矢幡氏)、「さらに書店の減少が続けば、全国津々浦々に同一価格で本を届け、雑誌を同時発売している仕組みは維持できず、取次もなくなる」(近藤氏)、「書店がなくなれば、本と読者の出会う場がなくなる。出版社にはとても大きな問題」(小野寺氏)などの発言が相次いだ。
議連からは補足として「フランス、韓国では街の書店を守る政策がある。日本でもあってしかるべき」(山谷副会長)、「子どもはネット書店では本と出会えない。子どもたちが本と出会えるのは街の書店。これをなくしてはいけない」(小寺事務局次長)といった保護政策の必要性が指摘された。
岸田首相は「首相就任後なかなか書店に行けないが、様々な本が並ぶ書店はまさしく文化。自分もあの空間は好きだし、なくしてはいけないと思う。書店議連の責任は重大だと認識している。塩谷会長を中心に頑張ってほしい」と期待を込めて激励した。

コロナ特需終息、書籍の販売金額マイナスに転じる/出版科学研究所

出版科学研究所は「出版月報」12月号で、2022年出版概況を発表。22年の紙の出版物の推定販売金額は約6%減の1兆1300億円台になることが分かった。コロナ特需は完全に終息し、20、21年と2年にわたり上振れした市場は再びマイナスに転じる見込み。21年に15年ぶりにプラスになった書籍は大きく落ち込み、雑誌も10%近いマイナスになる見込みだ。

「春の読者還元祭」実施要項を決定/賞品総額300万円図書カードネットギフトが当たる/日書連12月定例理事会

日書連は12月15日、東京・千代田区の書店会館で定例理事会を開催し、「春の読者還元祭2023」の実施要項案を承認した。今回も外商比率の高い書店も参加しやすい制度設計とし、報奨金の支給もある。昨年秋の読者還元祭の応募数は大幅増の12万件となった。この勢いをかってさらに読者への浸透を図りたい。春井宏之読書推進委員長は全国の組合加盟書店に積極的な参加を呼びかけた。
各委員会からの主な報告は以下の通り。
[読書推進委員会]
「春の読者還元祭2023」の実施要項案を承認した。実施期間は4月20日~5月12日。参加書店で書籍・雑誌を購入した読者を対象に、しおりまたは雑誌カードのQRコードから専用サイトに応募してもらい、抽選で1千~1万円の図書カードネットギフトが1700本当たる(総額300万円)。
販促物はしおりに加え、今回も女性ファッション誌の客層分布や発売日一覧などを掲載した雑誌カードを用意。外商比率の高い書店も参加しやすくした。また、販促物セットを購入して応募を150件以上集めた組合加盟書店には1セット分の報奨金を支給する。
読者還元祭は、書店くじに代わる新事業として2021年春からスタートし、3年目を迎える。22年の秋は応募が前年比78%増の11万9938件となるなど、読者に浸透しつつある。
春井委員長は「還元祭は店頭活性化とともに図書カードネットギフトへの理解を深めることも目的。昨秋は業界一丸となった読書推進運動の動きが活発化したこともあり、応募件数が大きく伸びた。この春もキャンペーンを盛り上げるため多くの書店に参加していただきたい」と呼びかけた。
[組織委員会]
安永寛委員長は、全国45都道府県組合の加盟書店は、10月は加入なし・脱退12店で12店純減、11月は加入なし・脱退3店で3店純減だったと報告した。
[指導教育委員会]
鈴木喜重委員長は、研修会・講習会で取り上げるテーマについて委員にアンケートをとったところ、「BooksPROの最新機能と活用法」の希望が最も多かったと説明した。日本出版インフラセンターに講師の派遣を要請し、5月までに研修会を開催する予定。
[流通改善委員会]
藤原直委員長は、日本出版取次協会と日本雑誌協会が10月28日に発表した2023年度「年間発売日カレンダー」について、土曜休配は前年度と同じ年37日、輸送会社の出荷作業を伴わない完全土曜休配は前年度より6日増えて25日になったことや、年度はじめの売上面を考慮して4月の第1週土曜日が稼働日になったことなどを説明した。
[取引改善委員会]
柴﨑繁委員長は、返品運賃が経営を圧迫する大きな要因になっていると懸念を示し、各都道府県の実態を調査する考えを示した。
[書店再生委員会]
渡部満委員長は、有害図書を指定して県内でのインターネット販売を禁止する鳥取県の全国初の条例について説明した。
[図書館委員会]
髙島瑞雄委員長は、図書館用品・文具卸のフィルムルックスが破産し、装備の拠点が日本ブッカー(東京都調布市)に切り替わったことを説明した。
[広報委員会]
森松正一委員は、書店経営者・従業員4名が持ち回りで執筆する連載コラム「春夏秋冬本屋です」の新執筆陣の選定を行っていると報告した。23年4月~24年3月まで1年間、書店の仕事を通じて思ったことなどをつづってもらう。
【新理事に湊義彦氏】
日書連は12月15日に開いた臨時総会で理事の補欠選挙を行い、退任した森朗理事(広島県東広島市・森書店)に代わり、新理事に湊義彦氏(広島県呉市・中国堂書店)を選んだ。

日書連「出版販売年末懇親会」に170名出席/書店存続の取り組み業界一丸で

日書連主催の2022年出版販売年末懇親会が12月14日、東京・文京区のホテル椿山荘東京で開かれ、書店、出版社、取次など総勢170名が出席した。新型コロナウイルスの影響で3年ぶりの開催。感染防止対策を徹底し、従来の立食形式ではなく着席形式で行った。
懇親会は渡部満副会長の司会で進行。主催者を代表して日書連・矢幡秀治会長、来賓を代表して日本書籍出版協会・小野寺優理事長(河出書房新社社長)があいさつし、日本出版取次協会・近藤敏貴会長(トーハン社長)の発声で乾杯した。矢幡会長は23年も書店の存続に向けて業界一丸となって取り組みたいと訴えた。
各氏のあいさつの要旨は以下の通り。
《日書連・矢幡秀治会長》
書店の売上げは非常に悪い状態が続いている。舩坂前会長時代から「粗利益30%以上」という話をしているが、多くの出版社、取次に施策を打っていただき感謝している。
「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」は自民党議員150名超が加盟し、大きな勢力になっている。多くの先生方が書店を残すために頑張ってくれているのはありがたい。
また、紀伊國屋書店の高井昌史会長兼社長が運営委員長に就き、秋の読書推進月間「BOOKMEETSNEXT」も始まり、出版業界が一丸となって読書推進運動に取り組む動きが出てきた。日書連「秋の読者還元祭」には約12万件の応募があり、前回より多くの方々に参加していただいた。少しずつ明るい兆しが出てきたと信じている。
日書連は45都道府県書店商業組合、9委員会で活動し、生き残るために一生懸命やっている。しかし本当に厳しくて、あと何年かしたら無くなってしまうのではないかと本気で思っている。早く成果を出したい。何か一つでも前に進めていけるよう、私たちの活動を支えていただきたい。
《日本書籍出版協会・小野寺優理事長》
全国の自治体の26%に1つも書店がない状態だという。出版社が作った出版物とお客様の出会う場がそれだけ減っているということに他ならない。
ここに来て様々な取り組みが始まった。「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」は自民党でも1、2を争う大きな議連になった。各地の書店が地元選出の議員に加盟を呼びかけたという背景があり、地域の書店の重要性をひしひしと感じている。また、秋には「BOOKMEETSNEXT」がスタートした。
新しい取り組みに共通するのは、書店、取次、出版社という立場を超えて業界が一丸となって取り組んでいること。多少の意見の違いはあっても業界全体のためになるならば一丸となって取り組もうという風潮が生まれてきたのは大変意義あることだ。
《日本出版取次協会・近藤敏貴会長》
JPICの理事長に就いて2年目になる。日書連の矢幡会長とは色々なことを話し合いながら進めることができた。これまで何となく書店との間に壁みたいなものがあったが、そういうものを少し取り払えたのではないかと思っている。
「BOOKMEETSNEXT」は高井氏に運営委員長をやっていただき、連携の度合いが高まった。キャンペーンと連動して11月のPOSもかなり上がった。書店にイベントをたくさんやっていただいたが、特徴的なのはイベント実施書店と未実施書店で売上に差が出たこと。次はパワーアップしてもっと良いものにしたい。
「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」は、12月8日に中間とりまとめを発表した。関連省庁の文化庁、経済産業省、公正取引委員会にしっかりと取り組んでいただけるよう、業界が力を合わせたい。

「春の読者還元祭2023」実施要項

▽名称日書連主催「春の読者還元祭2023」
▽期間2023年4月20日(木)より5月12日(金)まで
▽参加資格組合加盟書店及び希望する書店
▽実施方法期間中に来店したお客様、外商先などにキャンペーンサイトを案内。参加にはお客様自身による専用サイトへの応募が必要(応募上限は1日1回、キャンペーン期間中に最大23回の応募が可能)
▽販促物
①キャンペーンしおり(1種類150枚。図案は名画を予定)、②雑誌カード(A5サイズ130枚)、③店頭用A3ポスター1枚
1セット予価3630円(税込)で頒布。書籍、雑誌を購入したお客様(税込500円を目安)に進呈。店頭用A3ポスターは告知用。日書連ホームページからもダウンロード可能(今回はQRコード付き応募ポスターの作成なし)
▽申込方法自主申込制。注文ハガキに申込セット数と実施書店名を記入の上、所属の都道府県組合宛に申し込む。申込締切は3月1日(水)
▽納品と請求方法取引取次経由で4月中旬に納品。代金は取引取次から請求
▽賞品総額300万円
図書カードネットギフト1万円 100本
同3千円           200本
同1千円          1400本
当選者には日本図書普及より直接、図書カードネットギフトメールを6月末頃送信の予定
▽報奨金しおりを購入して応募者を150件以上集めた組合加盟書店に報奨金を支給(支給する報奨金は購入数に関わらず1セット分だけとする)
▽その他販促活動への助成として、組合加盟全店にしおり20枚を無料進呈(雑誌カードは付かない)。キャンペーン開始までに全店に直送

「春夏秋冬本屋です」/「大人こそ絵本」/福岡・麒麟書店常務・森松恵美

日々の忙しさから解き放たれ、お母さんが自分の心と静かに向き合える時間と居場所があれば、明日からまた優しい気持ちで子育てができる。そう願い「お母さんのためのヨガクラス」を12月から絵本屋でスタートさせた。少しでも集中できるように、保育士のスタッフが子どもたちを見守るサービス付きだ。更に、ヨガを始める前のひと時には、お母さんに向けて絵本を1冊読んでいる。子育て中に絵本を読むことはあるが、大人になったいま、誰かが母親のために絵本を読んでくれる機会はない。そこで、童心に帰ったつもりで耳を傾けてもらおうと考えた。お母さんからは「次のページにワクワクした」「おしまい!と言われた時、もう終わりかと寂しくなった」「幼い頃の不思議な感覚が蘇った」と言う声が上がる。
また、年末に開催した「お母さんのための読み聞かせ」では、絵本のある子育ての話や、絵本の中の素敵なことばを探して大好評だった。私が絵本をおすすめする時には、どのような絵本をお探しなのか、カウンセリングしたのちに、実際に読み聞かせを交えながらご紹介する。中には、読んでいる途中で涙を浮かべ「思いがけず良い時間だった」と喜んでくださる方もいる。懐かしい絵本も誰かの声で聴くと、癒し効果があるのかもしれない。今後も、子どもから大人まで寛ぎ安らげる絵本屋を目指していきたい。

訃報/光永和史副会長が逝去

光永和史氏(みつなが・かずふみ=松山堂書店代表取締役、日本書店商業組合連合会副会長、愛媛県書店商業組合理事長)
1月2日、心不全のため死去、69歳。通夜は4日、告別式は5日、愛媛県松山市のムラタホール市駅で執り行った。喪主は長男知正氏。
日書連では2011年理事、21年から副会長。愛媛組合では1983年理事、98年専務理事、2011年から理事長。愛媛組合の理事時代から、約40年にわたり広報畑を歩んだ。
愛媛組合広報委員として本紙に記事を多数執筆。11年日書連広報委員に就き、21年同広報委員長に就任。22年9月1日号で通巻2000号を迎えた本紙特別号の巻頭言を執筆。同年10月コロナの影響で4年ぶりに開催した全国広報委員会議では矢幡会長と各組合広報委員の懇談会を企画した。

「BOOKMEETSNEXT」/企画改善のためアンケート実施中

秋の読書推進月間運営委員会はこのほど、出版業界が一丸となって取り組むことを目指して2022年にスタートした秋の読書推進月間「本との新しい出会い、はじまる。BOOKMEETSNEXT」の開催報告を発表した。
キャンペーン初日の10月27日には、紀伊國屋ホールでオープニングイベントを開催し、7名の著名人にBOOKアンバサダーに就任してもらった。会場では今村翔吾氏、角野栄子氏、中江有里氏が「出会い」をテーマに講演・対談を行った。満席で会場参加できなかった人のために、後日、配信を行った。
同期間内にキャンペーンを展開した「本の日」や「WATERASBOOKFES」などと連携したイベントも実施した。また、期間中は全国の書店でキャンペーン連動企画、書店独自企画などが実施され、書店数2018店、延べ3419企画というこれまでにない規模のイベント情報をキャンペーンサイトに掲載・告知した。書店へ客を誘導するための「BOOKスタンプラリー」は、短期間にスタンプを5つ集める高いハードルだったが2548人が参加した。
「期間中に店頭企画を実施した書店では、未実施書店より売上が好調だった」「以前より行っている店頭企画への参加が大きく増加した」など店頭の盛り上がりを感じられる報告が寄せられている。
運営委員会は次回以降の企画改善のためアンケートに協力してほしいと呼びかけている。回答期限1月31日。回答するには次のURLからウェブサイトにアクセスする。URL=https://forms.office.com/r/WDDYHaVcVt

書店議連「中間とりまとめ」発表/入札時の値引き抑制、軽減税率盛り込む

「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」(書店議連)は12月8日、東京・千代田区の憲政記念館代替施設で総会を開催し、「不公正な競争環境等の是正」「DXの推進」「文化向上・文化保護の観点からの支援」「収益構造確立・新たな価値創造への支援」を求める中間とりまとめを発表した。官公庁や図書館への入札時の値引き抑制や消費税軽減税率適用などを盛り込んだ。今後さらに議論を深め、2023年春頃を目途に最終報告をまとめ、政策的対応の実現に取り組む。
総会の冒頭、塩谷立会長は「中間とりまとめを元に、23年、国会で法制化するところはしていきたい。趣旨に賛同した議員が協力し、皆の力で街の書店を守って元気にしたい」とあいさつした。
書店側事務局を務める出版文化産業振興財団(JPIC)の近藤敏貴理事長(トーハン)は、全国で書店が1店舗も無い自治体は26・2%、1店舗以下の自治体は45・4%と報告。「この先10年、あるいはもっと早いかもしれないが、今と同様の状況が続けばほとんどの書店はなくなってしまう」と強い危機感を示し、諸外国のように政府が文化的保護の観点から対策を打っていかなければならないと訴えた。
関係省庁の文化庁の中原裕彦審議官は「地域図書館と書店が連携し、読書活動の関心と理解を深めるための取り組みを推進していきたい」と述べた。
経済産業省の藤田清太郎大臣官房審議官は、書店振興のために活用可能な支援策としてIT導入補助金、事業再構築補助金などを説明した。
公正取引委員会の品川武経済取引局取引部長は、ネット書店のポイント還元や入札時の値引きについて、「出版社が再販売価格維持契約の締結を通じて制限可能」との見解を示した。また、送料無料など書籍の値引き以外のサービスについては、「消費者利益の増進を目的とする競争政策の観点から、それ自体を問題とすることは困難」だが、フランスなどのように「立法による対応はありうる」とした。
関係省庁の発表を聞いた日書連の矢幡秀治会長は、「少し乖離している。我々のことを考えているようには思ったが、現状の制度に当てはめているだけのようにも感じる。街の書店は利益がなく、数も減っている。日本の文化を守ることを目的に根本的なところから考え直さなければならない」と訴えた。
出席した議連メンバーからは、「文化庁も経産省も、これまでの延長で街の書店を守っていくのは難しいという認識を我々と共有し、当事者意識をもって検討してほしい」(古川康副幹事長=衆議院議員)、「文字・活字文化振興法を改正し、地域文化の拠点として書店を法律的に位置づける作業を始めてはどうか」(坂本哲志副会長=衆議院議員)、「脳科学の観点から子どもたちが本をデジタルではなく紙で読むことを文科省は推進してほしい。公取委は送料無料をもう少し規制できないか」(城内実副幹事長=衆議院議員)、「町長をやっていた時、図書館に新刊を早く入れろという利用者の希望があり、一方で本を買ってほしいという書店とのせめぎあいがあった。人口あたりの冊数などを検討して共存共栄を図るのは国の役割としてやらなければならない」(石原正敬衆議院議員)、「官公庁などの入札で出来るだけ地元を使うという韓国の例は非常に参考になる。公共施設にカフェと同じように書店を作るなど、民間と行政が一緒になって文化振興ができないか」(保岡宏武衆議院議員)、「書店は地域の知的レベルを計る目安。それが減っていくことは街の力が落ちていく危機的状況。子どもに図書カードを贈る国民運動を起こして国が応援すればよい」(石川昭政衆議院議員)といった発言があった。
書店からは、「コロナ禍で目黒区は区立小中学校の児童・生徒らに図書カードを配布する試みを行った。子どもたちが書店に足を運んで自分で選んだ本を買えるよう、毎年新学期に図書カードを配布できる形をとってほしい」(日書連・柴﨑繁副会長、王様書房)、「JPICの近藤理事長が今後10年で書店がなくなると話したが、二大取次の社長からそういう声が出るのはそれほど深刻ということ。10年でなく5年で続けられなくなる書店がたくさんあることを想定した上で行政が取り組まなければ、間違いなく書店はなくなる。施策も時間も足りない。どうやったら文化を守れるかを考えてほしい」(東京組合青年部・田中久隆前会長、大和書店)、「ほとんどの街の書店の経営者は高齢で後継ぎもなく、続けていけずにやめようかという状況になっている。スピード感を持って進めてほしい」(同青年部・田島英治会長、椿書房)、「中小書店だけではなく大手書店も厳しい。家賃を払ったらやっていけない経営環境が根本的に問題」(東京組合・小川頼之常務理事、小川書店)と、危機的状況を訴える発言が相次いだ。
最後に齋藤健幹事長は「危機感をより多くの人に共有してもらうことが大事。マスコミにも宣伝していきたい。中間とりまとめを(22年の)年内に首相に届ける」と述べた。

家康テーマに安部龍太郎氏の講演会/正文館書店、百周年で

愛知県岡崎市の正文館書店(春井宏之社長)は2月10日(金)午後6時から岡崎市の岡崎商工会議所大ホールで、直木賞作家の安部龍太郎氏を講師に招き同社100周年記念講演会を開催する。サイン会も行う。
『家康はなぜ乱世の覇者となれたのか』(NHK出版)の著書もある安部氏が、NHK大河ドラマ「どうする家康」の放送開始に合わせ、家康を知るための貴重な話を披露する。参加費無料。定員先着250名(自由席)。コロナの感染状況により変更の場合あり。
申し込みは正文館書店ホームページ(http://www5a.biglobe.ne.jp/~bookhal/)から。問い合わせは正文館書店まで。電話0564(28)0111、電子メールviscssi@yahoo.co.jp

訃報

長谷川義剛氏(はせがわ・よしたけ=長谷川書店取締役会長、元日本書店商業組合連合会理事、元神奈川県書店商業組合理事長)
1月2日、病気療養中のところ死去、88歳。通夜は12日、告別式は13日、神奈川県茅ヶ崎市の湘和会茅ヶ崎で長谷川書店と長谷川家の合同葬で執り行った。葬儀委員長は弟で同社代表取締役の稔氏、喪主は妻の百合子氏。
日書連では1996年常任委員、2002年から08年まで理事。神奈川組合では1986年理事、2004年から08年まで理事長。地域書店の発展と読書推進運動に尽力した。

街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟「中間とりまとめ」

1、議員連盟の経緯
●平成28年9月2日(金)に初会合となる書店経営者との懇談を実施し、その後、14回の会を重ねてきた。スタート時には40名だった議員連盟メンバーも、148名という自由民主党の議員連盟としては最大規模に拡大し、書店をめぐる厳しい現状や課題等の議論を行ってきたところである。
●今回、これまでの議論を中間報告すべく、とりまとめた。今後、更に議論を深め、来年の春頃を目途とし、最終報告をまとめることとしたい。
2、現状
〈消えつつある「街の本屋さん」〉
●街の本屋(書店)は単に本を販売する場所ではない。書架に並ぶ「未知の本との出会い」が、来訪者の視野を広げ、潜在的な関心を呼び起こしている。来訪者が一定数の現物を直接確認できる「街の本屋」は、ネット書店よりも、こうした「未知の本との出会い」の可能性をより大きく秘めている。
●しかしながら、書店の数は15年で約40%減少している。2022年9月時点では全国市町村のうち26%は無書店市町村となっている。都心部の有名書店も相次いで閉店が生じている。
●書店がなくなるということは、個人の教養の幅に影響を及ぼすばかりでなく、ひいては日本の文化の劣化に繋がることを意味する。この事態を放置してよいのか。
〈諸外国が書店を保護する動き〉
●海外では、書籍全般に着目した振興政策に加え、書店ならではの価値を考慮し、「書店」に特化して競争環境・共存環境を整える政策を行っている国もある。
●例えば、フランスでは2021年に書店保護を目的とし、インターネットで書籍を販売する業者に対して、それまで実質無料化されていた配送料について、最低料金を課す法律が制定された。また、2021年には読書推進を目的に、書籍を購入できる文化パスが政府によって配布されている。18歳には4万円、2021年1月からは中高生にも2・6万円が配布された。商品の注文はオンラインでも可能だが、現物の受け取りは実店舗のみとなっている。
●韓国では2020年に、公共・学校図書館が図書を購入する際には、その購入先として地域の書店を優先するよう、韓国・文化体育観光部から地方公共団体等に勧告が出された。
●一方、我が国においては、こうした書店が文化向上の大切な拠点であるとの認識の下での政策は存在しない。例えば、多くの先進諸国において行われている出版物に対する軽減税率も、我が国には存在していない。
〈不公正な競争環境等〉
●日本の書店は、不公正な競争環境にさらされている。
●一般に、製造者が指定した価格で小売業者等に販売させる「再販売価格維持」は独占禁止法上禁止されているが、著作物については文化の振興・普及等の観点から適用除外の制度(いわゆる著作物再販制度)があり、全国どこでも同一の価格で、著作物が確実に入手できるようになっている。このことは、地方が中央に比べ、文化水準において劣後することを防ぐ効果をもたらしている。
●こうした重要な制度があるにも関わらず、ネット書店による送料無料化や過剰なポイント付与等といった実質的な値引き行為が横行する等、不公正な競争環境は深刻化している。
●加えて、官公庁、公共図書館、学校図書館等への納入に際しては、入札において、過度な値引きが行われるケースも存在する。
●また、公共図書館のベストセラーや新刊本等の過度な複数蔵書等により、公共図書館と書店の共存が難しくなっている側面もある。これは公共図書館の評価基準が利用者数や貸出冊数にあることが、その傾向に拍車をかけている。結果として、蔵書が人気のある本に偏り、多様な世界に接する機会の減少につながっている。
〈遅れているDX〉
●日本の書店は、デジタルトランスフォーメーション(DX)への投資は進んでいない。多品種少量供給のサプライチェーン効率化、書店経営に多大な損失を与える万引きの予防策、あるいは棚卸業務等の書店オペレーションの負担軽減といった観点から、個品識別を前提としたICタグ等の新たな技術に期待が寄せられているが、業界での積極導入には至っていない。書店業は勿論のこと、サプライチェーンに関わる多くの業界関係企業の経営状況を改善させる可能性があるにも関わらず、投資費用や影響範囲の大きさ等から導入負担に耐えられず、DXに着手できていないのが実情である。
●全業界的に進むキャッシュレス決済について、消費者利便性の観点から書店業においても積極的導入を図っていくべきであるが、現在の書店の収益構造においてはキャッシュレス決済に関わる諸手数料の負担に耐えることができない。
〈多品種小部数販売の書店に支えられている文化の危機〉
●書店への来店動機は、「紙の書籍を買うため」以外に、「情報収集」、「試し読みのため」、「書店の雰囲気が好き」といったものも少なくなく、特に若い世代では直接的な購買行動に結びつかない傾向も高い。一方で、「情報収集」のように明確な購買目的を持たずに書店に訪れた際であっても、書店においては「未知の本との出会い」が生じた結果、予期せぬ購買に繋がるといったことが起こる。
●我が国における書店業は、戦後以来、大量部数が流通する雑誌販売を主体に発展し、市場の拡大がなされてきた。そこに多品種小部数である書籍販売が組み合わされることで、今日の出版文化の多様性に繋がっている。しかしながら、この多様性が危機を迎えている。
●書店における販売金額が大きかった雑誌は、出版市場の最盛期である1996年は総販売金額の59%にあたる1兆5633億円を占めていたが、2020年には45%に減少し、販売金額は往時の1/3の5576億円にまで減少している。これはインターネットの急速な普及に伴い、情報源が紙媒体からネット媒体へとシフトしたこと、かつては雑誌紙上に掲載されていたような情報がインターネット上に無料で公開されるようになったことなど、いわゆるデジタルシフトの影響を色濃く受けていると指摘されている。
●また、コミックについても、デジタルシフトが進み、2021年には7千億円弱の重要市場となっているが、6割強が電子コミック市場となっている。紙で比較すると20年間で市場は45%に縮小した。
●発売日が決まっており定期的に販売されていた雑誌やコミックといった収入源を失いつつある中、書店は厳しい経営状況に置かれ、結果として、多品種小部数販売で、書店が日本の文化を支えるといったことに支障が生じている。
〈現在においても「街の本屋さん」にしか提供できない価値〉
●書店の来店動機である「紙の書籍を買うため」や「試し読み」や「情報収集」については、ネット販売や娯楽の多様化等により、書店以外により充足される傾向にある。今後も、その流れが加速していくことは否めない。
●しかしながら、現在でも、関心分野は決まっていながら購入したい本が決まっていない際の探索型購買のニーズに応えたり、「未知の本との出会い」を創出したりといった点は、実店舗を有する書店にこそ強みがあり、そのような文化的・知的空間が、地域社会に根差し、生活者にとって身近に存在することは、日本の文化の向上にとって大きな価値である。
●教養や娯楽も含め、あらゆる情報の発信拠点となりうる書店は、近年では体験型サービスやイベントとの相性も良く、コミュニティ形成やイノベーション誘発といった面においても、大きな役割を果たすことが期待される。
3、課題
〈不公正な競争環境等〉
●著作物再販制度があるにも関わらず、ネット書店による送料無料化や過剰なポイント付与という実質値引き等により、書店は不公正な競争環境にさらされている。また、公共図書館によるベストセラーや新刊本の過度な複数蔵書等により、書店と公共図書館の共存が難しい環境となっていることに加え、官公庁や図書館への納入の際には入札による過度な値引きも行われている。
●これらの環境を是正し、ネット書店や公共図書館と、書店業との共存共栄が図れるモデル・制度を整備し、日本文化を支えられるようにすることが必要である。
〈遅れるDX〉
●経営状況を改善させる可能性があるDXの取組については、厳しい経営状況とそれに起因する再投資余力の無さがネックとなり、進められていない。
〈文化向上・文化保護の視点〉
●書店業及び出版業とは、国家の文化・教育水準を支え、民主主義の成熟を扶けるものであり、その産業の趨勢は単なる一産業の浮沈に留まるものでは無い。そのような観点で書店業を捉え直さなければ、ゆくゆくは日本文化、国力の劣化に通じる。
〈収益構造の見直し〉
●店舗における販売金額の大部分を占めていた雑誌、コミック等が書店で購入されなくなっている状況下において、大量流通を前提に多くの在庫を抱えなければならない店舗が、安定的に収益をあげるということが非常に難しくなっている。結果、書店業における売上高対営業利益率は▲0・3%であり、もはや業として成り立っていない。
●書店が存続するためには、新たな収益構造の確立も必要である。
4、対応に関する検討の方向性
●上記の課題を踏まえ、それぞれ下記の方向で、更に検討を進めるべきではないか。
〈不公正な競争環境等の是正〉
●著作物再販制度の厳守のため、一定の制限やルールを設けることを検討する必要があるのではないか。特に、実質的な値引販売(ネット書店の送料無料配送等)については、一定の制限を設けることを検討する必要があるのではないか。また、官公庁、公共図書館、学校図書館等への納入に係る入札については、過度の値引きを抑制する方途を検討すべきではないか。
●加えて、公共図書館と書店と両者合意のもとで、共存できるようなルール作りを検討すべきではないか。特に、公共図書館における同一タイトルの過剰な蔵書、あるには新刊本の貸与開始時期については、一定のルールの導入を検討する必要があるのではないか。具体的には図書館法第7条第2項に規定されている「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」について、より実態に見合った実効性のある基準への見直しを検討すべきではないか。
〈DXの推進〉
●多品種少量供給を特徴とする出版物のサプライチェーンにおいて、ICタグの活用は、流通効率の向上・万引き抑制効果・販売ビッグデータの精度向上など、多くのメリットが期待出来るが、サプライチェーン全体(制作(出版)・印刷/製本・流通・小売)に係るものであるため、投資規模が極めて大きく、情報が少ない中、業界のみでの実行に至っていない。
●こうしたことから、産業サプライチェーンへのICタグ導入をテーマに、産官連携のモデルプロジェクトを発足させ、政府として助成を検討すべきではないか。なお、当プロジェクトの結果は、「2024年問題」等に直面する他物流業界においても有効な知見として活用できると考えられる。
〈文化向上・文化保護の観点からの支援〉
●フランスの若年層への文化パス配布政策を参考に、我が国においても読書推進を目的として書籍購入や読書活動への参加を促進するクーポン配布を検討すべきではないか。既に図書カード等が広く流通しており、現物の受け取り及び決済を書店とすれば、書店への来店誘導政策としても寄与し、書店の経営改善にも繋がる。
●多くの先進諸国と同様に、我が国においても出版物への消費税・軽減税率適用を検討すべきではないか。軽減税率を適用することとは即ち、当該国が何に価値を置いているか、という意思表示、メッセージとなり得る。政治、経済、社会、文化等に関する社会的事実等に、誰もが日常的に触れることができる情報媒体であるとともに、学術的かつ創造的な活動の基盤でもあるのが、出版物である。幅広い層に日々読まれることから、国民の生活になくてはならないものとして、軽減税率を出版物へ適用することを検討すべきではないか。軽減税率が適用されることで、社会のあらゆる「知識」に価値を置くというメッセージを表明することとなり、我が国の文化的成熟度を内外に知らしめることにも寄与する。
〈収益構造確立・新たな価値創造への支援〉
●韓国やフランスの事例にあるような、書店の経営環境改善に寄与する包括的な書店業支援の枠組み、制度の創設を検討すべきではないか。例えば、出店・改装意欲があるにも関わらず、資金難によって実施が困難である場合の出店支援や書店空白エリアへの出店支援、経営改善のための複合店化や新規サービスの導入に関わるコストの助成、人材確保及び人材教育関連コストの助成、あるいは昨今の様な急激な諸物価高騰に対応するための一時的な運転資金支援といった制度を整えることで、書店の経営改善意欲に応え、業界としての健全かつ持続的な新陳代謝を可能にできるのではないか。
●「紙の書籍の販売」といった部分以外においても、書店が収益をあげられるようなイノベーティブな取組を支援することが重要ではないか。特に、従来から来店動機となっていた「情報収集」や「試し読み」であったり、「未知の本との出会い」であったりを価値化するようなパイロット店舗の取組や、読書推進や、出版業並びに書店業にまつわるベンチャーやスタートアップ企業の取組について、支援を行う方向で更に検討を進めるべきではないか。