全国書店新聞
             

令和6年4月15日号

書店・図書館等関係者「対話のまとめ」公表/共存共栄へ議論深める/「関係者協議会」設置 課題解決図る

 書店、出版社や図書館関係者らが共存共栄の道を話し合う「対話の場」のまとめ文書が4月1日、出版文化産業振興財団(JPIC)と日本図書館協会(JLA)のホームページで公表された。「対話の場」では、ベストセラーの複本の影響について出版界と図書館界の共通認識として初めて合意した。今後、関係者協議会を設け、書籍注文ができる端末の図書館への設置、図書館で予約した書籍を書店で受け取れる仕組み作り、図書館本大賞の創設など、「対話の場」で上がった課題を解決するため具体的な取り組みを進める。

[一部ベストセラーの複本「影響あり」/出版と図書館 初めて共通認識]
 「対話の場」は、自民党「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」(書店議連)の第一次提言(昨年4月28日)を受け、昨年10月に設置された有識者会議。著者、出版社、書店と図書館との共存共栄による新たな価値創造を推進することが目的。
 JPIC、JLA、文部科学省が共催し、事務局を文科省が担当。構成員は著者、書店、出版、図書館、自治体各関係団体の計14名。書店からは髙島瑞雄・高島書房社長(日書連理事・図書館委員長)と井之上健浩・久美堂社長(東京都書店商業組合常務理事)が加わった。
 座長は大場博幸・日大教授(図書館情報学)、副座長は松木修一・JPIC専務理事と岡部幸祐・JLA専務理事兼事務局長が務め、昨年10月3日、同30日、1月17日、3月6日の4回会合を開催した。
 公立図書館がベストセラーや人気作家の最新刊を大量に購入し貸し出す「複本問題」は、新刊書籍市場への影響について「影響あり」とする出版界と「影響なし」とする図書館界との間で溝が埋まらないまま、長年にわたり大きな対立点になってきた。
 「対話の場」では、座長の大場教授の論文「公共図書館の所蔵・貸出と新刊書籍市場との関係」(2023年)に基づき、①全体として図書館による新刊書籍市場へのマイナスの影響は大きくないこと、②少数の売上部数の多いタイトルへの影響は小さくないこと――が確認され、複本の影響について「対話の場」での共通認識とされた。出版・図書館関係者が参加する会議の場で「複本の新刊への影響はある」と合意できたのは初めてのこと。

[装備の書店負担「考慮が必要」]
 地元書店と図書館の連携の課題としては、図書納入の際、図書館から値引き販売を求められるだけでなく、装備を無料とするよう求められ、書店が利益を圧迫されているケースもある。図書館側からも、資料費削減の中、1円でも安くという行政組織上の要請や、装備にも色々な条件があり地元書店にお願いしたくても専門の会社にお願いせざるを得ないという事情が示された。
 「対話の場」では、図書館を含む自治体に対して、装備代の書店負担に考慮が必要とし、装備代も含めた図書購入が可能となるよう図書館と書店、出版社は協力して予算増を求めていくことが重要とした。

[書籍注文端末の図書館への設置など/書店・図書館の連携モデル構築へ]
 「対話の場」では、書店・図書館等関係者が協力して読書人口を増やすことに大きな意義があることを確認。①書籍注文ができる端末の図書館への設置②図書館で予約した書籍を書店で受け取れる仕組み作り③図書館本大賞の創設――など、具体的な連携促進モデルや提案が示された。
 ①図書館内に書店管理の書籍注文ができる端末を設置し、ロングテールの書籍販売を促すことや、図書館のオンライン蔵書目録(OPAC)と地域書店の在庫システムを連携させることで、書籍へのアクセスの向上を図ることを提案。現在、JPICは小規模書店を含む近隣書店の在庫情報が検索できるシステム構築を目指した「書店在庫情報プロジェクト」を進めており、OPACとの連携も検討している。
 ②図書館で予約した書籍を書店で受け取ることができるようにする仕組みも検討する。実際にこのサービスを行う書店では、来店客数の増加や売上に良い影響を与えている例も見られ、利用者の利便性向上にもつながっているとしている。
 ③全国の図書館司書から最も多くのお薦めを得た地域の作家の本を表彰する「図書館本大賞」(仮称)の創設も提唱した。図書館司書は多様な本の魅力を伝えることができる専門性を持ち、広く世に知られていない地域の作家の著書を知ってもらう機会にもなる。地域からの出版文化の振興も期待できる。
 今後、「対話の場」で提起された課題を実現するため、書店・図書館等の関係団体の代表者による「関係者協議会」を設置。ジャンル別ワーキンググループで実践的な方策を検討し、1年以内に取り組みを具体化する予定。図書館での多種多様な資料選択、装備のあり方を含めた地元書店からの優先的購入など、書店・図書館等の現状に係るエビデンスの収集・分析とガイドラインの必要性についても引き続き検討を進める。

訃報=大橋信夫・元日書連会長

 大橋 信夫氏(おおはし・のぶお=元東京堂代表取締役会長、元日本書店商業組合連合会会長、元東京都書店商業組合理事長)  4月9日に死去した。80歳。通夜は14日、告別式は15日、神奈川県茅ケ崎市常盤町6―29のサンライフファミリーホール湘南海岸で執り行った。喪主は妻の由美子さん。
 大橋氏は1943年5月8日生まれ。1997年東京都書店商業組合理事、2005年副理事長、07年理事長。日本書店商業組合連合会では05年副会長、07年から13年まで3期6年会長を務めた。

全出版人大会、5月7日に開催

 日本出版クラブは5月7日(火)午後3時、東京・千代田区のホテルニューオータニで第63回「全出版人大会」を開催する。
 筑摩書房の喜入冬子社長が大会委員長を務め、第1部式典では古希を迎えた長寿者の祝賀、永年勤続者の表彰を行い、社会学者で京大大学院文学研究科教授の岸政彦氏が講演する。
 式典終了後、第2部懇親パーティを行う。

親子で読んでほしい絵本大賞/『ねことことり』(世界文化社)が受賞/読書アドバイザーが投票で選出

 JPIC読書アドバイザークラブ(JRAC、洞本昌哉代表幹事=ふたば書房)は3月19日、東京・千代田区の出版クラブホールで第5回「親子で読んでほしい絵本大賞」の贈賞式を開催した。今回は1位の大賞に『ねことことり』(たてのひろし・作/なかの真実・絵、世界文化社)、ベビー賞に『はんぶんこ』(杜今日子・作、福音館書店)が選ばれた。
 JRAC会員61人がJPICの季刊誌「この本読んで!」2023年春号~冬号で紹介された新刊絵本400冊の中から対象候補12作品を選出し、JRAC会員有志が投票し選出した。
 『ねことことり』は、日本を代表する生物画家・舘野鴻さんが作をつとめ、その弟子である細密画家の新星・なかの真実さんが絵を描いた、子弟による共作。こぶしの小枝を束ねる仕事をしている猫と、その枝を求めて猫のもとへ通う小鳥の物語。環境や価値観が違っても、互いに歩み寄ることの大切さを描く。
 あいさつしたたてのさんは「この本でいくつか賞をいただいているが、売れる売れないではなく、親子で読んでほしい絵本だと皆さんに受け取ってもらえた。絵がきれいだけではなく、物語を評価されたことが一番うれしい。これからも売れない本を作っていきたい」とユーモアを交えて喜びを語った。
 なかのさんは「1冊の絵本の中で絵と文の関係性、絵本のための絵というものを学んだ。絵だけが立つと物語は読みづらくなる。感動をストレートに読者に伝えられる絵描きになることが目標」と語った。
 杜さんは「作家が絵本を制作しただけでは絵本にならない。編集者、出版社、印刷会社、広く紹介してくれる書店や図書館、読み聞かせのプロの皆さん、こういう場を作ってくれる各機関の皆様に育てていただいて絵本になると実感した。これからも私と絵本を育てていただきたい」と感謝の言葉を述べた。
 [入賞作品]
 ①『ねことことり』(世界文化社)、②『まよなかのゆうえんち』(BL出版)、③『ようかいサッカー』(ポプラ社)、④『うかぶかな? しずむかな?』(岩崎書店)、⑤『さくらのふね』(小峰書店)、⑥『かぜがつよい日』(くもん出版)、⑦『旅するわたしたち』(ブロンズ新社)、⑧『草原が大好きダリアちゃん』(アリス館)、⑨『ふんがふんが』(絵本館)、⑩『おきにいりのしろいドレスをきてレストランにいきました』(童心社)、ベビー賞=『はんぶんこ』(福音館書店)

4月23日「サン・ジョルディの日」~本と花を贈ろうプロジェクト/東京、埼玉の書店2店でイベント実施へ/大日本印刷「本の価値向上に貢献」

 大日本印刷(DNP)は4月23日の「サン・ジョルディの日」に合わせ、「本を贈ること」にフォーカスした書店イベントを行う。
 DNPの有志で活動する「サン・ジョルディの日に本と花を贈ろうプロジェクト」が、ジュンク堂書店池袋本店(東京・豊島区)と未来屋書店レイクタウン店(埼玉・越谷市)の書店2店の協力を得て、4月20日午前11時、両店の店頭でイベントを実施する。
 会場では、本に挟むだけで贈ることができる「選べる・メッセージ付きしおり」を無料配布する。しおりに印字されたメッセージは6種類あり、贈る相手へ伝えたい気持ちや自分との関係によって選ぶことができる。本に想いを込めて贈る行為のハードルを下げる効果を期待した施策。
 また、同イベントでは「サン・ジョルディの日」に関するアンケートに回答すると、限定オリジナルロゴ入りノベルティがもらえる(個数限定、なくなり次第終了)。
 DNPは、書店でドキドキしながら本を選び、大切な人へ贈るという素敵な体験を広め、本の価値向上に貢献したいとしている。
 サン・ジョルディはスペイン・カタルーニャ州の聖人で、竜にさらわれた王女を救い出すため勇敢に闘った伝説が残っている。サン・ジョルディが殉教した4月23日を「愛する人へ想いを伝える日」とし、女性から男性へ本を、男性から女性へバラを贈る日として始まり、現在では家族や友人、恋人など、親しい人へ本を贈る日として世界で親しまれている。
 DNPでは2023年度に出版業界関連の部署内総勢300人で本の贈り合いを実施した。実施後、参加者からの「本を贈り合う」体験への反響が大きく、「書店に足を運ぶ機会、読書する機会となった」「本を選ぶ時間の豊かさを感じた」「社内で『本』の話題で話す機会ができたのがよかった」といった熱い感想が寄せられた。
 この反響を受け、今年度からは感動を広げるべく社外へ働きかける活動を有志チームでスタート。取次や出版文化産業振興財団(JPIC)など業界各社・団体とも対話を広げ、今後も様々な取り組みの実施を目指している。
     
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 問い合わせはDNP「サン・ジョルディの日に本と花を贈ろうプロジェクト」運営事務局のメールアドレスまで。saint_jordi_blm@team.dnp.co.jp

日書連のうごき

 3月6日 日本出版インフラセンター(JPO)運営幹事会に事務局が出席。
 3月11日 出版平和堂委員会に事務局が出席。文字・活字文化推進機構理事会に矢幡会長が出席。
 3月12日 全出版人大会協賛団体事務局会議に事務局が出席。
 3月21日 JPO運営委員会に事務局が出席。
 3月25日 日本図書普及取締役会に藤原、春井両副会長が出席。
 3月26日 JPO理事会に藤原副会長(Web)が出席。
 3月28日 定期会計監査。
 3月29日 出版文化産業振興財団(JPIC)理事会・評議員会に事務局(Web)が出席。

連載「春夏秋冬 本屋です」~答えは風の中~/小野 正道(岡山・小野書店 代表取締役社長)

 縁あって拙文を掲載していただくことになりました。暫くおつきあいの程お願い致します。
 この時期、教科書を扱う書店は超多忙な時期です。今日も教科書搬入を終えての帰路、ふと亡き親父から聞いた話を思い出しました。
 小学校卒業を間近に控えたある日、担任の先生が子どもたちに将来何になりたいかと問うた時のことです。世の中が戦争へ突き進んでいた時代だったので、「陸軍大将」、「戦闘機乗り」、「軍艦に乗りたい」など勇ましい言葉が飛び交うなか、亡父は「本屋になりたい。町の人にいっぱい本を読んでもらいたい」と。幼くして大病を患い身体が弱かった亡父はそんな夢を持っていたのです。
 放課後、担任の先生は亡父を呼び、「お前の気持ちはよくわかるが、今の時代決して人前で口にしちゃあ駄目だぞ。本当は堂々とそう言える世の中にならないといけないんだけどな」と諭してくれたそうです。
 昭和30年代生まれの私には当時の状況はわかりませんが、自分の夢を叶えて田舎町に小さな書店を開業した親父の仕事にかける熱い思いに触れるたび、その根底にあるものに思いを馳せたものです。
 翻って我が身を思うとき、果たして「私は本屋です」と胸を張って言えるのか? 自問自答を繰り返し今日までやってきました。しかし、その答えはまだ風の中…。

「書店・図書館等の連携による読書活動の推進について」書店・図書館等関係者における対話のまとめ

[はじめに]
 読書は、思考力、判断力、表現力、コミュニケーション力等を育み、個人が自立し、かつ、他者との関わりを築きながら豊かな人生を生きる基盤を形成するものである。読書のもたらす恩恵は知的で心豊かな国民生活と活力ある社会の実現に欠くことのできないものであり、全ての国民が、生涯にわたり、あらゆる場において、居住する地域等に関わらず、その恵沢を享受できる環境の整備が求められる。
 現在、官民様々な主体が読書活動を促進しているが、中でも、書店や出版社は書籍を市場に送ることで著者と読者をつなぎ、人々と書架に並ぶ実物の「未知の本」との出合いを創出し、関心を喚起させる文化の拠点となっている。そして、図書館もまた、読書活動の振興を担い、身近な情報拠点として住民の要望や社会の要請に応える役割を果たしている。
 しかしながら、今、これらの読書活動の担い手は多くの課題に直面している。出版市場の減退、書店の減少は深刻であり、図書館においても地方行政の財政難の影響を受け、図書購入費減少が続く。一方、人々の読書活動の状況を見ると、1か月に1冊も本を読まない子供の割合(不読率)は微増減が続き、特に、高校生は依然として高い状況が続く。また、16歳以上の読書習慣についても本を読まない割合は半数に近く、約7割は以前より読書量が減っているとされる。
 こうした状況を背景に、昨年3月に策定された第五次「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」では、多様な子供の読書活動を推進するためには、様々な機関や人々の連携・協力が不可欠であり、図書館等が地域の書店、出版社、民間団体等との連携に努め、地域に根ざした子供のための読書環境醸成に取り組むこと等を挙げている。
 また、昨年4月にまとめられた自由民主党「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」の第一次提言においても、子供の読書活動やリスキリング、文化活動の推進につながる取組を支援し、書店・図書館との共存・共栄等による新しい価値創造を推進することが必要としている。その具体的方策として、書店と図書館が連携する優良事例の収集・普及、これと合わせて図書館と書店が共存できるモデルやル
ールづくりの検討が必要であり、これを検討するために図書館関係者、書店関係者、文部科学省の参画による対話の場を設置することが求められた。
 上記を踏まえ、昨年10月から「書店・図書館等関係者における対話の場」を開催し、連携促進方策等について議論を行った。議論で得られた現状や課題に関する共通認識や連携方策をまとめ、書店・図書館等関係者と共有することにより、関係者間の共通理解を深める一助となり、一層の連携促進に資することを願う。

[1、書店・図書館等の現状と課題]
(出版社・書店の現状と課題)
 出版市場全体をめぐる状況は年々厳しくなっており、2023年現在、書籍・雑誌販売額は推定1兆5963億円で、ピークの1996年時の2兆6564億円と比べ約4割減少している。電子出版市場は前年比6・7%増と成長が見られる一方、紙市場は6%減少し、市場全体としてはマイナスとなっている。特に、雑誌市場は、少子高齢化に加え、インターネットやスマートフォンの普及から需要が激減している。また、書店の数は減少が続き、この10年で約3割減少しており、全国市町村のうち、26・2%の自治体には書店が存在しない現状にある。
 一方で、中古の本を売買する店や、インターネット経由での本の販売も普及するなど、本を入手する方法は多様化している。また、米国では、中小規模の独立系書店の出店が増えているとされ、我が国でも少しずつ各地で出店される動きが見られている。
(図書館の現状と課題)
 我が国の図書館数は1963年以降一貫して増加し、2021年には3394館と過去最高となった。図書館の設置率は、市区立99%、町村は58・3%、未設置の市町村は394あり、図書館も書店もない町村は247ある。図書館数増加の一方、施設の老朽化や建て替えなどの課題を抱えている。また、地方財政の悪化等を背景に図書購入費はこの20年間で約25%減少、1館あたりの図書購入費は公立図書館全体で減少し、特に市区立図書館では約半減しており、図書購入冊数も20年で約3割減少している。国民1人当たり貸出冊数も減少している。貸出登録者数は設置自治体人口の22・5%となっている。限られた予算でいかに多くのタイトルを購入するか、現在の利用者だけでなく将来の利用者を想定して本を蓄積していくことが課題との指摘もある。
 こうした中、新たな図書館像も模索されている。貸出サービスを中心に行う図書館像を、ビジネス支援等の地域の課題解決支援サービスを提供し、人々の交流拠点として新しいアイデアが飛び交う場へ転換し、多くの来館者を集める図書館も見られている。

[2、書店・図書館等の連携促進に向けて]
(書店・図書館等の連携を図る上での検討事項について)
 先述の第一次提言では、書店と図書館の連携促進に係り、例えば過度な複本購入や地元書店からの優先仕入れの推奨、図書館と書店が共存できるルールづくりの検討が求められた。
 第一に、複本問題および図書館の所蔵・貸出が書店等の売上に及ぼす影響について次のことを確認した。
 日本図書館協会の調査によればベストセラー本の複本は平均1・46冊で、図書館の約6割の図書館の複本は「2冊未満」で過度とはいえない状況にある。
 また、全国の公共図書館の所蔵・貸出が新刊書籍市場に与える影響について分析した2023年の実証研究は、①平均すれば、全体として図書館による新刊書籍市場の売上へのマイナスの影響は大きくないことを示した。ただし、②同時にそれは一部のベストセラーに限ればマイナスの影響が小さくないことも付け加えている。
 これらについて、複本にかかる本対話の場での共通認識とされた。
 これに対し、図書館市場に買い支えられている小規模出版社も多いとされ、図書館は文芸やエンターテインメント、学術など多様な本を収蔵する場であり、多様な利用者がいる中で売上への影響のみに着目して、所蔵や貸出を議論することはできないとの意見があった。
 第二に、図書館の地元書店からの購入について次のことを確認した。図書館設置自治体にある書店または書店組合からの購入は非常に多い。自治体内のみから購入する図書館は28%、自治体内外の併用が66%であり、自治体内外を併用している図書館でも、多くはそのほとんどを自治体内で購入している。一方で、装備を含めた上での定価購入や、それに加えて割引による購入を求める自治体は一定数ある。その結果、書店側が十分に利益を得られていないケースもみられる。
 これに対し、図書館と書店の連携促進の観点から地元書店からの購入を推奨するにあたっては、各自治体における購入方法に対して装備に係るコストへの考慮を求める必要があるとの意見があった。
 以上の二つを確認したほか、次のような意見もあった。
 図書館の資料購入についてのガイドラインの策定や複本で購入する数の基準の明示を求める意見、まだ新刊で入手できる書籍を、複本で揃えるために図書館への寄贈を呼びかけることを問題視する意見、書籍の売上に影響する要因についてのさらなる実証調査や、図書館員・書店員に対するアンケートによる現場の意見聴取等が必要だという意見、以上の三点である。
 これらを踏まえ、以下について図書館、書店、出版等関係者へ共通理解や検討を求めていく必要がある。
 〇複本や購入のあり方については、形式的なルール等よりもまずは関係者間の相互理解が重要である。複本への問題提起に対して、書店、出版等関係者は、先述の①にあるように図書館による売上への影響は全体として大きくないことを共通の理解とする必要がある。同時に、図書館等は②にあるように一部ベストセラーに関しては書籍市場へ与える影響は小さくないことを理解する必要がある。その上で、図書館は利用者のみならず住民の要望及び社会の要請に応えるため、将来にわたり多種多様な資料を収集・整理・保存・提供していく使命を果たしていくことが求められる。
 〇図書館の主な評価指標として、入館者数と貸出冊数があり、これらがベストセラーの複本の購入に影響を与える可能性も考えられる。図書館の主たる評価指標が貸出冊数に置かれていることが過度な複本の理由であれば、多様な評価指標を取り入れる等の対応も検討する必要がある。
 〇書店は、図書館が地元書店から購入する際に装備に係るコストを考慮することを期待している。この点について、図書館・書店等関係者が課題意識を共有し、所要のコストを含む図書館予算の充実に向け、自治体内の理解を求めていくことが重要である。
 地域において、図書館と書店、出版社が共存することで生まれる相乗効果を期待したい。
(書店・図書館等の連携促進方策)
 以上の議論を基に書店・図書館等が直面する現状と課題に対して、書店・図書館等関係者が協力し、読者人口を増やすこと、すなわち「読者育成」を目指すことに大きな意義があることを確認した。本対話の場ではこれに向けた具体的な連携促進のモデルや提案が示された。
 〇書店在庫情報システムの開発と図書館との連携
 図書館内に書店管理の書籍注文ができる端末を設置し、ロングテールの書籍販売を促すことや、図書館のOPACと地域の書店の在庫システムを連携させることにより、本へのアクセスの向上を図ることが考えられる。現在、出版文化産業振興財団では、小規模書店を含む近隣書店の在庫情報が検索できるシステム構築を目指した「書店在庫情報プロジェクト」を進めており、図書館のOPACとの連携も検討している。
 〇書店での図書館資料の受け取り・返却、図書館での書籍販売等
 図書館で予約した書籍を、書店で受け取れるようにする工夫も考えられる。休館日がなく営業時間も長い書店の場合は利用者の利便性向上につながり、実際に書店での受け取りサービスを行う書店で、来店客数の増加や売上に良い影響を与えている例も見られている。あるいは、書店がない地域で図書館が書籍販売を行うことなども考えられる。このほか、発注や在庫管理の仕組みの変革とICTの活用により、未経験の若い人が空き店舗に出店できるような環境づくりや、観光ホテルのライブラリーなど書店以外でも気軽に本を売れるようになることなどを期待する意見もあった。
 〇「図書館本大賞」(仮称)の創設
 毎年、各種の文学賞や書店員による本屋大賞は多くの関心を集めている。例えば、今後、全国からランダムに選出された図書館司書等から最も多くのお薦めを得た地域の作家の本を表彰する「図書館本大賞」(仮称)を創設することも考えられる。図書館司書は多様なジャンルの本の魅力を十分に伝えられる潜在的な専門性を持っている。また、広く世に知られていない地域の作家の著書を知ってもらう機会となるなど、地域からの出版文化の振興と、普段、本を読まない人も読書に関心を持つ訴求効果が期待される取組となると考えられる。
 〇優良事例の収集・普及
 全国では、書店・図書館等の連携により様々な特色ある取組が展開されている。例えば、図書館と書店を訪れるスタンプラリー等のイベント、図書館での作家による基調講演、近隣の学校の生徒が本の紹介を記したポップと本を書店と図書館で並べるフェアなどにより地域の方に本の楽しさを伝える取組、出版社と図書館との連携によるデジタル絵本コンテストの開催により書き手の育成も図る取組例等が挙げられる。
 今後、関係者が新たな取組を行う際の参考に資するよう、国において、地方自治体、書店等関係者と協力し、全国各地で行われている特徴的な連携の取組を事例集としてまとめ、広く情報発信することが求められる。

[今後の検討について]
 書店・図書館等の連携を図るためには、国において一定のルールを示すのではなく、関係者間の相互理解を積み上げ、協力出来るところから始めていくことが必要である。
 今後、関係者間により、本対話の場で提案された書店在庫情報システムと図書館の連携や「図書館本大賞」(仮称)等の連携方策について、より具体的かつ実践的な方策について協議や実証を推進していく必要がある。
 また、図書館における多種多様な資料選択、装備のあり方も含めた地元書店からの優先的購入等、書店・図書館等の現状に係るエビデンスの収集・分析とこれに基づくガイドラインの必要性など引き続きの検討を進めていく必要もある。
 本対話の場については、今後の検討枠組みを書店・図書館等の関係団体の代表者等から構成される協議会として、より組織的な体制に発展的改組する。その上で、上記に挙げられたような課題の検討を行い、実践的方策に取り組んでいく。
同時に、国は書店・図書館等の連携に係る優良事例の普及を図っていく等必要な支援を行うこととする。
     
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 対話のまとめは、出版文化産業振興財団(https://www.jpic.or.jp/)と日本図書館協会(https://www.jla.or.jp/)のホームページに掲載している。

トーハンと日販 書籍返品の協業で合意/2025年夏頃から開始

 トーハンと日本出版販売(日販)は3月29日、書籍返品業務における物流協業で合意したと発表した。
 両社は2018年11月7日に物流協業を開始する旨の基本合意書を締結。これに基づき、20年に雑誌返品業務の協業を開始しており、今回が第2弾となる。
 発表された合意内容によると、25年夏頃から書籍返品業務の協業を開始。業務提携後の書籍返品業務は、施設の立地や処理能力などを比較検討した結果、トーハン桶川センター(埼玉・桶川市)で実施する。出版共同流通が所沢センターで受託している書籍返品業務(日販、楽天ブックスネットワーク、日教販)を順次移管し、25年度内に移行を完了する予定。
 今回の協業で、物流拠点の統廃合による庫内作業コストと固定費の削減、返品拠点減による出版社・運送会社の負荷軽減を実現する。協業実行委員会では、円滑な業務移管を実行するとともに、移管後の運用を簡素化することでさらなる流通コストの削減を実現していく。

日販 24年度組織改定を発表/書店価値向上に取り組む

 日本出版販売(日販)は3月14日、2024年度(24年4月1日~25年3月31日)の組織改定および人事体制を決定した。発令日は4月1日。
 同社は、持続可能な出版流通の構築を目的とした出版流通改革、グループ連携による書店価値の向上、豊かさを届ける新しい取次への変革に取り組んでおり、24年度は5ヵ年中期経営計画の4年目にあたる。各事業戦略で計画段階として進めてきたものが実行フェーズに入ることから、計画の完遂に向けて戦略の実行スピードをさらに加速させ、成果の拡大と展開を実現することを目的に、次の点をポイントに組織改定を行うとしている。
 1.書店価値向上のための豊かさを届ける取次への変革
 24年度より、これまで蓄積してきたノウハウを活かして取引書店へ一層の価値提供を行うため、各支店のなかにエリアマーケティング機能を実装する。これにより各支店では、既存の取次業務にとどまらず、地域資源の発掘や業態開発、グループ連携による価値創造など、書店価値向上のための様々なソリューションを縦横無尽に取り次いでいく。一方で、各地域の自治体や企業との協業も推進していくため、プラットフォーム創造事業本部内に地域事業開発チームを新設する。まずは一部のエリアで重点的に取り組むことで成功モデルを作り上げ、それを各支店と連携しながら、書店価値向上のためのソリューションとして全国の書店に還元していく。
 2.出版流通改革次期計画の実行
 21年度にスタートした3ヵ年の当初計画では一定の成果を上げたものの、スケールメリットの創出には課題を残した。またこの間、市場縮小は更に加速し、運賃や物流コストは増加し続けている。こうした状況を踏まえ、業界各位と構造課題解決のための打ち手を模索し、手を打っていく。引き続き流通改革推進部が社内のヘッドクォーターとなり、仕入・営業部門と物流部門を取引先各社のフロントと位置付けて、全社を挙げて改めて持続可能な出版流通の実現に取り組む。
 3.組織体制の適正化と業務効率の向上
 環境変化に合わせた組織体制の適正化として、中部支社と関西支社を統合し、中部・関西支社を新設する。これにより5支社体制から4支社体制になるが、取引書店や地域との関係強化の観点から、最前線の接点である支店については現状の数を維持する。また仕入部と物流本部においては、業務効率の向上を目的に、一部組織の統合や係制の廃止を行う。

書協「ブックイベントナビ」説明会/登録方法をオンラインで解説

 日本書籍出版協会は3月28日、書店イベント紹介サイト「ブックイベントナビ」のオンライン説明会を開催した。
 「ブックイベントナビ」(https://bookeventnavi.com/)は書店が自店の催し物を無料で宣伝・告知できるサイトで、昨年12月にグランドオープンした。
 書店がイベント登録する一連の流れは次の通り。
 ①ユーザーの登録=同サイト・トップページ下部の「ユーザー登録をご希望の書店の方(書店・イベントの登録)」から申請すると、3営業日以内にアカウント登録用URLがメール返信される。URLにアクセスし、共有書店コードほか必須事項を入力して仮登録。返信された完了通知に記載されたURLをクリックして本登録が完了。書店コードが不明な場合は書店マスタ管理センターのサイトで確認。持っていない場合は付与申請する。
 ②イベントの登録=イベント管理ページで「新規登録」をクリックする。公開開始日時、開催開始日、住所(書店主催のイベントであれば、店舗以外の場所でも掲載可)、タイトル、料金(有料・無料)、予約(要・不要)などの必須項目を入力し、「保存」をクリックして完了。
 運営事務局では今後の取り組みとして、出版社からもイベント登録できるシステム構築、オリジナルコンテンツの拡大、書店への取材の実施、SNSを活用したPV数の増加などをあげた。
 また、書店に対しては特定日に開催する集客イベントだけでなく、店頭でのフェア展開やご当地作品の紹介などの情報も投稿してほしいと呼びかけた。

映画「本を贈る」上映会&トークイベント/4月23日、那須塩原市図書館みるるで

 栃木・那須塩原市の那須塩原市図書館みるるは、サン・ジョルディの日の4月23日、映画「本を贈る」の映画上映とトークイベントを開催する。東京都書店商業組合など後援。
 当日は監督の篠原哲雄さん、脚本家の千勝一凛さん、主演の永池南津子さんらがおすすめの本を紹介し、本の魅力を語る。映画鑑賞無料、トークイベント1000円。
 この映画は、東京組合が運営するYouTubeチャンネル「東京の本屋さん~街に本屋があるということ~」で22年に配信されたオリジナルドラマ全9話分を映画用に特別編集したもの。日本アカデミー賞監督の篠原さんがメガホンをとり、「街の本屋」と「本」の魅力を伝える。

移転=河出書房新社

 ◇河出書房新社
 5月7日より、次の住所に移転する。
 〒162―8544 東京都新宿区東五軒町2―13 TEL、FAXは従来通りで変更なし。

連載「本屋のあとがき」~わからないことを愉しむ~/宇田川 拓也(ときわ書房本店 文芸書・文庫担当)

 もしも文庫化されたら世界が滅びる――。
 そんな言葉がまことしやかに囁かれるほど、約半世紀にわたり単行本で親しまれてきたガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』が、ついに本年6月26日、新潮文庫の一冊として発売されるとアナウンスされた。6月ということは、夏の恒例フェア「新潮文庫の100冊」の目玉商品になるわけだ。
 麦焼酎の名前にも採られるほどの世界的な名作である。読んだことはないが、タイトルは聞いたことがあるという方も少なくないだろう。
 蜃気楼の村「マコンド」を開拓した一族がたどる、百年に及ぶ盛衰を描いた内容は、駆け足で読み飛ばすような読書にはまったく向いていない。魔術的リアリズムなどと称される、非現実的・非日常的なものを現実・日常のごとく緻密に描く手法が特徴である。なかなか理解が追い付かず、「なんかスゴイものを読んでるけど、よくわからない!」といった感想を抱くひともいるかもしれない。
 だが、それでいいのだ。歯が立たないもの、一読しただけでは理解できないものに触れ、圧倒され、打ちのめされ、途方に暮れる経験を避けていると、感性はみるみる乏しくなる。やわらかいものばかり食べていると顎が弱る、それと同じことだ。
 わからないことをもっと愉しむべきだという、どなたかの文章を読み、大いに首肯したことを思い出した。このたびの『百年の孤独』文庫化を機に、よくわからないけど途轍もない小説に触れる悦びを経験していただきたい。