全国書店新聞
             

平成23年1月1日号

新春直言/大橋信夫日書連会長に聞く

【時代に即した書店経営目指す/再販制度の利点活用する議論必要】
国民読書年として様々なイベントが行われ、「電子書籍元年」と称され官民各分野で電子化への準備が急激に進んだ2010年。マイナス成長が続く出版業界の中で書店を守っていくためには今後、どのような取り組みが必要なのか。この1年の課題について大橋信夫日書連会長に話を聞いた。(聞き手=本紙・白石隆史)
〔大切なデジタル化への対応〕
――昨年は「国民読書年」として官民あげて様々な形で読書の必要性をアピールする動きがありました。振り返って印象はいかがでしたか。
大橋相応の手応えが得られたと思います。読書推進のうねりは今後も強まっていくでしょう。継続性を持った運動を展開していきたい。JPICが推進している「20歳の20冊」や「ブックリボン」、ボランティア活動中心の「読み聞かせ」「ブックスタート」、学校の「朝の読書」などは積極的に応援していきたいと考えています。
――「電子書籍元年」と言われ、マスコミを巻き込んでブームのような状況が生まれました。電子書籍に対するスタンスをお聞かせください。
大橋「紙の本屋はデジタルにやられてしまうのではないか」という不安と戸惑いを持っている書店は多いと思います。でも、総務省・文科省・経産省による「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」(3省デジ懇)が6月に出した報告書には「書店店頭活性化」という言葉が見られます。紙のほかにデジタルという選択肢が新たに加わった、「本屋」の領域が広がったと前向きに考えて行動したいですね。
――日書連が手掛ける「電子書籍事業」、店頭でコミックの試し読みができるシステム「ためほんくん」に注目が集まっています。今後どのように展開していきますか。
大橋デジタル社会に書店店頭で何ができるかを検討した一つの試みが「ためほんくん」です。今年1月から本格稼働に入ることにしました。書店店頭の活性化を図り、紙のコミックの売上げを伸ばすことが主目的です。今後の課題はコミック棚の充実と注文対応の迅速化になると思います。
――将来的に書籍の試し読みやダウンロード販売ができるよう、端末を改良していく考えはありますか。大橋色々な問題をクリアしなければなりませんが、コミックから書籍まで包括する流通手段にできればとは考えています。取り扱いコンテンツのジャンルの裾野を広げていく必要はあるでしょう。立地によってコミックが得意な店もあれば、書籍が売れる店もありますから。様々な組合員のニーズに幅広く応えていく必要がある。ただ、あくまでも将来の話です。まずは効率のいいコミックから始めたということです。
〔「儲かる業態」へ変革図る〕
――地域の中小書店が減っています。日書連傘下組合員数は24年連続減少し、組織規模はピーク時の40%まで縮小しました。歯止めをかけるためにはどうしたらいいでしょうか。
大橋長年文化振興のため一生懸命頑張ってきた書店経営者は尊敬に値する人ばかりです。ただ、そういう人たちの後を継ごうという息子さんや娘さんがいない。それは書店が儲からない業態になってしまったから。廃業による組合員減少の原因は「儲からないこと」で、その結果が「後継者難」なのです。だから廃業を減らし組合員減少に歯止めをかけるためには、書店が儲かる業態になるよう変革しなければなりません。みんなが喜んでやりたがる業態として再生することを考えていきたい。
――経営環境改善のため、日書連は重要課題として「送品・返品同日精算」の実現に取り組んできました。昨年はトーハンと日販が初めて期限を決めて解決に取り組む姿勢を示しました。どう評価しますか。
大橋トーハンは「11年3月までに方針を決定する」、日販は「1年以内に1日の短縮を目指す」と回答しました。取次大手2社がついに本気を出してくれたと評価しています。問題解決のため、トーハンは社長直轄の専門委員会を作りましたし、日販もシステムを変えると言っています。約束の期間は回答を待ちたいと考えています。
――万引き問題にも熱心に取り組みましたね。
大橋利幅の薄い書店にとって万引き被害は大きな痛手です。だから重視しています。昨年は「万引き防止官民合同会議」で「万引きをさせない共同宣言」を採択するなど、万引き防止への意識が高まった1年だったと思います。
――これからの書店業界のあるべき姿についてどのように考えますか。
大橋時代の変化についていかないと取り残されてしまいます。変化に対応するためには書店自身が変わらなければならない。これだけ市場が疲弊しているだけに、思い切った工夫も必要でしょう。最近思うのは、書店は自由裁量として許されている範囲が限られているということです。本の仕入権、処分権のいずれもありません。権利を持っていなければ、売上げを増やすために自ら考え行動し工夫することもできない。現場で書店員が努力する余地も限られているのが現状です。幸い我々は再販制度が認められ、日書連は再販擁護の立場にあります。その中で時限再販、部分再販などを活用する方法もあるのではないでしょうか。また、汚損本や逆送品などの最終処分権を書店が主張してもいいのではないでしょうか。これは問題提起です。理事会などの場で皆さんと話し合っていきたいと考えています。

時限再販など政策委で議論/最終処分権も検討課題に/日書連12月理事会

日書連は12月17日に定例理事会を開催。大橋会長が「再販制度下で時限再販、部分再販を活用する方法などについて政策委員会で議論していく」と表明した。
〔政策〕
再販制度の下で時限再販や部分再販などを活用する方法や、汚損本などの最終処分権を書店が持つことについて検討したいと大橋会長が提案した。大橋会長は「書店は本の仕入権、処分権のいずれもなく、自由裁量として許されている範囲が限られている。市場がここまで疲弊している今、思い切った工夫をしなければ出版業界全体が消滅してしまう」と強い危機感を表明。再販制度の利点を活用する方法などについて、当面、政策委員会で議論することになった。
また、10月20日に中国ブロック担当で開催を予定していた平成23年度移動理事会の取り止めを決めた。代わって10月19日に各種委員会、同20日に定例理事会をいずれも東京・千代田区の書店会館で開催する。
〔流通改善〕
責任販売制を軸とする販売システム構築へ書店側からアクションを起こしたいと藤原委員長が提案した。「ポプラ社の『KAGEROU』など出版社による責任販売制企画が相次いでいる。どのような流通を望むか意見集約し、新しい販売システムについて日書連と出版社、取次間で話し合いたい」と意欲を示した。
〔情報化推進〕
店頭コミック試し読みシステム「ためほんくん」について、1月本稼働に向け最終調整を行っていると田江部会長が報告した。参加出版社はコミック大手5社など12社、取り扱いコンテンツ数2100点、設置台数200台(170店舗)でスタートする予定。出版社のシステム利用料金はA=月額25万円、B=同10万円、C=同5万円の3段階グループ別定額制。書店のシステム利用料金は組合員が月額3千円、非組合員が同6千円に決まった。また、運営規則に「導入は原則として組合加盟店舗に限るものとし、導入を望む非組合員店舗には組合への加入を勧める」と明記した。
〔増売〕
2010年秋に実施した日書連の子どもの本の増売運動「心にのこる子どもの本新刊セール」の販売金額は1億342万6831円で前年比19・82%増となった。1億円を突破したのは3年ぶり。舩坂委員長は「出品条件を6ヵ月長期委託から7ヵ月長期委託に変更したことが奏効した」と説明した。
11年の「新学期・夏休みセール」は4月~10月に実施する。出品条件は7ヵ月長期委託。販売目標1億4千万円(前年比29・93%増)。目標達成組合に対して本体価格の1%を報奨金として支払う。
〔読書推進〕
平成22年度補正予算で「地域活性化交付金」が創設された。総額3500億円で、この中で「住民生活に光をそそぐ交付金」1000億円が計上されている。片山総務相は補正予算決定後の記者会見で「知に基づく地域づくり」の一つに「図書館」を例示した。西村委員長は「今回の特徴は地方交付税でなく交付金で、使用目的をはっきりさせている点にある。1月上旬までという限られた時間ではあるが、各県組合で地方自治体に対し、図書館図書整備の充実を働き掛けてほしい」と求めた。
〔指導教育〕
換金目的の万引きを防止するため、警察庁は12月16日、古書店や新古書店が書籍やCD、DVDなどを買い取る際、1万円未満の低額でも本人確認を義務付けることを決定。古物営業法の施行規則を改正し、4月に施行する方針だ。
警察庁は同施行規則を改正することについてのパブリックコメントを募集しており、鈴木委員長は「電子メール、郵送、ファックスで積極的に意見を送ってほしい」と求めた。意見展開の例として①万引きはより悪質な犯罪へのゲートウェイ犯罪、②書店の場合、換金目的による万引きが多いので被害は甚大、③中古図書の買取りの打開で本人確認の徹底を図る今回の改正案は盗品の流入を抑止する効果が期待できるので賛成――の文例を示した。
都議会が12月15日に青少年健全育成条例改正案を可決したことを受け、書協・雑協・取協・日書連で構成する出倫協は同日、「今後も断固反対する」との抗議声明を出した=3面に掲載。鈴木委員長は「日書連は出版関係団体と行動を共にする」として、都条例に反対する姿勢を示した。
〔庶務報告〕
09年10月に札幌市の古書店で本棚が転倒、消費者が負傷する事故が発生したことを受け、消費者庁は12月1日、今後の類似事故の発生を防止するため本棚等の転倒防止策=別掲=をとりまとめ、日書連、全国古書籍商組合連合会、リサイクルブックストア協議会などに周知徹底を呼びかけた。
◇理事長交替
三重県=岡森泰造(伊賀市・グリーンモール岡森、所属委員会=指導教育、増売)
福岡県=長谷川澄男(福岡市・ブックイン金進堂、所属委員会=組織、増売)

年末懇親会に307名/帝国ホテルで賑やかに

日書連主催の出版販売年末懇親会が12月16日、東京・日比谷の帝国ホテルで開かれ、出版社、取次、業界関係者、書店など総勢307名が出席した。
懇親会は藤原直副会長の司会で進行し、はじめに大橋信夫会長があいさつ。「再販制度の利点を活用するための議論をしたい。売上が低迷する中、時限再販や部分再販などで思い切った工夫をしないと出版業界が消滅してしまうのではないかと危惧している。今後、皆さんと話し合っていきたい」と呼び掛けた。
出版社を代表して書協の相賀昌宏理事長は「出版社は書店の思いをもっと取り入れねば。他人のせいにするのはやめて、返品減少も出版社の責任で取り組みたい」と挨拶。取協の山﨑厚男会長の発声で乾杯した。

本棚等の転倒防止策について/消費者庁消費者安全課長

平素より、消費者安全行政の推進に当たっては格別のご理解、ご協力いただきましてありがとうございます。
平成21年10月に札幌市の古書店において本棚が転倒し、消費者が負傷する事故が発生しました。また、他にも類似事故の発生が見受けられます。
消費者庁としては、今後の類似事故の発生を防止するため、関係者等からヒアリングを行うとともに、本棚の振動実験を実施したところです。
今般、これらの結果を踏まえて、本棚等の通常使用時における転倒防止策を下記のとおり取りまとめましたので、関係事業者に周知をしていただきますようお願い致します。

1、棚の選定等
・転倒に対し安定性があり、収納物に応じ十分な強度を有する部材で構成される棚を選定する。
・棚は下部に重心をもち奥行きを備えた構造が望ましく、また、収納に際しても極力重い物を下部に収納することで、重心を下げる。
2、棚の設置
・充分な強度を有する床、柱等に固定することを原則とし、固定方法については製造者等施工の専門家と相談する。
・建物床面が平らでない場合は、棚に歪みが生じないよう補正を行う。
・自立して使用する(壁等への固定が無い)場合は、棚の高さや奥行きを考慮して、以下を参考に安定性を充分確保する(建物床面の補正状況等を考慮し、奥行きは慎重な評価が必要)。
B/√H≦4の時は家具同士を連結したうえで、床、壁への固定を行うこと
(B=奥行き、H=高さ(単位㎝)
(注)上式は従前(社)日本オフィス家具協会において箱物(箱型の棚)転倒防止基準とされていたが、今回の振動実験により有用性が確認された
・転倒の危険性がある場合は、棚同士を連結したうえで、充分な強度を有する床等への固定により棚転倒を防止する。
・人による接触等が生じないよう、通路は90cm以上を確保する。

「デジタル海賊版」問題/書協など、アップルに対応要請

日本書籍出版協会、日本雑誌協会、日本電子書籍出版社協会、デジタルコミック協議会の4団体は12月14日、アップル社のアップストアでデジタル海賊版の問題が起きているとして、対応を求める要請文を発表した。
アップストアでは村上春樹氏や東野圭吾氏など著名作家の作品が違法配信されているほか、違法に電子化された大量のコミックスを自由に閲覧できるアプリケーションが配信されている。著者や出版社の要請で一部は削除されたが、まだ大半の違法配信が継続されているという。
要請文では、デジタル海賊版はいずれも書籍のスキャニングによって複製されたものであり、アップル社の「著作権処理の事前チェックは不可能であり行うつもりはない」との主張に対して、「著者や出版社が提供者でない限り、その違法性は強く疑われるべきもの」としている。
4団体は、デジタル海賊版問題について「アップル社に重大な責任がある」と指摘。早急にデジタル海賊版に関する情報の開示と防止策の構築に着手することを求めるとしている。

出倫協、断固反対の姿勢貫く/都条例可決で抗議声明

書協、雑協、取協、日書連の出版4団体で構成する出版倫理協議会(出倫協)は12月15日、同日賛成多数で可決された東京都青少年健全育成条例改正案に対して「強い憤りを表明する」「今後も断固とした反対の姿勢を貫く」とする抗議声明=別掲=を発表した。
声明では「まともな議論も経ないまま可決に至らせた行為は暴挙」と成立過程を批判し、「漫画家やアニメ制作者との話し合いの場を持つことも一切なく、曖昧で抽象的な文言が加えられたことにより、漫画・アニメの制作現場には、さらなる混乱と不安が広がっている」と指摘。付帯決議に盛り込まれた「慎重に運用」「適正な運用」は現行条例の範囲内で行われるべきとしている。
【抗議声明】
本日、東京都議会は、賛成多数で青少年健全育成条例改正案を可決しました。漫画・アニメの制作者から広範な反対の声が上がり、出版界もこぞってこの条例改正案の問題点を指摘し続けてきたにもかかわらず、改正案が可決に至ったことに、私たち出版倫理協議会
(日本雑誌協会、日本書籍出版協会、日本出版取次協会、日本書店商業組合連合会の出版4団体で構成)は強い憤りを表明します。
都当局がこの改正案の条文全文を明らかにしたのは、定例議会開始直前の11月22日であり、それからわずか3週間余で、まともな議論も経ないまま可決に至らせた行為は暴挙と言うほかありません。その間、都当局は、当事者である漫画家やアニメ制作者との話し合いの場を持つこともいっさいなく、刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為などを「不当に賛美し又は誇張」した表現を規制する、というきわめて曖昧で抽象的な文言が加えられたことにより、漫画・アニメの制作現場には、さらなる混乱と不安が広がっています。
そもそも付帯決議に盛り込まれた「第七条第二号及び第八条第一項第二号の規定の適用に当たっては、作品を創作した者が当該作品に表現した芸術性、社会性、学術性、諧謔的批判性等の趣旨を酌み取り、慎重に運用すること」「東京都青少年健全育成審議会の諮問に当たっては、新たな基準を追加した改正条例の趣旨に鑑み、検討時間の確保など適正な運用に努めること」という文言は、漫画家や出版界が以前から強く主張してきたことではありますが、ここに記された「慎重に運用」「適正な運用」は、現行条例の範囲内でこそ行われるべきものです。
私たちは、この条例改正に今後も断固とした反対の姿勢を貫くとともに、平成23年7月の施行を見据えながら、さまざまな機会を捉えて行動を起こしていく所存です。
読者、メディアの皆様には、一層のご理解、ご支援、ご協力を賜りますよう、改めてお願い申し上げます。

生活実用書/注目的新刊

新春には俳句が似合うが、最近の書店は現代詩、短歌、俳句などの本が姿を消している。しかし、愛好者の多いことは新聞の短歌、俳句欄などがなくならないことからも推察される。美しい言葉は人の心をつかむのであろう。
長谷川櫂著『句会入門』(講談社新書2074 740円)は、俳句を楽しむための句会を紹介する。15回に渡る句会のドキュメントである。
句会の手順は投句、清記、選句、披講、講評と進められる。参加者が会場に集まり、指定された数の句を紙に書いて提出する投句。出句ともいう。その短冊を混ぜて各自に配る。筆跡がわからないようにこれを清書する清記。その紙を隣りに回しながら、自分がいいと思った句をメモしておき、終わったら句を読みあげ、読まれた句の作者が名乗り出る。名乗らないやり方もある。最後に主催者が講評してお開きという具合である。
句会は春に始まって、夏、秋、冬、新年と続く。たとえば新年の句に「丸餅の笑ふがごとく雑煮椀」がある。お椀の中で丸餅が本当に笑っているようだという評があり、それでは話の筋が通りすぎという意見も出される。角餅なら笑いが引きつってしまうなどと言われ、「白餅の笑ふがごとく雑煮椀」に落ち着く。句会の心得のコラムが20編、読者を俳句の世界に誘う。
現代では季語のない俳句もあるのだが、四季のある日本では自然と季節が顔を出す。
『江戸・東京下町の歳時記』(集英社新書0570D700円)は、浅草で生まれ育った扇子屋の四代目当主が語る江戸の歳時記である。
女房も同じ氏子や除夜詣、は初代中村吉右衛門の句。そもそも初詣というのは初日が昇ってから晴着を着て、その年の恵方(吉の方角)にあたる神仏にお参りするもの。大晦日から元日の日の出までに参るのは除夜詣と言った。
正月は江戸時代は働いちゃいけなかった。元日から働いている職人なんて、ろくなもんじゃないと言われたのだ。
初夢で縁起が良い一富士二鷹三茄子の富士は富士山ではなく、無事や不死を指す。鷹は高みに上ること。茄子は物事をなす。これには続きがあって四扇、五煙草、六座頭。
一月から十二月までの各章に行事や古くからの習慣、豊かな季節感があふれている。
(遊友出版・斎藤一郎)

都の青少年条例成立/付帯決議で「伸長に運用」

過激な性表現を含む漫画などの販売を規制する東京都の青少年健全育成条例改正案が12月15日、都議会本会議で賛成多数で可決、成立した。自民、公明両党のほか、6月都議会で前回案に反対した最大会派の民主党も賛成に回った。共産党と生活者ネットワークは反対した。
出版社や漫画家から「表現の自由を侵害するおそれがある」と批判されたことを受け、「作品の芸術性、社会性、学術性、諧謔的批判性を酌み取り、慎重に運用する」「青少年健全育成審議会の諮問に当たっては、検討時間の確保など適正な運用に努める」とする付帯決議が付いた。7月に施行される。
同改正案は都が2月議会に提出し、18歳未満として表現されていると認識される登場人物を示す「非実在青少年」の性行為を肯定的に描写した漫画などを規制対象としていたが、「規制対象が曖昧」として、6月都議会では民主党などの反対で否決されていた。
今回再提出された案では、「非実在青少年」の文言を削除した代わりに、強姦など刑罰法規に触れる性行為や近親者間の性行為を「不当に賛美・誇張」した漫画などを規制対象とし、18歳未満の青少年に販売できないようにするとしている。
2月に改正案が提出された当初から、出版業界は「表現の自由を侵害する」「漫画家の創作活動が萎縮する」「漫画文化が衰退する」と反対してきた。再提出された改正案に対しても「曖昧な表現が増え、規制の範囲はむしろ拡大している」と反発を強めている。

わが社のイチ押し企画/講談社・販売促進局長・佐藤雅伸

新年明けましておめでとうございます。
旧年中は弊社出版物にご高配を賜り、誠にありがとうございました。
さて、2011年の大注目企画をジャンル毎に紹介させていただきます。
【書籍】本年は講談社文庫創刊40周年となります。大々的な読者キャンペーンの実施や強力なラインアップで店頭を盛り上げてまいります。また、1月中旬に創刊予定の星海社文庫は『ひぐらしのなく頃に鬼隠し編(上)』など、話題作が続々発売の予定です。そして、3月上旬には東野圭吾氏待望の書き下ろし新刊『麒麟の翼』が発売になりますので、既刊作品とあわせて、ご拡販をお願いいたします。
【コミック】『このマンガがすごい!2011オトコ編』(宝島社)で第1位となった『進撃の巨人』は読者の圧倒的な支持を得て注目度ナンバー1です。また、『あしたのジョー』(2/11全国東宝系ロードショー)や『へうげもの』(2011年春、NHK―BSにてTVアニメ放映予定)などの映像化作品等、話題作が目白押しですので、ぜひご期待下さい。
【雑誌】『男はつらいよ寅さんDVDマガジン』が1月6日創刊(首都圏基準)となります。48作品に特別編とテレビドラマ版を加えた全50巻の構成です。DVDには本編の他、山田洋次監督のインタビューや立川志らく師匠による「見どころガイド」、ロケ地を訪ねる「寅さん旅のあと」など、特典映像も多数収録されますので、ぜひご拡販をお願いいたします。また、『Ayuのデジデジ日記mini』(浜崎あゆみ)『倖田暦』(倖田來未)『GACKT眠狂四郎闇と月(特別限定BOX)』(野村誠一・撮影)など、強力なラインアップを揃えていますので、ご期待ください。
以上、本年もたくさんの話題作を刊行してまいりますので、皆様のご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

わが社のイチ押し企画/小学館パブリッシングサービス・営業企画部・北尾健

明けましておめでとうございます。
2010年は計画・委託販売制併用企画を数多く刊行いたしました。児童書では3月発売『せいかつの図鑑』が現在も好調。4回の計画・委託販売制で再募集(5刷18万部)を行い、多くの書店様からご支援賜りました。その他、一般書「池上彰関連本2点」やシリコン型+レシピ集『おうちで毎日焼きドーナツ』も数多くご発注いただき有難うございました。そんな中、11月19日『例解学習国語・漢字辞典』(2冊セットのみ計画販売制)の大改訂版を7年ぶりに発売いたしました。この国語辞典は「辞書引き学習」の提唱者:深谷圭助先生(現中部大学准教授)を編集委員に迎え、さまざまな工夫を凝らした辞典に仕上げています。ぜひとも新学期に向け、ご支援のほど宜しくお願いします。また昨年の『せいかつの図鑑』に続き、2月にはプレNEOシリーズ『ふしぎの図鑑』も同併用制企画として登場いたしますのでご期待ください。
さて雑誌ですが、今年も『小学一年生』には楽しく・ためになる付録が充実しています。4月号「ドラえもんドレミファゆびピアノ」、5月号「スーパーふでばこなんでもはかるくん」など。3大コンクールとして今年も昨年同様、店頭装飾コンクール・増売コンクール・定期購読獲得コンクールを実施いたしますので、ご参加をお待ちしております。その他雑誌企画として、ウィークリーブック『落語昭和の名人完結編』(全26巻)が2011年2月8日(火)に創刊いたします。2009年に大好評を博した『落語昭和の名人決定版』の続編シリーズとして創刊いたします。〈決定版〉の人気者に加え、上方からは「桂枝雀」、「桂文枝」、東京からは「三遊亭圓楽」、「春風亭柳朝」が登場。前回以上の強力ラインナップ、演目も〈決定版〉との重複はありません。店頭での展開はもちろん、定期購読者獲得を宜しくお願い申し上げます。
主なラインナップをご紹介させていただきました。今年も小学館の書籍・雑誌にご支援賜りますようお願い申し上げます。

わが社のイチ押し企画/双葉社・営業局局次長・川庄篤史

あけましておめでとうございます。
旧年中は格別なるご高配を賜り、誠にありがとうございます。
昨年は、映画公開に合わせて発売させていただいた、湊かなえ著「告白」文庫版が218万部(2010年12月1日現在)になり、単行本と合わせると約300万部のヒットとさせていただきました。これもひとえに単行本の発売よりこの作品を育てていただいた全国の書店様のお陰と感謝しております。
さて双葉文庫は昨年、累計1250万部を突破した佐伯泰英「居眠り磐音江戸双紙シリーズ」や、NHKのTVドラマ化になった藤原緋紗子「藍染袴お匙帳シリーズ」等を始めとする時代文庫も順調に部数を伸ばし、文芸文庫と合わせ大きく伸びた1年でした。本年も1月発売「居眠り磐音シリーズ」の新刊「姥捨ノ郷」を皮切りに文芸作品共に多くの話題作を刊行予定です。是非双葉文庫にご注目ください。
また、本年は新たな映画化が2本決まっております。ひとつは「ダ・ヴィンチ誌の泣けた本」第1位を受賞した「星守る犬」が西田敏行さん主演で東宝系にて6月公開予定です。弊社では公開に先駆け「星守る犬続編」を刊行させていただきます。
もう一本は累計30万部突破の小説「王様ゲーム」が東映系にて今夏公開になります。こちらも映画に先駆けコミックス版を4冊刊行させていただきます。双方とも「告白」同様メディアミックスで盛り上げ、書店様の売り上げに貢献できると確信しております。
また、本年もGWに合わせ「クレヨンしんちゃん嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦」が公開になります。本年「クレしん」はテレビアニメ放映20周年にあたりメディア連動にて盛り上げてまいります。期待ください。
雑誌につきましても「週刊大衆」「漫画アクション」はじめ定期誌の紙面充実に一層努めてまいります。
今年も双葉社は書店、読者の信頼に応えるべく、元気一杯頑張ってまいります。何卒、倍旧のご支援お力添えをお願いいたします。

読進協「2011若い人に贈る読書のすすめ」リーフレット掲載図書

▽『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』ダイヤモンド社▽『一生懸命―木村拓也決してあなたを忘れない―』中央公論新社▽『―北里大学獣医学部―犬部!』ポプラ社▽『世界史読書案内』岩波書店▽『野川』河出書房新社▽『小惑星探査機はやぶさの大冒険』マガジンハウス▽『おおきな木』あすなろ書房▽『何とかなるさ!―ママは宇宙へ行ってきます―』サンマーク出版▽『キケン』新潮社▽『希望難民ご一行様』光文社▽『図書室からはじまる愛』白水社▽『超訳ニーチェの言葉』ディスカヴァー・トゥエンティワン▽『桐島、部活やめるってよ』集英社▽『名著講義』文藝春秋▽『20歳のときに知っておきたかったこと―スタンフォード大学集中講義―』阪急コミュニケーションズ▽『反骨』双葉社▽『おしんの遺言』小学館▽『シンプルに生きる』幻冬舎▽『天地明察』角川書店▽『ひとり遊びのススメ』講談社▽『湘南の風に吹かれて豚を売る』かんき出版▽『しあわせ読書のすすめ―本のソムリエが教える悩んだときに読んでほしい53冊』辰巳出版▽『就活のまえに―良い仕事、良い職場とは?―』筑摩書房▽『これからの「正義」の話をしよう―いまを生き延びるための哲学―』早川書房

わが社のイチ押し企画/ポプラ社・児童書編集局・井澤みよ子

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申しあげます。
小社では2002年に「こどもが自分で調べられる百科事典をつくろう」という編集方針のもと『総合百科事典ポプラディア』を出版しました。「こどもが自ら学び、考え、探究心を育む」ことをめざした百科事典です。わかりやすい解説と漢字のふりがなつきで、小学生はもちろん、中・高校生、一般のかたも活用できるもので、14刷を数えました。
すでに35000校で採用された『ポプラディア』ですが、発刊から約10年が過ぎ、社会情勢の変化の早さを鑑み、発刊当時最新だった情報も図版類も含めて古くなったものもあると考えられ、改訂をすることになりました。改訂にあたり、小社で出版しております『月刊ポプラディア』『ポプラディア補遺版』、さらに「ポプラディアネット」などを参考に全項目を見直し、新項目を追加し、また、こどもたちに必要性の低くなった項目の削除などの作業によって、項目数24500、本編11巻、索引1巻の新訂版となりました。
なによりも前回と今回との一番の相違点は、2005年から出版しております『ポプラディア情報館』全50巻とのリンクです。『ポプラディア情報館』は項目別のシリーズですので、合致した項目にあたることで、こどもたちは深く理解できるようになります。例えば「太陽」をひきますと、解説末に「情報館宇宙」26ページとあるので、『情報館』をひくと、8ページにわたる太陽についての解説があります。その上宇宙全般についても知ることができ、こどもたちの知識欲は充分に満たせると思います。このようにとてもユニークで、こどもたちの思考を大きくひろげられる百科事典にすることができました。
そのほかに都道府県の見開き地図や、国の伝統的工芸品の掲載などで地域学習に役立てられます。大きな問題となっている地球温暖化を含む環境問題なども多方面から取り上げています。ユニークといえば、こどもたちに関心のあるキャラクターも絵や写真で掲載しています。前巻と同様にキーワードを青字で表示してその項目を調べることもできます。
新しい学習指導要領によれば、「自分で調べる」時間に、かなりの授業時間をさくようになっています。そのためには、調べるきっかけとしてクラスで「百科事典」や「図鑑」が必須になると考えられます。こどもたちが「学び」の原点として、新しい学習方法ができる『総合百科事典ポプラディア新訂版』を活用してほしいと願っております。

わが社のイチ押し企画/三省堂・常務取締役営業局長・佐久間孝夫

今年のわが社のイチ押し企画は、1月20日に同時発売を予定している、『三省堂例解小学国語辞典第五版』と『三省堂例解小学漢字辞典第四版』です。
昨年来、29年ぶりに改定された新「常用漢字表」が大変話題になっています。拡大をつづける小学校の辞書市場においても、各社が新「常用漢字表」対応を謳った新刊辞典を続々と刊行してきています。まさに大きな商機到来です。
しかしながら、昨年に刊行された小学生向け辞典は、新「常用漢字表」の「答申」だけを見て編集されたもので、最終確定である「内閣告示」を待たずに見切り発車した内容です。三省堂では、辞書出版社の社会的責務として、「答申」だけでの刊行はすべきではないと判断し、『三省堂例解小学国語辞典第五版』と『三省堂例解小学漢字辞典第四版』の刊行を、敢えて年明けの1月20日としました。新「常用漢字表」の完全対応版を目指したのです。その結果、自信を持ってお薦めできる辞典が完成しました。
両辞典ともに、深谷圭助先生のご推薦をいただき、評判の「辞書引き学習」にも適した、すべての漢字にふりがなを付けた総ルビ版です。また、前版でご好評をいただいた軽くて強い本文用紙を引き続き使用し、抜群の軽さと扱いやすさを実現しました。さらに、新学習指導要領のもとで作られた新しい小学校教科書が、4月からいっせいに使われますが、その内容にも準拠した辞典となっています。両者ともに同じ内容のワイド版も同時刊行となりますので、文字が大きな辞典をお求めのお客様にはワイド版をお薦めください。
この両辞典と同じく新「常用漢字表」に完全対応した『全訳漢辞海第三版』『三省堂現代新国語第四版』も、2月10日に刊行いたします。新学期に向けての拡売商品として、これら三省堂の新刊辞典を是非よろしくお願い申し上げます。

わが社のイチ押し企画/小峰書店・広報室長・松木近司

全国の書店の皆さん、昨年度このコーナーでお薦めの『ヒックとドラゴン』は、予想に違わず大ヒットしました。3月には8巻目『樹海の決戦』が刊行となります。引き続きご愛顧の程よろしくお願いいたします。
本年のお薦めは、これ→あべ弘士の絵本3点!
小社に、北の国からかわいらしい仲間がやってきました。かわうそ、それも3兄弟。長男かわうそは、勇気凛々、威風堂々。次男かわうそは、飄々としてなんでもこいタイプ、末っ子かわうそは、何かないかな、キョロキョロキョロリン。でもみんな仲良し3兄弟、いつもいっしょ、どこへもいっしょ、遊びが大好き3兄弟。
これは絵本の世界のこと!旭川動物園で飼育係をしていたあべ弘士さんが、精魂込めて描いた北の国の世界。何もないけど何もないのがすばらしい。大自然を舞台にかわうそ3兄弟が、雪や氷の上をスルスル、川へとドブン!すべったり、とびこんだり、おおさわぎ……。なかでも末っ子かわうそが大きな魚(イトウ)と出会う場面と、3兄弟がイトウと格闘する場面は、迫力満点。新作絵本『かわうそ3きょうだいのふゆのあさ』の誕生です。姉妹編の『かわうそ3きょうだい』も好評発売中!
今年は、かわうそフィーバー、かわうそが大ブレークするか!?すでに全国から原画展の依頼があります。あべファン待望の絵本。さらに最新作絵本『もりのねこ』は、「キエシェはね、もりのねこ。もりのねこ?そう、もりのねこ。キエシェは、じっとみみをすましている。なにかをそっと、まっている……」。移り変わる自然のなかで暮らす猫と猟師の姿を、マチスを想わせる色彩と大胆な構図で描きます。
あなたのお店にかわうそ3兄弟と森のねこが遊びに行きますように!
●あべ弘士作『かわうそ3きょうだいのふゆのあさ』『かわうそ3きょうだい』●工藤有為子文あべ弘士絵『もりのねこ』各定価1470円

「電子書籍」をテーマに研修会を企画/埼玉理事会

埼玉県書店商業組合(水野兼太郎理事長)は11月24日、浦和の須原屋外商本部会議室で平成22年最後の理事会を開催し、18名(委任状含む)が出席した。
水野理事長のあいさつの後、組合脱退者の報告があり、10月31日現在の組合員数は188店となった。研修会開催の件では、根岸教育委員長より、2月14日に浦和ワシントンホテルにて文化通信社取締役編集長の星野渉氏を講師に「電子書籍と書店」をテーマに行いたいとの話があり、了承された。また、今年度もクリスマスに県内児童福祉施設へ児童図書の寄贈を行うと報告があった。最後に水野理事長より日書連報告として23年「春の書店くじ」実施要綱の説明、22年~23年度の年末年始発売日及び夏期統一休暇についての説明、石川広報委員長より全国広報委員会議の報告があり、理事会を終了した。
その後場所を移し、忘年会を兼ねた懇親会を行った。(石川昭広報委員)

330施設に児童書を寄贈/日販よい本いっぱい文庫

全国の養護施設、各種学校などに児童書を寄贈する「第46回日販よい本いっぱい文庫」の贈呈式が12月3日、日販本社ビルの銀座アスターで開催された。
贈呈式で日販の平林彰専務は「昨年までの45年間で延べ1万0032ヵ所の施設に173万冊を贈呈させていただいた。本年も330ヵ所の施設にクリスマスプレゼントとしてお届けできるよう準備を進めている。日販では読書推進活動として、児童図書展や読み聞かせ会『おはなしマラソン』を実施している。次代の読者となる子どもへの読書普及は業界の責務であり、私たち大人から日本の未来への贈り物。引き続き皆様と手を携えて子どもたちの読書推進に取り組みたい」とあいさつした。
続いて、平林専務から厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課の湯村克彦課長補佐、施設代表の品川景徳学園・伊藤浩施設長に目録が手渡され、伊藤施設長は「絵本を使ってお話をしたり読み聞かせすることが、子どもと職員の関係を作る上で重要なツールになっている。今回いただいた本を大いに活用させていただきたい」と述べた。

11月期売上2・7%減/実用書、2ヵ月連続の大幅減/日販調べ

日販営業推進室調べの11月期書店分類別売上調査が発表された。売上高対前年比は2・7%減で、7ヵ月連続の前年割れとなった。
雑誌は2・0%減(先月は2・1%減)。このうちコミックは、集英社『ONEPIECE60』やスクウェア・エニックス『鋼の錬金術師27』と大型新刊があったものの、前年同時期には集英社『JIN―仁―』の既刊が大変好調だったことから、1・3%の微増にとどまった。
書籍は3・5%減(先月は3・0%減)。文芸書は聖教新聞社『新・人間革命第22巻』や、10月末に発売された新刊が売上を牽引するなど、10・6%の大幅増となった。実用書は12・5%減と10月期に続けて2桁減少。前年は「ポケモン」攻略本5銘柄や幻冬舎『巻くだけダイエット』などが引き続き好調だったため、今月も大きくマイナスとなった。

海外の出版・書店事情【最終回】/ノセ事務所代表取締役・能勢仁

〔海外の出版・書店事情の連載を終わって〕
12回に亘って海外の出版事情を見てきた。強く感ずることは言論・出版の自由の有難さである。今年のノーベル平和賞がこのことを見事に語ってくれた。中国編でふれたが、中国の出版社は600社前後(日本の六分の一)と少なく、しかも全て国営である。中国では言論の自由はなく、出版は国家管理の下におかれているのである。流通は市場経済を取り入れ新華書店(国営)と民営書店が併存している。前者は大型書店が多く、後者は個人経営で規模が小さい。店数は新華書店は1万1千店に対し、民営書店は11万店である。中国は一党独裁の政治体制の結果、ノーベル賞受賞出席不可となったのである。
今回は掲載できなかったが、最悪の出版事情は北朝鮮である。2002年のピョンヤンブックフェアに参加した時、北朝鮮の出版事情の劣悪さに驚愕した。ピョンヤン市(314万人)に17の区があるが、各区に書店は一店しかない。その書店(15坪で、まるで官報販売所)に並んでいる本は朝鮮労働党の書籍、雑誌、金日成全集、選集、ピョンヤン市街地図、ガイドブックだけである。絵本、こどもの本、小説、文芸書、実用書、学参、辞書、芸術書、専門書は一切無い。勿論雑誌はない。北朝鮮には出版文化が全く無いので、国際事情など知る由もない。気の毒の一語に尽きる。一党独裁の恐怖政治を感じた。その点、中国の書店にはエロ本、ヌード写真集、反体制本以外の本は何でも売られている。出版点数は日本以上に多い。
ヨーロッパ(イギリス、ドイツ、フランス、イタリア)の書店では大型チェーン店が有力であった。イタリアだけはチェーン店はあるが、店舗規模は大きくない。歴史的なことが原因である。ローマ、ミラノ、フィレンツェなど昔から書店で、彼らは大型化、増床、リニューアルをしない。これは市の条例で規制されているからである。ヨーロッパの書店で共通することは、書籍専門店であって、雑誌は扱っていない。書店はすべて市中書店で、郊外型書店はない。日本と全く違う点、羨ましい点は税率である。日本では消費税は取引に対してすべて課税されるが、ヨーロッパでは食料品や書籍、雑誌、新聞は税率が低いか、無税である。例えばフランスでは付加価値税は19・6%であるが、書籍、雑誌は5・5%、新聞は2・1%である。ドイツは16%に対し、書籍、雑誌、新聞は7%である。日本はこれから消費税問題が浮上してくるが、生活用品、文化商品は特例にしてもらいたい。
インドの出版事情は特殊だと思った。それは古書を大事にしていることである。新刊の書店はニューデリーの中心地コンノートプレイスに多くあり、古書はオールドデリーのチャンドニー・チョウクで売られている。古書街は約1kmの通りに200~250店の古書店がある。学生にとっては本が安く買えるので嬉しい市場である。各書店は専門性があるので、競争に生き残れる。ただ書店の規模は小さく、5坪から20坪位である。実用書専門店で雄鶏社の商品に人気が集まっていた。型紙がインドにはないからである。
アジア地区(韓国、中国、台湾)で共通して感じたことはネット販売が浸透していることである。韓国は再販国であるが、ネットで購入した場合、本が10~20%安く買える。中国でも同様である。上海にあるポプラ社の直営書店の店長さんから直接聞いたことであるが、お客様が店頭で書名を書き写し、ネットで注文してくるケースが多くなっているという。他の民営書店がネット注文にはディスカウントしているので、ポプラ書店も対応せざるを得ないという。
店頭陳列で参考になるのはイタリア、中国で行われている螺旋状陳列、四面積み陳列である。立体感のある表現は読者にインパクトを与えている。
電子書籍に揺れている日本の出版界であるが、今回筆者が回った国では紙の本がなくなる印象はなかった。新しいデバイスを使ってデジタル読書をする人が増え、アナログ読書が駆逐される見かたをするのは今のところアメリカだけだと思う。ただ言えることは流通面でネット販売が更に普及することである。これは国際的潮流なので止めることはできない。

◆菊池寛賞
第58回菊池寛賞の贈呈式が12月3日にホテルオークラ東京で行われた。今年の受賞者は作家の筒井康隆、俳人の金子兜太、NHKスペシャル「無縁社会」、JAXA「はやぶさ」プロジェクトチーム、染色家の吉岡幸雄、古典文学者の中西進「万葉みらい塾」の各氏・団体。
日本文学振興会・平尾隆弘理事長から賞が手渡された後、選考顧問の平岩弓枝氏は「人間は仕事の間口を広げることは自分の力でどうにかなるが、その先、奥行きを深くする仕事は誰も助けてはくれない。こつこつと掘り下げていかねばならない仕事であり、今回受賞した皆様は、命続く限り掘り下げていく方々ではないか」と祝辞を述べた。
受賞者あいさつで筒井康隆氏は「直木賞の候補で3回落ちていて、文藝春秋からやっと賞をいただくことができて嬉しい。また嬉しいのは、『はやぶさ』プロジェクトチームとの同時受賞。今日の受賞は、宇宙に最初に行ったSF作家への第一歩になった」と喜びを語った。
◆講談社広告賞
第32回「読者が選ぶ・講談社広告賞」の贈賞式が12月7日にホテルニューオータニで開かれ、広告大賞男性誌・情報誌部門に『おとなの週末』掲載のエヌ・ティ・ティ・ドコモ、同女性誌部門は『Grazia』掲載のブルガリジャパンが受賞した。
贈賞式で講談社野間省伸副社長は「平成22年度決算は減収増益。広告収入は下半期は復調傾向が見られるが通期では厳しい結果が予想される。雑誌広告はかつてない厳しい環境に置かれており、時代の変化に即した変革が求められている。12月より組織を改編し、皆様のニーズに的確に対応しながら難局を乗り切っていく」とあいさつした。
森武文常務は広告局をメディア事業局に改称したことを説明、「講談社が持つ編集力、販売力などあらゆる財産を使ってスポンサーの皆様の課題に応える。雑誌ビジネスの世界戦略では、特に中国での拡大を図るため、中国事業室を新設し、講談社北京文化有限公司を改編した」と述べた。
この後、野間副社長から各部門入賞社に賞状と副賞が手渡された。
◆角川書店文学賞3賞
角川書店が主催する文学賞3賞の贈賞式が11月24日に東京會舘で行われた。
受賞作は、第30回横溝正史ミステリ大賞に伊与原新氏『お台場アイランドベイビー』、優秀賞に蓮見恭子氏『女騎手』、テレビ東京賞に佐倉淳一氏『ボクら星屑のダンス』、第17回日本ホラー小説大賞に一路晃司氏『お初の繭』、長編賞に法条遥氏『バイロケーション』、短編賞に伴名練氏『少女禁区』、新たに創設された第1回山田風太郎賞に貴志祐介氏『悪の教典』が選ばれた。
山田風太郎賞の贈呈で、選考委員の筒井康隆氏の選評に続いてあいさつした貴志氏は、アマチュア時代から愛読してきた作家として山田風太郎と筒井氏を挙げて、「これからも風太郎スピリットを大切にしていきたい」と述べた。