全国書店新聞
             

令和6年7月15日号

骨太の方針「書店活性化」盛り込む 第2回「車座ヒアリング」で齋藤経産相が報告

 経済産業省の「文化創造基盤としての書店振興プロジェクトチーム」(書店振興PT)は6月12日、東京・千代田区の日本出版販売本社内「オチャノバ」で、書店関係者から現状や課題を聞く第2回車座ヒアリングを開催した。作家で書店経営者の今村翔吾氏、ブックセラーズ&カンパニーの宮城剛高社長、福井県敦賀市の公設民営書店「ちえなみき」の笹本早夕里店長と同市まちづくり観光部の柴田智之補佐や齋藤健経済産業大臣、上川陽子外務大臣、盛山正仁文部科学大臣が参加した。齋藤大臣は政府の「骨太の方針」に活字文化の振興と書店の活性化が盛り込まれると報告した。
 冒頭、齋藤大臣は「第1回の車座ヒアリングを開催したところ、多くのメディアや一般の方から大きな反響があり、書店の減少に対して多くの皆さんが危機感を感じていると実感した。書店・図書館・ウェブの3者が共存する世界が望ましいが、現在は書店のみが減少している。全国で4分の1の市町村は書店が1軒もなく、そこで生まれ育つ子どもたちが書店を知らずに成長するのは問題。皆さんの力を借りて書店減少を食い止めていきたい」とあいさつした。
 上川大臣は「書店は各国の歴史や文化、人々の関心が凝縮した空間。その国への理解を深める上で重要な文化の拠点になっている。また、各国の書店に置かれた日本の書籍を見ることは、その国で日本への関心がどのくらいあるのかを知る機会にもなる。日本の古書店街や書店は文化の発信拠点であるとともに、多文化が行き交う国際的な文化交流拠点となりうる場所。大切に育てていきたい」と話した。
 盛山大臣は「書店は予期していなかった未知の本との偶然の出会いを提供する知の拠点。そのことはリアルの書店に足を運ぶことで見つけられる。読書活動の担い手である地域の書店と図書館が、手を携えて読書人口の増加や地域に根差した読書環境の醸成に取り組むことが重要」と述べた。
 書店関係者からの発表で、今村氏は書店がなくなると困るのは高齢者ではなく、クレジットカードを持っていないためネットで本の購入ができない若者だとして、「街の書店は若者のためにあるべきだ」と強調。「次世代のために書店を残すという一点で業界は繋がってもらいたい。今年が書店復活の元年になると信じている」と結んだ。
 宮城氏は、海外の調査会社による2023年の世界の書籍販売動向で、対象16ヵ国中12ヵ国で販売額が増加していることをもとに「書店の未来はまだまだ明るい」と主張。売上向上の実現、適正仕入れの実現、直仕入スキームの実現によって持続可能な書店ビジネスの構築、粗利30%の実現を目指していくと語った。
 柴田氏は、丸善雄松堂と編集工学研究所が運営する公設民営書店「ちえなみき」について、北陸新幹線開業に合わせて開設したと説明。笹本氏は「ちえなみき」が本を中心に生き生きとした場が生まれる「BOOKWARE」の手法によって、本を通じて人と地域がつながる空間になっていると報告した。
 その後の意見交換で、上川大臣は「街の個性と書店のあり方がセットで考えられることが重要。日本の特徴を出しつつ、海外からの客にもシェアされる魅力的な空間にできれば強みになる」との考えを示した。
 盛山大臣は、文科省として書店と図書館の連携に向けて関係者による対話の場を設けて促進方策をとりまとめたことなどを説明し、「今後は新たな枠組みとして書店、図書館、出版社など関係団体による協議会を設ける」と述べた。
 今村氏は、将来性のある新人作家を書店が推す代わりにIP(知的財産)の権利を0・1%持つ形にすれば大きな利益が得られると提案。「書店も本を売るだけでなく作家を育てることに参画すべき」と持論を展開した。
 最後に齋藤大臣は「東京都狛江市で市内唯一の書店が昨年7月に閉店したが、復活を望む市民の声で再出店することになった」と紹介。「狛江市のように市民の力で書店が次々と再出店できれば」と思いを語り、再出店イベント当日、自身は外遊中のため、副大臣を出席させる意向を示した。
 また、経済財政諮問会議が策定している骨太の方針に、書店と図書館の連携促進を含む文字活字文化の振興と、書店活性化を図ることが盛り込まれると明かした。

東京・狛江の書店、再オープン 市民の声が後押し

 一度は市内から書店が消滅した東京都狛江市で6月27日に書店が復活した。プレオープンの26日には選書コーナーの除幕式が行われ、大臣直属の「書店振興プロジェクトチーム」を設置する経済産業省の上月良祐副大臣ら関係者が祝福に駆け付けた。
 同市では2023年7月に啓文堂書店が閉店して以降、市内から書店がなくなったが、市民の有志グループ「タマガワ図書部」が小田急線狛江駅構内で「エキナカ本展」を開催したところ約7000人が来場し、会場に置かれたノートにはたくさんのメッセージが残された。こうした声に後押しされ、狛江駅前の商業施設内で啓文堂書店が再開業することが決まり、店内には市民が所有する本を自ら選書・展示し、来店者が自由に閲覧することができる選書コーナー「BOOK and BENCH」が設置されることになった。
 除幕式に参加した上月副大臣は「本は大切な資源。書店の選書コーナーが市民のつながりの場になってくれれば素晴らしい」とあいさつした。

書店大商談会 10月30日、科学技術館で開催へ

 第13回書店大商談会は10月30日午前11時~午後5時半(予定)、東京・千代田区の科学技術館で開催される。同実行委員会(矢幡秀治実行委員長)が主催。
 今回はブース出展形式で完全復活。当日夜は会場内のホールで「BOOK MEETS NEXT」関連の「TOKYO BOOK NIGHT」のイベントを予定。出展数やブース数など詳細は7月中に開催する説明会で明らかにする。

北海道総会 新理事長に山田大介氏 志賀健一氏は副理事長に

 北海道書店商業組合は6月18日、札幌市北区のホテルサンルート札幌で第48回通常総会を開催し、組合員47名(委任状含む)が出席した。任期満了に伴う役員改選では新理事長に山田大介副理事長(ダイヤ書房)が就任した。志賀健一理事長(丸善ジュンク堂書店)は副理事長に就いた。
 総会は寺下徹副理事長(図書館ネットワークサービス)の司会進行で始まり、志賀理事長があいさつ。「昔、北海道組合は500店以上加盟していたので、日書連には私と浪花さん、菊田さんの3人が理事として出ていた。若い時代から大型店の出店反対運動やセブンイレブンの出店反対運動などを一生懸命やっていた。その成果の一つとして、旭川ではコンビニエンスストアを出店する際は市役所に届け出ることになった。その成果を浪花さんが喜んでくれて、37歳ぐらいの時に理事に推薦され、日書連に通っていた。40代半ばに浪花さんが引退することになり、指名を受けて理事長に就任した。以来25年間、理事長をさせていただいた。いろいろなことに挑戦し、全国にPOSを750台入れたり、CD‐ROMパソコンを80台入れたり、非常に大きな事業を手掛けることができた。幸せな日書連活動、北海道組合活動をさせていただけたと思っている」と振り返り、「現在の組合員は72店と厳しい環境の中、次の方に理事長職を渡すのは申し訳ないが、書店業界に何かあった時の窓口として商業組合はどうしても必要。是非これからも盛り上げていただきたい」と述べた。
 続いて志賀理事長を議長に議案審議に入り、令和5年度事業報告、収支決算報告、令和6年度事業計画案、収支予算案など、第1号議案から第8号議案まですべての議案を原案通り承認可決した。
 [北海道組合役員体制]
 ▽理事長=山田大介(ダイヤ書房)
 ▽副理事長=志賀健一(丸善ジュンク堂書店)、村上正人(マルイゲタ)、寺下徹(図書館ネットワークサービス)、中尾邦幸(マル五中尾書店)
   (事務局・髙橋牧子)

岐阜総会 図書館と関係性深化を 木野村匡理事長を再選

 岐阜県書店商業組合は6月21日、岐阜市の岐阜県教販で第41回通常総会を開催し、理事9名、監事1名、組合員16名(委任状含む)が出席した。
 総会は淺野隆男副理事長の開会の辞に続き、木野村匡理事長があいさつ。はじめに書店業界の動向に触れ、「書店の売上不振が長く続く中、書店議連など政治の後押しが活発になっている。この動きに合わせ、書店が発信元になって学校図書館・公共図書館との関係性を深め、児童図書などの拡販につなげていきたい」と述べた。
 続いて議案審議を行い、すべての議案を原案通り承認可決した。
 任期満了に伴う役員改選で理事を選任し、総会終了後に開いた理事会で木野村理事長を再選した。副理事長には淺野隆男、池田英作、富田茂の3氏が就任した。
  (事務局・大橋麻紀子)

BOOK EXPO 11月12日、大阪で開催へ

 「BOOK EXPO 2024 秋の陣~よし、乗り越えろ!書店人~」は11月12日、大阪市北区のグランフロント大阪「ナレッジキャピタル コングレコンベンションセンター」で開催される。同実行委員会(大垣全央実行委員長)が主催。
 今年も読書推進月間「BOOK MEETS NEXT」と連携した出版業界イベントとして実施する。一般、児童、コミック、第三商材220ブースが出展予定。出展料1ブース3万3000円(税込)。募集要項は出版文化産業振興財団ホームページに掲載。来場書店目標は700名。

連載「春夏秋冬 本屋です」 祖父とサンデー毎日/岩切 承自(宮崎・岩切書店 代表取締役会長)

 今、私の手元に大正15年7月18日のサンデー毎日第32号があります。ほぼ100年前の号でタブロイド判36ページ、定価は12銭、赤茶けて今にもぼろぼろに崩れてしまいそうです。この号には、サンデー毎日が第1回「大衆文芸賞」を募集し、角田喜久雄氏が「発狂」で1等入選、私の祖父和田茂生が挿絵を描いています。和田茂生は大正12年に東京美術学校を卒業、大阪毎日新聞に入社。サンデー毎日編集部に配属され記者として挿絵カットなどを描いていたようです。昭和2年に退社、昭和6年に病没しています。
 私の母及び姉である伯母は早世した父親に対する思慕が強く、父親の痕跡を手繰るよう私に託しました。いろいろな伝手を通し、和田の過去を調査しながら、サンデー毎日の記事にたどり着き、古本屋から和田が関係する当時のサンデー毎日を30冊ほど購入しました。もちろん私は祖父に会ったことはありませんが、今回のサンデー毎日の記事をみて、とても身近な存在として感じるようになりました。
 大正末期から昭和初期の時代、まだ戦争の足音が近づいて来る前のわずかな平安の時代の週刊誌は、当時の市民の営みや文化芸能など多彩な記事で彩られています。読み返しても優れた民俗史として貴重な記録を残していると思われます。
 現在、サンデー毎日は創刊102周年、5800号を超えています。同時期に創刊された週刊朝日は残念なことに令和5年6月9日号(5843号)で休刊となりました。
 今、雑誌の発行部数は減少し廃刊休刊が増えています。書店の数も減少しています。雑誌の役割はその時々の文化歴史現象を反映しており、将来にとっても貴重な存在として常にあってほしいものです。

山梨組合総会 図書館との連携事例報告 書店・図書館巡るスタンプラリーなど

 山梨県書店商業組合は6月17日、甲府市の山梨県立図書館で第36回通常総会を開催し、組合員20名(委任状含む)が出席した。
 総会は河野洋己専務理事(ブックスステーション)の司会で始まり、冒頭、大塚茂理事長(柳正堂書店)があいさつ。「組合員と有益な情報を共有、新しい試みを取り入れ、読書推進イベントをより良いものに変えていくことが必要」と訴えた。また、全国的に書店数減少に歯止めがかからない状況を懸念し、「組合加盟書店数も厳しい状況。加入促進を進めたい」と述べた。
 続いて、大塚理事長を議長に選出し議案審議を行い、令和5年度事業報告、収支決算報告、令和6年度事業計画案、収支予算案などすべての議案を原案通り承認可決した。
 議案審議では、「秋の読書推進月間キャンペーン」企画について、県にゆかりのある作家や新刊を刊行した著者を招待するイベント企画が提案された。
 また、読書推進のため近くの図書館が年1回、歴史や文化に関わる講座を行い、主題に沿ったおすすめ本を紹介していること、歴史が好きな街の書店主が講演を行い、少しでも多くの人に図書館を利用してもらえるような取り組みを行っていると報告があった。
 閉会あいさつで渡辺卓史副理事長(卓示書店)は「読書推進活動補助費を活用した『やま読ラリー(書店・図書館を巡るスタンプラリー)』は、今年度も昨年度同様のイベントとして準備を進めている。また、自治体発行の商品券が売上増につながったが、自治体の企画政策に積極参加することで地域活性化につなげることができる」と述べた。
   (事務局・西海文雄)

愛媛組合総会 足立理事長「情報共有」呼びかけ

 愛媛県書店商業組合は6月7日、松山市のANAクラウンプラザホテル松山で第36回定時総会を開催し、組合員24名(委任状含む)が出席した。
 足立岳彦理事長を議長に議案審議を行い、令和5年度事業報告、収支決算報告、令和6年度事業計画、収支予算などすべての議案を原案通り承認可決した。 続いて来賓のトーハン・木村理人岡山四国支店長、日本出版販売・小野雄一西日本支社岡山支店長、聖教新聞社・能瀬秀夫四国支社愛媛支局長、創価学会・須田泰行四国事務局次長(聖教新聞社四国方面統括)があいさつした。
 総会終了後、懇親会が行われ、和やかな交流の場となった。足立理事長は「書店経営は困難で厳しい状況だが、組合員が情報を共有し協力して様々な施策に取り組みたい」と話した。
 懇親会場では、6月22日~9月1日に愛媛県美術館で開催される「大シルクロード展」について、四国内での唯一の開催であること、一級文物44点を含むシルクロードの遺宝約200点が展示されることなどの説明があり、パンフレットが配布された。同実行委員会(愛媛県、愛媛新聞社、南海放送)が主催、外務省、中国大使館、愛媛県教育委員会、松山市など後援。(山﨑由紀子広報委員)

大阪書林御文庫講 大阪・住吉大社で奉納本の虫干し実施

 大阪書林御文庫講(講元・藤波優燃焼社社長)は5月23日、大阪出版協会(矢部敬一会長=創元社社長)と日本書籍出版協会大阪支部(岡本功支部長=ひかりのくに社長)が参加して、大阪住吉大社の境内の御文庫に奉納されている古書籍の曝書(虫干し)を実施した。
 小規模の出版は平安末期に仏書を中心に京、高野山、奈良で行われていたが、商業出版としては慶長年間初期(豊臣時代)に始まったとされている。江戸時代に商品経済が発展し、浄瑠璃本や仮名草子が大阪の版元から刊行された。
 享保8年(徳川吉宗治世)に株仲間と呼ばれる同業組合が公許された。大阪、京都、江戸の本屋仲間の有志が住吉大社に「御文庫」の寄進を発願。奉納された書籍を一般にも公開したので、大阪最古の図書館と呼ばれている。
 曝書当日は五月晴れで、楠の木漏れ陽の下、1冊ずつ畳まれた和綴じに風を通していく。本の紙魚によって穴が所々開いている。作業が読書になる。たまたま担当した書籍が「古事記(フルコトブミ)」だった。
 奉納ではなく、神様に癒される1日だった。
 (石尾義彦事務局長)

沖縄県書店商業組合の小橋川篤夫理事長 県中小企業団体中央会会長に就任

 沖縄県中小企業団体中央会は6月13日、那覇市のホテルで令和6年度通常総会を開催した。任期満了に伴う役員改選で、新会長に沖縄県書店商業組合理事長の小橋川篤夫氏(いしだ文栄堂)を選任した。
 小橋川氏は「中小企業は深刻な人出不足、円安、仕入れ資材高騰と対処すべき課題が山積。組合が直面している課題やニーズに応じた支援をしていく」と抱負を語った。
 また、9月に宜野湾市の沖縄コンベンションセンターで開かれる第63回中小企業団体九州大会の成功に向けて役職員をはじめ、会員一丸となって取り組もうと呼びかけ、広く協力を求めた。
 小橋川氏は2008年から県中央会理事に就任。2022年からは副会長を務めていた。
  (竹田祐規事務局長)

優しい眼差しで語る「書店のあり方」 能勢仁著『本と読者をつなぐ心』(遊友出版)の魅力/【寄稿】遊友出版代表取締役 齋藤 一郎

 ノセ事務所代表取締役で出版・書店コンサルタントの能勢仁氏がこのほど、遊友出版から『本と読者をつなぐ心』を上梓した。書店の多田屋と平安堂、出版社のアスキー、取次の太洋社と「業界の川下―川中―川上を歩いてきた」経験をもとに、出版界全体を視野に入れながら、顧客と直接触れる書店のあり方を熱く書き記す。30年間で58ヵ国を行脚した著者にしか書くことのできない世界の書店訪問記も圧巻だ。編集を担当した遊友出版代表取締役の齋藤一郎氏に、本書の魅力や制作エピソードについて寄稿してもらった。

[世界の書店訪問に長年情熱 英フォイルズと八重洲BCのエピソードも紹介]
 「筆者の家業は書店である」と、第二章「私の履歴書」に著者が書かれたように、能勢仁(まさし)氏は千葉県の多田屋書店に生まれる。慶応義塾大学を卒業後、高等学校に就職し日本史の教壇に立つ。合わせて図書館の選書や、週1時間の読書教育の授業も受け持った。本を紹介し、生徒たちが読書習慣を身に着ける貴重なアシストをする。
 やがて家業に戻り、書店の実務に携わる。以後の略歴は多田屋常務取締役から平安堂、アスキー、太洋社などの取締役を経て、1996年ノセ事務所を設立した。現在もなお書店経営のサポートを続けている。
 第一章は「世界の書店」。ロンドンのフォイルズ書店を始めとした世界の66の書店を紹介する。エピソード満載で、鹿島守之助がこのフォイルズ書店を見て、日本にも作りたいと思ってできたのが八重洲ブックセンターであった。表紙に選ばれたのは台湾の誠品書店だが、1枚の写真からも店内の様子が見て取れる。能勢さんのレポートと解説を合わせ読むと、商品構成や工夫がよくわかる。異色なのは北朝鮮・ピョンヤンの国営書店。外観からは全く書店には見えないという。
 製作中、能勢さんからは次々にアイデアが提案された。たとえば、再販問題のプロセスと公取委の立場、神田駅前から始まったポイントカード、アマゾンの問題などを書き加え、第九章として挿入する。その追加原稿が入るスピードがまた速い。いまだにパソコンを使わない作家もいる中で、能勢さんはとにかく早い。しかも第九章にしましょうと、編集センスも鋭く、こちらはあたふたと、付いていくばかりなのであった。

[「顧客満足」への思い凝縮 売上げ伸ばすヒント、具体的に]
 「業界の川下―川中―川上を歩いてきた」と言う能勢さんは常に出版全体を視野に入れている。特に読者と直接触れる書店のあり方には、強い思いがある。
 第五章「商売にとって顧客とは」の中では他業種の例が挙げられている。顧客満足の良い例と悪い例など具体的である。たとえば京都のMKタクシー、昭和10年発表の松下電器の商売戦術、顧客の読書を考える、読者のニーズを探せと続くが、書店では入店客層を大づかみに、子供、中高生、主婦、OL、サラリーマンと高齢者くらいの分類である。実際、コンビニでは19歳以下、29歳以下、49歳以下50歳以上の男女8分類で客層を掴もうとしている。書店に対してコンビニでは年齢を重視するのである。第三章「商人として」も第四章の「顧客満足のために」、第六章「顧客にやさしい商売」も、書店として読者にどう接するかという能勢さんの熱い思いが凝縮された項目である。
 たとえば〈人にやさしい売場検証〉。危険なPOP金具は使わない。妊娠、名づけ、病気の本は下段に。こどもの目の高さの陳列に注意、こどもの眼を傷つけないように。平台の角は高い陳列をしない。棚差しはぎゅうぎゅうに入れない、1冊入る余裕をもたせる。など、これだけで18項目。
 笑顔で接する、聞き手にまわるなどは〈人に好かれる六原則〉。まずほめる、顔を立てる、期待をかけるは〈人を変える九原則〉。
 また〈仕事の意識づけ〉では作業と仕事の相違点、同じ仕事をするなら工夫をしたい。自分の意志なく働くのが作業、意図的に働くのが、本来の仕事である。 〈顧客志向がないと客数は増えない〉では、不振店の原因①感じが悪い②品揃えが悪い③商品の質が悪い④店舗の印象が悪い⑤販促が悪い。一方繁盛店の要因は①名物社員がいる④お客様の手助けをしてくれる⑦商品がよくそろっている⑨通行客の入店率が良いなど10箇条が挙げられている。
 顧客を定着させて、売り上げを伸ばすためのヒントが随所にちりばめられる。 第八章「駆け足・出版ものがたり」は〈明治に咲いた出版社―博文館〉から始まる。「日本の近代出版は江戸末期に本木昌造が活字を創案し、そこから始まった活版印刷によって幕を開けたといってよい」とオープニングである。大正時代と続き、昭和は30年代、40年代、50年代と郊外型書店が書店革命を促した60年代から平成、アマゾン上陸の平成10年代から令和まで。時代の出来事、世相と出版の推移が一目でわかる。第十章「出版アラカルト」も新書の歴史など出版の知識に溢れている。
 巻末に添えられたのは、本にまつわる古今の名言。日本から世界を巡る金言。 出版界の重鎮が優しい眼差しで語る、出版界、書店界に携わる方々必読の書。読み込むほど、能勢さんの志が身に染みる本である。

図書カードNEXT発行高14・2%減 日本図書普及決算 読取機設置店減少が影響 発行高293億円、回収高301億円

 日本図書普及は6月27日開催の定時株主総会に先立ち、6月17日に東京・新宿区の本社で記者会見を行い、第64期(令和5年4月1日~令和6年3月31日)の決算概況を発表した。
 図書カードNEXTの発行高は前年比14・2%減の293億9900万円。内訳は、「一般カード」が同12・5%減の272億3000万円、「広告カード(オリジナルカード)」が同30・6%減の21億7600万円。広告カードのうち、ネットギフトカードは同43・7%減の11億8100万円。
 回収高は、同6・7%減の301億7800万円。種類別の内訳は、図書カードNEXTが283億4600万円(占有率94%)、磁気の図書カードが16億400万円(同5%)、図書券が2億2700万円(同1%)だった。
 加盟店は前期末対比193店減の5059店。読取端末機設置店数は同446店減の6798店、設置台数は同470台減の1万276台。設置店数に関してはピーク時は1万店を超えていたが、最近の減少数をみると、2021年・2022年は約200店、前年は若干増えたものの300店弱で推移していたが、今年度は一気に450店近い減少数となった。
 損益計算書における売上高は1271万円。営業損失は20億820万円(前年は19億9885万円の損失)、経常利益は8億2154万円(前年は6億7109万円の損失)。特別損益で未回収収益を約17億8800万円計上するなどして、当期純利益は前年比17%減の5億7689万円となった。
 平井社長は、発行高が厳しい数字となった要因について、①書店廃業による加盟店の減少、②例年ピークとなる3月期の売り上げが、昨年12月期を下回ったことの2点をあげ、「図書カードをギフト利用したくても、近くに購入できる書店がない」との声もあることから、現在はほとんど行っていないネット販売についても今後見直す考えを示した。
 今期の主な活動として、平井社長は全国自治体へ子育て支援等に図書カード採用の販促活動を活発化することをあげ、秋には(11月を予定)3年ぶりとなる「柴犬デザイン限定図書カード」を発行すると発表。また、「磁気カード利用促進キャンペーン」(プレゼント企画)の実施やBOOK MEETS NEXTなど業界の読書普及活動への協賛、ギフト商品の魅力を高めるパッケージの開発・付属品の見直し(ケースを図書券サイズから切り替え、手間がかからない便利な包装にしていく)にも取り組んでいくと述べた。
 財務に関しては実質的に減収減益だが、明るい話題としてはゼロ金利下で購入できなかった国債に関して、金利が上昇し始めたことから購入できる状況になったので、8年ぶりに購入したと報告、金額は10億円以上とのことだった。供託金528億円に関しては、現金では利息がほぼ付かないので、今後は徐々に国債に切り替えていく考えを示した。
 セルフレジについては、現在3桁の店舗数で稼働しているが、磁気とQRの2種類に対応する形式では利用客もオペレーションが難しいようなので、図書カードNEXT単体のレジを検討していると説明した。
 役員人事は、6月27日開催の株主総会で、佐藤隆統括部長が取締役に新任。中部嘉人氏(文藝春秋)、川村興市氏(楽天ブックスネットワーク)、春井宏之氏(日本書店商業組合連合会)が監査役に重任。黒柳光雄監事は退任して顧問に就いた。

JPO総会 「BooksPRO」に雑誌販促機能 飯窪氏が理事に就任

 日本出版インフラセンター(JPO、相賀昌宏代表理事)は6月25日、東京・千代田区の出版クラブビルで2024年度定時総会を開催。23年度活動報告、決算・監査報告、24年度活動計画、予算の全ての議案を原案通り承認した。
 22年度活動報告では、出版情報登録センター(JPRO)の今年3月末時点の利用状況は、出版社2838社(前年同期比8%増)、基本書誌情報登録点数386万3946点(同5%増。内訳は、紙の書籍321万8502点、電子書籍60万4802点)、新刊(委託配本)比率は、94・6%となった。書店・図書館向けポータルサイト「BooksPRO」の3月末時点の登録書店数は2947店、登録図書館数は221館。ためし読みサービスの3月末時点の加入出版社数は663社、コンテンツ数は約10万点。
 JPROは、BooksPROに雑誌の販促情報機能を新たに追加したほか、出版社名絞り込み機能を追加し検索機能の充実を図った。また、国立国会図書館と電子書籍の書誌情報の連携を開始したことで、電子書籍の登録点数を大幅に増やした。
 24年度活動計画の主な項目は次の通り。①図書コード管理センター=『ISBNコード/日本図書コード/書籍JANコード 利用の手引き』を6年振りに改訂、利用者の満足向上を図る。また、国際経済の不安定要素の拡大や円安に加えて国際本部運営資金も値上げされたことから、新規の出版者登録、追加記号発行に関わる手数料の改定を7月1日より実施する予定。②雑誌コード管理センター=『雑誌コード/定期刊行物コード(雑誌)登録とソースマーキングの運用の手引き』改訂版の発行を目指す。③書店マスタ管理センター=「独立系書店」のマスタ登録促進は、登録することの利点の広報に努める。
 役員改選では、飯窪成幸氏(文藝春秋)が理事に新任。中部嘉人理事(文藝春秋)は退任した。

トーハン 近藤会長、川上社長のメッセージ動画を配信

 トーハンは近藤敏貴会長と川上浩明社長から取引先に向けたメッセージ動画「TOHAN COMPASS 2407」を配信している。配信期間は8月5日午後4時まで。
 視聴希望はトーハン広報まで電子メールで。PRESS_KOHO@tohan.co.jp

連載「本屋のあとがき」 新しいけれど馴染む感覚/宇田川 拓也(ときわ書房本店 文芸書・文庫担当)

 7月3日、20年ぶりとなる新紙幣の発行が始まった。
 肖像画には、一万円札に渋沢栄一、五千円札に津田梅子、千円札に北里柴三郎を採用。日本銀行植田総裁の説明によると、この日だけで1兆6000億円分が世に出されるという。本稿を書いている時点では、まだ実物を手にしていないが、うわさの3Dホログラムなど目にするのが愉しみである。
 紙幣といえば、年末や年度替りの時期になると、大掃除や引っ越しの際に出てきたであろう旧いお札や記念硬貨をレジで出されることがある。
 少し前になるが、若いアルバイトの子がレジで助けを求めるので駆けつけると、「これって使えるんですか」と、お客様から受け取った伊藤博文の千円札を手に困惑の表情を浮かべていることがあった。昭和生まれの人間には懐かしいが、平成生まれにとっては、半世紀以上も前に発行された紙幣など、おもちゃ銀行のお札のようにしか見えなくても仕方あるまい。
 それにしても、旧いお札を目にしたとき、あるいは手にしたときに覚える、あの妙に馴染む感覚は何なのだろう。それほど懐古趣味の強い人間であるつもりはないが、いまこうして令和の時代を生きるまでの間に、知らず知らずのうちに何かを手放し、失ってきているのかもしれない。
 紙幣に限らず、これからも新しいものに触れる機会はきっとあるだろう。できるなら、新しくてなおかつ馴染みを覚える、そんなものに出会ってみたいものである。