全国書店新聞
             

平成22年2月1日号

21年ぶり2兆円割れ

昨年の出版物推定販売額は前年比4・1%減の1兆9356億円となり、2兆円を割り込んだことが出版科学研究所の調べで明らかになった。
2兆円割れは1988年以来、21年ぶり。これまでの出版販売額のピークは1996年の2兆6564億円で、この年を基準にすると、昨年の販売額は27%減で、ピークから7200億円減少したことになる。

提出期限は2月10日/国民読書年の各県組合企画/日書連

日書連は1月22日午前11時から書店会館で定例理事会を開催した。1月理事会では国民読書年のイベントとして、出版文化産業振興財団から「20歳の20冊」のイベントが報告されたのを受けて、読書推進委員会西村委員長より各県組合の国民読書年推進企画費として総額1千万円のプラン提出を求めた。
〔読書推進〕
日書連は12月理事会で国民読書年の推進企画費として総額1千万円を予算化したが、西村委員長は2月10日までに各県組合で企画概要と費用の概算を提出するよう求めた。
各県の企画案は委員会の審査を経て2月理事会で決定する。西村委員長は各県組合に積極的なエントリーを求めた。
〔政策委員会〕
ブルーオーシャンセンター㈱から「書店ポータルサイト化構想」の提案があった。これは書店店頭にフェリカの読取り機を設置し、書店に訪れた客が携帯電話をかざすと広告主のサイトに誘導し、各種情報が得られる仕組み。
三省堂本店でテスト稼働しており、富士フィルム、宣伝会議など数社がプロモーションを展開している。読取り機を設置した書店には1台月額3千円程度の設置料が支払われる。理事会で同社の提案を検討した結果、共同購買委員会が担当し、設置希望の書店を募ることになった。
日書連、古書籍組合、リサイクルブックストア協議会の三者で製作する「万引き防止ステッカー」は3月初めに共同記者会見を開き、ポスターの製作とアピール文を発表するほか、中学・高校などの教育機関にも事前に案内したいとし、ポスターの文案は事務局に一任することを了承した。
都道府県組合に対する活性化資金については、審査の結果、申請のあった20組合に1組合5万円から15万円まで補助金を支出することを決めた。
日本図書普及から支払われていた書店くじ広告費は折衝の結果、来年度は4千万円となる方向だが、「名目は広告費だが、歴史的な経過がある。実態は書店に対する協力金」「次年度は8千万円に戻すべきだ」とする意見が相次いだ。
〔取引改善〕
指導教育委員会鈴木委員長から、日販の12月末返品入帳は18日までしか入らなかったとする問題提起があった。柴﨑委員長は東京組合の調査でもトーハンの12月入帳は5営業日前の22日だったが、日販は19日までしか入帳しなかったと指摘。5営業日前という約束が守られなかったことに抗議したいとした。
この一方、日販と同じ蓮田の出版共同流通を利用している栗田は12月29日まで返品入帳し、蓮田読み取りの計算書も添付していることを強調。返品を読み取った商品は全部入帳すべきではないかと問題提起した。
神奈川組合山本理事長は12月21日に公取委取引企画課を訪ね、池田課長補佐に返品入帳の不公正を説明したことを報告。しかし、取次への指導については、「公取委は指導する場所ではない」として意見を聞くにとどまった。山本氏は各書店も公取委に陳情すべきではないかと発言した。
角川書店『ロスト・シンボル』の販売条件については、「TS協同組合として買い切り正味安を交渉したが応じてもらえなかった」とし、角川と話し合いを行いたいと述べた。
取引用語の統一については『「出版業界用語」現状の解釈と問題点』をまとめ取協と議論していくことを説明。大橋会長は出版社も交えて議論する必要があるとした。
〔出版販売年末懇親会〕
昨年末の出版販売年末懇親会の収支が報告され、来年度継続して開催していくことを確認した。

新成人に図書を贈る/4自治体で「20歳の20冊」

国民読書年を記念して、自治体から新成人に本を贈る「20歳の20冊」が茨城県大子町、千葉県袖ケ浦市、鳥取県日吉津村、島根県東出雲町の4自治体で一斉に行われた。
出版文化振興財団(JPIC)が自治体に呼びかけて実現したもので、文化人・著名人が選んだ20冊のリストの中から新成人に好きな本を選んでもらい、成人式でプレゼントするというもの。
日吉津村は1月3日、他の3自治体は10日に行われた成人式で新成人一人ひとりに希望の本がプレゼントされた。4自治体でプレゼントされた本は合計884冊だった。
1月22日の日書連理事会でJPIC中泉事務局長は「来年度は1800の自治体に企画を提案し、平成23年の成人式に20~30の自治体での実施を目指したい」と報告を行った。
日書連読書推進委員会西村委員長は「JPICが地ならしした自治体に各県組合もプッシュしてもらいたい」と述べた。

書店も同条件申し入れ/年間購読のサービス品提供/1月理事会

〔流通改善〕
出版社が読者から直接年間購読を受ける場合、書店で定期購読する場合にないサービス品を提供して、書店の定期読者を奪っているという問題で、流通改善委員会は各県組合からの報告をもとに、問題のある出版社には書店定期にも同様のサービス品提供を求める文書を送ることになった。
また、富士山マガジンが雑誌版元から定期購読業務の受託を進めている問題についても、書店定期を上回るサービスが行われないか、注視していく。
このほか、責任販売制の問題について、藤原委員長は「講談社、小学館、35ブックスなど各社で行われた責任販売の結果を整理して検証していきたい」と報告した。
〔財産運用〕
日書連共済会の残余財産約5億円の使途をめぐり、東京組合の所有する書店会館取得が議論されてきたが、大橋会長は「税金4割を引くと、会館を購入すれば手元にほとんど残らない。今期決算で税額が確定するのを待って検討したい」という方針を示した。
〔情報化〕
書店店頭に設置した端末でコミックを試読できる「ためほんくん」は3月まで福島、東京、大阪、鳥取、島根の書店11店でテスト中だが、小学館、集英社、講談社、白泉社、秋田書店の版元5社に加え、スクエア・エニックスと実験店では丸善も参加したいと申し込みがあり、検討中であることが報告された。
〔組織〕
12月期の各県組合の加入・脱退は、加入1店、脱退12店で、前月対比11店減。組合員合計は昨年4月対比205店少ない5297店となった。
中山委員長は各県組合の実態把握のためアンケートを取りたいとし、①各県組合で行っている返品運賃の折衝、図書館納入、自治体研修費の獲得などの有無、②青少年育成審議会への参加、③組合賦課金の規定、④組織委員会の担当者名などを調査する方針を明らかにした。
〔再販研究〕
アマゾンの「キンドル」など電子情報端末に対抗して講談社、小学館、新潮社など出版社21社で「日本電子書籍出版協会」が発足する問題で、岡島委員長は「電子書籍化で再販が適用されなければ、リアル書店には大打撃。日書連として見解を発表する必要はないか」と問題提起し、大橋会長は政策委員会で検討したいとした。
再販違反事例の報告については、①大阪・茨木市のコジマBOOKS文教堂がポイント3倍セール第2弾を行った、②ツタヤ新所沢店がDVDのレンタルに対し「販売BOOKポイント5倍」のクーポン券を提供したなどが報告され、1月28日に開かれる再販研究委員会に資料提供することを説明した。
〔指導教育〕
鈴木委員長は21日に行われた委員会で出た問題として、①日販取引店の12月末返品入帳が18日までしか行われなかった、②角川書店の『ロスト・シンボル』が買切り普通正味、返品許容5%というのは問題がある、③勝木書店、田村書店、金高堂書店など5店で行っている中古本の共同仕入れシステムについて、日書連としても研究してほしいとの要望があった、と説明した。
大橋会長は「中古本の販売は取次が返品を懸念している。買切り、処分などの問題があり、時間をかけて考えていきたい」とする考えを述べた。
〔増売運動〕
昨年秋に行われた読書週間書店くじの特賞当選者は1月10日の締め切りまでに全国から別掲の28名が名乗りをあげた。2月1日付けで特賞賞品として図書カード5万円分を贈る。
今年4月に実施する「春の書店くじ」は舩坂委員長から383万枚の基本目標数が示された。
〔消費税〕
書協、雑協、取協、日書連の出版4団体は1昨年10月、各政党に「税制に関する要望書」を提出し、出版物の税率は据え置きか軽減税率とすることを求めたが、民主党鳩山政権は4年間は消費税率引き上げを行わないとしており、出版業界も働きかけを行っていない現状を面屋委員長が説明した。山口理事は「これだけ歳入が落ち込み、予算の半分を国債が占める不健全な財政状態になっている。増税議論になれば(出版業界は)再販か消費税の二者択一を迫られる場合もあるのではないか」とする懸念を指摘した。

平成21年読書週間書店くじ特賞当選者

(カッコ内は発券店)
江別市・中村恒夫、盛岡市・浅沼一博(東山堂)、釜石市・井ヶ田昌信(桑畑書店)、古河市・梁野美也子(セキグチ書店)、甘楽郡・吉田孝一郎(書泉)、川口市・神山壮、鴨川市・石井千恵子(松本書店)、平塚市・小見明子、台東区・青木浩一(かっぱ堂書店)、新宿区・和賀典子、同・夏見祐二、杉並区・佐野滋、板橋区・松山英幸(新清堂)、北区・広川紫乃、三鷹市・石塚雅史、甲府市・穴水いさか(朗月堂)、駿東郡・藤井明、一宮市・永田真弓、豊明市・浜島由充子、丹羽郡・篠田敏子(兼松書店)、富山市・江尻久佳(BOOKSなかだ婦中店)、千曲市・安藤盛重(中村書店)、大阪市港区・森岡修平、羽曳野市・伴基司、高岡郡・岡田由美(ブックスヨシムラ)、小倉南区・久松史織、筑紫野市・伊藤嘉英、鹿児島市・西田昌美

12月売上げ96・0%/児童書以外は前年割れに/日販調べ

日販経営相談センター調べの12月期書店分類別売上調査がまとまった。12月は前月の94・8%から96・0%とマイナス幅が若干縮まった。しかし12月期の数字としては、この5年間で08年の95・3%に次ぐ2番目に低い数字。中旬から下旬にかけて日本海側で大雪があり、天候不順も影響して客数は前年同月比96・7%となった。
ジャンル別で前年同月を上回ったのは児童書のみ。児童書は2カ月連続のプラス。『くらべる図鑑』や『かいけつゾロリ』最新刊などが牽引した。文芸は売上上位100銘柄で金額比59・5%、冊数比56・8%と前年を大きく下回り、文芸書の平均で88・7%と1割以上の減になった。
客単価は平均1248・4円、前年同月比100・6%で3カ月連続で前年を上回った。1点当たり単価は98・8%だが、買上げ冊数が101・8%と増加した。

日販鶴田氏お別れの会に千5百名

昨年12月27日に71歳で亡くなった日販相談役・前代表取締役社長、鶴田尚正氏の「お別れの会」が1月26日午前11時半から千代田区・ホテルニューオータニ芙蓉の間で行われた。お別れの会には出版社、書店、業界関係者など千五百名が参列。鶴田氏の遺影に白いカーネーションの花を捧げた。喪主は鶴田典子さん。
鶴田氏は昭和36年に日販入社。企画畑を歩み、関連会社、書店に10年間出向。本社に戻ってからは商品開発業務に携わり、菅氏の後を受け平成15年から3年間
代表取締役社長、18年から20年まで取締役会長。

参考図書

◆『有隣堂100年史1909~2009』
昨年12月13日に創業100周年を迎えた有隣堂は同社の変遷を辿った『有隣堂100年史』を刊行した。B5判、431頁、非売品。
創業前史・創業時代から説き起こし、震災・戦災から復興、有隣堂ビルの完成、多店化展開、外売部門の拡充、OA機器営業の拡大、東京圏への進出、そして新たな発展を目指す21世紀に至る同社の歴史を、創業地・神奈川県横浜市の歴史や出版業界、文具・事務機器業界などの動向も交えつつ記述している。別編として組織・人事・社会への対応、資料編として店舗・営業所一覧、売上高の推移、有隣堂出版物一覧、歴代役員一覧、有隣堂年表などを掲載している。

書店無視の電子書籍化に危機感/神奈川新年懇親会

神奈川県書店商業組合は1月19日午後3時から勤労会館で定例理事会、午後5時半から横浜中華街・華正楼で新年懇親会を開催した。理事会の主な審議内容は以下の通り。
1、広告入りポリ袋を昨年同様に作成する。
2、「神奈川の本屋さんが薦める子供の本」について、筒井理事より神奈川組合の増売企画として金の星社の絵本セットをシールを貼付して販売することにすると説明があり、3カ月延勘でお願いすることにした。
3、「新政権が誕生したので適当な時期を見て業界の実情を伝え理解を求めてはどうか」との意見があった。
続いて会場を移して新年懇親会を開催。書店36名、版元47名、取次・業界紙・他6名、総勢89名が出席した。
来賓の日書連・大橋会長はあいさつの中で返品・送品同日精算、業界用語統一、出版社倒産増加による書店負担発生など業界の問題点を一つひとつ解決する決意を示した。
神奈川組合・山本理事長は「最近、電子書籍が話題になり、活字の書籍・雑誌は減少傾向となっている。すべてとは言わないが、文化の伝達方法の相当の部分が活字から電子へと変わっていくことが予想される。そのとき書店はどうしたら存在できるのか。出版社と読者が書店の頭越しに手を結んで書店が無視されることがないよう、今から考えておく必要があるのではないか」とあいさつした。
続いて版元を代表して聖教新聞社・上野局長、中央会・稲野氏があいさつした。(平井弘一広報委員)

書籍デジタル化時代への対応検討へ/大阪理事会

大阪府書店商業組合は1月16日午後2時から組合会議室で定例理事会を開催。新年あいさつで、面屋理事長は最近の電子書籍についての報道、つまりアマゾンが開発したキンドル、それに対抗する形での出版社21社による「日本電子書籍出版協会」(仮称)が2月に発足することについて言及し、「書籍デジタル化時代に書店が生き残るための施策を委員会で研究したい」と提案し、承認された。
理事会の主な審議事項は以下の通り。
〔読書推進委員会〕
「本の帯創作コンクール」の会場が平成22年度は変更になる予定。
21年度コンクール入賞者約80名に入賞した感想文を書いてもらった。小冊子にまとめて、府下全小学校および全自治体・関係機関に配布し、運動の周知徹底を図ることにした。
〔経営活性化・書店環境改善委員会〕
組合員に店頭活性化の参考にしてもらうため、組合員の中の元気な書店にお願いして臨店見学できるようにしたい。店舗面積が大中小の3店程度を候補店にあげたい。
〔S・T・H(ストップ・ザ・廃業)委員会〕
書店のキャッシュフロー改善のため、送品・返品同日精算だけでなく、支払いサイト延長も取次と話し合いたいと考えている。
〔学校図書館・IT化関連委員会〕
大阪市立の学校図書納入が公開見積り合せ制になって約1年が経過した。納入関係書店が集まって問題点を整理し、あらためて大阪市教育委員会に改善策を求めていきたい。現行制度では学校も困っているようだ。(中島俊彦広報委員)

活字の大切さ訴える/国民読書年宣言集会を開催

今年の国民読書年を政官民の協力で成功させるため「国民読書年宣言集会」が1月27日、東京・永田町の参議院議員会館で開かれ、「国民一人ひとりが、地域で、家庭で、学校で、職場で『私の国民読書年』として行動することを呼びかける」とするアピール(別掲)を採択した。主催は活字文化議員連盟、国民読書年推進会議、文字・活字文化推進機構。
宣言集会に先立って行われた活字文化議員連盟総会では新会長に民主党・山岡賢次衆議院議員を選出。副会長は自民、公明、社民、国民新、みんな5党の国対委員長が就任。前会長の自民党・中川秀直衆議院議員は顧問に就任した。また、著作物再販制度の維持など6項目の活動計画案を承認した。
宣言集会では国民読書年推進会議・安藤忠雄代表、日本ペンクラブ・阿刀田高会長、日本新聞協会・内山斉会長、日本歯科医師会・大久保満男会長、日本書籍出版協会・小峰紀雄理事長、国立国会図書館・長尾真館長、文字・活字文化推進機構・福原義春会長、編集工学研修所・松岡正剛所長があいさつし、読書の大切さを訴えた。
活字文化議連の山岡会長は「文字・活字は人類が生み出した崇高な資産。その元となる再販制度とともに守らねばならない。文字・活字文化振興法が実体化すべく努力したい。国民読書年の今年を意義ある年にすべく、一緒に頑張ろう」とあいさつした=写真。
最後に文字・活字文化推進機構の肥田美代子理事長がアピールを読み上げた。
【アピール】
国会で採択された「国民読書年に関する決議」は、「文字・活字は人類が生み出した文明の根源をなす崇高な資産であり、これを受け継ぎ、発展させて、心豊かな国民生活と活力あふれる社会の実現に資することは、われわれの重要な責務である。」と宣言している。
わが国は、世界に誇る出版文化と読書文化の歴史を持った国であり、私たちはこの歴史の特徴を相続し、国民の文字・活字文化への関心を呼び戻すための出発点として、二〇一〇年国民読書年を位置づける。
読書の意義と価値はかつてなく高まり、読書に関する草の根の市民活動も活性化しつつある。この気運をさらに高めるために、国民一人ひとりが、地域で、家庭で、学校で、職場で「私の国民読書年」として行動することを呼びかける。

福岡県かわら版/福岡組合が広報紙

福岡県書店商業組合は、「福岡県かわら版/書店新聞」としてA4判2頁の広報紙を1月6日に発行した。新年号の体裁で、巻頭は福岡組合山口尚之理事長の新年のあいさつ。「書店経営を取り巻く環境は厳しいが、堅実経営で地域社会に貢献していこう」と呼びかけている。
このほか、福岡支部・大石宏典、筑後支部・安徳寛、北九州支部・宇畑仁志、筑豊支部・石川真一の各支部長が支部活動を報告。大石常務理事が「青少年非行防止」として万引き防止の啓発運動で組合員の理解と協力を求めている。

「本には力と答」と久住理事長/北海道新年懇親会

北海道書店商業組合は1月19日午後3時から札幌市中央区・ホテル札幌ガーデンパレスで定例理事会を開催。その後、午後4時から星野上氏(群馬県渋川市・正林堂)を講師に招き、「10年後に生き残る書店像」“在庫を劇的に減らして売上を伸ばす方法”をテーマに研修会を開催した。参加人数は41名だった。
研修会終了後、午後6時から北海道書店商業組合・在札取協・道内出版社新年合同懇親会を開催し64名が出席した。
懇親会では道取次協会のトーハン北海道支店・藤岡聡支店長が挨拶し、「昨年はデフレの中で業界再編が進んだ。今年は国民読書年にあたり『朝の読書』が定着してきた」と話した。
続いて、道組合・久住理事長が「円山動物園の改革の中で、職員にやる気を起こしてもらうため来園者に励ましの言葉を書いてもらい事務所の階段に貼り、それがいつしか栄光の階段といわれるようになった。本には力があり、すべての答えがある。その本をお客様に薦めていきたい。お客様が困ったとき、悩んだときに本屋にきてもらう関係を築くことが書店の栄光につながるのではないか」と挨拶した。
出版社を代表として小学館P・S堀内輝義エリアマネージャーの祝杯で懇親会に入った。途中、直木賞受賞作家・佐々木譲氏が出席し、新年懇親会をおおいに盛り上げた。閉めは、道組合・高橋千尋副理事長の一本締めで散会した。
(高橋千尋広報委員)

町の本屋、V時回復への軌跡/札幌市・くすみ書房代表・久住邦晴

北海道書店商業組合理事長、札幌・くすみ書房の久住邦晴氏は「本屋のオヤジのおせっかい中学生はこれを読め」の生みの親。来客数の減少から一時は閉店を考えたこともあるという久住さんの「町の本屋の挑戦」を中央社研修会で聞いた。
〔地下鉄延伸で閉店の危機〕
平成15年9月、私どもの店には大変な危機がありました。私の店は昭和21年の開店で、父の代から60数年、町の本屋として教科書や地域に根差した堅実な商売を続けてきました。それがいろいろな理由で売上げを落とし続けていました。一番大きな原因は、店から3百㍍ほどのところに地下鉄「琴似駅」があり、東西線の最終駅でした。そこからのお客様が大変多い店だったのですが、東西線が2駅延長になり、最終駅が通過駅になってしまったのです。乗降客数が激減します。バス路線も大幅に減ってしまった。店の前に大きなバス停がありました。地下鉄を降りてバス停まで歩き、そこからさらに奥まで帰る流れだったのが、バスの便数が8割ぐらい減り、人の流れが止まってしまいました。特に夕方の5時以降、並びの西区役所のしまる5時以降は人通りがほとんどなくなってしまった。
地下鉄琴似駅には紀伊国屋も入っていましたが、紀伊国屋もたまらず店を閉められた。私どもはそこ1軒しかありませんので、閉めるわけにはいかない。なんとか売上を伸ばそうと、あらゆる努力をしましたが、ほとんど効果がなく、対前年比で2割ずつ売上が落ちていきました。
いよいよ資金も底をつき、もう無理だと判断したのが平成15年9月です。社員を集めて現状を話し、おそらく来年の7月には資金がなくなる。店を閉めざるを得ない。皆さんも今後のことを考えてほしいとお話ししました。
とはいえ、私自身はあきらめる気はなくて、なんとか道はないか、もがいている日々でした。そういう時には本を読みます。店にあるビジネス書を次から次に読みました。そんな時、ある小冊子が届き、何気なく開いた頁に本の紹介がありました。「きっとこの本で救われる人が出てくるだろう」とあります。さっそくその本を取り寄せました。『あなたの会社が90日で儲かる』(フォレスト出版)という本でした。
その本には「今までのやりかたでは通用しない。非常識と言われてきたことの中に成功のヒントがある」として、新しい発想で人を集める様々な具体的方法が書かれていました。そうか、人を集めるのか。それまでは売上げを伸ばすことばかり考えていた。なかなか効果が出ない。人を集めるというのは考えてみればまだ1回もやったことがない。それならやるべきことはたくさんあると気づき、希望が生まれてきました。これからは、売上げを追い求めるのでなく、人を集めてみようと発想を転換しました。
〔なぜだ!売れない文庫フェア〕
人を集めた経験はないですから、まずプロに話を聞きに行こうと思いました。友人が小さな放送局と広告代理店をやっていましたので、どうしたらいいか聞くと、即座にマスコミを動かしなさい、経営者であるあなたを売り込みなさいと教えてくれました。新聞、テレビで記事、ニュースとして取り上げてくれることをやればよい。それをあなたがあちこちで話しなさい。ニュースになるには、人のやらない面白いこと、珍しいことをやればよい。向こうもそういうものを求めている。
そこでいろいろと相談しました。その時、どうせやっても無駄だと思っていた企画がいくつかありました。その中のひとつに「無印本フェア」がありました。
たとえば新潮文庫だと、当時2千2、3百点が流通していましたが、売上ランク1500位以下のランク外が7~8百点あった。これを集めてフェアをやれば面白いが、誰もそんな本は売りません。札幌の本屋でランク外まで全部置いているのは紀伊国屋書店、コーチャン・フォー、旭屋書店の3軒しかなかった。
その企画を友人に話したところ、面白い、売れなくてもいいからそれをやりましょうということになった。店に帰って、社員に話したところ、みごとに全員が反対した。でも、みんなが反対するなら、かえって面白いかもしれないと思いました。一晩考えて、「なぜだ!?、売れない文庫フェア」という名前を思いつきました。
そして、それをマスコミにアピールするため手書きのチラシ(別掲)を作りました。新潮文庫の売れない無印には私どもの時代にベストセラーだった『次郎物語』も入っています。ちょっと檄文調のチラシを作って、新潮文庫の700点と、ちくま文庫の800点を3延べで発注しました。
出版社さんにはフェア名は内緒だったのですが、新聞社が確認のため出版社に「ある書店が売れない文庫フェアをやるそうです」と取材したところ、出版社は「こういう時期ですから大歓迎です」と大人の対応をしていただいたそうです。
フェアの企画書を作り、①このままでは町の本屋が消えていく、②どこも置かない良書も消えていくとメッセージを書いて、各新聞社のデスクに送りました。翌日、北海道新聞社と毎日新聞社から取材をしたいと電話がありました。フェアの始まる10月27日は秋の読書週間の初日です。新聞社も読書週間に合わせて記事を探していたのが幸いした。北海道新聞社は写真付きで大変大きく取り上げてくれ、内容も好意的でした。朝、会社に行ったところ、朝から電話が鳴りやまない。「今からくすみ書房に行きたいが、どう行けばいいのか」という問い合わせが次から次にかかってくる。店を開けるとお客様が次々に入ってきて、昼過ぎには狭い店内はいっぱいになってしまった。
売れない本でしたから背表紙では全く売れないだろうと思い、両側に1冊ずつ面出しできる棚があるので、フェアの文庫はすべて表紙が見えるよう陳列しました。工夫したのはそれだけです。
お客さんがびっしりのところに、今度はテレビ局が取材に入り、夕方のニュースで流してくれた。それ以後、毎日のようにすべてのテレビ、新聞社が取材してくれたおかげで、売れないはずの1500冊が1カ月で全部売れました。翌11月の売上は対前年比15%アップ。何もしなければ20%ダウンですから、30%のアップということで、私自身が驚きました。当初、年内いっぱいだったフェアをその後も継続し、拡大しました。翌年2月には中公文庫のほぼ全点をやりました。このあたりから、だんだん札幌で変なことをして売りまくっている書店があると評判になって、いろいろな出版社に来ていただけるようになりました。
その中に岩波書店さんもありました。岩波の営業の方が「私どもの文庫が一番売れない」と言うのです。それで、翌年5月、第3次「売れない文庫フェア」で岩波文庫の全点を用意しました。全点にしたのは、中途半端に置いてもインパクトがない。全点ならお客様を引き付ける。私の店は100坪の書店です。本だけで言えば70坪しかない。当時、全点を置いていたのは札幌駅前の旭屋書店(8百坪)だけで、紀伊国屋書店ですら9百冊しか置いていなかった。
〔店内で『坊ちゃん』を朗読〕
ただ並べるだけではだめだろう。何か策が必要だと考え出したのが朗読でした。岩波文庫の名作をマイクで朗読して、店内にBGMで流してみようと考えたわけです。それを北海道新聞に電話すると、「それはどこでもやっていることですか」と聞くので、調べた限りでは1店もないと説明すると、「それでは紹介しましょう。そのかわり久住さんが朗読してください」と言う。それで、『坊ちゃん』を毎日20分ずつ店内で朗読しました。これも大きく紹介されたところ、お客さんが次から次にくる。
しばらく前に『天国の本屋』という小説がベストセラーになりました。新潮文庫から出て映画化されました。そのロケ地が札幌近郊の石狩でした。映画が上映された後、ロケのセットが石狩埠頭に残っていて、それが2日間だけ一般に公開されました。面白そうだと見にいった印象が非常に強かった。
天国の本屋は入って行くと真っ暗で、ろうそくの明かりしかない。これじゃ本が見えない。本棚の代わりにタンスのようなものが置かれていて、何だかよくわからない展示です。最初は笑っていました。レジの前に池があり、その向こうにイスが置いてある。天国の本屋の売り物は朗読だったのです。お客さんに頼まれると、店員がその場で朗読する。そこの所を感心して帰ってきましたが、私ではこんなとんでもない本屋はできないと思った。その時の印象が強かったものですから、朗読というのが頭にあった。そして岩波文庫の販売促進として始めたわけです。
毎日夕方5時から20分間朗読しようと決めました。1カ月ぐらいがんばればいいよねと、私と朗読の出来そうな社員二人で始めました。最初の1週間は私が朗読しました。店内にイスを10脚ほど用意して、マイクを使って声を出して本を読む。緊張し、汗だくになりました。お客様も突然、マイクの音が響いてくるのでびっくりします。
「子どもの頃から無鉄砲で……」と朗読が始まると、一体何が始まったのかとお客さんが見にきます。私が読んでいるのを見て怪訝な顔をする。これを繰り返して、だんだん、くすみ書房では夕方5時になると朗読が始まるというのが日常風景になっていきました。
そして、予想外のことが起きました。新聞に載ったのを見ていろいろな方が聞きにきてくださった。その中から私も読みたいと言う方が現れたんです。隣町から林さんというおばあちゃんが来て「私も読みたいけど、どうだろう」。それはありがたいですが、どうしてですかと聞きました。その当時、声に出して読むことで脳の活性化を図るという健康法がはやっていた。ぼけ防止で家で本を読んでいたが、それではつまらないので、人前で読みたいと言うのです。
それで翌週からお願いしました。その方を皮切りに私も読みたいという人が出てきた。5月にスタートして、6月には読みたいというボランティアの方でカレンダーがいっぱいになりました。そのあともお客様の協力を得てずっと続けていました。日曜と祭日を除く毎日、朗読が店内に流れます。
これがまたマスコミによく受けて、すべての新聞、テレビが取材に来ました。1回目には応援してくれなかったNHKも中継車を出して、アナウンサーも来ました。朗読自体では売上は上がりませんが、それを見てお客さんが来てくれた。5年間、毎日続けました。
今度の店でも朗読をしたいのですが、なかなか雰囲気の点で厳しい。朗読をしてもよいような雰囲気になかなかならない。でもがんばって今月末か来月からでも今の店でも朗読を始めようと思っています。いままでやってくださっていた方には、まだですかと聞かれています。
このおかげで岩波文庫の売上冊数が店で一番になりました。それまで岩波文庫は客注以外、ほとんど1冊も置いていなかったのですが、ひところ、岩波文庫の売上が道内で2番になりました。今はそんな順番ではないですが、今でも岩波文庫はよく売らせていただいています。ちくま文庫も全点フェアのおかげで、道内で10番以内に入りました。その後、河出文庫、講談社学術文庫、文芸文庫とやりました。
学術文庫は一昨年の秋に置きました。すべて表紙が見えるように並べました。学術文庫はほんとうにきれいになりまして、表紙が並ぶと壮観です。お客さんもこれに反応して大変よく売れました。ところが、棚に戻すとぱたっと売れなくなる。表紙を見せることは大変重要だと思っています。
〔中学生の読む本がない〕
売上げもだいぶ回復しましたが、まだまだです。まだ人を集めなくてはいけない。夕方、レジに立っているとやはりお客さんが少ない。ため息をついて、ふと気が付いたのが、そういえば学生の姿が全然ない。昔は夕方、中学生や高校生がいっぱいいた。最近は全然来なくなった。いろんな理由があるでしょうが、店内に中学生向けの本がほとんどないということに気付いた。あるのはマンガ、雑誌、学参だけ。これではまずい。それで他の書店も何軒かチェックすると、中学生向けの本がほとんどない。文庫は少しあって、本好きな中学生ならそこから選ぶけれど、本の苦手な中学生にはちょっとむずかしいだろう。中学生を店に集めるため、考えてみようと思いました。
中学生は一番本を読まない世代と言われています。札幌でも30%、3人に1人は月に1冊も本を読まない。読まないから買わない。我々も中学生をほとんどお客さんと見てこなかった。新学期以外に一般書の対象として見てこなかったことを反省しました。
では、中学生向けの本棚を作ろうとと思い、リストを探しましたが、これはというものがない。それでは自分たちで作ろうと、私と家内でリストを作り始めました。基準はただ一つ、面白いことです。もしかしたら本の苦手な中学生たちの最初の1冊になるかもしれない。これがもしつまらなかったら、次に続かない。
フェアを準備していると、その情報が仲間の書店に伝わり、面白いから一緒にやりたいと言う。それでは、やりましょうと皆さんに声をかけたら、札幌市内27店が手を上げていただきました。そして書店組合主催ということで、16年の秋の読書週間からフェアをスタートさせました。
この時、どうせだったら後援いただこうとPTA連合会など、いろいろなところに声をかけました。その中で札幌市教育委員会は、「これを読め」というような命令形は教育委員会にふさわしくないからだめだと言うんです。「これを読んでくださいなら後援します」というのでお断りしました。翌年も同じことを言われまして、それからは後援をお願いしていません。
この企画は私どもが働きかけるまでもなく、マスコミが大きな記事を書いてくれました。新聞記事を見て最初に来たお客さんは、札幌の隣町、江別のお母さんでした。「うちの子は本当に本を読まないのですごく有り難い」と何冊も買っていきました。いろんな方が来られましたが、最初は中学生がほとんど来なかった。来たのはお母さん方、学校の先生、公共図書館です。特に公共図書館、学校図書館はリストがほしいと言ってきました。
フェア期間が終了しても売場は常設にしました。およそ3本の棚を常設にしたのですが、だんだん棚の前に中学生がいるようになったのです。どういうことかなと考えたら、中学生はここにいてもいいんだという場所として認められてきた。これは結構大事なことかもしれない。夏休みが終わるころには何人もそこにたむろするようになりました。
「中学生はこれを読め」のフェアは翌年には北海道全域70店で展開しました。昨年、第6回のフェアを行ったところです。第6回は40店を切るぐらいに激減したのですが、一番の原因は廃業、閉店です。大変残念なことです。
講談社の未来研の会合で静岡県の書店が札幌に来られた時、タクシーの運転手さんが札幌にも面白い本屋があると紹介してくれた。
それをきっかけに、その年の秋に静岡組合の加盟店60店ほどでフェアをやり、その後、愛知、岐阜、三重、石川でもやっていただきました。
ありがたいことに北海道新聞が500冊のリストを本にしましょうと言ってくれ、書店で販売しました。予想外に売れて、4刷1万4千部売れた。去年の夏には第2集が出ました。この時から1冊10円を組合にいただいています。
熊本でも『オーイ、中学生、本はよかばい』を出しています。すばらしいと思います。選書も私どもとは少し違っている。これもよく売れて2冊目が出ました。2冊目も評判がよくて3冊目が商業出版で出ました。各県ごとに中学生のお薦め本ができたらすばらしい。地元の本、ご当地の作家と特色を出していけば全47冊の全集ができる。
〔ソクラテスのカフェで本談義〕
まだまだ売上を伸ばしたいと、次に考えたのがカフェです。今はなくなりましたが『論座』という雑誌で「あなたにとって理想の本屋はどんな本屋ですか」というアンケートをとりました。その中で、①喫茶店を併設してほしい、②古本も一緒に置いてほしいという答えが多かったのです。
読んでいるうちに、これだったらうちでもできるかもしれないと思いました。うちはビルの1階のテナント100坪です。地下に飲食店街があり、何年もしまっている喫茶店がありました。そこに本棚を持ち込んでやれば、できそうだ。さっそく大家に交渉して、かなり安く借りることができました。ペンキを塗り、本棚を持ち込み、古本屋に交渉して本を仕入れるルートを作り、ブックカフェをオープンしました。
古本、カフェのほかにもイベントで人を集めたかった。池袋のジュンク堂に行くと文化講演会をやっている。これを札幌でできるかどうか。最初は20人規模で恐る恐るやりました。カフェは17年9月20日にオープンし、翌月、福音館から本を出している作家、伊藤遊さんを呼んで、ミニ講演会をやってみました。そうすると20人の席があっという間に満杯になった。11月には版画家の手島圭三郎さんに講演していただいたら、やはり20人の席がすぐに埋まってしまった。
翌月からは40人規模にしました。作家の方々はほとんど無料で来てくれますが、講演はいやがる。では私が話を聞くから、それに応えてくださいと言うと、それなら気楽でいいとおっしゃる。では、対談形式でと付けた名前が「ソクラテスのカフェで本談義」としました。
フランスのマルク・ソーテという哲学者がラジオで一般市民に向かって哲学談義をしませんかと呼びかけた。希望者は日曜日の11時にパリ・バスチーユ広場にあるカフェに来て下さいと声をかけると、かなりの人が集まった。これが評判を呼んで毎回百名を超える人が集まった。これがフランス、ヨーロッパ、アメリカ、東京と広まった。哲学は無理でも文学談義ならできるということで、毎月1回、作家の方に来ていただきました。
1年ぐらい経過した頃、北大に赴任したばかりの准教授、中島岳志さんに来ていただきました。この方は白水社から『中村屋のボーズ』という本を出して、大佛次郎論壇賞をとった新進気鋭の方です。
私がひそかにやっている「町の本屋のレベルアップ作戦」があります。往来堂の笈入店長が「ちゃんとした本が買えるような町の本屋でありたい」と書かれている。その通りだと思いました。それで、それまでは買い切りとか、値段が高い、むずかしそうだと敬遠していた人文系の本を少しずつ置き始めたのです。
当時、東京ブックフェアに行くと人文系の本がずっと並んでいた。そこに行って「人文書を置きたいけれど買い切りでしょう」と聞いたら、「いや、そんなことはありません」と、ほとんどすべての出版社が快く出荷してくれた。もちろん交渉すればということですが。それに意を強くして人文書を置いた。
笈入さんはジュンク堂に行った時、『虚数の情緒』という本を見つけた。東海大学出版会で出していて4500円もしますが、「この本なら、うちのお客さんでも何冊かは買う」と思い、すぐ仕入れたら売れた。それを読んで、私も3冊仕入れてみたところ、1か月もたたずに全部売れた。また3冊仕入れた。これを繰り返して50冊以上売りました。
それまでは白水社も買い切りと思っていましたので、置けるとわかって新刊情報をいただいている中に、さっきの『中村屋のボーズ』が載っていて、著者の中島岳志という名前を覚えていた。札幌のあるパーティーで中島さんの名前を見てあいさつしたところ、意気投合して、翌日、店に来ていただいた。それで店を気に入っていただいて、うちのそばに引っ越してきた。この中島先生がイベントなどですごく強い味方になっていただいた。
中島先生の専門はインドのヒンドゥー政治学なので、むずかしくて質問できませんと言うと、講義のようにしてお話しましょうと話してくれました。これがすこぶる面白かった。それでは、新しいシリーズで毎回、大学のいろんな先生に来ていただいて、講義をしていただこうと「大学カフェ」がスタートした。
その1回目、政治学の山口二郎先生は1週間もたたたないうちに満杯になりました。無理やり50名ぐらい突っ込みましたが、山口先生もこんなところで話をするのかとびっくりする。山口先生もカウンターに座って話をするのは初めての体験です。膝を突き合わせるような感覚で、先生もすっかり興奮していました。本談義、大学カフェ、落研によるくすみ寄席、美術館のボランティアの方に来ていただく美術館カフェ、文化教室と様々なことをやっています。
その中で横浜の知人が作品展をやりたいと、1週間貸切でやりました。DMもたくさん出すからすごく人が来ます。それで気をよくして、カフェの横を貸しギャラリーにしました。プロはたくさんの生徒、ファンを抱えています。作品を即売すると、売上の2割か3割がうちに入る。カフェの売上も上がります。ギャラリー、文化教室は本屋の副業としてはすごくいいと思います。
数々の取り組みのおかげで売上が2割、3割伸び続けている時、ツタヤさんの直営店ができて、売上が横ばいになりました。その翌年の3月にうちから3キロ先にコーチャン・フォーの2600坪の店ができました。みごとに新学期の学参の売上が半分になりました。これはまずいなと思っているところに、不動産屋から支店を出しませんかという話がありました。それまでも何回かお話はありましたが、うちはそんな力はありませんとお断りしていました。三井不動産でしたが、どんな条件ならいいのかと話していて、では移転ならどうかということになりました。それなら費用も少なくて済みます。
9月30日に厚別区大谷地に移転しました。琴似店は中心地から西でしたが、今度は東に20キロのところに移転しました。そこを決めた1番の決め手は地下鉄直結のSCです。1日1万人が店の前を通ります。オープンから1カ月の客数は琴似店の3倍、売上も2倍から2・5倍で、12月には目標を達成しました。
〔高校生の読書ガイドも〕
今後の取り組みは高校生を考えています。簡単に言えば「高校生はこれを読め」です。中学生をやってきて、高校の先生方から高校をやれと言われています。高校生になれば自分たちで選べると思っていましたが、今の高校生は自分で選べない。それで高校生を考え始めましたが、高校生もただリストを作るのでは面白くない。いろんなところを巻き込みたいので、まず高校の先生方に過去の読書体験で感動した本、救われた本をコメント付きで教えてくださいとアンケートを集めようとしているところです。それを集めて「高校生よ、困った時はこれを読め」を作る。
2つ目に考えているのは図書館です。北海道には書店のない地区がたくさんあります。高校生が読みたいと思っても本屋がない。それだったら図書館がある。道立図書館、札幌市中央図書館、高文連の協力も得て、四者の協力でアンケートを取ります。それで、どうせなら最初から本にして広く配布する構想です。司書、大学図書館、高校図書館といろんなところに声をかけ選書部会を作る。組織は残りますので、それを使って有機的な活動ができればと思っています。
昨年暮れに円山動物園フェアをやりました。旭山動物園の入場者は年間200万人を超えますが、丸山動物園は2005年の49万人が底で、市長がこれではいかんと優秀な人材を投入して工夫をしてきたことで、じわじわ増え、昨年は80万人に増えました。そんな動物園を支援するため、シロクマの双子の赤ちゃんが生まれて評判になったこともあり、写真展をやりました。動物園の方にきていただいてトークショーもやりました。
円山動物園には「栄光への階段」があります。管理センターの階段の両脇に動物園を見に来た子どもたちのメッセージが貼ってある。それを見て職員たちは毎日励みにしている。誰からともなく「栄光への階段」と呼ぶようになりました。それを聞いて、うちの店の2階への階段を「栄光への階段」にして、良い本を進めるPOPをどんどん貼って行く。それを見てお客さんが2階にあがっていくと、その本がある。一般の方々からもPOPを寄せてもらうということを考えています。